マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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レイジング・サンダー

 遠くで爆音が響く音がする。僅かに空気に混じる焦げるようなにおい―――熱線だ。誰かがそう遠くない場所で、炎を使って戦っている。もしかしてシグナムかもしれない、とバルディッシュを握りながら思う。ただシグナムをここまで前線に投入する事はないだろうから違うだろうとも同時に思う。だから多分別人だ。かなり敵陣に踏み込んだ位置に今はいるし、ここまで誰かが踏み込んでくるのは……管理局の人間ではいないと思う。だとしたらこの原因はまた別人だろうから……まあ、そうなると希望的観測が大きく入るが、この攻撃の主が誰であるかは特定できる。

 

 まあ、今はそんな事どうでもいいのだが。

 

「見つかっちゃった、かな?」

 

 すぐ近くには斬り伏せて真っ二つになったガジェットの姿がある。色々やる事があって姿を隠しながら敵陣に潜りこんでいたが―――偶然見つかってしまった為止むを得ず斬り伏せてしまった。いや、敵も馬鹿じゃないのだからこれで自分の事を確実に感知したはずだ。まずった。物量的には相手の方が圧倒的に上なのだ。一体にバレたら次の数十体が来るのは目に見えている結果なのだ。嫌だなぁ、と溜息を吐く。こうなったら自分に目的を完全に集めるほかないだろう。軽く雷へと魔力を変換し、それをセンサー代わりに浸透させればガジェットの大群が自分の居場所を囲んでいるのが解る。まだなのはからの緊急信号は届いていない。つまりなのははまだバレてない―――もしくは。

 

「うーん、私よりも派手なスタイルのなのはがバレてない事に若干違和感を感じるなあ」

 

『Give up』(諦めましょう)

 

「バルディッシュって結構セメントだよね」

 

 ザンバーフォームのバルディッシュを担ぎ、そして自分が今いる、廃墟の中で一回転しながらザンバーを振るう。それと同時に雷刃を魔力として繰り出し、辺りの空間と囲んでいたガジェットを一気に薙ぎ払う。空へと向けて高く雷撃を発生させ、自分の位置が解りやすく見えるようにする。こうなってしまえば個人的な目標の達成は難しい。なのはの事だしたぶん、確実に完遂してくる。ともなれば自分は次善策に移る。

 

 つまり壊して壊して壊して壊して、壊す。

 

「それぐらいしか能がないのが悔しいかなッ!」

 

 一気に三十を超えるガジェットを吹き飛ばし、自分の位置を敵にも味方にも知らせる。それと同時に自陣へと向かって素早く移動を開始する。居場所がバレてないのであればまだ敵陣に残る意味はあったが、バレてしまってはもう完全に意味はなく、自分の命を危機に晒すだけだ。だとしたら素早く自陣に戻った方がいい。自陣へと向かって戻ろうと飛び上がろうとし、

 

 頭上から魔力の光輪が襲い掛かってくるのが見えた。

 

 即座にそれが敵のものであると断定し、ザンバーで真っ二つにして上空の確保へと行動を移そうとする。だがそれと同時に更に頭上を覆う様に巨大なガジェットが数機、行く手を阻む。それに斬りかかろうと接近したところで、その中に魔力反応が増大するのを感じる。

 

「まさか……!」

 

 爆発した。爆炎と衝撃が舞う空から素早く降下する事で逃れ、そのまま大地へと着地する。その瞬間には自身へと向けて放たれる閃光が見えてくる。対応する様にザンバーを振るい、それを真っ二つに割く事で対応し、そして攻撃の方向へと踏み込む。

 

 次の一歩には攻撃の発生地点へと到達する。

 

「遅い!」

 

 数百メートルの距離を一瞬で詰め、そしてセプターを握るローブ姿の敵を発見する。その姿は完全にローブとフードによって隠されている為に顔を確認できないが、魔力を使った攻撃を使用している為、ナンバーズではないのだろう。だがガジェットを使ってきたのを見れば、敵。おそらく次元犯罪者。容赦をする必要はない。いや、そもそも元から遠慮も容赦もする理由がない。振り上げたザンバーを一気に叩きつける為に振り下ろす。

 

 それをまるで知っていたかのように横へ一歩動くだけで相手は回避してくる。そこに一瞬の驚きが生まれるが―――それを見せる程に未熟ではない。斬り下ろしの動きから素早く切り上げの動きに雷撃を乗せる。

 

 だがそれは最後まで完遂される事なく、

 

 振り上げられるはずのザンバーの上には足が置かれていた。何時の間に、と口から言葉を漏らす前にセプターが殴りつけられるように振るわれていた。それをダッキングする様に最小限の動きで回避しつつ、ザンバーから左手を離す。そこに雷撃を乗せて相手の顔面へと向けてそれを伸ばす。そしてそれ相手はまた避ける。ザンバーから降りる様に、手の範囲外に逃げるように、後ろへとステップを取りながらセプターに魔力が纏うのが見える。

 

 それが剣の形を形成するのと同時にザンバーを両手で握る。

 

「ジェットザンバー」

 

「プラズマセイバー」

 

 互いに静かに必殺の一撃を叩き込む。ザンバーから放たれる魔力撃とセプターが形成した電の剣、それはぶつかり合うと中間点で一瞬の均衡を生んでから互いに砕け散る。二撃目を放つ前にザンバーを一回転させ、そしてその切っ先を相手へと真っ先に向ける。

 

「貴方は……誰ですか!?」

 

 相手の動きは”対応”の動きではなく此方を”知っている”からこそ、その一歩先に立つような動きだ。だからこそ此方の動きが読まれる、潰される、そして決まらない。そういう動きができるのは自分の事を良く知っている人間以外であれば、凄まじく経験を積んで、ありとあらゆる動きを既知の範疇内とした存在だけだ。故に自分の動きがここまで見事に対応されるのはおかしい。

 

「―――」

 

 無言でローブ姿が構える。

 

「言葉は不要、という事ですか。良いでしょう。誰であれ斬り伏せます」

 

 大凡の予測はできるが―――何も言わぬのであれば、ただの敵だ。

 

 斬る。斬るしかない。斬るしか、ないのだ。

 

 ―――リニス……!

 

 口にすることなく相手が誰であるのかを半ば確信しつつ再び切り込んでザンバーを振るう。その動きはやはり回避される。リニス―――昔、母の使い魔をしていた存在だ。既に死んでいるのでもういないのだが、自分の戦闘の基礎、根幹、考え方は大体リニスによって教育されたものだ。姉というか、オリジナルのアリシアは今思い出すと結構ヒャッハー系なのに自分がこうやって大人しく育ったのは、確実にリニスの初期の教育の賜物だと思う。

 

 おそらく……そんな彼女が敵だ。

 

 強く―――はない。

 

 だがやりにくい。

 

 

                           ◆

 

 

「うわぁ、皆いろんな所でドンパチはじめてるなぁ……あそこで派手にやってるのってシュテるんだよね? 君達側だと一体誰がシュテるんの相手をしているの?」

 

「ディエチが対抗意識を燃やしていたから一番役に立つオットーと、そしてクアットロが引きずられる形で合流していたな。ディエチとオットーは勝つために相当練習していたし、勝つ勝たないにしろ、確実に行動不能に追い込む程度はすると思うぞ」

 

「ほほう」

 

 缶珈琲を片手に、廃墟の上から発生する雷撃やら爆発やら宙へと投げ捨てられるガジェットの姿を目撃する。スカリエッティ、ガジェット側の陣地の中央近くの廃墟からは周囲がはっきりと見え、おかげでスカリエッティ側で起きているイベントをちゃんと認識できる。横で同じく缶珈琲を握るトーレは景色を眺め、その横でセッテとディードは正座している。良く教育されているというか、地球の文化に精通しているというか―――少しだけ、コメントに困るのは何時もの事だと思う。何時も通りならば、即ち正しいという事だ。問題は何もなかった。

 

「他の所はどうなってるの?」

 

「私が記憶している限りはチンクが竜騎士を試しに行って、セインとウェンディがなるべく死なない様に立ち回り、そしてドクターにドゥーエが付いていたな。ノーヴェが真っ先にタイプゼロへ勝負を決めに行ったな。アレはアレでタイプゼロに対して個人的に思う事があるらしいしな……あぁ、あとドクターはドクターで個人的に会いたい相手がいる、という事で戦場でピクニックをしてたな。ウーノはガジェットを指揮してドクターごと襲い掛かったりと割と状況は混沌としているな」

 

「混沌としているなら何時も通りだね」

 

「そうだな」

 

 崩れた廃墟の屋上に柵等ある訳もなく、そのまま床に座りこめば広がる景色が嫌でも視界に入ってくる。その中で軽く頭を掻きながら、どうしようっかなぁ、と口に出す事でもなく呟き、そして横のトーレの声を聞く。

 

「今クラナガン等の主要都市をアインヘリヤル装備の犯罪者たちが襲撃しているはずだがそっちの方はどうなっているんだ?」

 

「うーん、僕そっち方面は正直どうでもいいからあんまり詳しい事は知らないけど……なんでも聖王教会の騎士で見習いとかここに来れなかったのは全員各地に回されているらしいよ? あとこっちに来れなかった一般の局員とかもカートリッジ式デバイス持たせているとかどうとか。まあ、対策してないわけがないんだろうけど」

 

「そうか」

 

 そこでトーレとの間の言葉が途切れる。まず第一に自分とトーレは敵だ。そこに間違いはない。だから戦わない理由は存在しない。ただ、

 

 どう足掻いても勝負は一瞬でつく。

 

 時間で言えば一分以内に。文章として表現するならば五千文字程で。そこにセッテとディードが付こうが結果に変わりはない。勝負は一瞬で始まり、そして終わる。なのでそのまま直ぐにおっぱじめるのは勿体ないと思う自分と、そして相手がいる。会話する余裕、というよりも時間なんてお互いには存在しないだろうし。ならば今のうちに、話せる事は話そう。……そんな事を思っていると何時の間にかこんな状況になっていた。世の中は割と不思議でいっぱいだが、これも確実にそのジャンルの内に入るんじゃないかと思う。まあ、いいんじゃないかと思う。

 

「そっちの方はどうなっているんだ」

 

「僕達の方? うーん、王様がとりあえずナハトにかましてくるとか言ってるし、シュテるんはシュテるんでとりあえず派手に暴れておくっぽいし、イングちんはアレだ。とりあえず玉砕して来るって宣言してたなぁ……」

 

 まあ、我が家の連中は基本的に一発ズドンとやる事以外は出来ないし、それ以上の事をしようとは思わない。とりあえずナンバーズや主要戦力をズドンして足止めしたり倒しちゃえばそれで大いに満足だ。本命は夫の目的達成だし。

 

「ユーリはとりあえずゆりかごが無駄にかっこよくてウゼェって言ってたからアレを地上に叩き落としてやるって宣言してたよ―――ほら」

 

 視線を空に浮かぶゆりかごへと向けると、ビル程の大きさの巨大な剣が、ブラッドフレイムソードが丁度ゆりかごへと叩き込まれる瞬間だった。だがそれはゆりかごの周りにある見えない力場に衝突すると動きを止め、そのまま力場と切っ先の間で押し合いを始める。先に砕けたのが剣の方で、それが砕けるのと同時にゆりかごのハッチが開き、一斉に一箇所へと向けて大量のミサイルとレーザーが放たれる光景を見る。その光景を横のナンバーズと共におぉ、と軽く声を漏らしながら見る。

 

「アレって軽く次元が違いますよね」

 

「トーレ、普通は生身で挑むものですかアレ」

 

「私が知っている限り対アルカンシェルを想定してのシールドなんだがアレ」

 

「ユーリは軽く人知超えているからねぇー」

 

 それでもユーリと聖王オリヴィエ相手では相性の問題でユーリが確殺されるというのが検証結果なので聖王というのはとことん恐ろしい存在だ。アレが空に上がり過ぎると手が付けられなくなるので適度にぶっ壊して地に叩き落とすのがユーリの役目―――故に最終兵器対最終兵器という凄まじい絵が出来上がって、あの空間だけまるで別世界の様になっているが、それを気にしてはいけない。

 

 人にはそれぞれできる事とできない事がある。

 

 まあ、そんなわけで、

 

「十分ダベったしそろそろ終わらせよっか」

 

 立ち上がり、トーレ達から離れ、ツインブレイバーフォームのバルニフィカスを握る。正面から自分の速度を”超える”事が出来る戦闘機人が三人相手だ。相手に不足はない。自分への対策を行ってきているのからここへ来ているのだろうし。正面に揃う三人の姿を見て、笑顔と共に言う。

 

「君達って結構付き合いがいいよね」

 

「ドクターの娘ですから」

 

 ディードのその言葉に納得するしかなかった。セッテは首をかしげているがそう言えばこの子はどっちかというとセメント系だったなぁ、と思いだし、苦笑してから目を瞑る。その瞬間に動き出す三つの気配を感じ、

 

 目をつむったまま前へと踏み出す。

 

 始まるのが一瞬であれば終わるのも一瞬。

 

 速度を極めるという事は何ともあっけない勝負になる。

 

 だからそう、これも一瞬で終わる事になる。だから始まる前に、動き出した瞬間に言わなくてはならない。

 

「―――残念だったね。さようなら」

 

 まだ相手が聞こえるうちに。




 相変わらずユーリだけ次元が違う。そんなわけでレヴィも戦闘開始、こっちはあっさりと終わりますね。具体的に言うと1話ほどで。まあ、気付けばもうすぐ200話ですな。エロゲやってたせいで更新遅れたりもしますが、全員の戦闘現場を軽く描写して揃える所ですかね。まあ、いい加減個人戦終わらせてとっととせいおー様出さなきゃ年内完結怪しいってのは解ってるんだけどなぁ……。

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