マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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アンド・ザ・ウォー・ビギン

 屋上の上から全体の様子を眺める。場所は管理局の大布陣の更に西側。管理局の右翼陣の更に西側に存在するビル群の屋上の上から眺めている。大きくざわつき、そしてある程度の落ち着きある集団は全員が武器を握って、そして反対側で相対するガジェットの姿を見えずとも、待ち構えている。その大きく広がっている布陣を確認する。管理局側の陣はシンプルだ。大きく陣を三つに分けている。

 

 右翼、左翼、そして中央という風に分かれている。その中でさらに細かく分岐しているが―――全体の総指揮をレジアスが、そこから指揮が取れる人間が大隊、中隊と、細かくなっている。基本的には上から下へと流れるシステム―――管理局の基本的な構造の様なシステムだ。シンプルなだけに臨機応変に動ける布陣だ。ただ一点が突破されればカバーしにくいという点もある。だが、その状況へと追い込まれた時点で管理局の敗北は決定している。第一レジアスも全体としての勝利を重視しているわけではない。

 

 管理局が、ミッドチルダが半ば本局から孤立しているこの状況で、管理局の最大の武器である”数”を投入できない時点で、スカリエッティに対する総力戦での勝利は見えないのだ。逆に言えば戦場全体としての戦闘は勝利出来なくても、局地的な戦闘での勝利なら取れる。スカリエッティは強いが―――一点に置ける突破力であれば管理局の方が人員が、その種類が”豊富”なのだ。突出した戦闘力を持っている人材がスカリエッティ側よりも遥かに多い。故にレジアスの戦力は簡単だ。

 

 極限までの遅延戦闘。

 

 ガジェットを極限まで削りながらその動きを留め、戦場を進ませない事が目的だ。そしてその間に特級戦力を持って相手の陣地へと侵入、必要最低限の敵を倒す事によって、強制的に戦場を終了させる。つまり戦術的勝利を戦略的勝利へと変えるのがレジアスの目的。唯一の勝利方法。それだけが数において劣っているレジアスがこの一戦で勝利できる唯一の方法だ。その為に自分の首を絞めるような交渉や準備を行ってきた筈だ。

 

「聖王教会騎士団の精鋭約千人、管理局所属武装隊ミッドチルダ駐屯全員で千五百人、武装陸士隊こいつは空港が使えないから車で飛ばして来るしかねぇから全員集まれずに千八百人、そして空のエリート魔導師が三百人ほど、最後に海の魔導師で偶然ミッドにいたのが二百人ほど―――合わせて約四千八百人。少ないな」

 

 流石管理局、流石慢性的人員不足。世界規模の大戦争をやらかすというのにまさか五千人も集まらないとは。いや、まず間違いなく人数を集めさせない為の空港潰しと衛星落としだ。それにしたって少なすぎる。五千人なんて二個連隊……ギリギリ旅団というレベルだ。師団に届くレベルではない。最低でも軍を名乗るのであればこの四倍、五倍の数は欲しい。

 

 改めて陸の魔導師の不便さと、そして管理局の次元世界を無差別に広げてしまっている体制の酷さがまさかここで露見する。レジアスとしては痛い話だろう。だが最高評議会にこの次元世界で逆らえる存在はいなかった―――いなかった、過去形。つまり過去の話だ。この話はスカリエッティがドゥーエを使って殺した事によって既に覆されている。最高評議会は存在せずに、今では本局の方で後釜を狙って争いが行われているだろう。それが確実に此方に対しての確認や援軍を送る行動を阻害している。

 

 詰んでいる。実に良く詰んでいる。

 

 個人での戦闘で勝利する―――つまりスカリエッティと聖王をぶっ潰せば勝利する。ついでにガジェットの制御装置もぶっ壊す。この三点以外は全て捨て駒の布陣なのだ、レジアスの作戦とは。ゆりかごは聖王がつぶれれば動かない木偶になる。スカリエッティがつぶれればナンバーズもガジェットも止まる。ガジェットの供給源を潰せば戦場が一気に有利になる。ただ一箇所、

 

 聖王攻略がムリゲーすぎる点を除けば何とかなる。

 

「準備完了ですね」

 

「僕達の方も準備は完了しているよ」

 

 大きく姿を変え、大剣の様な姿をしたフレームのルシフェリオンを握るシュテルと、そしてソード・ブレイバーフォームのバルニフィカスを”二つ”握るレヴィの姿がある。どちらもバリアジャケットに最終戦使用というべき、マイナーチェンジを施している。装飾が増えていたり、装甲が減っていたり―――バリアジャケットのカスタムっぷりは本人のやる気を計る為のいい導だ。

 

「ま、やる事をやるだけですし。そこまで心配する必要はありませんよ」

 

「然り、一人一人が己の役割を果たせば容易い事よ。そしてそれを成せぬ脆弱な者はここにはおらんわ」

 

 ユーリが纏うバリアジャケット―――紫天装束は白、ではなく攻撃的な赤色に染められ、そしてディアーチェの恰好も黄金の装飾が少々増えている。片手にエルシニアクロイツ、もう片手に紫天の書を握り、何時でも戦闘に臨める姿を見せている。

 

『正直負ける様な気がしないしな』

 

「えぇ……私達は無敵ですからね。必ず、目的は果たします」

 

 金色に髪を染めたイングがアギトの生み出した赤いバリアジャケット姿で、髪を全部降ろした状態で拳を作り、そして握りしめる。家族のその姿を眺めてから、頷く。ナルには言葉を聞く必要はない。彼女の全ての想いと全ての記憶はユニゾン中は常に自分と共有されている。故に思考する。

 

 行こうぜ―――ええ、生きましょう。

 

 全部終わらせて生きて帰ろう。故に行こう。

 

 視線の先で二つの陣営の動きが変わって行く。今までにらみ合うだけだった二つの陣営だったが、その両先端が動き始める。管理局側で動き始めるのは中央先端―――武装陸士隊によって構成された一番数の多い部隊。―――管理局陣営最弱の部隊。リンカーコアを持たない人間と、そしてリンカーコアを持っていても魔力の保有量の少ない人間の多くで構成されている部隊。AMF環境下であれば魔導師も、一般の武装局員も変わらない。つまりガジェット相手であれば圧倒的蹂躙される側になれる存在である、という事だ。

 

 そんな彼らが前へと出ていた。武器を手に、防具を体に、そして勇気と誇りを胸に。その姿を忘れぬように胸に刻みつつ、腕を組む。まだ出るには早い。まだ動くには早い。まだだ、まだ自分の出番ではない。だが―――ここは彼らの舞台だ。

 

「―――始まるぞ」

 

 廃墟の合間を抜け、朽ちた高速道路を走破し、武装局員とガジェットが正面からぶつかりに行く。一キロ、八百メートル、五百、三百―――二百―――百―――そして接敵した。

 

 

                           ◆

 

 

「前へ出ろ!」

 

 百を超え、千を超える姿が前進する。もちろんそれは小さな部隊が組み合わさって出来上がっている戦場だ。だがその場にいる彼らにとってはそれは余り違いなどなかった。ただ正面、廃墟から出現するガジェットが出てきている。それだけが全てだった。高速道路の上を走る武装局員が奥から来るガジェットの姿を視認。その鋼鉄の姿に誰もが息を飲む。其処は間違いなく彼らにとっては死地だった。そもそも末端で、特別な力もない彼らが生き残る可能性なんてスカリエッティ側で手加減が無ければありえない。そして相手は手加減してくるような存在ではない。だとすればこの使い捨てにされている自分達が生き残る可能性は少ないのではないか?

 

「恐れるな!」

 

 正体を率いる隊長達が声を張り上げる。前へと進みながらも大声で叫ぶ。恐怖心をかき消すように、自らに活を叩き込む様に。そうやって他の隊員達の一歩先を進み、盾とアームドデバイスを手に握り、真直ぐとガジェットへと進み向かう。ガジェットとの距離はもうほぼない。ガジェットには光学兵器が搭載されている。その真っ赤なモノアイが輝き、そしてレーザーが放たれる。

 

「俺達が何なのかを言ってみろ……!」

 

 放たれた。一番前に出た隊長―――雑魚と評価してもいい連中の中でも特に力のあるものが左手の統一規格の盾でレーザーを防ぐ。短い音とそして衝撃、レーザーは盾によって塞がれていた。その間にすらも前進し、彼らは距離を詰めていた。そして防壁をとなって攻撃を受け止める隊長の代わりに、武器を握った隊員達がそれを振り上げながら隊長の横を抜けて、それを振るう。

 

「我ら法の守護者! 秩序の守護者!」

 

 声を張り上げながらアームドデバイスが一斉にガジェットの後期型、一型よりも細長くなっているデザインの体に叩き込まれる。最前線で爆発が生じ、一気に多数のガジェットがアームドデバイスを叩き込まれた衝撃から爆散する。だがそれですら一握りにすら届かないごくわずかな敵の数だ。破壊した次の瞬間にはさらに多くのガジェットが群体となって迫ってくる。それを再び盾持ちの武装局員が前に出て盾になりつつ前進する。

 

「我ら人の安寧を守る者! 我ら杖を持って平和を成す者!」

 

 先ほどの倍の数のレーザーが一斉に放たれる。だがここまで来れば臆する者はいなかった。恐怖はある。だが誰もが足を止める事なく前進する。盾を前にだし、対光学兵器用装備、そういったガジェットとの戦闘を想定した装備を前面へと押し出し、確実にガジェットの攻撃を防ぎながら、ギャンブルに出る事もなく徹頭徹尾マニュアルに沿った動きでガジェットへと相対してゆく。機械じみた統制力はないが、それでもそこには全体が組織として動き統一感があった。

 

「今更管理局がブラックだとか、知った事じゃないんだよ。何年間働いてきたと思ってんだ。毎日汗をかいて働きながら頑張ってきたんだよ、平和のために! 魔導師の様に強くはないけどな、それでもなぁ、頑張ってきたんだよ俺らは! ただの雑魚陸士なめんじゃねぇぞ……!」

 

 接近し、そして打撃した。アームドデバイスが叩き込まれる。AMFは魔法に対してのみ効果的だ。だがそれも決して万能ではない。たとえばAMFが触れられない事や、物理法則に対しては全くの効果を生み出さない―――故に皮肉にも質量兵器に一番近いアームドデバイスがガジェットに対し、一番有効的な効力を発揮してしまう。ただそれに対して文句を言う存在は一人もいない。彼らはある一点に置いて意志は統一されていた。

 

「勝つぞお前ら!」

 

「何当たり前の事言ってんだよ馬鹿!」

 

「喋ってるヒマがあったら手を動かせよ! 俺これが終わったらミッドの田舎でレストランを開くって事にしてるから」

 

「はははは!」

 

 恐怖はしても、臆しはせずに彼らは前に出る。後ろにいるのは家族で、そして横にいるのは友。前にいるのは敵だ。後ろには下がれない。横を心配する必要はない。だから己の役割を通しに出る。一歩一歩、着実に前に進みながら攻撃を防ぎ、そして堅実に一体ずつ倒す。新たに爆発するガジェットの残骸を踏み越えながら、武装局員たちが前へと進む。

 

「お前ら、死亡フラグは立てたか?」

 

「もちろん!」

 

「忘れちゃあいないぜ!」

 

「主人公は私よ!」

 

「恋人への手紙は? 家族に帰ってくると約束したか? ちゃんと武器は整備したよな? 思いっきり思い出話もしたよな? じゃあ、フラグを折ろうぜ」

 

 迫りくる光線を防ぐ。それが降り注いでくる量は交戦時間十数分という短い時間にもかかわらず一気に数倍へと膨れ上がっていた。ただ純粋に千八百の武装局員と、数えきれないほど存在するガジェットでは総数が違う。ガジェットが攻勢に出るという事は蹂躙されるという事に他ならない。遠距離の武装が魔導以外に存在しない管理局ではガジェットのアウトレンジからのレーザーの連射を掻い潜り接近する方法はわずかだ。そしてそれを実行できるだけの実力の魔導師や局員は温存されている。

 

 叫ぶ。

 

「覚悟はいいなお前ら!」

 

 盾を一斉に大地に突き刺す。盾の機能が解放され、盾が横に広がる。盾だったものは防壁となってガジェットのレーザーから攻撃を防ぐようになり、その裏に隠れるように局員たちが隠れ、武器を握りながら、その向こう側からやってくるガジェットへと接近したものから応戦する。一斉に横にできた盾の壁、接近したガジェットを砕きつつ、それを大地から引き抜いて一歩前へと進んでから再び突き刺す。一歩だけ前進した陣地で再びガジェットを待ち構え、ガジェットのAIと、そして攻撃手段を利用して徹底的に戦闘そのものをゆっくりと、だが確実に進める。

 

「俺達ヒラの管理局員! 雑魚の陸士隊!」

 

「薄給で働かされて予算も何時もすっからかん!」

 

「それでも頑張ります街の平和の為に!」

 

 彼らは前進しつつガジェットを打撃する。確実にガジェットを破壊しているが―――追いつめられているのは武装局員たちの方だ。一体一体に全力過ぎる。疲労が全体を削るよりも酷い。故にゆっくりとだが自分の首を絞め、そして自滅している状況だった。回復魔法もほぼ意味のないこの空間で叫ぶ。

 

「さあ、俺達の意地を通すぜ!」

 

 そして通した。




 なのセント遊んで、Force勉強したのでちょこっとドライバー投入(

 ラスボス組のボスモードが強化されました。雑魚が雑魚の意地を見せてくれるようです。次回から最後までバトル、バトル、バトルですな。

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