マテリアルズRebirth   作:てんぞー

20 / 210
ウォット・キャン・ユー・ドゥー

「―――さて」

 

 そう言って整列した隊員達の前に立っているのはティーダだ。既にバリアジャケットは展開されており、管理局の制服を白くし、そして少々アレンジしたかのような服装へと変化している―――ここらへん、バリアジャケットでの姿を自由にできるのが高い地位につく者としての特権だろう。もちろんそれを自分も持っているが、必要以上にバリアジャケットの見た目にはこだわらない為、いつもジャケットの姿は着ていたもののままにしている。―――何せ、昔に”ぼくのかんがえたちょうかっこいいバリアジャケット”をやって激しく失敗している男を一人知っている。

 

 アレには盛大に笑った。

 

 ともあれ、そこそこカスタムの施されたティーダのバリアジャケット姿を見るのは初めてではない。既に何度か目撃しているものだ。そうやってティーダが見る集団は陸士108隊のメンバー、総勢は20にも満たないグループだ。少ないとは思わない。一つの隊に割り振られる平均的な人員がこの数だからだ。目的次第では規模はもっと増えるが、前線活躍メンバーともなればこれぐらいの人数だろう。いや、これだけいれば十分すぎるかもしれない。

 

 ……恵まれてるなぁ。

 

 研修とか、参考にさせてもらうには中々いい場所かもしれない。が、それと戦闘における実力とは全く別のものだ。目の前の人物たちは自分と似たり寄ったりの年齢の様に見える。だとすればそこまで心情に関して考慮する必要はない。年が離れているというのは上に対しても、下に対しても非常に面倒だ。言葉の選び方、というものが出てくる。だから同じ年齢の者に任されたとすれば、それは”鍛錬につぎ込んだ時間が違った”という事で諦め、という逃げを与えることが出来るのだ。

 

「さて」

 

 ティーダが言葉を放って注目を集める。結構注目を集める事には慣れているらしい―――これも交渉の応用だからだろうか。さて、と声を放って数秒間無言で過ごす事で自分へと視線を集める猶予を与えている。別に焦っているわけではない、自身に対する印象を軽く与えている。そして数秒間衆人を見渡したところで、口を開く。

 

「皆さん知ってのとおり、ゲンヤさんに交渉で負けたので本日皆さんの訓練をつけるティーダ・ランスター二等空尉です」

 

「その交渉に負けた阿呆に無理やり組み込まれた結果一緒に訓練する事になったイスト・バサラ空曹だ。ちなみに半ば巻き込まれたからって手を抜く気はないので徹底的にやるからよろしく。何事もお仕事はスマートに、な」

 

「うん、俺としてはそういう方向性で安心しているんだよ」

 

「なんだ、罪悪感でも感じてるのか?」

 

「え? 感じなきゃいけないのか?」

 

 近くの石をティーダへと目掛けて蹴ると、ティーダがそれを避けて、近くにあった小石をこちらへと向けて蹴り返してくる。ここは肉弾派として負ける事が出来ないので蹴られた石を蹴り返し、ティーダが新しいのを蹴ってくるという不毛な争いを十数秒間続ける。少しナーバスになっているのか、自分も少し過激すぎたかもしれない。

 

「おーい、仲がいいのはわかったからお前らさっさと進めろー」

 

 ゲンヤの声が隊列の向こう側から来るのでティーダとは一時休戦し、乱れた服装を本当に軽くだが整える。その間にティーダは話を進めていた。

 

「えー、そんなわけで俺達は総合AAの魔導師です―――戦技教導隊の魔導師と比べればワンランク下がる準エース級と言ったところですが、Bランクが平均の陸士隊からすればそれでも結構上のランクの存在だと思うんですよね。まあ、何か激しく予想外な事に―――」

 

 ティーダが、整列している隊列の中にいる一人の少女を見る。その顔は見間違えるはずもなく、八神はやてという少女の姿だ―――自分の認識が間違っていなければ、自分とティーダよりも遥かに魔力量を持ち、ロストロギアだったか、夜天の書を所持していたはずだ。この場にはいないが、それにつき従うヴォルケンリッターという守護騎士も存在し、個人としてはほぼトップクラスの戦力を有している存在のはずだ。

 

 正直貴様なんでここに来たかわからない。

 

「正直どうしてここにいるのかわからない人物もいますけど、まあ、そこらへんは大人の余裕を見せて軽く見下す事で進行します」

 

「見せられてないやないかぁ!?」

 

 はやてからツッコミが飛んできて、辺りが軽い笑いに包まれる。この流れは確実にティーダの用意した流れなのだろうな、と軽い関心と、そして興味を胸に、横に立つ。何せ八神はやてという少女は我が家の王様の遺伝子提供先なのだ。正直ウチの王様とこの八神はやて、どれほどの共通点があるのかは知りたい部分も存在する。

 

 

                           ◆

 

 

「む、むむむむ? むむむむ! これは!」

 

「どうしましたユーリ? 今マドウシスレイヤーがベルカ十字斬を決めて暗黒提督をしめやかに爆発四散させたところなんですが」

 

「今イストがディアーチェの事を深く考えましたね……!」

 

「ユーリよ、最近キャラに電波系が追加されてきてないか? そろそろキャラの方向性を統一したほうがいいんじゃないかと我は思うんだが」

 

「みんな安定してるなぁー……」

 

 

                           ◆

 

 

「それじゃあとりあえず説明は終わったので、遠距離型の得意な魔導師は俺が、近接型の魔導師はイストの方に移動をお願いします。それぞれ分かれて必要な事を指導しますので」

 

 そう言ってティーダと逆方向に分かれると、隊も二つに分かれる。だがそうやって分かれた二つのグループのうち、こちらは明らかに少なかった。思わず口からおろ、と言葉を零しながらこちら側に集まった人数を数える。一、二、三―――と、合計で五人程しかいない。予想外に少ない数だが、同時に納得する。その答えはここがベルカではなくミッドチルダである事で答えられる。

 

 ……これがベルカだったらこっちが多くてあっちが少ないんだろうなぁ。

 

 ミッドチルダの術式は基本的砲撃、射撃、そして支援が強みとなっている。それは長い年月を経て効率化されてきた術式であると同時に、ミッドチルダ式の術式がミッドチルダを象徴するものでもあるのだ。つまり、ミッド式の魔法が砲撃や射撃を得意としているのは、ミッドチルダ出身の魔導師の多くが砲撃や射撃が得意だからだ。そしてそれを得意とする術式体系を使えば……といった風に、ミッドでは遠距離型の魔導師の方が基本的にメジャーだ。だから、まあ、この数には納得できる。

 

「んじゃこの中で近代ベルカか古代ベルカに関して適性のある人は?」

 

 誰も手を上げず、周りを見渡す。それはいい。なぜなら、

 

「俺もそれに関しては適性が死んでて教えられないからそれは良かった。んじゃ格闘技経験は? ストライクアーツでもシューティングアーツでも結構」

 

 そう言われると全員手を上げる。その内容は全員が口を揃えてシューティングアーツと言う。その年数は全員そろって二年ほど、これは……。

 

「―――あぁ、そりゃあウチの女房が教えてたんだよ」

 

 そう言って近づいてきたのはゲンヤだった。こちらに近づいてくるのと同時に指で何かを弾き、こちらへと飛ばしてくる。それを片手でキャッチし、手の中身を確かめる。それは一枚のデータチップだった。それをベーオウルフに入れる事で保管する。

 

「ティーダの奴は忙しそうだしお前に渡しとく……ともあれ、俺の女房……クイントはそれなりに強かった、というか陸戦AAでぶっちぎりでなぁ……暇な日にはよくここに来て前衛組にゃあ手ほどきしてってくれたもんだよ」

 

 陸戦AAでシューティングアーツ……あぁ、なるほどそれは強そうだし優秀そうだ。この場合、

 

「シューティングを教える方向で? それともベルカ式の武術を仕込む感じで? ぶっちゃけ既に誰かに教えられて形が整っているのであれば下手に弄るよりは手数を増やすかひたすら基礎力を鍛えるのが最上の選択なんですけど」

 

「手数を増やしてくれ―――基礎力伸ばしたところでたかが知れてるし」

 

「隊長、流石にそれは酷いですよ!」

 

「俺達だって毎日筋トレとか頑張ってるのに!」

 

「馬鹿野郎、魅せ筋ばっか鍛えてねぇでアホのように走り込みでもして体力つけろよ体力をよ。……ったく、とりあえず報酬は先払いしたんだから頼んだぜ?」

 

 つまり手を抜かずにやってくれと言う事だろう、この先払いの意味は。もしくはサービス精神。まあ、元から仕事は真面目に()るタイプなのだ。無論、真面目にやらせてもらうが、まずは。

 

「基本的な話をおさらいするか。あぁ、今更だけど俺に対して階級上だから敬語だとか気にしないでくれ。やりにくいだろうし」

 

「了解」

 

「短い間だろうけどよろしく頼む」

 

 さて、まずは基本を思い出しとくか。

 

 

                           ◆

 

 

 魔導師としての力量を計測するにはまず三種類を把握する必要がある。

 

 一つ目が魔力量。その魔導師が一体どれだけの魔力を体に溜め込む事が出来るか、リンカーコアがどれだけの魔力を生み出す事が出来るか。まずこれが大きくかかわってくる。こればかりは努力でもどうにもならない領域その1で、生まれてからある程度成長するが、意識的に伸ばすことは諦めるしかない場所だ―――いや、確かに伸ばす方法はある。小さいながらもトレーニングで成長期の間に限界は伸ばせる筈だが、例えば魔力量Cは魔力量Aへと到達する事は絶対にできない。伸ばすと言ってもそこまで劇的な効果は出ないのだ。やはり伸びる量を考えても才能が大部分を占めるだろう。瞬間的な話であれば、カートリッジシステムやユニゾンデバイスとのユニゾンで一時的に自身をブーストする事も出来るが、これはやはり本質的に変化するわけではない。

 

 二つ目が適性。どの魔法体系に対して適性があるか。大きく分類できるのはミッド式、ベルカ式、古代ベルカ式、そしてミッド・ベルカ複合式。そこから派生する様に細かく幻影、解析、結界、砲撃、強化、射撃、魔力操作、カートリッジ適性、等とそれぞれの魔法体系に対する適性となる。これもまた才能の領分だ。たとえ魔力量がSだとしても、ここで適性が低ければ魔力を持て余すだけの魔力タンク状態となるので、こちらもやはり適性がある事を天に祈ることしかできない。ちなみにユニゾンデバイスに対する適性もあるが、ユニゾンデバイス自体、ほぼ存在しないにも等しい超がつくほどのレア存在なのでこの適性は無視するのが正しい。

 

 そして最後、三つ目がスタンスだ。これは三つのカテゴリーに分けられ、近接・支援・遠距離という風になる。これの傾向によってどういうスタンスで動き回るか、と言うのが決定する。近接型なら魔力で強化して殴る。支援型なら味方を守る。遠距離なら砲撃でドバァー、という感じになる。

 

 ……ここまでは大丈夫。

 

 さて、

 

「ここで変則的適性を持ったやつはいるか? 俺は適性が支援型なのに近接スタンスの異端児だぞ?」

 

 誰も手を上げないので良し、と頷く。そんじゃ、

 

「んじゃ軽くベルカ式の武術に関して説明するな? あー、シューティングアーツとストライクアーツ、違いはあれどこの二つが打撃格闘術の総称なのに対して、ベルカ式の武術ってのは別段特別な名前はなくて単にベルカ式武術って呼ばれているんだが、これはもっと根本的に相手を”破壊”する事に特化している格闘術でな?」

 

 軽く構える。左半身を前に出し、右半身を左半身で隠す感じだ。左手を盾の様に構え、右手を武器とする。

 

「基本的には構えはどうでもいいんだけど、問題なのは動きに一々色んな技術を要求される事で」

 

 軽く動く。体の重心を変えず滑るように体を動かし、足を地面から離さない。そのまま左手を拳ではなく、掌の形で突き出し、素早く大気を叩く。その衝撃で僅かに空気が揺れるのが感じられる。その光景に周りが魅入っているのに気付き、心の中で苦笑しておく。

 

 ……誰かに教えるキャラじゃないよなぁ。

 

 だが仕事は仕事だ。

 

「こんな風に、ストライクアーツやシューティングアーツでは見ないようなちょっとした独特の動きがある。起源は古代ベルカ時代、対魔導師用に考案された格闘術らしく、魔法の力を使わず非力な者でも魔導師と戦える方法が、段々と研鑽と特化によってとがって、”戦場に置いて効率的に壊す方法”という方向性を見出したため、と文献や学者には言われている。だから、まあ、衝撃を壁の向こう側に伝える方法やら、音を立てずに足を動かす方法、衝撃を体から逃がす方法等色々と面倒だけど怖いことができるんだが―――あ、ゲンヤさんお願いできますか?」

 

「お前が先生だ、頼まれてやるよ」

 

「では」

 

 ゲンヤに目の前に立ってもらうと、ゲンヤの服、袖の端を掴む。

 

「鎧を着込んだ相手や質量兵器を装備している相手と戦うために格闘術も面白い方向に進化しているわけで―――」

 

「おぉ?」

 

 引っ張り、ゲンヤの体を引き寄せ、足を引っ掛け、自分の重心を軽くズラしながらゲンヤの体を動かす。何度も繰り返してきた動きは訓練に忠実なもので、ゲンヤの体は面白いように浮かび上がると、掴んだ部分を中心点に回転し、その体を衝撃を殺しながら草地の大地へと倒し、背後へ腕を捻りあげる様にゲンヤの体を捕縛する。

 

「こんな風に腕力を使わずに相手を抑え込む技術とかも出来上がったりしてるんだ。ちなみにこれは本来倒すのと同時に膝を肩に叩き落とし、腕を引き上げ肩を砕くもんな」

 

「えげつねぇ……」

 

 そう呟いたのは誰だったか、思わずその言葉に笑ってしまう。そう、徹底的に甘えや遊びがないのだ。スポーツ目的でやるのであればミッドでは主流のストライクアーツをやればいい。戦闘目的ならシューティングアーツが実に効率的で強力だ。ベルカ式の武術は相手を壊す事だけを目的としている。

 

「あ、ゲンヤさん協力ありがとうございます」

 

「この歳になって空を飛ぶ夢がかなうとは思いもしなかったぜ」

 

 そう言って笑いながら立ち上がる中年の姿は中々恰好のいいもんだと思う。ともあれ、

 

「まあ、こんな風に自分よりも体格が上の存在を抑えこんだりするのには非常に有用な組み技や投げ技、関節技の類がベルカ流にはあるんで、この3回の機会で仕事に役立つようなやつをとりあえず教えようと思う。空港とか迂闊に魔法を使えない場所で相手を捕縛する時とか確実に役に立つ時が来るんで、覚えておいて損はないと思う。んで習得して時間が余ったようならそこから戦闘用のちょっとした小技を教える感じで……いいですか?」

 

「おぉ、そういうのは大歓迎だ。治療班が向こうでスタンばってるからどんどん怪我させちまいな」

 

「ちょ」

 

「隊長ォ!」

 

 隊員達から抗議と悲鳴の声が上がる。だが上司から許可を得たのであれば―――こちらのターンだ。

 

「さあ、まずは投げられる痛みと、そして組み技の恐怖を覚えよう……!」

 

「く、く、くるなぁ―――!!」

 

 段々とテンションが上がってきたので一番近くの隊員へと飛びつき襲い掛かりながらも耳を澄ませる。違う方向から銃撃の音と、そして爆発音が聞こえる。おそらくティーダも似たようなことを始めているはずだ。だとしたら負けてはいられない。

 

 やるからには、徹底的にだ。手加減容赦はしない。

 

 家でゴロゴロできないこのストレスをぶつける……! それだけだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。