マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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タイム・ゴーズ・オン

 自然の多かった風景もクラナガンに近づくにつれてだんだんと建造物の多い風景へと変わって行く。個人的には近代的なビルなどの多い街よりは、自然の多く残る田舎の方が不便でも好きなので、クラナガンの猥雑さは今でも若干苦手の意識が残っている。自分の性格なのかクラウスの影響なのかは解らないが、それでも騒がしさよりも大人しさを重視する自分がいる。ただそれでも慣れてしまえば慣れてしまうものだ。フェイトの車がゆっくりと動きを止め、そして高速道路を下りるのにお金を払うと、そのままクラナガンの街へと侵入する。実家はミッドチルダ南部なので中央区であるクラナガンとはまた別方向なのだが―――正直な話、あまり家は好きではない。なのでここ最近は真直ぐ家に帰る事はない。大体はどこかで時間を潰すか―――もしくは今日みたいに忙しくしているか、になっている。

 

 まあ、両親の方は両親の方で全くと言っていいほど気にしていないと言うよりはむしろ積極的にかかわる事を推奨しているのが家に寄りつかない事を加速させているのだから。まぁ……正直親の事はどうだってもいいと思っている。あの連中にはほとほと愛想を尽かしている。あまり、実家にも愛着もない。ただ、まあ、今そんな事を思っても激しくどうしようもないので我慢する事にする。きっと、その先には何時かいい事がるだろうから。

 

「えーと、まずはお花屋さんかな?」

 

「はい」

 

 膝の上に置いてあるカバンを持ち上げ、そして開ける。その中を軽く確認すればそこには財布が入っている。十中八九フェイトは自分が代わりに払う、何て事を言い出すんだろうな、と思い、心の中で苦笑しておく。ともあれ、自分とフェイトを乗せた車はクラナガン市内に入るとゆっくりとだが減速を始める。少し前にあったJS事件、その影響もあってミッドチルダだけではなく次元世界全体で警戒態勢に入っている。その為首都や、街中での法定速度は少しだけ、落とされているし、管理局員の姿もあちらこちらで見かける事が出来る。やはりJS事件が残した爪痕は大きく、各所で見られる。

 

「えーと、六課の事だから一応ルーテシアの事も話した方がいいのかな?」

 

「お願いします、終わった後に逮捕されたとしか知らないので」

 

「うん、じゃあ―――」

 

 赤信号に車を止めながらフェイトが口を開く。

 

「ルーテシアは機動六課に押し付けられる形で来たわけだけど―――戦後の処理で罪状が見つかったというか、本人が自白したんだよね。”お母さんと一緒に暮らしたいけどまずは償ってから”って言ってね。正直まだ子供だしそういう所まで意識は回らないと思ってたんだけど、そこらへんキッチリ考えてたみたいでちょっと驚いたなあ……」

 

「……なるほど」

 

 ルーテシア、ルーテシア・アルピーノ、だったか。召喚魔導師で確か師父達の行動の片棒を担いでいた人物だ。年齢は自分より上―――というより一連の事件の関係者で自分よりも年下なのはヴィヴィオぐらいなものだ。だからと言って普通、年齢が十前後の少女が償いだとかを考える事はまず難しい。

 

「やっぱり環境の違いなのかなぁ……そういう風に考えるように育つにはどうしたらいいんだろう。いや、待って。それってつまり―――うん、やっぱり考えておくのは止めよう、うん。あの環境で立派に育ったとかあんまり考えたくないしね!」

 

「それでいいんですか」

 

「人生にはね、目を背けなきゃいけない事があるんだよ」

 

 現実から逃げてはいけないと言われて窓から飛び降りる師父がいるわけだがそれを伝えたらどういうリアクションをするのだろうか。

 

 ともあれ、ルーテシアが”自白”したために彼女は更生施設送りとなったらしい。

 

「うん、まあ―――ルーテシアの罪状は色々とあるみたいなんだけど、その証拠が出てこないんだよね。巧妙に隠されているというか消されているというか―――それに関しては他の子達も一緒なんだけど。スカリエッティの証拠の隠滅に対する意識というか用意周到さは凄いよ? 決戦前に使ってないアジトは全て爆破して破棄して、ついでに燃やして何もかもダメにしてたし。……まあ、そのおかげで色々と出てくる罪を追求するだけの証拠が足りないんだよね、少なくとも彼の娘の方や、ルーテシア達協力者に関しては」

 

 協力者、とはもちろんルーテシアの事だけではない。

 

「とりあえずまずは話の流れからルーテシアの話だけど……彼女は更生施設での再教育を受け入れて、再教育機関が終わったら監視付で元の生活に戻れるよ。たぶんこの期間に関して今回の事件で捕まった人たちの中でルーテシアが一番短くなるんじゃないかな、一番年齢が低いし、”仕方がない”と取れる状況だって判断されているし。あ、ちなみにコレはオフレコね?」

 

 信号が変わり、フェイトが車を動かす。とはいえ、市内であるがゆえにその動きはゆっくりとしている。そのまま見覚えのある道に入ると、目的のお店を見つけ、近くのパーキングへとフェイトが車を走らせる。

 

「ルーテシアの究極召喚―――白天王だけど、時々ルーテシアの様子を見に来ているんだよね」

 

「あぁ、なんとなくですが察せます」

 

「あははは……」

 

 パーキングに車を止め、そしてシートベルトを外しながら車の扉を開ける。

 

 フェイトの言っている事は難しくはない。ルーテシアの究極召喚、その使役蟲である白天王はルーテシアの制御下でありながら半分ほど、制御外にある―――ルーテシアが百パーセント操るにはまだ未熟なのだ。そしてそれは別段不思議な話ではない。キャロも似たような状況だ。だが、白天王は自分の意志でルーテシアを気にかけている、という所が問題だ。

 

「痺れを切らしたら怖いんだよねぇー……」

 

 つまりはそういう事なのだ。ルーテシアの留置期間が長すぎた場合に、白天王がいきなりジェイルブレイク等起こさせてしまう場合がある。ありえないだろうと知っている人間は言うだろうが、ありえない事はない、そう言う人間がいる場合はどうしようもない話だ。そういう諸事情があって、ルーテシアの刑期、とも言うべき時間は短いのだろう。

 

「スカリエッティが娘って呼ぶ戦闘機人、彼らは”ナンバーズ”って呼んでるんだけど、彼女たちの刑期も予想よりも短くなりそうだね。まぁ、少なくとも一部は、だけど。ウーノとドゥーエって人がナンバーズにいるんだけど、彼女達が管理局に対して色々と取引を持ちかけて来るんだよね。技術とか、社会への奉仕活動とか。そういう事もあって重犯罪者であるスカリエッティは処刑が延期、その頭脳を失うことは損失だって判断されたり……うーん、ここら辺はちょっと言葉で説明しづらくて複雑な所だね。資料は持ち出し禁止だからなぁ」

 

「いえ、正直ここまで教えて貰えて少し驚いているぐらいです」

 

 資料の持ち出しが禁止なら本来は喋ってはいけない内容なのではないのだろうか、これ。いや、自分の勝手な想像でフェイトを混乱させたくはない。これに関してはそっと黙っておこう。そう、それがたぶんいいだろう。車の扉を閉めて軽く体を伸ばす。三十分ほどのドライブだったが、それでも小さい体にとってシートベルトは割と窮屈に体を締め付けるものだと思う。カバンから抜き取った財布を片手に、パーキングの向かい側にある花屋へとフェイトと並んで交差点を渡りながら向かう。

 

「結局、完全に裁かれる事はないんですね、彼らは」

 

「うーん、今までの管理局だったらまず間違いなく処刑か何かあったと思うよ? ただ今の管理局は情勢的にすごく不安定だからね。管理局を支配していたトップが三人消えた所でその下で起きていた権力争いが表面化、それに伴いミッドチルダの隔離と襲撃。今の管理局、それもミッドチルダに関しては揺らぎまくってるんだよ。一般の局員に解る程にね」

 

 花屋に到着する。店の前にまで並べられる色とりどりの花を眺めるも、正直な話花の良し悪し何て自分には解らない。そこでフェイトの方を眺めると、フェイトが軽く辺りを見渡してから花束のコーナー、その一角に視線を送っているのが解る。毎回店員のチョイスで花を選んでいたが、今回はフェイトと同じチョイスを選ぶことにしよう。

 

「すいません、あちらの花束を二つ程お願いします」

 

「私も同じものでお願いします」

 

 そう言うとフェイトが此方へと視線を向け、小さく笑みを作る。財布から二人分のお金を取り出す所を見てやはり、と思ってフェイトの行動を手で制す。

 

「フェイトさん。お金に関しては聖王教会の方から苦にならないように受け取っていますので、気にしないでください」

 

「いやいや、これは別に年長者としての義務を果たしたりしているんじゃないよ」

 

 フェイトはそのまま苦笑し、三つ分の値段を店員へと渡すと花束を店員から受け取り、そして一つ此方へと渡してくる。それを受けとり、取り出そうとしたお金をもう使えるわけもなく、そのままサイフの中へと戻す。するとフェイトは歩き出す前に軽いウィンクを送って、

 

「だってこの方がかっこいい大人に見えるでしょ?」

 

 そう言ってスタスタと車へと戻って行こうとするフェイトの後を追う。フェイトも、なのはも、師父も、誰もかれも年長者たちはこう……何故かっこよくあろうとすることに執着するのだろうか。べつにそこまで気にするわけでもないのに。……そう思ってしまうのは自分がまだ子供だから、なのだろうか。もっと大人になれば大人たちが子供の前でかっこつけたがる理由が解ってくるのだろうか。それは今は解らないが、速足で前に進むフェイトに追いつき、緑色の信号を渡ってパーキングへと戻ってくる。パーキングへと戻ってくると車の後部座席に先ほど買った花束をフェイトが置くので、自分も同様に後部座席に花束を置き、そして再び助手席へと戻る。車に乗ってシートベルトを締めた所で再び車は動きだす。

 

 クラナガンの中心へと向かって。

 

「……さて、たぶん一番聞きたい事はここら辺から、になるのかな」

 

 フェイトが切り出す。

 

「まず初めに言うと―――イスト・バサラとナル・バサラを除いた全員は既に逮捕されている。最大で数年、最低で一年は出て来る事はないよ。暴れる様子もないし、更生プログラムを受ける意思もあるし、クセが強すぎてヒエラルキーのトップに一気に踊り出ちゃったらしいけど、それでもそれ以外は模範囚だって」

 

「模範囚とはなんだったんでしょうか」

 

 軽口が言えるぐらいには安心できた。出る予定がある、という事はその罪は許される範囲にあるという事だ。

 

「まあ、減刑に関しては聖王教会側の働きかけが大きかったんだけどね、今回は。アインハルトにはあまり言う必要はないかもしれないけど、……そこらへんの理由は解っているよね?」

 

 コクリ、と頷いて肯定を示す。言われなくても解っている。JS事件で起こってしまったいわゆる”聖王超え”で価値が出てしまった人物と、そしてその家族。現代の王とも言える人物の家族を無下に扱うことはできないが、犯罪者である事に間違いはない。能力もあり、良心もある。だとすれば更生して貰う事がどの立場から見ても一番なのだ。

 

「イングはリンカーコアの完全喪失。もう魔法は使えないし、魔法が使えないから戦闘によるダメージは治療が少し難しかったけど、何とかなったよ。レヴィ、ディアーチェ、ユーリ……あと融合機のアギトは軽傷で済んだから一番最初に病院から出て捕まった組だね。ナンバーズ収容と同時期だったけど四人とも元気そうだったね。最後にシュテルだけど彼女は戦闘中に腕を失っちゃったんだよね。でもスカリエッティ側と取引で得たクローン技術と現代の再生治療、それを合わせて作った新しい腕を一ヶ月で慣れさせ終わって監獄に収容されたよ―――流石なのはの遺伝子だなぁ、って思わず思っちゃったなぁ、あの光景には」

 

「私の記憶が正しいと義手とか新しい腕とか慣れるのに相当時間が必要だったはずなんですけど」

 

「うん、だからやっぱりすごいなぁ、って」

 

 いや、凄い云々の話ではないのだが。非常識というレベルの事態だが―――よくよく考えてみれば機動六課自体が超特化型魔導師の中でも飛び切り頭が悪く、おかしい部類の連中が集まっている。そう考えたら凄い程度の認識で収まるのか。つくづく”伝説のチーム”というのは凄いものだと思う。まあ、ともあれ、

 

「皆、元気にやっているんですね」

 

「とりあえずはね、順調らしいよ。嬉しい?」

 

「はい」

 

 そう答えると車は段々とだが目的地へと近づく。場所はクラナガンの中心、地上本部の近くに存在する建物だ。白い巨大な建造物は何人もの患者と医者を収容する施設であり、同時に最新の医療機器を優先的に受け取る場所でもある。

 

 先端技術医療センター。

 

 そこのパーキングへとゆっくりと進め、そして車は止まる。




 そんなわけで一家の大半は逮捕ですな、入院しているのを除いて。立場とか色々面倒なのが付きまとっているので純粋に償い、ってのは上手くいかねーもんです。あとチョロ見している白天王さんはステイな。

 ともあれ、

 長かったお話も次回で最終話ですよ。そのあとは順次、今までの後書きを消していきます

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