マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ベルカン・ウォー

 刃を振るう。それが突如として現れた刃と衝突を果たし、魔力の火花を起こす。薄暗い下水道に一瞬の光を生み出してから消える。だがそれが連続で発生する。リズムもテンポも存在しやしない。魔力刃は出現すると迷う事無く殺すための動きを繰り出す。そしてそれに反応するよりも早くレヴァンティンは迎撃のための動きを生み出す。そして連続でレヴァンティンと魔力刃―――バルニフィカスを衝突を果たす事で暗いはずの空間が火花で明るく染まり続ける。それだけのハイペースで魔力刃とアームドデバイスの実体剣がぶつかり合う。

 

 ―――懐かしき闘争の熱。

 

 頬を撫でる魔力刃の破片を感じつつもそんな感想を得る。懐かしい。あぁ、ひたすら懐かしい―――何百年前だったか。こうやって己は戦った。戦ってきた。その多くを失いながら、忘れながら、生まれ変わりながら戦ってきた。経験とは技術の血肉。それを忘却すれば己が弱体化するのも納得の道理だ―――ただ平和に暮らすのであればこんな記憶も経験も必要なかった。主と……はやてと一緒に暮らすのであれば必要のない記憶だった。忘れてもいい記憶だった。血に汚れ過ぎて、前が霞んで、何も見えなくなる位に呪われた記憶だ。過去を背負って生きるというのも一つだ。だが一緒に生きたい―――その願いをかなえるにはこの記憶はあまりにも重すぎた。

 

 だが、

 

「所詮、修羅は死ぬまで修羅か」

 

 拭えぬ過去の所業を思い出す。オリジナルがベルカの戦乱を駆けた記憶が。闇の書の守護騎士として戦い、犯罪を犯し、朽ちて行った記憶が。レヴァンティンを振るう手にぬるりと、血の感触を感じる―――そんなものはないと解っている。ただ思い出すとはそういう事だ。忘れていれば幸せでいられる。ただそうやっている事は許されない……世の中ままならないものだ。

 

「死狂うか?」

 

 それは問いだ。相手への問い。死へ狂う準備はできているか。死ぬまで付き合ってやると。お前は出来るか。殺して殺される準備が。こうなってしまっては何もかも遅い。手加減なんてできないし、出来る筈もない。烈火の将としての、本当の実力が発揮できてしまう―――リミッターがついていてよかった。

 

「これなら殺さないで済むかもしれない」

 

 見えない斬撃を回避する。その発生の瞬間は見切った。これは”経験済み”の範疇だ。思い出した今となっては簡単なもので、厄介程度のものでしかない。相手がやっている事は解っている。超高速で移動し、意識と視界の死角を取り続けているだけだ。相手の姿が見えないのは視界の死角にいるから。正面から攻撃が来るのに相手の攻撃が見えないのは思考の死角を見切って襲い掛かってきているから。気づかなければ知覚できる前に殺される、極悪な戦闘方法だ。速さも早い―――が、

 

「テスタロッサよりは劣るな」

 

 フェイト・T・ハラオウンよりは遅い。彼女の斬撃は嵐の如く襲い掛かってくる。速度を繋げて暴力とするタイプの戦闘スタイルだ、フェイトは。だがこの剣とは違う。そう判断し、

 

 バルニフィカスをレヴァンティンで押さえつける。見えなかったはずのレヴィの姿が目視できるようになる。フェイトに良く似た水色の髪の女。その表情には―――驚きはなくて、挑発的な笑みが浮かんでいた。此方が相手の動きを破ってもなお笑みを浮かべる様子。懐かしく、そして血液を沸騰させる。奥底へと抑え込んでいた魔性を蘇らせる。そう―――長い時を経てひたすら戦い続けてきた存在なのだ。自分は烈火の将なんて生易しいものではなく、血を求め剣に狂うのこの本性は―――魔将の名にふさわしい。

 

「イメチェンでもした?」

 

「気に入らないか?」

 

「ううん、今の方が今までよりも活き活きしてて”生きてる”って感じがするよ。良く今まで我慢して生きてこれたね。僕は我慢のできない方だからちょっと驚いてるよ」

 

「あぁ―――貴様らが”我々”を目覚めさせた。なるべく後悔してくれ。そうでもしなければ恰好がつかない。私達が主へと献上する首級となってくれ」

 

 無拍で水平にレヴァンティンの刃をレヴィの首へと向けて振るう。非殺傷設定なんてそもそもつけていても魔力付与系列のアームドデバイスにはほとんど意味がない。全力で、殺すつもりで振るった刃はレヴィの首へと接触し―――抉りこみ―――両断する様に―――向こう側へと抜けた。

 

 ただそれは斬り飛ばすのと同時に電撃の塊となって弾け散る。弾けるのと同時に発生する電撃を体に浴びる。だが高揚感が心を包む。いけないと解っていても興奮する。口から楽しさで声が漏れそうになる。精神が肉体を凌駕し、痛みを忘却させる。この感覚が、闘争の感覚。

 

「―――」

 

 刃のギリギリ範囲の外にレヴィがいる。その表情からは笑みが消え去っている。此方が殺意を受けている様に、相手も此方へ殺意を向けている。―――遊びはない。踏み込んでくるのと同時に鎌の姿をしているデバイス、バルニフィカスが振るわれる。此方はレヴァンティンを振り抜いたばかりで片腕と刃を動かせない。

 

 故に踏み込む。

 

 相手の横へ抜ける様に踏み込みつつレヴァンティンの鞘を逆の手、右手で握る。相手の横へと抜けて行く動作と共に鞘を顔面に叩きつける為に動く。だがそれは感触を得ることはない。気付けば相手が後ろへと回り込んでいる―――見切りだ。動きを見切られている。背後から凶刃が迫る。それに対して自分が取る行動もまた、見切りだ。横へ体を滑らせながらも、それに捻りを加える。振り向くのと同時に相手の振り抜いた刃を超える様に腕を伸ばし、レヴァンティンを振るう。それが軽いダッキングで回避される。レヴァンティンを握る左手は伸びきっている。右手の鞘で斬撃を受け流しながら、

 

 蹴りを叩き込む。

 

 それに相手は膝を合わせてきた。

 

 が、此方の方が力は強い。

 

「―――抜いた」

 

 言葉通り蹴り抜いた。相手の体勢が崩れるのを感じる。それに合わせてレヴァンティンを振る。一撃で首を狩り落とす動きだ。前方へと向かって倒れる敵の動きが加速する。それに合わせてレヴァンティンを振り下ろす。

 

 だがそこに敵の姿はない。

 

「スプライトフォーム」

 

 装甲を削り、大剣へと姿を変えたデバイスを握るレヴィの姿があった。それでもフェイトの最高速度には追い付かないが、別種の”速度”がこの存在にはあると一瞬で知覚する。

 

「はい、どーん!!」

 

 もっと攻撃的な速度だ。フェイトの様に体に速度を乗せるのではなく、動きに速度を乗せている。移動速度で言えばフェイトが圧倒するが、斬撃を繰り出すスピード、細かい動き、それにおいてはレヴィは極限的とも言える速度を放っている。そしてそれを乗せた刃が、一気に迫ってくる。無拍やら意識の合間など狙う必要はない。攻撃する速度だけでその領域へと踏み込める斬撃だ。

 

「ふ―――はは」

 

 それに正面からレヴァンティンをぶつける。そこにはもちろんすべての力を込められるわけではない。威力が頂点に乗る前に相手の大剣形態のバルニフィカスとぶつかり、衝撃が此方を焼く。バリアジャケットが衝撃によって引き裂かれ、左袖部分が完全に消し飛ぶ。他にも所々切れ目が生まれ、少々はしたない姿になっているかもしれないが―――沸騰しそうな程に熱気の込められた血液が流れるこの体には興味のない事だった。

 

『Cartridge load』

 

 魔力が注ぎ込まれるのと同時に炎熱反感で自分を中心に爆発を発生させる。強引に爆炎を推進力に、レヴィの刃を押し込む。押され気味だったレヴァンティンを中間点へとまで押し返しながら一歩前へと踏み出す。純粋な腕力であれば己の方が強いのはこうやって鍔競り合う感覚で理解できる。だから強引に押し切る前に、装甲を減らし、爆炎によって少し姿を傷つけたレヴィへと向けて口を開く。

 

「最後に聞いておく―――」

 

「―――有利に思えて来たから今更警告? 遅いよ。本当に、遅いよ。もう計画は止まらない所に来ているんだ。どうあっても止まらないよ。チェスで言う今は”チェック”の状態。ここで僕が勝っても負けてももう戦術的勝利は取らせて貰っているから」

 

 遮るようにレヴィはそう言って、

 

「―――そのまま溺れるといいよ烈火の将。君は実に憐れだ。憐れだからこそ僕達と同類なんだろうね。少しだけシンパシーを感じるよ。うん、”家族”という形に縛られている辺り凄い似ていると思うよ―――だから手加減してあげるって訳じゃないんだけど」

 

 斬撃が体に叩き込まれ、鮮血が空間に舞う。今度こそ、本当に何があったのかを知覚できなかった。前のめりに倒れそうな中、視線を彷徨わせる。そして見つける。大剣の姿をしていたデバイスの姿がもっと細く、そして長い形をしている。そう、それは形で言えば―――刀に近い。芸術と称され、そして何よりも扱う事に技術が求められる得物。それが振り抜かれた状態であるのを目視し、己が斬られたという事を自覚し、

 

 前へと踏み込んでレヴァンティンを薙ぎ払った。手ごたえは返ってこない。だが軽く叩きこんだという確信が存在した。そのままレヴァンティンを振るう腕を止めず、魔力をレヴァンティンから発する。この閉鎖空間で行えばどうなるかは解っているが―――どうにかなるという確信が存在する。

 

「地を燃やせ、悲鳴を生み出せレヴァンティン」

 

 レヴァンティンから炎が振るわれる。それが一気に下水道を埋め尽くし、広い範囲に狭い空間を炎で埋める。もちろんまともな空調がこんな所で作動しているわけではない。ここにいればいるだけでどんどん酸素が奪われて行く、そういう空間へと一瞬で変貌するが―――この体はプログラム生命体と人間の中間の存在だ。昔と比べてだいぶ人間よりにはなったが、それでも酸素が吸えない程度では死ぬほど苦しい程度だ。

 

 問題なく戦える。

 

「レヴィ・B・ラッセル、貴様は酸欠と戦えるか」

 

「悪いけど僕は最強だからね、水中でも、空中でも、もちろん火の中でも戦えるようにできているよ……それが”力”のマテリアルである事の証明でもあるんだ。だから、この程度じゃ負けてあげられないなぁ」

 

 水色の閃光が炎を突き抜けながら現れる。右手に握った刀の姿をしたバルニフィカスを左肩まで振るい上げ、両手で握っている。それに対応する様に一歩後ろへと下がり、踏みとどまる。来る。そう経験が直感し、レヴィが動き出す前にレヴァンティンを振るう。全力で、炎を纏った一撃。それをレヴィは、バルニフィカスは両断した。真っ二つに、自分へと向かって放たれた必殺の一撃を発生した後で自分の両脇へと逃れる様に完全に両断した。とはいえ、その余波は間違いなくレヴィの肌を焼き焦がす。が、それを気にすることなく刃は振るわれ、

 

 深い斬撃を体に刻む。

 

 肉に刃が沈む。

 

 ―――掴んだ。

 

『Explosion』

 

「はぁ―――っ!」

 

 肉に刃が沈むのを感じた瞬間にはレヴァンティンで最大の一撃を放っている。レヴィの動きが霞む。その動きは見えるものではない。回避されるかもしれないが―――このタイミングであれば完全な回避は不可能だと判断し、攻撃を止めない。リミッターで制限されている範囲内で込められる魔力を込め、それをレヴィへと向けて空ぶりつつ、レヴァンティンを床へと突き刺す。そのまま魔力を全て炎へと変換させ、自分の出せる最高温を発生させ、大地を砕きつつ、下水を沸騰させつつ、それを全力で放つ。

 

「焦土を生み出せスルト……!」

 

 視界と空間の全てが炎に包まれる。空間を破壊しつつ全てを炎が埋める。この空間へと入り込んだ時点でこれから逃れる方法などない。一瞬で炎の海と化す空間の中で、相手が次にとる選択肢が何なのかが理解できる。

 

「―――切り裂け」

 

 何十メートルという地下に存在する筈の下水に青い天井が生まれる。瞬間的に発生した雷鳴が無数の斬撃となって範囲内の空間全てを両断した。雷鳴の刃。文字通り通り道全てを切断して発生した間違いなく相手の切り札、相手の大手札。それを目視する事が出来た。降り注ぐ雷鳴が握る刃と呼応してその通り道全てを切断するという内容。見て、聞いて、覚えた。

 

 故に、

 

 迷う事無く前に出た。レヴィは無傷ではない。回避特化の状態、スプライトモードが解除されているのを見れば一目瞭然だ。回避が不能なために耐えきったのだが―――防御方面でもレヴィはフェイトよりも優秀らしく、バリアジャケットの装飾が増えている。おそらくこれがレヴィの防御的形態なのだろうと判断する。だがそれは悪手だ。それは相手も理解しているだろう。なぜならこの距離、相手から二十歩ほどの距離、

 

「一歩と変わらん」

 

 レヴィへと攻撃を叩き込める距離だ。

 

 故に前に出た。

 

 レヴァンティンを握る手は今度こそ自分の血で濡れている。

 

 血が流れた。

 

 目に血が入る。

 

 視界が赤く染まる。

 

 笑みが浮かぶ。

 

 レヴィが防御する。

 

 刃を叩きつけた。

 

 ―――赤が増えた。




 シグナムさんがキチった(歓喜

 これでリミッター装備中。もうチョイ派手目でもいいかなぁ、と思いつつもリミッターの存在を思い出して自制する感じに。どちらも本気を出せないってのはある意味辛いだろうなぁ。

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