マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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アタック・グラウンド

 到着したクラナガン・セントラルの様子は凄まじいものだった。空から爆弾の様に降り注いできたガジェットが空中や建物、大地に触れると爆弾の様に爆裂したり、そのまま建造物へ破壊活動を行っていた。即座に出動した陸士がその迎撃に出現する。それをセントラルの入り口から目撃する。周りで湧きあがり、逃げ惑うクラナガンの住民達を無視しながら服装を何時もの姿へ変える。この状況になって姿を隠す意味などほとんどない―――いや、混乱が始まっている今がチャンスだ。

 

『魔導ジェネレーターが落ちた、地上本部D-3地点で合流するぞゼスト!』

 

『了解した!』

 

 ガジェットの残骸を飛び越えつつそのまま真直ぐ地上本部を目指して一気に疾走する。管理局地上本部はクラナガンのセントラル中央に、白い防壁に囲まれてそびえたっている。計三本の塔で出来上がっている姿の地上本部のうち、議事堂が存在するのは中央塔―――一番セキュリティが高いものだ。だがそれに忍び込むこと自体はもう既に難しい話ではなくなっている。魔導ジェネレイター、それが地上本部の電力のライフラインとなっている。それを落とせばサブ電源が活動開始するが―――バリアや防犯装置等を稼働させるほどの力はない。

 

「行くかアギト」

 

『おう、行くぜ旦那!!』

 

 百メートルほど先に見える巨大な白い防壁を前に、一瞬たりとも速度を緩める事無く疾走し、加速する。その光景を見た誰かがおい、と声をかけてくる。正面にはガジェットの初期型―――卵の様な形の一番古いタイプのが此方へとモノアイを向けてきている。次に出す行動は解る。そして魔導師が此方を気遣っているのも解る。ただ自分の姿を見ても反応しないのはまだ未熟な証だろうか。

 

 どうでもいいか、俺は何を考えているのだ。

 

「魂なき存在、我を阻むなかれ」

 

 抜き去りながら槍の一閃と共にガジェット三機を両断する。背後で感じる爆風の熱を背中に感じながらもそれを受けて更に体を加速させる。建造物が多く、人口密集地帯のセントラルはガジェットの自爆特攻によって地獄絵図の様な光景になっている。走るこの短い距離でもあちらこちらでAMFに苦戦しつつ戦う魔導師の姿が見える。―――それに地上本部その物からも火の手が上がっているように見える。

 

「ふんっ」

 

 防壁に衝突する前に一気に地を蹴って垂直に跳躍する。一気に十数メートルを跳躍してから魔力の消費を考え、飛行魔法の使用を始めず、そのまま再び壁を蹴る。本来ならバリアの一つでも発動していただろうが、魔導ジェネレーターが落ちている今、それは発動しない。跳躍の為に何度か壁を蹴りつつ体を上へ、上へと飛ばして行けばそのうち防壁の頂点へと到達する。一回転しながら左手を床に付ける様に頂点へと着地し、左右へと視線を向ける。

 

「侵入し―――!」

 

 最後まで言い終わる前に体を動かす、右側に立つ魔導師を飛び越えて槍を振るう。頭上から迫ってきていたガジェットを両断し、着する前に体を横へ回転しつつ槍を振るう。斬撃を発生させ、魔導師が目を離した隙に接近していたガジェットを五体ほど葬り去る。そこからようやく魔導師の反対側へと着地し、開いている左腕を軽く振るう。

 

「―――私服姿だが俺も管理局の魔導師だ。それよりも貴様、常に全方位に注意を向けろ。予想外の事で思考を乱すな精進が足らんぞ」

 

「あ、は、ハイ! すみませんでした!!」

 

 防壁から飛び降りるのと同時に背後で戦闘音が聞こえる。これが平時であればまず間違いなくIDの提出を求められただろうが、この状況であればその余裕はない。自分の正体が何であるかを相手に勝手に想像させるとして、ガジェットの相手を擦り付ける。

 

『エゲツねぇなぁ』

 

「犯罪者らしいやり方だと言ってくれ」

 

 ―――擦り付けた所でそれでも視界には十数機のガジェットの姿が目撃できるが。スカリエッティからすれば初期型のガジェットは”ゴミ”であって完全に使い捨ての道具だ。故に今、地上本部へと襲い掛かっているこのガジェットが全て作って、そして使用用途が無くなった後期型の”余り”でしかない。まだ本気ではないというのが理解できる。いや、温存していると思考するのが正しいのだろう。そしてその前のパフォーマンスか、ミッドチルダの防衛力を削る為の―――今回のテロだ。たぶん、おそらく。

 

 スカリエッティの真の目的を察せる存在なんて―――あの狂人と同じ視点で立てる存在なんて他には存在しないのだから、本当なのかどうかは永遠に理解できないが。

 

 素早く着地から身を屈ませ、そのまま近くの木の裏へと隠れる。そこから姿勢を低くしたまま辺りを窺えば、初期型のガジェットの姿と、

 

「潰せ潰せ潰せ!! これ以上好き勝手にやらせるな!」

 

「法の守護者が健在である事を示せ! 空の連中ばかりにいい所を見させるな!」

 

「野郎共、陸の魔導師ここに未だ健在と証明しろ……!」

 

 叫びながら武器を手にガジェットへと向かってゆく魔導師の姿が見える。カスタムタイプのバリアジャケットではない所を見ると一般の陸士魔導師だが、その意気込みだけで十分、彼らが腐ってはない事を理解できる。チームで行動しつつ、確実にガジェットを狩る姿は間違いなく訓練された者の動きだ。その動きを昔の自分に少しだけ重ね、音を出さずに唇の動きだけで、頑張れ、と彼らの背中へと向けて言葉を放つ。自分が彼らに送る事が出来るのはその程度だ。

 

 再び合流ポイントへと向かって走り出す。誰にも見つからない様に、周りで起きている戦闘で発生している瓦礫や壁を使って時折自分の身を隠し、炎の揺らめきの中に身を屈ませてやり過ごし、そうして予め決定していた合流ポイントへと向かうと、林の中に隠れる様に三人の姿を見つける。辺りを窺い、遮蔽物の無い短い空間を抜けてから林に入り、合流する。

 

「遅ぇぞ爺さん」

 

 冗談交じりにイストがそう言ってくる。なので此方も苦笑しつつ答えるとする。

 

「悪いな。俺ももうそろそろ歳でな。いい加減運動もキツイ年頃なんだ。だからそろそろ俺の目的を終わらせて楽な生活にしてくれ」

 

「は、なんだそれ」

 

 なんだろうな、と自分でも思ってしまうあたり、少しずつ俺も限界が近づいているのかもしれない。いや、今日一日ばかりは持ってくれるだろう。その為に最近は割と健康的な生活を心がけて来たし、極度な運動だって控えた。今日一日持ってくれれば―――それですべてが終わってくれるのだから。

 

「ま、ゼストがこの際悲壮な空気を漂わせている事はどうでもいいとしましょう。―――結局の所、借りは借りで、友情は友情です。与えられたものには返さなくてはならない―――そうですね、それが真摯であるということですから」

 

 イングがそう言って拳を握り、動けることを証明する。彼女がそうやって笑みをイスト以外の誰かへと向けるのは珍しい。思わず硬直してしまうぐらいには。そしてあぁ、そうだな、としか自分には答えられない。だが言葉で長々と感謝を告げるのは自分らしくはない。何時だって背中で、武威で語るのが己のやり方だ―――レジアス相手には通じなかったが。

 

 故に、

 

「行こう、友よ。今日は死ぬには良い日だ」

 

 長年の相棒であるアームドデバイスを握り、林から出る。正面に見えるのは高くそびえる黒い地上本部の姿だ―――だがそれも今は所々崩れ、剥がれ、そして燃えている。内部で爆発が生じ、爆炎が内側から塔を突き破る様に発生する。それを見上げていると、脳に声が響く。

 

『転移ジャマーがガジェットのAMFと一緒に張られているぜ』

 

『まず飛行以外の方法で逃げる事は不可能でしょう』

 

 ―――いや、そもそも俺の知っているレジアスであれば、こんな状況で逃げる様な骨なしではない。やつであればまず間違いなく正面から敵を切り払うために、指揮する為に己に立つべき戦場で命令を出し、処理し続けているに違いない。故に目指すべき場所は一箇所、レジアスの執務室だ。そこに絶対レジアスはいると確信を持っている。

 

 林から出て見える正面、地上本部の入り口の前には魔導師が隊列を組んで防衛陣を構築している。その前にガジェットの残骸が転がっているのを見れば彼らが役目を果たしている事は解るが―――此方を見て、ユーリを見て、イストを見て、イングを見て、闘志を向けてくる。流石にここまで怪しい集団が一箇所に固まって味方だという事は苦しすぎる。

 

 だとすれば邪魔だ。

 

「ま、リハビリ程度には丁度いいでしょう。アレは私が軽く蹴散らすので中へ皆さんどうぞ」

 

 そう言って自分たちの前へユーリが踏み出す―――両手に剣を握って、長い金髪をポニーテールにまとめて、だけどそのふわっとした姿とは裏腹に獰猛な笑みを浮かべながら、正面の集団へと笑みを向けている。右手に一本、左手に一本と何時の間に握られている剣の名は、

 

「ブラッドフレイムソード―――久しぶりの獲物です。雑魚ですが存分に食い散らかしますよ」

 

 そして加速した。

 

 踏み出しながら投擲された二本の剣はあっさりと防御陣を形成している隊のシールドを貫通し、一本に二人ほど突き刺し、大地へと縫い付ける。”牽制”だけで防御陣を破壊しながらもユーリは蹂躙を止めない。前へと進みながら空間に拳を叩き込めば、空間が砕ける。そこから新たに両手に剣を握らせ、それを投擲する。砲撃魔法を数秒は耐える事が出来るシールドプロテクションがまるでガラスの様に粉砕され、その背後に立っている魔導師を串刺しに、一瞬で意識を奪う。

 

「あぁ、安心してください。雑魚を殺す趣味はありませんので非殺傷設定ですよ。ってあぁ、威力が高すぎて意識が残っていませんか。強すぎるのも問題ですねー、挑発したり煽ったりする余裕もないなんて」

 

 そのまま一気に接近したユーリは淡々と処理した。

 

 背後から炎で生み出された巨大な手を二つ生み出してそれで薙ぎ払えば人が塵の様に吹き飛ばされ、ブラッドフレイムソードを投擲すれば防護は確実に粉砕され、そして串刺しになる人の姿が増えた。それが5秒ほど続けばもはや地上本部の入り口に立ち、ガジェットの地上からの進入を防ぐはずだった魔導師達の姿は完全に蹂躙され、気絶して動く事はなかった。蹂躙され、そして完全に無力化された集団の中央に立ち、ユーリは此方へとサムズアップを向けてくる。

 

「準備運動にすらなりませんねー」

 

「ディスりすぎだテメェ」

 

 近づいたイストが軽い拳骨をユーリに叩き込むとユーリが頭を抱えながら泣き真似をする。本当に真似だけで、ユーリはふざけているように見えるが―――今の活躍を見てしまえば誰もユーリを止める事が出来ないのは明白だ。今、ユーリが羽虫の様に扱って薙ぎ払った魔導師は全てがAランクかそれ以上の強力な魔導師だ。十を超えるそれだけの魔導師を薙ぎ払った実力はここにいる誰よりも高い―――これでいてまだ本調子ではないのだから恐ろしい。

 

「まあ、此処はお任せください。リハビリついでにここからの侵入者を全員火星までぶっ飛ばしますので」

 

 そう言いつつ既に虚空を割ってユーリはブラッドフレイムソードを取り出すと、それを薙ぎ払った。赤い剣の軌跡を炎が追いかけ、それが斬撃となってガジェットの鋼の体を一瞬で飲み込んで溶かし、爆砕する。薙ぎ払った刃をそのまま投擲すると空に浮かび上がるガジェットを十機ほど貫通しながら進み、空で盛大に爆砕しながら更に多くのガジェットを巻き込んで消し去る。

 

「野外の方が動きや魔法が制限されずに充分に動けますし。エグザミア・レプカの方もレリックちゃんもぐもぐしてかなりいい調子なので今は落ちる気がしませんしね―――お任せください、再誕した闇は永劫砕ける事無く共に在り続けます」

 

 と、そこでキィ、と音を立てながら此方へと向かって来る鉄の塊を見る―――ガジェットではない。ゴツゴツとしたそのフォルムはスカリエッティの誇る機械の形ではなく、車に装甲を増やしたもの、装甲車のものだ。その上部についている魔導砲台が此方へと向けられる。放たれてくる砲弾をユーリが大腕一本で受け止め、握りつぶしながら声を発してくる。

 

「さ、お任せください。手加減しても、あの程度は文字通り一捻りですから」

 

 爆砕音を響かせつつ背後に闘志を見せるユーリを置いて、地上本部の建造物内へと侵入する。外から壁を駆けあがるのも一つの手段だが―――その場合は所属員全員がエースである”空”の防衛部隊と正面から戦う必要が出てくる。所属の問題上、”空”が”陸”の本部へと戦闘の為に入り込むのには少しだけだが時間が必要となる。そこらへんがまた、管理局のしがらみというやつだろうが―――。

 

「此方シャークズ! テロリストを発見、これより交戦に移る! 増援を寄越せ!」

 

「行くぞテメェら、死亡フラグは立てたな? 生存フラグに変えろ!」

 

「対ストライカー級魔導師戦用意!」

 

 地上本部の破壊されたロビーに次々と魔導師の姿が現れる。心の中で応援しつつも、やる事に変わりはない。槍を構えればイストとイングも拳を構える。反応する様にロビーへと流れ込んできて三十を超える魔導師達が一斉に戦闘態勢に入り、

 

「これ以上好き勝手やらせるかよテロリストめ……!」

 

「―――違うな」

 

 テロリストではあるが、そうではないと否定する。得物を構えつつ、叫び、答える。

 

「元時空管理局陸戦魔導師、ゼスト・グランガイツ一等陸佐―――友と話に来た」

 

「はは、面白いじゃねぇか。ここらへんがグッドタイミングってやつか? いいぜ」

 

 イストも笑いながら名乗り上げる。

 

「元聖王教会所属騎士、”鉄腕王”イスト・バサラだ」

 

 それ聞いたイングが頷く

 

「イング・バサラ―――ただの主婦です」

 

『それはツッコミ所なのか』

 

『姐御姐御、たぶん本気じゃねこれ』

 

 イングの言葉に陸の魔導師達が軽く顔を見合わせてから口を開く。

 

「―――貴様の様な主婦がいるかぁぁぁ―――!!」

 

 次の瞬間、砲撃と魔力弾が一気に放たれてきた。

 

 本当の意味で、管理局との戦争が始まった瞬間だった。




 作業中は雰囲気を想像する為に碧の軌跡より『予兆』をBGMにしてました。アレですな、会議襲撃の時に流れてた。いい感じに緊張感があってテンションが上がってきますね。読み終わって2週目行く人がいたらBGMにしたらまた違う感じになるんじゃないかなぁ、と。

 ともあれ、頑張っているのは主人公たちやなのは達だけじゃなく、モブ一人一人も履歴書を書いて管理局へ所属しているんですよ? という話で。

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