マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ラスト・デスティネイション

 目の前に突き刺さった二つの物体に対して笑みを浮かべ、その両方を蹴りあげる、そのうち一つをなのはへと投げ、そしてもう一つを左手で掴む。軽く回転させながら手の中で掴んだそれを振り回し、最後に一回トスしてから、それの姿を変えさせながらキャッチする。それは本来のサイズよりも小さ目、片手で振り回すには適切なダガー程の大きさへと変化し、そして左手で逆手に握られる。青い魔力刃を見せるそのデバイスは―――バルニフィカスだ。そしてレイジングハートと全く同じパーツを装備し、色以外には差異をほとんど見せない、なのはの手にあるのはルシフェリオンだ。レイジングハート同様ストライクカノン装備でルシフェリオンドライバー化しているそれと、そしてレイジングハートドライバーを両手に握り、なのはは笑みを浮かべ、

 

「やべぇ、二倍砲撃打てると思うとニヤけてくる」

 

「やべぇこいつ危険人物だ」

 

「頭の危なさ的にはどちらも変わりはしないものかと」

 

 オリヴィエの発言になのはと視線を合わせ、そして首をかしげる。こいつは一体何を言ってるんだ、と。ともあれ、なのはは二丁となったデバイスを両手で構え、そして俺もバルニフィカスを左逆手で前に出す様に、右手を若干引き気味にして拳を作る様に構える。ナルが本当は他のデバイスを使うことは許せないが今回は特例だと許してくれるので存分にバルニフィカスを酷使する事が出来る。

 

「まだ……向かって来るんですよね。眼下の光景を見てください」

 

 構えつつも視線を素早くゆりかごの周りの光景へと向ければ―――地上を大量のガジェットが覆い尽くしていた。こいつらの生産を止める意味でも割と派手にゆりかご内を破壊して戦っていたのだが、それでも止める事は不可能だったらしい。圧倒的物量でガジェットの新型がステルス能力等を発揮し、管理局側を圧倒していた。その光景の中で、ひときわ強く輝いているのは―――殲滅魔法を放っているディアーチェを含めるストライカー級魔導師達の姿だ。もはや温存できる状況ではない、という事だろう。どんなに質が高くても量には、疲労の概念が存在する限りは勝てない―――まあ、聖王にその法則は通じないのだが。

 

「最後に一度だけ―――諦めるなら助けますよ?」

 

「冗談!」

 

「ヴィヴィオに戻ったら正しいギャグを教えるからね!」

 

 レヴィから再び雷の魔力変換資質を借り、全身に雷光を纏いながら一気に加速する。体に纏う雷光に神経信号を混ぜる事で反応速度を異常値にまで引き上げる。そのまま滑る様にオリヴィエの懐へと潜りこみ、左手のバルニフィカス・ダガーを握った拳をオリヴィエへと向けて放つ。演算処理するデバイスがもう一機増えた事により魔力の使用効率が遥かに上昇する。それによって、

 

「吹き飛べ! 滅べ! 消し飛べ! 過去は過去へ―――現在は俺達のものだ」

 

 ベオウルフを乱発する。リミッターを、反動を全く気にしない速度、力で放つ必殺の拳はその余波に触れるだけで一気に周りを消し飛ばす。それに対してオリヴィエは正面から拳を同じレベルの破壊力で叩きつける事で相殺しつつコンビネーションを密に高める。此方の全力に対して速度を叩き込んでくる。それでこちらの強引な動きに対し―――圧倒を選ぶ。

 

「えぇ、終わっているのでしょう、私は―――それでも一人の女として願いぐらいはあったものなんですよ」

 

「じゃあ来世で叶えよう」

 

 なのはがそんな発言をするのと同時に砲撃でゆりかごの甲板が薙ぎ払われる。それをオリヴィエが跳躍と同時に回避すれば、もう一個の砲塔―――ルシフェリオンの砲口から同出力の砲撃が縦に、吐き出されながら叩きつけるように振るわれる。避けた所へ放たれたそれを回避する術はオリヴィエにはなく、砲撃に飲み込まれるように叩きつけられて一気にゆりかごの中へと叩き込まれる。その姿をすぐさま追いかける。落下するオリヴィエへと向かって縦に回転しつつ踵落としを繰り出すが、それをオリヴィエは落下しながら体を捻り、回避する。素早く飛行魔法で足場を生み出す瞬間にはオリヴィエが背後に存在する。

 

「取ったッ!」

 

「しま―――」

 

 気づいた瞬間には首にロック、そして両手を足で抑え込まれ、そして飛行魔法に対してインタラプトされていた。強制的に逆さまに落ちて行く体に対して、大地に叩きつけられる瞬間も放さず、オリヴィエは意識の締め落としにかかる。下半身の力だけで体を持ち上げ、雷撃を全身から放出し、後ろのオリヴィエを壁へと叩きつける。だがそれでもオリヴィエの拘束は強くなるばかりで離れはしない。

 

 ―――ならば!

 

 背中を向ける。

 

「お母さんまだ過激なボディタッチは早いと思うんだ!」

 

 ビットを全て放棄し、持てる魔力を二つのデバイスへと叩き込んだなのはの砲撃が俺ごとオリヴィエを吹き飛ばす。その衝撃で剥がれるオリヴィエに対して即座に迎撃に入る。バルニフィカスの刀身を瞬間的に伸ばし、蹴りを繰り出し、それをオリヴィエにガードさせてから振るう。

 

「雷光三段剣……!」

 

 放たれた雷光の斬撃が転移魔法によって三つに分裂し、同時に三方向から襲い掛かる。それを斬撃を放つ瞬間に見切ったオリヴィエが肘と右拳、そして蹴りで砕き同時に破壊する。恐ろしいほどまでの対応力と成長力。手札をチマチマ晒しているのであれば一瞬で超えられてしまう。故に放つのは全力でしかない。

 

「覇王断空剣!」

 

 回転しながらオリヴィエの頭上から刃を落とす。バックステップで回避するオリヴィエの動きは既に察知している―――故に外れた攻撃はゆりかごの床を抉り、そして巨大な斬撃となって走りながらオリヴィエへと襲い掛かる。それを砕く瞬間にはなのはの二丁の砲口から砲撃が放たれる。もはや逃れられる空間を残さない程の巨大な砲撃となった一撃は一瞬でオリヴィエを飲み込み、そしてその背後の空間全てを砲撃で埋め尽くして消し飛ばす。

 

 その程度で安心できるはずがない。

 

「はぁぁあああああ―――!!」

 

 横の壁を突き抜けてオリヴィエの姿が出現する。何時の間に、そう思った瞬間にはオリヴィエの拳が放たれている。それに対応する様にベオウルフを放つ。同じく必滅の拳を放っていたオリヴィエとその拳を相殺し合い―――相手の刹那に蹴りを潜りこませる。

 

「なっ」

 

「は、はははは、はっはぁ―――!!」

 

 オリヴィエを蹴り飛ばす。全力で放つ反動を考えない一撃は一瞬で筋肉の断裂を引き起こす―――だがその部分をナルのものと置き換える事によってそのダメージそのものを無かったことにする。

 

「ナル、ひたすら未来を眺め続けろ!」

 

 ―――任せろ。

 

 ナルが魔法の補助を全てカットし、たった一つの事に全ての演算力を回し始める。身体強化の出力が一時的に落ちるが、それをバルニフィカスが補助する。蹴り飛ばされたオリヴィエが拳を繰り出してなのはの砲撃を相殺するのと同時に、オリヴィエへと接近する。そして接近するのと同時に未来のオリヴィエの動きが見え始める。次に繰り出すのは此方の攻撃に合わせた迎撃のカウンター、故にその動きに合わせ、カウンターが入りにくいオリヴィエの左側面へと潜りこみ、ベオウルフを叩き込む。

 

「くっ」

 

 それをオリヴィエは間一髪で相殺し、防ぐ。だがそれは次の動きに対する隙を生み出す行為だ。故にナルが演算し、そして見せてくる未来の光景に合わせてオリヴィエの動きを先回りして殴り飛ばす。一気に数百メートル吹き飛ぶその姿へとなのはの追撃の砲撃が叩き込まれる。

 

「流れが来てるな……!」

 

「押し込むよ」

 

「―――させません」

 

 砲撃を裂いてオリヴィエが復活する。先ほどまでよりも遥かにぼろぼろで、頬に切れ込みを見せる姿でオリヴィエは動く。その動きは見えた、そして見える。故に正面から迫ってくるオリヴィエに対して正面から相対する。それこそが己の役割であり役目なのだから。正面からオリヴィエの動きに合わせて拳を振るう。予測通りにオリヴィエは動き―――しかしその拳を完全に”後だし”で相殺した。

 

「未来予測程度だったら私にもできますよ……!」

 

 相殺した拳に対してオリヴィエは手を広げて、それを掴み、そして逆の手で殴りかかってくる。それに対してバルニフィカスで切りかかる。だが自分よりも早く動くオリヴィエはその攻撃を掃い、そして逆に此方の胸に一撃を叩き込んでくる。鋭い貫通の一撃が一気に意識を奪おうとするが―――それをナルが無理やり繋ぎ止める。踏ん張り、視線を持ち上げ、血を吐き捨てながら再び拳を叩き込もうとし、

 

「私には追い付けません」

 

 殴り飛ばされた。明らかに初動は此方の方が早かったのに、それでもそれを上回る様にオリヴィエは此方を殴り飛ばしてきた。クソ、と言葉を吐き捨てる瞬間になのはが砲撃を放つ。それは再び逃げ場のない壁となってオリヴィエを飲み込もうとする。こればかりはもうどうしようもない物であった。

 

 筈なのに。

 

「見切りました」

 

 オリヴィエは砲撃有効範囲から内側へと潜りこむことによってそれを回避していた。まずありえない事態だった。それを驚愕として表情に出さないようにしながら、床を蹴り、瞬発する。全身に纏う雷光をバルニフィカスへと溜め込み、それで一閃を放つ。それをオリヴィエが軽々と飛び越え、そして空中で回転しながら踵落としを繰り出してくる。それを今度は俺が両腕を交差する事で防御しつつ、一瞬耐えればなのはが砲撃してくる。素早く回避動作に入るオリヴィエの動きは予測されていたものだ。そこに合わせるように攻撃を叩き込もうとし―――腹に一撃を叩き込まれ、身体がくの字に曲がる。

 

「がっ―――」

 

「未来ではなく今の私を見てくれないと拗ねちゃいますよ?」

 

 瞬間的にナルが処理を中断し身体強化に処理を回す。そのおかげでオリヴィエの一撃はある程度耐えられるが、それでも意識がヤバくなってきている事実に変化はない。体へと叩き込まれた拳に歯を食いしばって耐え、右腕でオリヴィエを掴み、そしてバルニフィカスと左腕でオリヴィエを殴り飛ばす。軽く吹き飛び、しかし空中で回転して体制を整え直すオリヴィエを見て息を吐く。

 

「はぁー……はぁー……」

 

 少し、辛い。いや、嘘だ。実はかなり辛い。それも泣きそうなレベルで。ラスボスといっても許される強さのレベルってものがあるだろう、これは。

 

「イスト」

 

「心配すんな、メイン盾は砕けないもんさ」

 

 少なくとも戦闘終了まで体は絶対に持たせる。意識を失っても自動で動く様に魔法をセットしている―――最悪死んでも魔力が残り続けている限りは体が勝手に動くようにはなっている。これも全部ゾンビって呼んだ馬鹿が悪い。ガチで採用するハメになるとは思いもしなかった。ともあれ、

 

「体が鈍いな……!」

 

 構え直しながらそう呟く。俺だけの話ではない。なのはの動きも若干鈍っている。まるでオリヴィエが時間を歪め、此方の動きをゆっくりにしている様に、そういう感覚があった。だが時間を操る魔法なんて聞いたことがない。レアスキルの類としては存在していてもおかしくはないが……自分の記憶の中にはオリヴィエが一度としてもそういう類の能力を相手にしたことも見た事がある様な記憶も存在しない。ともなれば―――また別の手段なのかもしれない。

 

「なのは、魔力はどうだ」

 

「ブラスターモードで無理やり吐き出しているからまだまだ余裕あるよ。イストの方こそ体の調子はどう」

 

「殴って殴られる不死身のメイン盾ってのが売りなんでね、まだまだ余裕ってやつよ」

 

 ―――強がり。

 

 今日のナルは大分キツイなぁ、と思いつつ自分の状況を正しく認識する―――そこまでよくはない、と。オリヴィエの攻撃を受け過ぎている。常に回復は行ってはいるし、バルニフィカスが来た事で防御力を集中的に上げている。だがオリヴィエは戦えば戦う程、時間をかければかける程に段々と技が磨かれ、ただの模倣ではなく己の動きとして習得したものを覚えている。これ以上あまり時間はかけられない。

 

 どうにかして俺が道を切り開き、そしてなのはの砲撃をノーガードで叩き込ませる必要がある。

 

 ……奥の手が使えるのは人生で一度キリのみ、か。

 

 故に目標はなのはに全力の一撃を叩き込ませ、それで聖王核を破壊させる事。それが成せればオリヴィエの人格以外の問題は大体解決できる。今が本番、そしてここからが勝負どころだな、そう判断して呼吸したところで気づく。

 

 自分が白い息を吐き出している事に。

 

 オリヴィエから視線を外すことなく、軽く外気の温度を調べれば―――それが自身の予想していたよりも遥かに低温である事に気づかされる。バリアジャケットの自動温度調整機能によって気づかなかったが、これは動きを止められていたのではなく、動きを―――凍らされていたのだ。

 

「器用な事をしやがる……なのは、ちょっとぶちかますから構えておけよ……!」

 

「失敗したら誤射るからね!」

 

「おい、やめろ」

 

 後輩の恐ろしい発言に対して苦笑を浮かべながらも、これだったらまだ対応方法がある。

 

 雷光が消滅し、代わりに炎を纏う。

 

 即ち、

 

「―――トリニティI、借りるぜシュテル」

 

『炎熱変換資質を取得する』

 

 炎を、熱を纏って自分の周りの冷気を相殺する。炎の刀身となったバルニフィカスと、そして右拳を構え、バリアジャケットの上着部分を消す。そろそろこれも邪魔になって来たし―――あと一撃まともに食らえばどう足掻いても耐えられそうにはない。だったらバリアジャケットがあっても無くても一緒だ。

 

 そして思考する。

 

 ―――そろそろ決着だな。

 

 この戦いももうすぐ終わるだろうな、と。




 ラスボス戦では一番強い技を連打するのが基本です。バフとエリクサを用意するのも忘れないように。

 戦えば戦う程絶望感が増すなぁ、もう7話もせいおー戦やってるよ

 そして何時の間にか200話達成だなぁ……

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