「ッチ」
舌打ちをしながらも空を閃光が焼き貫く光景を見る。真直ぐ自分へと向かってくるのは砲撃だ。魔力が収束され、破壊する為に特化されている光。自分の良く知っている光だ。先達としてはその光を甘いとして評価せざるを得ない。真直ぐ自分を―――自分を乗せるヘリを狙ってくるのは悪くはない。だけど、自分が乗っているという時点でそれは成功しないと悟るべきだ。シュテルならまだしも、
「この程度で私を落とす気とか笑っちゃうなあ」
レイジングハートを構え、自分とヘリを撃ち落とそうとする砲撃を全く同じ威力の砲撃で即座に相殺し、脅威を消し去る。視線を砲撃の先へと向けると大量のガジェットが飛行している姿が見える―――明らかに時間稼ぎと消耗を狙った布陣だ。面倒ながら此方の足止めを狙っているというのは解る。視線をヘリの先頭へと向けるとヴァイスが頷いてくる。強引に突破しようとすれば突破できる数だ。だがそれは自分をここに置いた場合だ。ヘリに全員乗せた状態でこのまま逃げようとすればガジェットが追ってくる。これから新人フォワード達と合流する時、無駄なウェイトは欲しくはないのだ。
『なのはちゃんはそのままでええで―――此方で捉えたわ』
次の瞬間空に闇が咲いた。広域殲滅魔法・デアボリックエミッションだ。八神はやてとリインフォース・ツヴァイが得意とする魔法。それが遠くから発生し、空に咲く事で一気にガジェットを巻き込んで消し去る。横にホロウィンドウが表示される。
『無事かなのはちゃん、シャマル』
軽く後ろへ振り替える、サムズアップを向けるシャマルを確認してからホロウィンドウへと向けてサムズアップを向ける。それを見たはやてが頷く。
『雑魚はまかせてーな。限定解除したんでちょいとベルカ無双するで』
『はやてちゃんとリインにお任せするのです!』
リインの姿はホロウィンドウには映ってはいないが、白く染まったはやての髪色を見れば彼女たちが現在ユニゾン状態にある事は理解できる。しかしそこまでする程の状況か、と問われればどうかは解らない。ただ解っている事は、
「ごめんはやてちゃん、結局は降りる必要があるみたい」
『私もそっちへ行くからそれまで頼むで!』
ホロウィンドウが消失し、そしてヘリから外へと踏み出しつつアクセルシューターを三十程生み出す。飛行魔法を同時に制御し、ヘリの外に立つのと同時にアクセルシュターを放つ。それがヘリへと向かって放たれた短刀群と空中で衝突し、爆発を起こす。その爆発の合間を抜けて迫ってくる砲撃が存在する。それに向かって、
「じゃ、シャマル先生のエスコートを頼んだよ」
「了解ですよなのはさん。VIP待遇で頑張らせていただきますよ」
拳を叩き込む。勿論ただの拳ではなく。打撃と同時に拳から砲撃を放つ、見栄えだけの実用性のない打撃だ。―――まあ、今度新人たちの心を折る為にこっそりと練習していた小さな芸だ。瞬間的にインパクトを殺して相手の攻撃を無力化する、ぶっちゃけディフェンサーやプロテクション、相殺に砲撃放った方が遥かに効率がいい。
結果は予想通り砲撃の破砕。ヘリは無傷のままこのまま後方へと合流のために進んで行く。それを背に、空を駆ける青い弾丸が横切り、前方に存在する残りのガジェット集団を薙ぎ払う。はやてが此方へと合流しようとしながら援護射撃をしてくれているのだろう。ならば、さて、
「ま、勝てる戦いだよね」
「―――ほう、我に対してその尊大な物言い、良い。良い、許そう。傲慢であって結構。尊大であって結構。所詮は我以下の塵芥の囀りに過ぎん。我が掌の上で鳴くのであれば愛でるには十分な可愛さよなぁ」
片手に本を握った王の姿があった。黒いバリアジャケット―――デアボリカに身を包んだ彼女は背中の黒翼を羽ばたかせながら片手に握る杖を振るう。それと同時に逆の手に握られている。紫色の本からページが抜け出、それがまるで意志を持っているかのように闇統べる王の―――ディアーチェ・K・B・クローディアの周囲を回る。
やはり出て来たか。そう思った直後にレイジングハートを使い砲撃を叩き込み、ディアーチェの周囲のページが防壁の様に重なり砲撃を完全に防ぐ。頭上から感じる不吉に対して視線を向けるまでもなく横へと加速しながらレイジングハートを振るう。ディアーチェの後方から放たれた砲撃をその薙ぎ払いによって吹き飛ばしつつ頭上から出現した杭を回避する。
「ま、元先輩を相手する前の前哨戦には丁度いいかなッ!!」
「そうやって言葉ではなく武をもって通そうとする姿、実に好ましいな高町なのは―――あぁ、だが残念だな。単純に我の方が強い」
閃光と闇と氷が空を砕く。
◆
そして衝撃が空間を貫く。その原理を理解してしまえば簡単すぎる話だ。原理は受け身と変わらない。衝撃を逃がす事だ。衝撃を叩きつけて、逃がす事で衝撃を周りへと伝えているのだ。ただこの場合、規模と場所が違う。高速で殴る事で空間に存在する塵等を打撃する事を可能とし、そこからさらに空間へ威力を拡散させている。原理は解るし、地面の上であれば自分にだってできる。だが、
滅茶苦茶な……!
空間を殴るという原理は理解できるが普通に考えて滅茶苦茶だ。空気中に存在する塵を殴るなんて無茶、普通の人間には出来ない。それは普通目に映る事もなければ触れる事だって。呼吸と共に散ってしまうような儚いものなのだ。なのにそれを殴って威力を空間へ浸透させている。頭がおかしいと評価するしかないだろう。だがそれは、
此方の味方にも言える事だ。
「砕け散れ」
「ごめんザフィーラ!」
「任せろ―――!」
イストの拳が振るわれる。一撃だけで血反吐を吐かせる衝撃を繰り出す空間への打撃が繰り出される。空にて中空へ打撃し、人体をバラバラに引き裂くだけの衝撃を空間へ浸透して行く。だがその前に立つのは青く、褐色の盾の守護獣―――ザフィーラだ。正面からその衝撃を受ける為に入る―――そして激震する。だがそれを受けてもなおザフィーラは痛みを受ける様な姿を見せない。硬い、それも多分イスト以上に。なぜならザフィーラの背後へとだけ衝撃は広がっていないから。故にそれは好機と見る。
「雷鳴!」
束ねたライオットザンバーに雷撃を”組み込んで”空から落下する様にイストへと接近し、相手が呼吸するよりも早くライオットザンバーをすれ違いざまに叩き込む。雷の斬撃は鋭く、切っ先は極限まで切れ味を優先している。それこそ少しでも角度を間違えれば魔力刃が砕けてしまう程に。だがその極限の鋭さで得られるのは強度の無視。対イスト用の攻撃手段―――硬いのであれば防御力を無視するという戦闘方法。
「震えろッ!」
「がっ―――」
食らわせた斬撃痕、そこからライオットザンバーに貯め込んだ電流を移し、体内へと流す。自分の魔力によって生み出された電撃は拡散しない限りは永遠に指揮権が残る。故に魔力が消えるその瞬間まで魔力に一つの命令を送る―――神経を刺激し続けろ。つまり体内から拡散することなく、常に神経を刺激し、震わせ続けろ。常に体内で暴れ続けろ。永遠に終わらない、防ぐことのできない激痛を体内に流し続けろ。
「がぁぁああああ―――!!」
吠えた。イストの姿が霞む。その速度は今までと比べて遥かに早い。それこそタンク型らしからぬ速度だ。霞んだ姿は加速し、此方へと一瞬で落下し、接近してくる。腕を振り上げて振るう姿を回転を加えることで掠らせない様にして回避する。完全な回避が完了するとそのままイストの体が大地へと落下して行き―――大地を打撃する。その衝撃で拳が触れた一帯がそのまま消滅し巨大なクレーターが出来上がる。
……掠っていたら、そう思うとゾッとするね、これは。
ライオットザンバーを再び二刀の状態へと戻し、両側の刃に雷を溜めて行く。―――イストに対する対策、というか専用戦術というのは既に出来上がっている、作り上げている。この場にいるのが自分で本当に良かった。自分以外であれば相性の問題でまず追い込む事さえ難しい。これにザフィーラが加われば、
「勝って止めるよザフィーラ―――この人は助けなくちゃ」
「優しいのだな」
眼下、体内に激痛が走り続けるイストをザフィーラが横に並んで睨む。イストが吠えたのは一回だけだ。それ以上は口を開かない。振るった拳を戻し、此方を見上げてくる。その姿をザフィーラと共に見下ろしながらザフィーラに言葉を返す。
「うん、だってさ―――誰かを殺した分だけ世界は寂しくなるんだから。賑やかな方が楽しいでしょ?」
「ふっ、それもそうだなッ!!」
前よりも早く、前よりも鋭く―――此方の動きに追いつかんとするイストの姿が追ってきた。正直恐ろしい。一体何がこの男をここまで駆り立てているのだろうか。知りたいとは思うが、言葉だけではどうにもならないのはもう理解できている。ただ結果として殺す気で戦い、助けるという事しか己には出来ない。だからそうやって答えるしかない。言葉だけじゃ力だけじゃ届かない。両方揃って初めて届くのだ。ならば、
「届かせるしかないッ!」
後ろへと下がるのと同時に拳が炸裂する。正面、ザフィーラが衝撃を拡散させながらイストの拳を受けきっていた。自分がまともに受ければ腕が千切れそうなほどの一撃だと思う。それを受けて平気な顔をしているんだからザフィーラは凄い。頼もしいと前にいる姿を思いながら、二刀に込めた雷撃を解放しながらイストの背後へと常時発動させている加速魔法で一瞬で回り込む。
だがそこには既に”振り抜かれた”足が存在していた。
思考するよりも早く、反射的に体は回避の動きに入っていた。相手は前を向いてザフィーラに拳打を食らわせている。だが此方に対応しながら見ずに行動を予測して動いている―――まだ神経を電撃が刺激し続けているはずなのに。それだけの精神力を一体どこからひねり出しているのだこの化け物は。
「油断するな」
「そちらもね」
「待っていてくれオリヴィエ―――」
ザフィーラへと拳を放ったイストがその衝撃で僅かに動きが下がる。その動きでイストがザフィーラから離れた瞬間、僅かな間が生じる。その瞬間に誰よりも早くライオットを合一させ、カートリッジを三つ消費しながら超巨大化した刃を一回転させつつ振るう。
「ジェットザンバァ―――!!」
合一された雷撃と斬撃がイストの体を貫通する。だがその体は不屈を証明する様にまだ立っている。バリアジャケットは破れ、身体の至る所に傷を作り、それを再生させた証に傷跡を残して赤く染まり、それでも全く痛みも疲れもない、狂気を感じさせる目で此方を睨む。恐怖を感じる前に憐れみを感じる。それはいけない感情だと理解しつつも、こうなってしまった事に憐れみは感じずにはいられなかった。
「テオァァァツ!!」
同時に線が空に伸びる。
「ッ!!」
それを―――イストは避けた。
「”やはり”避けたか!」
鋼色の線が空に生まれる。それをイストは迷う事無く回避し、そして打撃した。鋼色の線は拳に触れた瞬間空間を消失させ、完全に消え去る。だがザフィーラは腕を動かし複数の線を生み出す。それは先ほど生み出した量の数倍あり、
「鋼の糸よ!!」
イストへと襲い掛かった。
「また面倒な物を盾の守護獣……!」
「やはりその動き、此方のを把握している様、それは、しかし!」
「―――ナル、やれ」
イストの正面に黒い球体が出現する。反射的にそれが何なのかを悟ると、鋼の糸が防御的な行動へと移る。それを悟るのと同時に体はザフィーラを盾にする様に動く。既に本人も防御態勢に入っており、間に合うのと同時に世界に黒が咲き誇る。
「デアボリックエミッション」
イストの声ではなく、女の声だった。空間を塗りつぶす黒と衝撃、それをザフィーラを盾にしながら受ける瞬間、再びカートリッジを消費する。
「―――リバースコード……ブレイク」
「砕け散れぇ―――!!」
バルディッシュを振るう。空間に十数を超える斬撃を叩き込む、片っ端からデアボリックエミッションに飲まれて消えて行くその斬撃が完全に飲み込まれる前に、雷撃へと変換させ爆裂させる。黒い空間その物に負荷と衝撃を食らわせ、内部から破壊する。閃光が闇を撃ち砕き、再び世界が空の青色に戻る。
だがその空間に存在したのは銀髪の男ではなく、
赤毛の女だった。
「―――反転完了」
その姿は間違いなくリインフォース・ナルと呼ばれる女性の物だった。ただその髪もバリアジャケットも赤く染まり、まるで主の色を色濃く反映するかのようだった。瞳の色もイストの琥珀色へと変貌し、ユニゾンというよりは”融合事故”で取りこんだような姿へと変化している。その状態でナルは腕を振るい、黒い球体を生み出し、それを握りつぶす。握り潰した黒が弾け、左手に纏われ―――盾とパイルバンカーを合一させた、赤い武器へと変化する。
「主が、夫が世話になったな―――なら私からはお礼をくれてやらぬばならんな」
「け、結婚おめでとうございます……!」
何とか言葉を絞り出しつつザフィーラを盾にする為に動くと。
「―――愚者は天に届かず、英雄は地へ落ちる」
瞬間的に飛行魔法が消失し、身体が落下を回避する。突然の事態に驚愕するが、反射的に体の重心を整え、体術の応用で体をビルの外壁へと流し、壁を走り降りる事で大地へと着地する。
「希望は死した―――カースドランド」
大地へと着地するのと同時に飛行魔法を再び発動させようとするが、それだけが阻害されていて発動しない。飛行魔法だけがまるでロックされたかのように反応を示さなくなる。発動の為の魔力と術式まではいい―――だがそれ以上プロセスが進まない。
空に浮かぶナルの姿を見上げる。
「嬲ってくれた礼だ―――地を這い果てろ罪人」
空から黒が降り注いだ。
ナルちゃん反転たーいむ。
つまりAsリインボス仕様とかそんな感じ。いい感じに戦場が混沌としてきた。はたしてザッフィーはこのままサンドバッグなのだろうか。