マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ファイナリィ

「燃えてきたぁ……!」

 

「物理的にね!」

 

 うるせぇ、と叫んでおきながら前へと踏み出す。冷気によって制限されるはずだった体はシュテルの炎熱変換資質を借りうける事によって自身の魔力を熱へと変換し、それを体の各所に炎を纏わせることで解決する。ブレイズシフトさせたバルニフィカスを左で逆手に握りしめつつ、再びオリヴィエへと向かって接近する。

 

「ッ―――!」

 

「はぁ……!」

 

 跳躍と共に一気に前進し、左拳を叩きつける。必滅の拳と炎を同時にオリヴィエへと叩きつける。反射的にそれを避けるか相殺するしかできないオリヴィエは最小の被害で済ます為に回避を選択し、横へズレる。だがその動きは当たり前にすぎる。空ぶった拳の隙を突いて攻撃を叩き込もうとするオリヴィエに対し―――遅れてやってくる炎がその身を焼く。オリヴィエが息をのんだ瞬間には反応が遅い。これもまた学習されてしまうのだろうと理解しつつも横へと避け、そして怯んだオリヴィエの体を蹴り飛ばす。足から来る感覚でオリヴィエがそれをガードしたのは理解している。故に即座に追撃の為に体を動かす。だがそれよりも早く、

 

「白く染まりなさい―――」

 

 猛吹雪が吹き荒れる。一瞬で空間が吹雪によって満たされ、そして視界が白に閉ざされる。オリヴィエの姿が、そして気配がゆりかご内で発生した吹雪によって紛れ、捉えられなくなる。故にこの吹雪の排除は先決だ。左腕、そしてバルニフィカスの炎を一気に最大出力へと持って行き、それを全力で床へと叩きつける。

 

「覇王炎裂震!」

 

 空間を震動させる拳に炎が合わさり、空間へと炎が染み渡る。それと衝撃を合わせ一気に吹雪はその内側からはじけ飛ぶ。空間を満たしていた吹雪を半分ほど消し飛ばすのと同時に、桜色の光が吹雪をもう半分吹き飛ばす。そうした完全にクリアになる空間の中で、自分となのはが存在するホールにオリヴィエの姿がない事を確認する。軽く辺りを見回すがやはり彼女の姿は見かけない。なのはと視線を合わせれば頷きが返ってくる。軽いステップでなのはの前へと着地し、そしてなのはと背中合わせで警戒する。誰よりも戦っている自分となのはが知っている。オリヴィエが決して逃げの手を打つような存在ではないと。逃げて体勢を整える様な存在でもないと。勝負、そう決めたら勝利するその瞬間まで手を緩める事無く戦い続ける存在であると。

 

「イスト」

 

「あん?」

 

「ぶっちゃけ本音の所どうなの? ―――いけるの? 私がこうやって話に乗ってあげてるのは馬鹿な元先輩がただの殺人者じゃなくてちゃんと頭で考えている馬鹿だって信じているからだよ? ヴィヴィオじゃなくてオリヴィエを殺すって宣言している辺りにあの子じゃなくて”中身”だけを殺すってニュアンスを受け取っているし。だから先輩、どうなのそこらへん」

 

 変わらないよ、となのはに応える。

 

「俺は確実に決める自信はある。ただ結局はお前もお前の仕事をしなきゃどうにもならん話だよ。聖王核がどこにあるかはイングが殴り合いながらも確かめてくれたし、おかげで鎧も砕けた。あとはオリヴィエと聖王核に完全な終焉を与えるだけさ。……まあ、ここら辺が一番難しいんだけど」

 

「ま、難しい程度ならどうとでもなるよ―――私達のコンビは不可能を可能にするからね」

 

 なのはがそういうのと同時にゆりかごそのものが鳴動する感覚と共に、巨大な魔力が急に出現する。否、それは違う。出現するのではなく”気付かされた”のだ。その瞬間まで空気に馴染む様に隠されていた魔力がその姿を現し―――強大な魔力が収束されているという事に気づかされる。その魔力の収束方法を身近に感じ、そして知っている者としてはオリヴィエが繰り出そうとしている魔法に対して冷や汗しか出てこない。つくづく”ヴィヴィオ”がなのはに影響を受けているものだなぁ、と納得し、だとしたらあのグラップルスタイルは一体誰のだろうな、とナルに言われたところで苦笑する。―――良く考えればなんでも出来たオリヴィエが別に格闘にこだわる必要なんてないのだ。

 

「イスト」

 

「うん?」

 

「10秒」

 

 レイジングハート、そしてルシフェリオンを同時に振るい、巨大な魔法陣を出現させるなのはがそういう。それと同時にホールの奥、そこにある壁を貫通しながら虹色の魔力が全てを飲み込む暴威として襲い掛かってくる。間違いなくオリヴィエが放ってきている魔法は一つ―――スターライト・ブレイカーだ。ただその規模はなのはを遥かに凌ぐ魔力によって収束以上に注ぎ込まれた魔力量が凄まじい奔流となって襲い掛かってくる凄まじい光景がある。それを前に、

 

「あいよ」

 

 右手をひらひらとなのはへと向けて振って、そして全力で一歩を踏み込む。今まで見てきたどの砲撃、どの魔法よりも巨大で強大なその一撃。悔しい事にだがそれはシュテルやなのは、ディアーチェが繰り出す最大魔法よりも明らかに質量、密度、そして巨大さにおいて勝っていた。

 

 ……ユーリはどうした。

 

 本気を見た事ないからなぁ……。

 

 床を踏み砕きながら全力の右ストレートを叩き込む。声にならない声が咆哮となって真正面から砲撃へと叩きつけられる。その衝撃が砲撃を貫通し、その中に必滅の力を通し―――その先端部分がはじけ飛んだ。とはいえ、それもたったの一メートルほどの部分のみだ。明らかに質量と密度が濃すぎる。いや、ある意味これが最善で最良のベオウルフに対する対処方法だ。圧倒的質量で消し飛ばせない量の攻撃を繰り出す。故にこのオリヴィエの攻撃は間違いなく効果的だ。ただ、

 

「一発で終わるわけがねぇだろォ―――!!」

 

 右の拳を叩き込んだ次の瞬間に左拳を炎と共に叩き込む。必滅と炎が砲撃の壁にぶち当たるのと同時に炸裂し、爆裂する。その炎が舞い散るのと同時にそれらは砲撃によってかき消され、そして吹き飛ばされる。だからと言ってここで動きは止められない。更に一歩踏み出しながら再び右での必滅を叩き込み、左と叩き込み―――連続で必滅を叩き込む。タメを作る時間が少なすぎる故にそれを最大の威力で放つだけの余裕がない。それでも、凌ぐだけであればこれでも十分だ。そう判断した途端、

 

 ―――体に何かが突き刺さる。

 

 それは一本のナイフだった。それが肩に突き刺さるだけ。ダメージとしてはほぼ皆無だと言っていい。だが今、全てのダメージに対して敏感になっているこの状況で、そんなものが突き刺されば、

 

「―――余所見注意ですよ」

 

「くっ……!」

 

 一気に砲撃に押し出される。それに対して反応が間に合ったのはただ単純に復帰が早かったという事と、運が良かったという事だけだ。そう、運が良かった―――この世で割と結構嫌いな事だ。運というやつほど信用できないものはない。……それに割と頼っている男が言うべき事ではないのかもしれない。

 

「あ、元先輩お疲れ様! 準備完了したから死んでいいよ」

 

「じゃあ死んでおく」

 

 吹き飛ばされた状態からナイフを抜いて、そしてとりあえず床に倒れておく。そのままの状態から視線を動かし、なのはの姿を見る。レイジングハートとルシフェリオン、それを掲げたなのははそれを縦に構えると―――二つを連結させ、一つの巨大な機械砲を生み出す。それを脇の下を通す様に抱えるなのはが魔法陣を縮小させ、それを機械砲のバレルに纏わせる。なのはと、そして俺が繰り出した拳打により拡散された魔力が収束され、そしてそれら全てを飲み込んだなのはが真直ぐに砲塔をオリヴィエのスターライト・ブレイカーへと向ける。

 

「魔導師になってから十年間……それは確かに戦乱を生きた聖王様と比べて短いかもしれないよ……だけどね、この十年間、収束という一点においては私、他の誰にも負けない努力はしてきたんだ。だからね、ヴィヴィオ。お母さんが教えてあげるよ―――収束砲撃でそこまで拡散させるのは甘いよ」

 

 なのはの砲撃が放たれる。名も知らないその砲撃は大きさで言えばスターライト・ブレイカーの四分の一以下の大きさしか存在しない何とも頼りない砲撃だった。だがそれは一目見れば解る。なのはが魔導師として活躍してきた十年の研鑽がその一撃には込められている。故に、それがオリヴィエの一撃を貫通する瞬間を目撃した事にはある種の驚きはなかった。当たり前、という感覚の方が強かった。

 

 オリヴィエはこれも見て覚えるだろうが―――使うことはないだろう。

 

 星光を貫通して、その向こう側からオリヴィエの姿が見える。十分に体は休めた。倒れた状態から一気にクラウチングスタート姿勢を持って行き、床を蹴った爆発を超すのと同時に一直線にオリヴィエの下へと向かう。既に迎撃の態勢に入っていたオリヴィエは接近と同時に放たれてくる拳を相殺する。だが数百メートルの加速によって得た衝撃をただの一撃で相殺し切れるわけもなく、拳撃と同時に繰り出される爆炎に身を焼かれながらオリヴィエは後ろへと軽く吹き飛ぶ。すぐさまにその姿に追いつく。

 

「燃えろバルニフィカス!」

 

「プラズマアーム!」

 

 炎の刀身と雷拳がぶつかり合い、そして互いの体が弾かれる。同じタイミングで壁へと着地するのと同時に、壁を蹴って加速して再び肉薄する。一撃を加え交差してから逆側の壁に着地し、そして空間を打撃する。打撃が空間へと浸透し、再び炎と共にオリヴィエを逃がさないように襲い掛かる。だがそれを見たオリヴィエは―――全く同じ動きで同じ一撃を、今度は氷を纏って放ってくる。炎と冷気がぶつかり合い、大量の蒸気が発生する。その中を桜色の閃光が一気に薙ぎ払う。

 

 それをオリヴィエは足場に宙を駆ける。

 

「うそぉ……」

 

「呆けてるんじゃ、ねぇ!」

 

 壁を蹴ってオリヴィエへと追いつく。その動きは戦い始めた頃よりも遥かに洗練されていた。理解する。彼女がどんどんと自分となのはの戦いを得て強化されている事に。いや、学習を通してではない。オリヴィエの動きは模倣からオリジナルへと少しずつだが確実に昇華されている。そしてそれはつまりオリヴィエが次のステージへと進むことを示している。覚えた技を融合させ、そして使用して来る事も結局はその一部に過ぎない。オリヴィエは今、確実に人の手の及ばないステージへと進み始めている。そしてそんな中で俺もなのはも明らかに限界を迎えつつある。流石、という言葉だけは吐きたくはない。勝たなくてはいけない。いや、勝ちたい。

 

 勝ちたいのだ。

 

 それでも―――込み上げてくるのは笑い声だった。

 

「は、ははは」

 

 それに続く様に、オリヴィエも軽く笑い声を零す。そうだ、そりゃあ楽しいはずだ。状況を抜きにすれば、真正面からの戦いで今、初めてオリヴィエはその存在を脅かされている。目の前で全力で戦っても砕け散らない存在がいる。全力を尽くしてもまだ倒れない相手がいる。生まれた時から頂点に立つ存在としてこれ以上愉快な事があるだろうか。

 

 だけども、全てに等しく終わりは存在する。

 

「ベオ、ウルフ……!」

 

「それはもう通じません!」

 

 馬鹿の一つ覚え。必滅の拳に対して必滅の拳を叩き込まれる。オリヴィエにとってこの奥義は乗り越えた壁でしかない。拳をちゃんと見切れば確実に対処できる必殺だ。悲しい話だがもうオリヴィエの実力は完全に俺の先を進んでしまっている。技術で五分かもしれないが、そのほかのほとんどで圧倒されてしまっている。勝利の可能性は完全に薄い。だから諦めるのかと言われれば―――否、諦めない。動けなくなるその瞬間まで絶対に諦めない。諦められない。諦めたくはない。イスト・バサラという男の人生は常にもがき、苦しみ、そして後悔の連続の人生だった。それでも一度たりとも諦めない、歩むことを止めた事がない事だけは誇りなのだ。

 

 繰り出されるオリヴィエの拳を強引に掴み、肩に走り始める違和感を無視してその体を一気に床を陥没させる勢いで叩きつける。床へと叩きつけたオリヴィエをそのまま一回踏み潰し―――そして炎熱変換を解除する。

 

「―――本気で行くぞ」

 

 全身を赤黒い炎が包む。魂の色をそのまま燃え盛る炎として、表現する。それには一切の熱は存在しない。雷の様に素早く響くわけでもない。だがこれには間違いなく、本人の魂の様な強固さを持っている。

 

『ユーリよりスピリットフレアを獲得』

 

 踏み潰すオリヴィエの体がその反動で跳ねあがる。既にその体は防御の体勢に入っている。それに構わず、全身に纏うスピリットフレアをそのままに荒れ狂わせ、

 

 防御の上からオリヴィエを殴り飛ばす。吹き飛ぶその姿を眺めながら、

 

「行くぜなのは―――ここで決めよう」

 

 魂を燃やして前へと踏み出す。




 次回で7話もかけて書いたせいおー戦もようやく終わりって感じでしょうかね。

 あぁ、結局完結年内には無理だったよ……欲張らずにイストとなのは視点だけで書いていればよかった……。

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