マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ルーザー

「―――さて、話し合いを始める前に少々現状の戦力を軽く話し合おうか? もちろん君達管理局側の人間と僕ら犯罪者側の戦力の話だ。簡単に言えば状況は二つに分けられる。大規模な戦力による正面衝突と、そして超特級戦力によるぶつかり合いによる小規模な戦いだ。この大規模な戦力はトップを現状、ミッドの支配者にのし上がっているレジアス中将がやっている。その下に指揮に秀でている人材が分隊等の指示をしている。君達六課はその中でも特別に自由な行動を許されていて、そして私達とはそれなりの因縁がある。だから私の娘達も自由にしていいと言ったら真っ先に君達を狙いに行った。オーケイ?」

 

「オーケイ。ただアンタはムカつくから存在はオーケイじゃない」

 

 傷つくなぁ、とスカリエッティは苦笑しながら言うと、バスケットの中からサンドイッチを取り出す。それをとりあえず二つに分けたスカリエッティは、その中身を確かめてからそれにかぶりつく。そしてそれを食べてからスカリエッティは顔をしかめる。

 

「見た目が普通のハムサンドだから食べてみたけどなんだいこれは」

 

 その言葉にドゥーエが答える。

 

「セッテが森で名状しがたい生物を捕獲してきたのでその生物の肉よ」

 

「そっかぁ、名状しがたい生物かぁ……娘の手料理だしなぁ……」

 

 そう言って納得しながら食べる目の前の男の神経が良く理解できないが、とりあえず此方側に差し出してくるサンドイッチは返しておく。何の生物かもわからないのによく食えたもんだと思う。まあ、被害が来ない内は別にどんなにユニークでも気にしないどころかそれを喉に詰まらせて死んでしまえ。

 

 まあ、論点はそこではないのだが。で、結局、と此方から切り出すとする。そう言葉を置いてからスカリエッティの視線を此方へと集中させる。

 

「何が言いたいわけ?」

 

「あぁ、そうだね」

 

 スカリエッティは一つ目のサンドイッチを食べ終わり、指を舐めて、そして邪魔だと言いながら腕に付けたガントレットの様なものを後ろへと投げ捨てる。たぶん武器なんじゃないかなぁ、と思うのだがスカリエッティはそれに興味を持ってなさそうだ。

 

「―――ぶっちゃけ、私の娘達じゃ勝てないってのは解っているんだよね、君達に」

 

 

                           ◆

 

 

 ―――踏み込んだ。瞬間的に気配を全て殺して相手の意識の死角へと自分の存在そのものを潜りこませる。正面から動いていたトーレ、セッテ、ディードは既に散開する様に動いている。早い。確実に自分よりも。速度で自分を超えるのは正直な話オリジナル、フェイトぐらいだと思っていたので驚きだ。だから少しだけ笑みを浮かべてしまう。力を司るマテリアル。それが自分の本来の役割、役目、存在。こんな風になってそういう部分から大きく逸脱してしまったが、それでも一分野であれ、自分を超える敵ってものには惹かれる。根本的な部分に闘争本能が強く練りこまれている。だからこれはいいと思う。そう思い、そしてだからこそ絶対に叩き潰すという意志を込める。両手に握るツインブレイバー・フォームのバルニフィカスに力を込める。一歩目から相手の動きを全て把握する。相手がどんな速度で動いているであろうかなんて関係ない。単純な速度で自分を超える事は出来ないし、捉える事も出来ない。

 

 言葉を発する事さえできない高速の動きの中で、トーレが正面から襲い掛かってくる。認識外にあっても相手が正確に此方を捉えてくるのは―――戦闘機人としての”機”の部分のおかげだろう。サーモ、レーダー、音波反響、方法は何だっていい。機械の体をしているのであれば人間には無理な事も出来るだろう。トーレのISが発動し、高速で迫っている。その腕に生えているエネルギーの刃は自分の防御力を考えたらあまり触りたくないものだ。シュテルやディアーチェであればまだ食らっても余裕なのだろうが、

 

 ……僕、濡れティッシュ並に脆いからなぁ……。

 

 正面から迫るトーレの一撃を回避しつつその動きに右手のバルニフィカスを乗せる。確実にヒットする筈の動きを、流れを、トーレは更に加速する事で回避しつつ、後ろへと回り込もうとする。そしてその動きに合わせるように、横から挟み打つ動きが来る―――ディードとセッテだ。エネルギーの刃、ツインブレイズと、そしてセッテが斧のような武器を持っている。セッテの方は初見だ。前見た時はスローターアームズは調整中だった。その能力は武器のコントロールという筈だったが―――となるとあの斧がペアとなる武器であろうか。

 

 まあ、やる事は変わらない。

 

 口に出すまでも無く相手の動きは見えている。だからトーレに当たらなかった右のブレイバーをディードへ、左のをセッテへと向ければいい。挟み撃ちにしてくる動きを読み切り、相手の攻撃から避ける様に身を動かしつつ、斬撃を体へと叩き込もうとする。

 

 そして、

 

「―――ISスローターアームズ」

 

「―――!?」

 

 バルニフィカスから魔力刃が消滅し、そして急激に体が重くなった。いや、これは―――。

 

 

                           ◆

 

 

 ―――ISスローターアームズ、その能力は武器の統制能力。そこに敵か味方の判別などない。特にデバイスに対する驚異的な統制、制御能力―――インテリジェントデバイス相手には驚異的な能力だ。

 

 セッテがレヴィのデバイス、バルニフィカスの戦闘モードを強制解除し、待機状態へとそれを戻す光景を見る。その動作と同時に行われるのは武器の召喚だ。剣、斧、槍、弓、種類も種別も関係なく、節操の無い数とバリエーションをセッテは取り出し、それを腕の動きで振っている。逆側から挟み込むディードの動きも調整前と比べればはるかに鋭く、そして早い。だがそれでもレヴィの様に”完成されきった”存在と比べれば見劣りする。だがそれもデバイスを持った状態での話だ。バルニフィカスによるサポートが消えたとなれば―――レヴィ自身はストライカー級に実力は届かない。

 

「さようならだ、レヴィ・ザ・スラッシャー」

 

 ディードの二刀が動きの鈍くなったレヴィの体に突き刺さる。鮮血が肩口から吹きだすのと同時に二撃目が叩き込まれ、レヴィの脇腹を焼き、そして抉る。その状態でレヴィの体は軽く吹き飛びそうになるが、背後からセッテが追撃する。浮かべたアームドデバイスを一斉に放ち、それをレヴィへと叩きつける。武器の弾丸に叩きつけられまるでボールの様に跳ねるその姿に、トドメを刺す為に前に出る。背後から腕のインパルスブレードで確実に殺す為に吹き飛ぶレヴィの体に追いつき、その首へと向けて一閃を放つ。

 

 勢いよく血が舞う。

 

 が、

 

「―――!?」

 

 感触が鈍い。振り抜いた状態で視線だけをレヴィへと向ける。その中で確かにレヴィの喉を切り裂いたという感触はあり、レヴィの喉は赤く染まっている。傷もちゃんとできているが―――だがそれが自分の想像よりも遥かに浅い事に気づく。何より断ち切った、という感触が自分の腕にないのが証拠だ。故にレヴィは、レヴィ・バサラは生きている。

 

 何故……!?

 

 確実に殺せるはずだったのに、結果として殺せなかった。その戸惑いからか体の動きは一瞬硬直し、その間に吹き飛んだレヴィの体は少しだけ飛び、空中で回転しながら着地する。肩、首、そして背中に酷い傷を追っているが、それを気にすることなくレヴィは傷口を軽く拭い、バリアジャケットを張り直す事で無理やり止血する。切り傷であればバリアジャケットを再生成し、それに無理やり傷口を塞がせた方が遥かに効率的なのは知っているが―――。

 

「何故―――」

 

「―――生きているかって? なんだかなぁ……」

 

 レヴィは爪先でトントン、と屋上を蹴ると右手で頭の後ろを掻く。待機状態のバルニフィカスを横へ投げ捨てて屋上の上に放置すると、何時も通りの変わらない笑顔を向けて来る。

 

「ま、いいや」

 

 レヴィが踏み出した一歩目に対して反応する。即座に動くのは自分とディードの組み合わせで、このグループで間違いなく最速で動けるタッグだ。デバイスによる補助の無い、武器の無い、そして負傷のあるレヴィでは絶対に届かない速度が出せる。それが絶対的だとは言わない。だがそれでも、この差は絶望的だ。絶望的に埋められない。故に叩き潰す。速度という圧倒的な武器でレヴィを潰す。相手はデバイス無しでの強化での動き―――バルニフィカスはインテリジェントデバイス、故にそのサポートがないレヴィの速度も、強化具合も一段と落ちている。事実、レヴィが三歩目を踏み出す前には既にレヴィへと到達している。バリアジャケットの余分な装飾をそぎ落としながらレヴィが前へと進もうとする動きを高速の攻撃で阻む。

 

「ISライドインパルス」

 

「ISツインブレイズ」

 

 それに対してレヴィは笑みを崩さないまま前進した。

 

「―――甘い。甘いなぁ。甘すぎる。笑えるぐらいに甘いよ」

 

 振り下ろしたインパルスブレードとツインブレイズの間を何時の間に抜けていた。瞬きさえもしていなかった。センサーだって全て正常に稼働していた。なのに満身創痍の、そしてデバイスを手に持っていないレヴィを捉える事が出来なかった。それは先ほど、トドメをレヴィへと叩き込もうとする光景と重なる。自分の理解の外側でこの女は動いた。故に今も、先ほどと全く同じ法則で動いたに違いない―――だがそれを一片も理解できない事が更に混乱させる。

 

 だがそれでも動くしかない。レヴィに追いすがる様に動く。レヴィの目標であるセッテは既に迎撃の動きでISを発動させ、バックステップを取りながら武器を振るっている。その中にはレヴィのバルニフィカスも混じっている。それを弾丸の様に放ち、レヴィを圧殺しにセッテは動く。だがそれを速度を見せない動きでレヴィはすり抜け、そしてあまりにもあっさりとした動きでセッテへと到達する。それも自分たちがレヴィに届く前に。

 

 おかしい。明らかにおかしい。

 

 ―――速度で勝り、追われる筈の自分たちがレヴィの背中を追っている。何故だ!?

 

「発想は良いよ。人間って生き物は基本的に突発的な事に対する対応が結構雑だし。どんなに鍛えていても人間でいる限りそこらへん、対応の時間をゼロにすることはできないんだ。だから悪くはない。だけど僕から言わせればそれはセオリーどおりで発想が貧弱ってしか言いようがないね。教科書通りの戦術をありがとう―――って、イストならまず間違いなく言うね」

 

 その言葉にディードが息をのみ、セッテがレヴィから距離を取ろうとし、そしてレヴィの手がセッテの顔を掴む。次の瞬間に発生するのは水色の雷のスパークであり、セッテの悲鳴だった。セッテの顔面、脳から全神経へと雷撃が叩き込まれるのが見える。レヴィへと到達し、攻撃を繰り出す頃にはそれは既に完了していた。

 

「その程度で倒す? 僕を? 力のマテリアルを? 速度で圧倒して武器を封じて多対一って状況にしただけで? ―――甘ぇよ」

 

 セッテが倒れるのと同時にレヴィの手にバルニフィカスが握られる。まだ速度で此方は上回っている。故に振り向きと同時に振るわれるバルニフィカス・ブレイバーの一撃を乗り越える様に回避しつつ急所目掛けてインパルスブレードを一閃する。

 

 だが腕部のブレードを振るう頃には既にレヴィの動作は回避動作を完了しており、まず間違いなくこちらの攻撃の軌道を知っている動きだった。しゃがむ事でレヴィは首への一撃を回避しつつ、横から迫るツインブレイズをスライドする事で回避しつつ、すれ違いざまにディードの足を掴んでいた。

 

「逃げろディード!」

 

「遅い」

 

 次の瞬間にはディードの許容量を遥かに超える電撃が直接ディードの体の中へと叩き込まれ、そして一瞬でディードが倒れていた。立ち上がるレヴィはディードを投げ捨て、セッテと共に横へ退けると、此方へと視線を向けながらバルニフィカスの切っ先を真直ぐ向けて来る。

 

「全然駄目。烈火の将よりも弱い。どこからどう見ても零点だよ。良くその程度で僕の前に顔を出せたもんだね? フルドライブする必要すらないじゃないか。ホント、ガッカリ以前のレベルだよ。少しだけ期待しちゃった僕が悪いんだろうけどさ。まあ、これで―――」

 

「勝手な事を……!」

 

 生まれて初めて感じる相手からの得体の無さに体は硬直する以前に、闘志が湧きあがる。これだけ言われてこのまま引き下がる程安っぽいプライドは持ち合わせていない。ナンバーズ戦闘型の長女として、見せるべき意地がある。

 

 だがそんな事レヴィには関係ない。此方が一歩目を踏み出す瞬間には既にレヴィが到達していた。何故だ、理解できない。何故勝てない、何故通じない、何故―――。

 

「永遠にお休み」

 

 青い閃光が見えた。

 

 

                           ◆

 

 

「―――だってほら、勝つつもりないもん。だったら勝てるわけがないでしょ?」




 スカさんって性格的に極悪ってか敵味方関係なく不幸もたらしそうで素敵。実に素敵!!!

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