マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ブレイキング・ヴェロシティ

「よぉ、オリヴィエちゃん、不満そうな顔だな。俺が蘇った事がそんなにショッキングだったか? ん?」

 

「……貴方は―――」

 

 何故生きている、そう言葉を紡ごうとして痛みに顔をしかめる。ここまでまともにダメージが入った事も、聖王の鎧が突破された事も自分の死の時以来の話だ。吹き飛ばされ、這いつくばる姿勢から体を持ち上げる。自動回復魔法によって体は常に再生回復を行っている。故にまだ軽傷のこの身は少しずつだが良くなってきている。ダメージを感じる限り自分の体はまだ戦闘をフルで続行可能だ。魔力もまだまだ底へと到達する事はありえない。だから自分に関しては問題はない。ただ問題は別の所だ。何故、何故イストは蘇った。なのはが脈を確認したように、自分も心音を確かめた。その結果イストは死んでいると断定したはずなのだ。なのに、イストは目も、そして心臓も持って帰ってきている。そんな魔法、自分ですら聞いたことがない。

 

 故に観察する。真直ぐイストを見る。その銀髪の髪と、そして黒いバリアジャケットを。クラウスのバリアジャケットに少々アレンジを加え、ユニゾンの影響か黒く染まっているバリアジャケット。その両目は赤く染まっているが左右で若干瞳のサイズが異なり、胸が開いている部分の皮膚は若干色が違う。まさか、と思い相手の状態を看破する。イストの現在の状態は何の変哲もないファイナルユニゾン状態―――ユニゾンのフルドライブモードだ。だが、

 

「もしかして俺が蘇った秘密が知りたい? 超知りたい? 知りたいよな? 俺ってばこれ超秘密にして隠してたんだぜ。計算して計算して計算して計算しまくってようやく現実的に使えるってハンコ押してもらったからな」

 

「―――融合機の心臓ですか」

 

 

                           ◆

 

 

「おいおい、無けりゃあ持ってくる、それが基本だぜ俺達の」

 

 鉄腕を持ち上げて見せつけながらオリヴィエにそういう。そう、別段難しい事はしていない。ユニゾン状態からファイナルユニゾン状態へと移行、融合率を最大値にしてナルの心臓と目を使って蘇ったというだけの話だ。心臓を吹き飛ばし過ぎた結果即死して意識を完全に吹っ飛ばしてしまったところは予想外だったが―――それでも不可能ではない、というのは何百回も繰り返してきたシミュレーションの結果で理解している。故に確実な隙を生み出す為に利用した。自殺して自分を一旦オリヴィエの知覚外へと存在自体を追いやり、そしてそこから回避の出来ない必滅を叩き込む。

 

 そうやって、聖王の鎧を完全に破壊する。どう足掻いてもベオウルフを叩き込もうとすればそれがイレイザー系の発展版であるとオリヴィエは気づく。故にその効果を知られる前に接近し、そして確実に対処されずに叩き込む必要が存在した。……まあ、予想外に動揺されたが結果オーライだ。

 

「んでイスト、蘇った直後だけど戦える?」

 

「まるで生き返ったような気分だしイケルイケル」

 

「うん、なら問題ないね」

 

 バックステップでなのはが下がる。聖王の鎧が消えた今、なのはの砲撃はほとんど減衰させられずに砲撃をオリヴィエへと叩き込むことができるようになる。これでようやく最大火力を発揮する事が出来るようになるのだ、なのはは。今までの様に最大までチャージしてからぶっ放すような戦い方ではなく、高位力の砲撃を動きに合わせて打つことが可能となるだけで此方側の戦況は遥かに良くなる。

 

 が、

 

「イスト……」

 

「んだよオリヴィエ」

 

 オリヴィエは一瞬悩む様な表情を浮かべる。だからと言って彼女に対して救いの手は差し伸べないし、差し伸べられない。

 

 ―――オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを救う事は誰にもできない。

 

 死人を救うことは絶対に不可能だ。

 

 だからオリヴィエが一瞬悩み、迷い、そして―――覚悟を決めた表情で此方を見る時、それを受け入れて迎える程度の事しか今を生きている人間には出来ない。結局の所そう、俺やオリヴィエは生きている時代が違うのだ。生きてきた時代が違うのだ。だから、オリヴィエに関してはもう、どうしようもない。彼女の苦悩を分け合ってくれるはずの唯一の男は―――もう、何百年も前に死んでしまったのだ。全く持って面倒だ。そんな男の代理でここに立っていると思うと実に憂鬱になるが―――まあ、悪くはないと思う。

 

 ……それは美人が相手だからか?

 

「イスト今ナル子さんに怒られたな」

 

「なぜわかったし」

 

 軽いコントにクスリ、とオリヴィエが笑い、そして少しだけ、ボロボロの姿で此方へと向かって手を差し伸ばしてくる。前に出してくるのは左手だ。此方の右手を求める様な動作で、今も昔も変わらない鉄腕を見せてくる。

 

「鉄腕王と母上よ、私に味方するのであれば世界の半分を貴方達に与えましょう」

 

 思わずその言葉に笑い声を零しそうになる。まだオリヴィエがヴィヴィオだった時に見たアニメのセリフだった、それは。ラスボスを倒しに来た主人公たちに対する言葉であり、懐柔しようとする言葉だった。だが結局―――主人公が納得して近づいたら不意打ちでラスボスを即死させるのがオチだったはず……いや、たぶんそうしろと言っている訳じゃない。たぶん。

 

 素直に自分が倒されるべき巨悪であると宣言しているだけではないのか。

 

 たぶんそれだ。

 

「今なら私がセットでつきますよ」

 

「……」

 

「おい、そこ揺らぐなよ。誤射で済まさないよ」

 

 背中にレイジングハートを向けられている気配があるので素直に両手を上げて降参のサインを見せてから―――それを振り下ろす。それと同時に拳を形作り、構える。全身と、そして両手に魔力、技術、そして魂の全てを込めて構える。それに呼応するかのようにオリヴィエも拳を構える。まあ、結局の所最初から返答は決まっているのだ。即ち、

 

「俺を勧誘したかったら世界全て寄越すんだな!」

 

「私も世界の一つや二つ欲しい」

 

「アニメで見る悪役以上に邪悪ですね」

 

 オリヴィエがそう言って笑うのと同時に、前に出る。最初の踏み込みで床を砕き、そして大振りで右手を振るう。もはや遠慮なんてしないし、最初から最後まで本気で、殺す気のみで戦う。今の自分の状態と相手の状態を正しく認識した場合、それが勝利の為の最低限のラインだ。故に振るう奥義は一撃必殺、元はただのイレイザー系の奥義だったのをこの六年間でさらに磨き、聖王の鎧さえも破壊する程に至った必滅の拳。

 

「ベオウルフ!」

 

「はぁ―――!!」

 

 ―――相殺!

 

 オリヴィエの左拳と、そして此方の右拳がぶつかり合って完全に必滅の拳が相殺される、それは紛れもなく自分が二十年近い時をかけて完成させた奥義―――ベオウルフだった。それをオリヴィエは寸分の狂いもなく、迷う事無く、そして完璧に模倣して放っていた。触れた者を即死させる拳と、そして即死させる必滅の拳がぶつかり合い、互いに食いあい、そして必滅が互いを潰し合って消える。自分が必死に編み出した奥義がこうやってあっさり使われている事に思わない事はない。だがそれよりも、正直な話―――興奮してきている。

 

「はは、はは―――」

 

 思わず笑い声を零す。自分と一心同体であるナルなら解るはずだ。いや、解らない筈がない。この愉快な気持ちを。どれだけ鍛えても、どれだけ頑張っても、それでもそれを上回る存在がある。一人じゃ勝てない者がいる。自分の苦労した全てを一瞬で飲み込んで己の物としてしまう怪物がいる―――それに挑める自分と、そして戦えているという事実。

 

「笑わずにはいられねぇよなぁ! は、はははは―――!!」

 

「ふ、ふふふ、そうですね」

 

 拳と拳を叩き合わせる。それもまた必滅の拳だ。いや、そもそも殺傷能力で言えばベオウルフがどの攻撃をも抑えて最強なのだ。だとすれば他の一撃を放つ必要なんて存在しない。そう、つまりこれから俺もオリヴィエも―――放つ拳は全てベオウルフ、必滅の拳となる。なんだこの状況はと笑うしかない。必滅の奥義がこんなにも容易く、連発される状況。普通に考えてまずありえない。だが、それは今、起きているのだ。

 

 もう、笑うしかない。

 

「おぉぉ―――!!」

 

 叫びながら拳を振るう。放った右拳は正面からオリヴィエの左拳によって叩きつけられ、その衝撃で壁を吹き飛ばしながらオリヴィエが後退する。それを引っ繰り返す為にオリヴィエが一歩前へと踏み込む。その一歩で床を粉々に粉砕し、下の階へと大穴を開けながらオリヴィエが左拳を振るう。それを此方もまた左拳を叩きつけて相殺する事によって必殺を封じる。落下と同時に体を互いに吹き飛ばし、穴の向こう側へと別れる様に退避すると、その瞬間に八つの砲撃がオリヴィエへと向けて放たれる。

 

「セイクリッドブレイザー!」

 

「インパクト・ブレイク!」

 

 なのはの砲撃を必滅を交えた砲撃拳でオリヴィエは相殺を計る―――が、それは命中する直前で爆発し、散弾となって一気にオリヴィエの体に襲い掛かる。セイクリッドブレイザーをなのはは空中でロールしながら回避しつつ、ビットからの砲撃でカバーする様に動く。それは此方に対して道を作る行為だ。故に動く。砕け散った床の破片がまだ下の階へと落ち切っていない。

 

 それを足場に一気にオリヴィエの元まで瞬発する、

 

「滅びろぉ―――!!」

 

「まだぁ……!」

 

 右拳と左拳が再び叩きつけられる。その衝撃でオリヴィエの体が後ろへと後退する。そう、純粋な筋力と体格であれば圧倒的に勝っているのはオリヴィエではなく、自分だ。そこにナルとファイナルユニゾンしているので二人分、と考えてもいい。その分野で圧倒的に勝っているのが己であれば、そこでごり押しするしかない。

 

「吹き飛べぇ!!」

 

「ぐっ」

 

 叩きつけられた拳を引っ込めず、そのまま力押しでオリヴィエの体を後ろへと押し飛ばす。聖王の鎧がある頃は不可能な事だったが、イングのリンカーコア、ナルの魔力、そして自分自身の魔力―――三人分の魔力で強化している肉体であれば十分にオリヴィエの強化された肉体に対して押し返せる。故に無理やり押し返す。押し飛ばすオリヴィエの体に対して無理やり接近し、カウンターで放たれる蹴りを無視する。そしてそのままベオウルフを放つ。それに対して同じ奥義を放つ以外に選択肢を持たない故にオリヴィエは迎撃に入る。そして再び、拳と拳がぶつかり合う。

 

「二度目はありません」

 

 だが拳がぶつかり合った瞬間に拳を引く事でオリヴィエがそのインパクトを殺し、そして素早く次の拳を放ってくる。力を込めて放った此方とは違って素早い動き。それは確実に此方の体へと吸い込まれそうになり―――届かない。

 

「必殺十二連射、っと!」

 

 横からなのはがオリヴィエを吹き飛ばす。その動作に対してオリヴィエは拳を叩き込む事で三射目までを相殺する。だがビットをガトリングの様に回転させながら、そして自身も砲撃を叩き込む暴風の様な砲撃の前にオリヴィエはその姿を保てず、吹き飛ぶ。壁へとぶつかり、貫通し―――そして再び外へとその身を投げ出される。

 

 その姿に追いつく。

 

「砕け散れ!」

 

「まだ砕け、ません!」

 

 空中で吹き飛ばされながらも体勢を整え直したオリヴィエが回転着地し、そして此方を迎え撃つ。飛び蹴りを同じく蹴りでガードし、そこから入る拳撃のラッシュを同じくラッシュで返し、互いに一撃を叩き込む様にして体を弾き飛ばし合う。ゆりかごの上に着地するのと同時に、着地したオリヴィエの足元が桜色に光る。なのはの砲撃であるそれを瞬時に察知したオリヴィエは予兆と同時に回避する。ゆりかごの船体に穴を開けながら、そこからなのはが現れ、合流してくる。華麗に着地しながら呼吸を整えるオリヴィエの姿を見て、軽く此方も呼吸を整える。

 

 ―――旗色が悪いぞ。

 

 理解している。聖王の鎧を砕いたことでオリヴィエを吹き飛ばす事も攻撃を叩き込む事も出来るようになった。間違いなくオリヴィエはダメージを受けている。それはかつてオリヴィエに戦いを挑んだ覇王でさえもできなかった事だ。

 

 ……いや、クラウスの名誉を守るために別にクラウスはあの頃まだ覇王とは呼ばれてなかったし。

 

 言い訳はいい。考えろ。

 

 嫁の辛辣な言葉に耐えつつも言葉を零す。

 

「さて……どうしたもんか」

 

 オリヴィエは間違いなくダメージを受けている―――だがなのはと自分の受けているダメージが大きい。そしてオリヴィエは徐々にだが回復もしている。自分もなのはも回復魔法を常時付けているが、それでもダメージレースの結果、オリヴィエの方がスタートが良かった分、有利だ。故にこのまま戦い続ければ先に倒れるのは自分となのはだ。どうしたもんか、と呟いたところで、

 

 ―――二つの影が飛来し、目の前で突き刺さった。




 即死パンチを即死パンチで即死させる即死合戦が開始されました。即死攻撃を持たない人間は危ないので白線の内側までお下がりください。必殺技だから、負荷が高いから、そんな理由で必殺技を連打しない理由はないのです。むしろ連打できる物なら連打すべきなのです。相手が死ぬまで連発するべきなのです。

 その結果がこれだよ。

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