マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ワン・タイアリング・デイ

 ―――ヤバイ、これ死ぬ。

 

 ノーヴェの繰り出す打撃を片腕で流しながら逆の腕で拳を叩き込む。それを同じようにノーヴェが受け流しからのフェイントを織り交ぜた攻撃へと移る。だがそこには完全な力は乗っていない。戦闘の初めの頃と一緒―――イニシアチブを握る為の打撃戦になっている。ノーヴェとの一対一の状況、実力を見るのであれば……五分だと思う。

 

 少なくとも戦闘機人としての機能を活動させてからは魔力切れの心配もなくなって思う存分全力で戦い続けられている。

 

「この……!」

 

「温い!」

 

 カウンターで叩き込まれてくる拳を大きくバックステップで回避しつつ、呼吸を整えて拳を構える。それに対してノーヴェは若干後ろへと下がりつつ拳を構え直す―――悔しい話だが強い。それもかなり練度が高く。純粋な身体能力では此方を完全に上回っており、そして技術的な部分でも相手が上回っている。だったら何故五分の実力かと言えば―――相手の動きが己の知っている者の物、だからだ。今思えばイストという男は馬鹿だが教育者としては優秀だったのかもしれない。基本的な武術に関しては精通しており、どれも人並み以上にこなす事は出来る。それでいて遺失された武道も覚えている。故にその傾向と対策をくみ上げる事は容易い。機動六課にイストがいた時間は短いが、それでも昔の様にちょくちょくと教えてもらった。その大半はなのはの方針に従ってか戦い方ではないが―――対処の方の類に関してはかなり教えてもらった。

 

 そしてそれにはもちろん、イスト自身が多用する動きや覇王流なんて超レア武術一体どこで相手するんだ、なんてものへの対処法もあった。役に立つかどうかは怪しい感じだったが、まさかこうやって役に立つとは思いもしなかった。人生、何事も選択肢を多く用意しておくに越したことはないと思う。本当に。

 

「へい、カモン」

 

 ノーヴェがちょいちょい、と指先で挑発してくる。相手の態度に少々乗りそうになるが、無理やり自分を抑え込む。ここで怒りに任せても自滅するだけだ―――ノーヴェを退けた所でまだチンクが残っている。エリオとスバル二人で相手をしてもらっているが、おそらく無理だ。力量差が大きすぎる。自分でさえやや不利、と言ったところだろう。こういう場合は本当に自分の力不足が悔しくなってくる。隊長クラスの人間であれば―――フェイトかなのはであれば間違いなくノーヴェを倒せるだろうし、あちらのチンク、だったか……彼女も倒せるに違いない。ただどちらもこの場にはいないのだ。だとしたら今動ける最強の一手は自分だけだ。

 

 どうにかしてノーヴェを倒し、スバル達に合流しなくてはならない。

 

 キャロはルーテシアと一緒に怪獣決戦、ガリューはその護衛、ティアナは音信不通で他の隊長クラスも忙しい。完全に自分頼みだ、この場では。故に、守ってばかりでは駄目だ。チンクを引きはがせている間に此方がアクションを起こさなくてはならない。

 

「行くわよ」

 

「一々言わなくていいんだよ。殺す気で来いよタイプゼロ」

 

 踏み込みと同時に拳を繰り出し、それがノーヴェの拳をぶつかり合う。予想通りだ。そしてそれは相手にとっても予想通りだろう。故に打撃は打撃と命中する。だからこそ開いている拳で次の打撃を繰り出し―――再び相手の打撃と命中する。その結果に相手は眉をしかめる。だが逆に此方の唇の端が上がって行く。そう、あと少しだ、あと少しで確信が取れる。自分の今までの守勢は決して無駄にならない。それが確信できつつある。故にそれを無駄にしない為にも、

 

 動く。

 

 距離を開ける事無く。再び相手に対して打撃を繰り出す、右拳で繰り出す打撃を相手に払われるが、それは元々払われるための一撃である為に気にしない。その代わりに返しに蹴りを繰り出す。それがガードされるのと同時に半歩後ろへと下がりながら拳―――ではなく掌底を繰り出す。だがそれに対してノーヴェは同じく掌底を繰り出し、それを横へと弾く事で衝撃を回避する。そのカウンターに繰り出されるローキックをバックステップで回避し、膝をつくように着地する。

 

「おいおい、まだ余裕だろ?」

 

「……そうね、見えたわ攻略法が」

 

「ん?」

 

 ノーヴェが言葉を首をかしげるのと同時に前に出る。少しだけ距離が存在する、故に繰り出すのは飛び膝蹴り。それをもちろん、余裕という表情でノーヴェはガードに入る。そのガードは間に合い、そしてノーヴェは返しに拳を繰り出そうとし、

 

 そして首に両足を絡められる。

 

「なっ―――」

 

「うぉっらっしゃああ―――!!」

 

 そのまま後ろへと全力で体を傾け、一気に相手を投げる様にウィングロードの上へ叩きつける。素早く解放し体を整え直せば相手の体勢も整っている。故にやる事は変わらない。ノーヴェへと向かって正面から接近する。必殺の一撃を叩き込む時間を与えず、接近する。相手はそれに対応する様に片手をガードに、もう片手を攻撃用に構える。故に―――正面からガード側の方へと回り込む。少なからずノーヴェはその動きには慣れておらず、反応が一瞬送れる。

 

 なるほど。

 

 ……機械的に判断するのもちょっと考えものよね……!

 

 一瞬だけ出来た隙にノーヴェへと拳を叩き込みながら思考する―――戦闘機人としての思考能力はデバイスに近いものがある、と。故に何事も完璧に覚えられるとする、もちろん対処法も覚える。だからこそ知っているものが同じであればより深く理解している方が勝つ―――しかし、最善を求めているのであれば、そこから外れれば一瞬だけでも混乱させられるはず。

 

 ……そこを回避するための人間的部分なんだから……!

 

 この方法が二度も三度も通じるとは思えない。だから今、一撃を叩き込んだこの瞬間がチャンスだ。

 

「一気に終わらせる! 発ッ!」

 

「ぐぁっ……!」

 

 ノーヴェに叩きんだ拳に魔力を込めて内側から発散させる。威力自体はそれほどもない一撃だが―――グラップラーには相手の体を一瞬だけでもスタンさせるための貴重な技術。それを使ってノーヴェが体を動かせなくなったところで、

 

「必殺……!」

 

 全力の拳をノーヴェへと叩き込む。その一撃によって吹き飛びそうになるノーヴェの顔面を右腕で掴み、そしてウィングロードを壁の様に展開する。それを何重にも重ね、そしてノーヴェの体をそこへ叩きつけ、そして再び必殺の左拳をノーヴェへと叩き込む。その背中を叩きつけるウィングロードが粉砕するのを確認しつつノーヴェがまだ動けないのを確認し、

 

「本家直伝ヘアルフデネ……!」

 

 ノーヴェに拳を叩き込むのと同時に腕に突き刺さる痛みを感じる。それが何であるかを理解する瞬間には爆炎の音が耳を満たしていた。

 

「おっと、姉として妹のピンチは見過ごせないな」

 

 ぐっ、と痛みを堪えながら左腕を見ればデバイスに破損と、そして左腕の皮膚の下―――そこにある機械部分が少々むき出しになっている。いや、その機械としての頑強さがあるから左腕の被害だけで済んだと吹き飛んだ状態からリカバリしつつ思う。

 

「良くもギン姉を!!」

 

 ウィングロードに着地する頃にはスバルがチンクへと殴りかかっていた。それは駄目だ、と口に出そうとしたところで復帰したノーヴェがスバルを殴り飛ばす光景が目に入る。

 

 ……決定力に欠けるわね……!

 

 隊長級の高威力が出せる必殺技がないのが現状の問題だ。それがあれば相討ち覚悟で一人ぐらい沈める事は出来る。自分も相手も戦闘機人である事を考慮すれば”機能停止”で済むのだ。スバルはそこまで器用じゃないし、それで最悪ノーヴェかチンクを持っていけるのが理想だ。ただ、

 

「隙ありです……!」

 

「これは隙とは言わない、余裕だ」

 

 スバルの陰に隠れていたエリオがストラーダを手に影から飛び出し、それを真直ぐチンクへと向けて振るう。だがチンクは避けるそぶりを見せず、迫ってきた槍の先端を蹴りあげる―――それだけでストラーダの軌跡は変わった。エリオが方向修正をしようと試みる頃には既にノーヴェが懐へと入り込み、そしてエリオを殴り飛ばしていた。半歩踏み込んでからの右ストレート―――威力はそこまで無いにしろ、エリオの体はまだ出来上がってはいない。まともに食らう事そのものが危ないのだ。

 

「う……ぐぅ……」

 

 左腕の損傷をバリアジャケットを伸ばし、無理やり傷口を締める事で無視する。神経から伝わってくる痛覚を一時的に遮断する事で体を動かす。スバルもエリオも立ち上がっているが―――やはり辛い。戦えば戦う程ドンドンじり貧に追い詰められていくのが解る。これでガリューが合流さえしてくれればまだ勝機は十分にあったが、これだけダメージを食らえば段々辛くなってきているどころか、撤退した方がまだマシという風になってきている。

 

「まだ立つか、気丈だな。だが無駄だと解っているだろうに」

 

「諦めて寝るか撤退しろ。その方が楽だぞ」

 

 ―――確かにその方が楽よねぇ……。

 

 ただそれには従えない。管理局員として、何より同じ師を持った一人として、そう言う事は絶対に飲めない。ここで諦めてしまえば結局何もかも駄目だった、という訳になるし。それに……負けるってのは凄いかっこ悪い。そして妹の前では常に姉はかっこいい存在でなければならないのだ。だとしたら、ここで、

 

「倒れるわけにはいかないのよね……」

 

 その言葉にチンクは苦笑しながらなるほど、と同意してくれる。こういう所で気が合うのだったら敵味方とか関係なしに妹の事とかで盛り上がれそうなところもあるんだけどなあ……と思う。ただ口に出すと色々と鈍りそうなのでやめない。とりあえずは負けない。それだけを考える。そして少しずつ、主戦場へとこの二組を引き連れる事を考える。少々卑怯かもしれないが、質に対して量をぶつけるのは、このレベルであればまだ問題ないはずだ。

 

 であるならば、

 

「スバル、エリオ君?」

 

「大丈夫……だよ!」

 

「行けます!」

 

 スバルもエリオも立ち上がってくれる。状況が最悪である事に以前変わりはない。それでもまだ立てるのであればまだ動けるという事だ。

 

「じゃ―――」

 

 勝とう、そう言おうと口を開けた瞬間、一番早く反応したのはチンクだった。口を開く事もなく、全力でノーヴェに蹴りを叩き込み、その姿を大きく蹴り飛ばす。その姿にノーヴェが困惑の表情を浮かべたその瞬間、

 

 ―――一直線に超巨大な雷撃が走った。

 

 ビルだった廃墟を、高速道路を、大地を、その進路上の一切合財を粉砕しながら一直線に雷撃は駆け抜けていた。その進路の上に存在していたのはそれだけではなく、ノーヴェの生み出したウィングロードと、そして戦闘機人の二体だった。ただチンクの一撃によりノーヴェは回避できたが―――チンクは違った。一直線に大地を引き裂いた黄色い電に全身を貫かれ、それを受けて無事であるはずもなく、そのまま言葉を発する事はなくチンクは大地へと落ちた。その姿を素早く回収しに行こうとするノーヴェの姿に追いつく一つの姿がある。

 

「―――ごめん、待たせちゃったね」

 

 黄色の魔力刃をノーヴェの首に当て、一瞬でその場を制圧したのはバリアジャケットから余分な装飾を全て取り払った良く知る人物の姿だった。ライトニング分隊フェイト・T・ハラオウンのフルドライブモードの姿だ。ただその姿は何時もと違って、

 

「ほんと、ごめんね、待たせちゃって」

 

 酷く疲れているようにも思えた。




 そんは結局どんな選択肢を取ったのでそんね?

 あとはシュテ子やって最終決戦周りですかなぁ、黒幕の実況解説付きで

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