マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ハーキュリー

「まあ、そんなわけで私は何時だって本気だよ。何をするにしたって徹底的にするさ。ただその結果にこだわってはいないだけさ。今回に限った話であればそもそも勝つためだけを目指すのであれば私はこんな回りくどい戦を仕掛けなくても良かったんだよ。クアットロのIS、シルバーカーテンは既にデータが存在しているし、それを応用して作ったステルス付きのガジェットだって存在する。それだけを量産して街に解き放てばそれだけで地獄を生み出せる。他に細菌兵器や、腐敗兵器だって無差別に散布していれば私は圧勝できるんだよ。こう言ってもらえれば解るよね―――私は決して管理局に勝利する事が目的じゃないって」

 

 スカリエッティはこんな地獄をまだまだと表現し、そしてそれが目的ではないと言う。いや、正しく解釈するのであれば、この戦争そのものがスカリエッティの目的を達成するための手段でしかないとなる。しかしここまで壮大な事をしておいてそれがまだ”手段”とくると、その目的は増々解り辛くなってくる。そもそもからしてスカリエッティの頭脳、思想は常人から逸脱しすぎている。この男を理解できるのは同じレベルで頭がイってしまっている人間のみだ。流石にそこまで自分の脳はぶっ飛んではいないのでこの男を理解するのは難しい。じゃあ、と言葉を形作る。

 

「アンタは一体何が目的なのよ。これ全部が手段って事は、この状況で生み出せる”何か”が目的なのよね? この衝突自体に意味がないって事は……この衝突の中で発生する何か、が目的なんでしょう?」

 

 その言葉にスカリエッティは笑みを浮かべ、そして喜ぶように両手を広げるジェスチャーをする。演技でもなんでもなく、本気で喜んでいる様にその姿は思えた。

 

「イエス! そう、そうなんだ。あぁ、解ってくれるか! 誰も衝突に意味はないって言っても信じてくれないんだよなぁ……大体の人間は私がこんな事をしても科学の有用性を証明するとか、管理局を滅ぼすとか、そんな実につまらない事にしか目を向けてくれない。私は科学者だぞ? 超欲望マンだぞ? 管理局を倒したりする所のどこが私らしいんだ」

 

 あ、いや、脳味噌シェイクは実に楽しかったけど、と言ってからスカリエッティは水筒の中身を見て、そして静かにそれをしまった、確かにシェイクの話をした後ではどんな飲み物も飲みにくいだろう。というかそこで躊躇する辺り少しだけ人間的感性が残ってるんだなぁ、と思ってしまったのは嫌だ。

 

「というか捕まえていい?」

 

「もうちょっと待っててくれたまえ。今ちょっと解説で若干テンションあがってアチョーはいってるので。終わったら存分にバインドしていいから」

 

「その時は私も協力するわ」

 

「ドゥーエ、君は私の味方のはずなんだけどなぁ……」

 

 首をかしげ、部下とはなんだったのか、それを悩んでいるスカリエッティとは裏腹に、若干この男との会話に疲れている自分がいる。穏便に事を澄ます為にこうやって大人しく話を聞いているが、それもそろそろ限界に近付きつつある。幾ら仕事のためとはいえ、自分が超優しくて愛に溢れている少女だとはいえ、限界は存在するのだ。

 

「ふむ」

 

 何よりそれを察せるこの男が嫌だ。

 

「まあ、待ちたまえ。そろそろ最後の戦いに決着がつくはずだ。ナハトヴァールやゆりかごの方はもうしばらくかかるだろうが、此方は直ぐに終わる―――これが終わったら公開しようか、私の目的。そしてこの戦いの意味を」

 

 

                           ◆

 

 

「動きませんわねぇ……」

 

 一箇所に立ち、全く動く事のない標的を、シュテル・バサラを眺める。シルバーカーテンで此方の姿は完全に隠し、レイストームによる結界も隠している。ヘヴィバレルの効果も隠しているので割とシルバーカーテンの処理負担は大きい、だがこれぐらいならまだいけると性能テストから把握している。それよりも問題なのはまだシュテルを仕留めきれていない事だ。

 

「何発腐敗弾を撃ち込みましたっけ」

 

「二十四」

 

 ディエチが完結的に伝えてくる言葉に眉を歪める。二十四。二十四発も腐敗弾を撃ち込んだ。古代ベルカの戦場で活躍し、その残酷性故に封印される事となった腐敗弾だ。その対処法は思いつく限りかなり少なく、僅かでも触れてしまえばその瞬間から肉体が急速に腐りはじめ、直ぐに死にいたるという内容の弾丸だ。致死性がかなり高い故に使えばほぼ相手を殺せる。そういうものを使っているはずなのだが、シュテルは未だに死んでいない。一発目は左腕を引きちぎって広がる事を防いだのは理解している。問題なのは二発目以降だ。

 

 何故全て防げているのだ。

 

 それが不思議でしょうがない。いや、ある程度タネは見破っている。シュテルの周りにはパイロシューターがまるで渦巻く炎の様に回転し、薄く広がっている。それが直撃する前にシュテルとの間に割り込み、プロテクションと合わせて腐敗弾を完全に防いでいる。そこまではいい。原理も理解出来る。砲撃の威力を分散させ、拡散させ、そして炎によって燃焼させて腐敗の効力を超高温で焼きつくしているのだ。

 

「それを二十三回も連続で……?」

 

 そこまで来るともはや話が変わってくる。勘任せで二、三回は方向が解ったとして、対応しても良しとしよう。だがそれがこれ以上続くとどうなる―――距離はばれていなくとも、砲撃がどのタイミングで来るかは把握しているのではないだろうか。いや、それはありえない。今、自分がいる距離は、

 

「―――10キロ先から撃っているのよ? 隠しているのよ? ……オットー」

 

「いえ、探知魔法は使われていないです、ね」

 

 歯切れが悪いのは此方も同じだ。解っていた事だがバサラ一家の戦闘力は執念合せて凄まじいものがある―――此方の理解の範疇を超えて。腕を千切った事に関しても完全に常軌を逸脱した行動だ。再生治療で腕のクローンを作り、移植すればいいのは解っている。簡単な話でもある。だからと言って即座に引きちぎる事に迷いがないのはどう考えてもおかしい。此方がでもそこまでストレートな判断ができるのはトーレ、あるいは目の再生を拒否したチンクぐらいだろうか。……どちらにしろ、

 

「ISヘヴィバレル」

 

「ISレイストーム」

 

「ISシルバーカーテン―――このまま疲弊させて倒すわよ」

 

 ディエチに次のを腐敗弾をセットする様に指示する。シュテルは見てわかるように疲弊している。片腕が無くなっている時点でヤバイのは目に見えている事だ。故にここは焦らない。焦ってはいけない。焦らずじっくりと、相手の魔力と体力を削って行く。そうやって確実に相手を殺す。ここで次元震弾を使って一気に決めようとすれば逆に足元を掬われかねない。故に慢心も油断もなく、少しずつ、削り殺す。

 

 

                           ◆

 

 

「―――削り殺す、そんな考えが透けて見えますねクアットロ。だから貴女はダメメガネなんですよ」

 

 たぶん聞こえる事はないだろうが口に出して言ってみる。それで多少左腕に関してはスッキリする。しかしクアットロも相変わらず学習しないダメメガネだな、と思考する。そんなチマチマやっているから殺しきれないのだ、と。いや、実際その考え方は悪くはない。堅実な攻め方だ。時間を稼げるし、自分の優位性を殺さない方法だ。大技を使うとすれば相応の反動が来るものだ。故に判断は悪くはないが、

 

「流石に時間をかけすぎましたね。仕掛けを理解してしまいましたよ?」

 

 声が届くなんて思ってはいないが、苦労させられた分、思いっきりぶち壊す気ではいる。まずは、とルシフェリオンを振り回す。大剣としても使える頑丈なフレームで無色のレイストームの弾丸を砕きつつ、次の瞬間、”センサー”に反応した方角へと向けてルシフェリオンを構え、そして放つ。それは数メートル先の空間で透明な砲撃とぶつかり合い、そして爆発を起こす。その結果を見ながら、自分の予想は確信である事へと変わり、ルシフェリオンを砲撃モードで構え直す。

 

「シルバーカーテンは確かに優秀ですが―――結局の所幻影魔法の弱点が残ったままなんですよね。即ち匂いとか音とか、接触とか、そういうのを誤魔化せないんですよ。まあ科学の限界ってやつですね。そこらへんをごまかすのはどうしても現段階だと魔力が必要だそうで」

 

 故に砲撃で放つ炎は、それによって舞う火の粉は自分だけが理解できるセンサーだ。それに触れればどこから来るのか解る、それが消えればどこを通っているのかが理解できる。魔力を通わせていなくても、炎は自分の一部の様なものだ。それが火の粉であろうとどうかなれば、即座に理解できる。そしてその結果、相手の砲撃の軌道は理解した。

 

「……まさか常に一箇所から、砲撃を”曲げて”襲い掛かってきているとは予想していませんでしたね」

 

 逆の発想だ。狙撃、砲撃は一箇所に留まっていると狙われやすい。というよりは確実に落とされる。故に常に移動しなくてはならない。そのセオリーをこのレベルの戦いで裏切るとは……基本を守っているようで守っていない、その部分をもうちょっと変えていれば自分を殺せたかもしれないのに、そう思うと少しだけ、いや相手が残念に思える。まあ、慎重なのはクアットロらしさ、なのだろう。

 

 砲撃を放ち、レイストームで砲撃を曲げ、シルバーカーテンで全ての工程を隠す。それでまるで移動しながら砲撃しているように見せている。タネが割れてしまえば簡単な話だ。相手にするのが馬鹿らしいほどに。相手の居場所はこれで見当がついた―――あとは砲撃を届かせるだけだ。それを考慮して相手の位置はおそらく……10キロ程。理由は此方の最大射程が7キロであり、それ以上の安全性と、そしてヘヴィバレルの能力補正が利く限界の距離であるから。うむ、そう思えばそれで正しく思える。攻撃が命中すればそれで正しいと判断しよう。

 

 ともあれ、

 

「もしかしてその程度だと思われているならば心外ですね」

 

 トリニティとは決して”一方通行”のプログラムではない。場合によっては王が動けない時に、臣下が役目を果たす為に逆方向に力を受けられるようなシステムとなっている。故に自分の紫色のバリアジャケットを染めるのは青色だ。バリアジャケットを青く染め上げ、そして周りに散る炎の色も青く染め上げる。やがてそれをどんどん性質の変化を受け―――火の粉からスパークへと変化してゆく。完全に青色に染まった魔力光を纏い、ルシフェリオンドライバーを敵の方角へと一直線に向ける。

 

「バレル展開……魔力充填収束開始―――トリニティLプログラム起動。レヴィより雷の魔力を借ります」

 

 スパークし始める空間と己自身を無視し、そして構える。確かに普通の砲撃では届かない。だったら簡単な話だ。属性を届く様に変換すればいい。そう、たとえば雷の様にもっと早く、もっと遠くへ届く様な属性へと。

 

「―――ハーキュリーブレイカー」

 

 青い奔流がルシフェリオンより放たれる。それが一直線に収束砲撃として、AMFの干渉を貫通しながら進んで行く。空間に隠れているレイストームの干渉やその存在を全て飲み込み破壊し、それはあっさりと7キロ地点を突破し―――そしてその向こう側も一気に貫く。青色にその軌跡を染めながら、射線上の空間を全て雷撃し、そして同時に織り交ぜられた少量の炎によって燃やされながら突き進んで行く。その破壊が生み出す痕跡がある一点で進まず、強い手ごたえを得るのを感じる。

 

「そこですね。あぁ、別に遺言とかいらないですね? じゃあ―――潰れろ」

 

 宣言するのと同時に込める魔力を一気に二倍にまで引き上げる。それと同時に砲撃先が爆発を起こし、広範囲に炎と雷をまき散らすのを目撃する。周りに発生していたレイストームの結界と、そしてシルバーカーテンの隠蔽が消える。更地だった空間が一瞬、光の結界を見せた次の瞬間には完全に消失していた。試しにパイロシューターを生み出し、それを振るう。だがもう反応はない。完全に決着がついた。

 

「そう判断してもいいでしょうね。まあ、私自身結構悪いクセが出てしまった感じですが結局は倒せましたし問題なし、と判断しましょうか」

 

 ふぅ、と溜息をついて戦場に背中を向ける。そして見上げるのは空に浮かぶ巨大なゆりかごの姿だ。その中に突入した二人の事を考えてから、外側でゆりかごを成層圏まで上げない様に戦っているユーリの姿を見る。そろそろ自分もユーリの援護の為に動く頃合いだろうか。いや、その前に左腕に何らかのまともな治療をしておいた方がいいだろうか。

 

「今頃ディアーチェが管理局側と話をつけているだろうし、そちらの医療施設を利用させてもらいましょうか……ふむ?」

 

 自然とディアーチェと、王ではなく彼女を名前で呼んでいる。そうやって彼女を段々と名前で呼ぶ回数が増えてきて、一体どれぐらい時が経ったのだろうか。自分達も、マテリアルズの関係もそのままではない……という事だろうか。まあ、

 

「全てはこの戦いが終わってからですね。期待していますよ、ダーリン」

 

 もう一度だけゆりかごへと視線を向けてから空へと飛びあがる。

 

 ―――最後の決戦はもうすぐだと、確信しながら。




 いよいよ次回からラストダンジョンかなぁ、と。これで個人戦は終了。あとは怪獣決戦と超兵器対決だけどそれはもはや消化試合なので描写するまでもない。

 そろそろ、真ラスボスですな。

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