マテリアルズRebirth   作:てんぞー

137 / 210
オーバー・ザ・パスト

 ―――高町なのはが放つスターライトブレイカーは機動六課の全魔導師が保有する魔法の中で一番制限が重く、一番制限が緩く、そして一番攻撃力の高い魔法だ。スターライトブレイカーは収束砲撃というカテゴリーに分類される。これは砲撃、魔法全体を見ても少々特殊なカテゴリーに入る。なぜならその魔砲の運用に対して必要とされる魔力、その九割以上は自分自身をソースとして使用せずに発動ができる魔法だからだ。それだけであれば物凄い便利な魔法に思えるが、そうではない。そもそも収束砲撃は高度な技術を必要とし、見様見真似で出来る様なものではない。それに収束技能によって魔力を集め、そしてそれを自分の術式で固定するのにはそれなりの訓練が必要となる。ここが収束砲撃の難しい部分となる。

 

 なら収束砲撃の、スターライトブレイカーの何が緩いのか。

 

 それは対価だ。

 

 スターライトブレイカーは、収束砲撃は魔力を集めて放つものだ。自分の、そして―――戦場に漂う魔力を。故に収束砲撃は収束技能さえ存在すれば理論上、Sランクオーバーの砲撃さえ放つことができる。その為には大量の魔力が消費され、大きなぶつかり合いが発生している戦場の存在が不可欠だが、長時間溜めることにだけ集中し、そして魔力をかき集めることができれば、それは攻撃と表現する事もおこがましいレベルの大砲撃を放つことができる。

 

 たとえば王と呼ばれる様な魔力Sランクオーバーが戦っている所の魔力等、

 

 真竜なんて呼ばれる存在が消費している魔力等、

 

 烈火の将と雷刃の襲撃者がぶつかって生まれた魔力等、

 

 それに合わせてリミッター付とはいえ、AAランク以上の魔力を一気に消費できる魔導師がカートリッジを消費しながらフルドライブモードで最大級の一撃を状況が整ってから狙っていた場合―――それはもう砲撃とは呼べず、

 

 災害と呼ぶしかできない様な一撃になる。

 

 

                           ◆

 

 

「―――スターライトブレイカーEX-fb……一応非殺傷だけど効果があるかは知らないよ……!」

 

 ―――本音を言えば、此処まで限界収束させた砲撃は自分でさえ放つのが初めてという異常事態。試射すらしたことがないと言うとっておき仕様。レイジングハート一本では砲口が足りないからブラスタービットを展開するだけではなく、シャーリーから頑丈なストレージデバイスを複数借り。それを浮かべて砲口にするという状況。それでもまだ、収束させた砲撃は絶大で、レイジングハートと、そしてストレージデバイスに罅を入れる。反動で体が後ろへと押し出されるのを全力で止めようとしてもまだ後ろへと少しずつ流されて行く。間違いなく人生で最強最高の一撃。非殺傷設定が正しく機能するかどうかさえ怪しい一撃。集中力を限界まで振り絞り放ったのは八つの砲撃。

 

 八つの、限界まで収束させた結果それは細く、幅五メートルまでに収束させられた砲撃。かつてないほどまでの反動と衝撃と、そして光の中で確信する―――これならあの馬鹿で阿呆でどうしようもなく救いのない元先輩を一撃でぶち倒せることができると。

 

 そもそもイスト・バサラという男の人生は破滅へまっしぐらだと理解している。彼の行動理念は昔から一切変わってないと戦って理解できた。だから打倒しない限りは絶対に止まれない。だからこそ同じステージに立つ必要がある。アグスタで入手した行動データを見れば解る。イングと直接たたかったからこそ、イングとイストの動きが全く一緒だったと理解できる。―――砲撃を叩きながら前進したところなんてリプレイした様な感じさえあった。だからこそ、彼がやっている事と同じレベルで頭をおかしくしなきゃ勝てない。それだけは理解できた。

 

 ―――元々最初から狙っていた事だ。

 

 前々からあの元先輩をぶちのめす方法は考えていた。だからその手段として最終的に思いついたのは囮作戦―――仲間全員を囮にして、そしてそれで生まれた魔力を収束砲撃に全てを叩き込む。つまり叩き込むのはその戦闘に置いて消費された魔力の全て。少し遠い所で戦っていたりするから魔力をかき集めるのには時間がかかってしまった。

 

 だが今自分のやっている事はあの男並みにキチガイだ。だから、

 

「―――いい加減幼女の名前を叫びながらぶち殺そうなんて犯罪臭い事やってるんじゃないのよ―――!!」

 

 砲撃がイストの姿を飲み込む姿を見て、笑い声が漏れそうになる。そして光の中で体を倒さず、動こうとする元先輩の姿を見て更に笑みを深める。そう、自分の知っている人はまず諦めない。そんな人だから昔一緒にコンビを組んでいて、そしてそのままコンビでいられた。あの広い背中にお世話になって、色々と教わった。だけど、此方にも貫き通したい意地と正義がある。立場とかはこの際忘れておく。ただ何でそちら側にいるかは解らないが、間違った事をしているなら、

 

 殴って引っ張り戻すのが友情だと教わっている。

 

「ぶち込むよレイジングハート……!」

 

『Lets rock master』(ロックに行きましょうマスター)

 

 リンカーコアからリミッターが許せる範囲で魔力を限界まで絞り出す。飛行魔法を限界出力まで引出、後退する動きから前進へと一気にモーションを変える。ここが勝負だ。どう足掻いてもこれがイストを撃破するための最初で最後のチャンスだと悟る。不意打ちで開幕からベオウルフ、あの必殺で砲撃を消される事はなかった。だが、自分の知っているあの男なら……絶対に、

 

「ベオウルフ―――」

 

 砲撃が一つ砕け散るのと同時にストーレージデバイスも一つ砕け散る。それによって砲撃数が一つ減るが―――それを即座に収束し、他の砲口へ、砲撃に混ぜ込んで砲撃を強化する。桜色を内側から打ち破ろうとした姿が大地へと叩きつけられるのを見る。それでも油断はできない。なぜなら相手はまだ動こうとしているから。

 

 し、ぶとい……!

 

 痛みと辛さに耐え、更に接近する。百数十メートルから九十メートル圏内へと接近するのと同時に接近した事でレイジングハート等から発射されるスターライトブレイカーの圧力が増す。ピンポイントに穿たれると、彼の体と共に大地が軋む音を生み、大地が急速にクレーターを広げ、その規模を深めて行く。砲が穿つ破壊の中心で相手の体が少しずつ大地に埋まる様に沈んで行く。このまま押し切れば、そう思う自分がいる。

 

 戦場にイストが出てきたと聞いた時からずっと狙っていたこれを、失敗させるわけにはいかない。イストの耐久力はおろか、もし彼が本当にあの”覇王”と同等の存在へと己を変質させていたのであれば、二度も同じ手段には引っかからない、二度も同じ状況へは追い込まれない、二度も同じ技は通用しない。この一回チャンスが全てなのだ。

 

「な、め、る―――」

 

 だがそれでも相手にも思いや願い、信念が存在する筈なのだ。戦いとはつまりそれを踏みにじって自分の思いを貫き通す行動。勝者は常に敗者の思いを捻り潰すのだ。

 

「んじゃねぇよ小娘……!」

 

 砲撃がストレージデバイスと共に一気に三つほど砕け散る。拳の一撃でここまで威力を通す。確かに凄まじい。だがこの砲撃というカテゴリーでは自分以上の魔導師、そしてこれ以上のものは捻りだせないと自負している―――そして何より今まで戦いを全て仲間に押し付けてこの準備してたのだ。

 

 成功させなきゃ申し訳ない。成功させなきゃ恥ずかしい。成功させなきゃ隊長として、隊の教え子たちに顔を向ける事が出来ない。ティアナには今回の件で色々とバレてしまっているし、この馬鹿な先輩を引っ張って戻して、せめて会わせてあげないと。故に、レイジングハートを握る手が汗ばんで、衝撃で震えても、絶対に離さない、逸らさない、

 

「落とす……!」

 

「落ちるか……!」

 

 距離が五十メートルまで迫る。砲撃の圧力が暴風を生み出す。それでも溜まりに溜まった魔力は吐き出しきれていない。ストレージデバイスが全て砕けた事によって一度に放射できる魔力の量は減ったが、一つ一つの砲撃は強化され、吐き出し続ける時間も増えた。ただそれは相手にとってプレッシャーが減ったという事実でしかない。最大のプレッシャーで何もせずにノックアウトするのが理想だが―――。

 

「うおおぉ―――!!」

 

 その砲撃の中へと飛び込んで行く姿がある。

 

 ―――ザフィーラだ。

 

「ははっ」

 

「黙って落ちろォ―――!」

 

 砲撃の中へと進みこんだザフィーラがイストへと跳びかかり、その体を地面へと倒そうとする。だが飛びかかってくるザフィーラへと向けてイストは拳を放った。それを受けてザフィーラがはじき出されるが、無理な体勢で拳を放ったためにその体が崩れ落ちそうになる。

 

 ―――ここだ。

 

 そう確信し、レイジングハートにカートリッジを一気に十個消費させ、

 

「ブラスター、シュート!」

 

 トドメにスターライトブレイカーを最終強化し、放つ。残された魔力を一気に注ぎ、それを太くしながら全力をイストの体へと叩き込む。砕けた大地がその反動で宙へと打ち上げられ、破壊の痕跡が広がる。そこでようやくイストが片膝を大地につき、倒れそうな姿を取る。だがその瞬間に、その中の姿が変わる。

 

「―――ッ」

 

 ユニゾンを解除し、イストとナルの二人に別れる。そしてその衝撃で無理やり体を横へと弾き飛ばす。砲撃の中から出現したイストの体はボロボロだが、ナルの体には一つも傷がなかった―――ナルの分のダメージをイストが引き受ける形でユニゾンを解除してしまったらしい。これがもし二人に均等に、そうだったら本当に危なかった。

 

 ―――勝った。

 

 スターライトブレイカーの発動が終了し、フルドライブモードが解除される。そして同時に全身から力が抜けるのを感じるも、イストやナルが動ける前に素早く動き、巨大化した刃を振るう姿がある。

 

「―――ジェットザンバーEX、いくよ」

 

 雷撃を刃そのものから爆発する様に発生させつつも、全力のそれをイストの正面から叩き込んで行く。防御も、回避もできない意識と意識の間の狭間、それを叩き込まれたイストの体は一度地面へと叩きつけられてから跳ねる。そのまま吹き飛ばされる体をナルが背後へと回り込んで捕まえる。その足元に黒い魔法陣が出現する。不利な状況で発動する魔法陣と言えば一つしかない。

 

「転移!」

 

「ハァァァァ―――!!」

 

 虎視眈々と介入のタイミングを狙っていたギンガが拳を振るうが、それはナルの魔法発動タイミングを邪魔するのには届かない。だから、と言うべきか、それは来た。

 

 一瞬で空間を巨大な半透明なドームで覆い、そして転移という魔法を封じる空間が生み出される。

 

『転移魔法用ジャミング張ったよ! 即席だから殴られたら壊れるけど!』

 

「シャマル先生ナイス!」

 

 十数メートル離れた空に見えるヘリの中からシグナムを横に、シャマルが手を振っている。ナイスタイミングと、そう思うのと同時にブラスタービットが全て爆砕する。それに気にする事なくレイジングハートを振るい、魔力をかき集める。

 

「―――バックアップ完了、イレイス終了」

 

 ナルの声と共に魔法陣が消え、ギンガの拳が届く。それをナルは受け入れ、殴り飛ばされる。力の抜けたイストの体はその場に崩れ、そして吹き飛んだナルは―――吹き飛びながら体勢を崩し、そのまま飛行魔法で離脱を始める。

 

「置いて逃げた!?」

 

 バインドをイストに当て、その体を大地へと縫い付ける。反応がない事から完全にノックアウトしているのかもしれない。いや、だとしたら好都合だ。フェイトが素早くナルの姿を追おうと体を加速させる。だがナルはその瞬間には結界を片手で粉砕し、外へと脱出する。その足元には魔法陣が出現している。まさか本当にイストを置いて逃げる気なのか、と彼女の彼への依存具合を知っているからこそ驚愕するが、

 

 ナルは見せた事のないような意地悪な笑みを見せてくれる。

 

「―――この戦い、最終的に勝つのは私達だ。”チェック”だ」

 

 魔法陣から転移魔法を発動させたナルの姿が一瞬で消える。同時に、ホロウィンドウが複数出現する。

 

『がぁ!! ディア子に逃げられたぁ!』

 

『こっちも今シュテルとレヴィを逃がした。どうやら本気で戦ってたんじゃなくて時間稼いでいたみてぇだな』

 

 ……イストだけを置いて全員逃げた?

 

 その事に関して激しく不安を覚える。だが、勝利は勝利だ。消化不良、というよりは不安要素が残っているからまず間違いなく先が少し怖いが、それでも勝利は勝利だ。……これで少しは彼らの状況の事も解るかもしれない。故に、

 

「私達の勝利だね」

 

 ―――クラナガンの惨状を見ない様にしながらなんとかその言葉を絞り出す。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。