マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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 本日朝の一発目。順調に道を踏み外し人々。


フィクション・ノンフィクション

 実の所、空港へとやってくる回数はそう少なくない。

 

 空港がミッドチルダ最大の入り口である事実は転移魔法が存在していても疑いようがない。対次元跳躍装置などというものがあるらしいが、それも内部からの手引きによる手があれば簡単に突破して転移魔法でミッドチルダに降りる事が出来る。でも全てが全て、そうやってミッドチルダにやってくるわけではない。やはり、空港を通してやってくる者は多い。だから空港には常に次元を象徴する部署の”海”と、そして現地の治安を維持する”陸”の人間がいる。ちなみに”空”の活動は主にミッドチルダのみで、ミッドから離れれば離れる程その数は見られなくなるという性質を持っている。まあ、今はちょっとだけ関係のある話だ、これは。

 

 空港の管理局員用のパーキングスペースで車を止めて、降りる。相変わらず免許は持っていないので運転からパーキング、鍵の所持まで全てイスト任せなのは少し恥ずかしいが、合法的に免許が取れるようになるのは15歳過ぎてからの話だ。それまでは運転をこの外道先輩に任せるしかない。だから車から先に降りて、鍵やら駐車に気を使っている先輩がやってくるのを待つ。だがそれも数分もかかりはしない。直ぐにチェックを終わらせたイストが此方へとやってくる。

 

「正面から通ると面倒な手続きあるからこっち行くぞ」

 

「え? でも」

 

 自分が武装隊の前、嘱託魔導師として活動していた時は普通に前のゲートから通っていたのだが、と言うと、イストは苦笑する。

 

「嘱託魔導師ってのはまだ半分”外様”って状態だからな。だが俺やお前みたいに本所属の魔導師、特に空所属の魔導師ってなれば色々と特権が生まれるんだよ。たとえばこっちの通路」

 

 そう言ってイストはパーキングのすぐそばにあった扉を開けて、中に入る。そこには関係者以外立ち入り禁止と書かれているが、それを気にすることもなくイストはズカズカと中へと入りこんで行く。

 

「ここは空港で働く連中が使うための通路だがな? 俺達空の人間も普通に使う権利も持っているんだよ。まあ、首都を出ること自体が非常に珍しいから空港を利用すること自体が珍しいんだがな。だけど、まあ、ないわけじゃない。密売やら密輸やら、空港を通ってやってくるもんは結構多い。それのチェックやら確認、検査とかで珍しいけど来ることもあるぞ。……まあ、まだ一ヶ月目だからやってないだけだけどさ」

 

「はぁ、なるほど……」

 

 勉強になった。やはり空の人間は色々と他の所属と比べて特権が多いらしい。それも首都の防衛やら、重要な役割を得ている事を考えれば妥当かもしれないが、少しだけ優遇されすぎてないか、何て考えも浮かぶ。だが管理局のシステム自体はかなり上手くできていると思うので、特に口出しする事はない。ともあれ、ホロウィンドウで第一目標が空港であることは確認したが、それ以上はまだ読んでいない。というかそれをさせてくれるだけの時間を横の先輩は許してくれなかった。

 

 それを口に出そうとして、前から歩いてきた管理局員が此方を見る。何かを言う前にイストが片手を上げてよ、と挨拶をすると相手も挨拶しかえしてくる。それに倣って此方も挨拶をすると、相手も挨拶をして通り過ぎる。

 

「知り合いですか?」

 

「んにゃ、挨拶は常識だろう。コミュ能力は大事だぞ。知らない相手でも一応挨拶できる時はしておけ。どういう縁がどういう形で結びつくか解らないからな。いや、マジで。俺も天下のエース・オブ・エースと一緒にコンビを組んで仕事をする日が来るとは思わなかったし。知ってるか? 俺お前の顔を雑誌で見たんだぜ」

 

「そんな事を言うんでしたら、私もこんな外道とコンビを組むことになるとは思いませんでしたよ。誰が嬉しくて足を掴んだら武器代わりに振り回して襲い掛かってくる蛮族とコンビを組みたいんですか。できたらフェイトちゃんみたいな正統派のインファイターと組みたかったですよ!!」

 

「ほんと残念だな。まあ、俺としちゃあ弄り甲斐のある後輩が入ってきて結構楽しいんだがな、これが」

 

「あぁ、もう! 髪の毛整え直したばかりなんですから撫でるの止めてくださいよ!」

 

「ははは! 背が低いのが悪い!」

 

 無言でローキックを叩き込むが、鍛えられたイストの肉体はそれそのものが鋼の鎧の様に硬く、魔力や強化術式を使っていない普通のローキックでは逆にその痛さを味わうだけだ。ジーンと響いてくる足の痛みに少しだけ悶絶しながらなんとか痛みに耐え、そして少しだけ涙目でイストを見上げる。

 

 サングラスを取り、白目で舌を突きだした笑顔でそんな私をイストは迎えてくれた。

 

「ぶっふぉっ」

 

 あまりにおかしすぎる表情に笑いでむせる―――というかちょっと待て、

 

「今素顔を見せましたよね!? もっかい、もう一回サングラス取ってくださいよ!」

 

「あぁ? 聞こえんなぁ」

 

 笑いを押し込めて再び視界をイストへと向けると、その頃には既にイストはサングラスをかけ直していた。惜しい、非常に惜しい。今まであのサングラスを取った様子が全くないので、正直その下がどうなっているかは興味があった。いや、今の一瞬少しだけ目の周りに傷があったような気がしたが、それだけだったような気もする。

 

「うっし、ここだ」

 

「あ、逃げないでください!」

 

「勝者と年長者の余裕でスルー」

 

 挑発のプロフェッショナルなのかこの人、一々人のイラっとする所を的確に突いてくる。その事実に若干イライラさせながらも、やる事はちゃんとやるという無駄な優秀さを持っている事が非常に腹立たしい。これで無能だったら無価値だと断定する事は出来る。だがこの狂人は自ら進んで狂人となりながら仕事をこなしているフシがある。それが厄介なのだ。まるで雲の様に本性が、本音が、つかめない。

 

 そんな事を思っている間にも別の通路へと入ったイストを追い、空港の中に張り巡らされたアリの巣の様な通路を抜けてゆく。どうやら道を全て覚えているらしく、一切迷う事も確認することもなくイストはその通路を進んで行く。見失わない様にイストの横に張り付き、そして時折通る職員に軽く挨拶をしながら進むと、やがて広いスペースにでる。

 

「どーもー」

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様です!」

 

 それは空港のゲートの向こう側だった。チェックインやら荷物検査やら、そういう作業を全て無視して空港の内側へと入る為の通路だったのだ。そしてそうやって向かうのは次元航行船が停泊しているゲート―――ではなく、空港の出国ゲートの向こう側、その一番奥にある施設だ。ここまでくれば次にどこへ向かうのはおおよその予想がつく。

 

 施設の名前は超長距離次元転移装置。その目的は空港などが無い、設置の出来ない世界に人員を飛ばすための装置だ。帰りはこの装置が此方が設置したマーカーを頼りに”引っ張ってくる”という仕組みになっているのだが、この装置を使って跳ぶ世界は大体決まっている。だからこそ質問しなくてはならない。

 

「イスト、これから何処へ行くんですか?」

 

 イストはサングラスの位置を直しながら言う。

 

「第56無人世界」

 

 

                           ◆

 

 

 短い揺れやかきまぜられる感覚。それが終了する頃に目を開ければ、視界は完全に違う世界を映しだしていた。そうして視界いっぱいに映し出されるのは海だった。ひたすらに大量の水が覆い尽くす世界だった。自分が立っているのが反対側の見える小さな島、木は数本しか生えておらず、頭上から照りつける太陽によって生み出されるその木の陰だけが逃げ場の様に思えた。

 

「あ」

 

 その影の中に男が一人いた。此方の姿を確認するのと同時にやってくる男の姿は管理局員、海の魔導師の制服だ。此方へと近づいてくると敬礼する。おそらく階級的には此方の下なのだろう。

 

「ようこそいらっしゃいました高町准空尉、バサラ准空尉」

 

「お勤めご苦労さんセダン三等空士」

 

 何時の間に名前を確認したのだ、と思っているとイストの横にはセダン三等空士と呼ばれる青年のプロフィールがこっそり浮かび上がっていた。

 

 ……仕事早っ。

 

 それをセダン三等空士に確認される前に消すのも流石の手際というやつだろうと思う。ともあれ、セダンはイストを見てから此方を見ると、

 

「高町准空尉、ぶしつけで申し訳ありませんがファンです! 握手をお願いします!」

 

「……お前、一応有名人だからな?」

 

 ……そういえばそうだった、と思い出す。たしかPT事件と闇の書事件で自分の名は期待のエース、そしてストライカー級魔導師として売れているのだった。6隊に所属してからは有名人どころか子どもとしてしか扱われてないので大分忘れていた事だが、外へ出ればかなりの有名人だという事実をすっかり忘れていた。……そう考えるとあそこは結構アットホームな職場なのかもしれない。

 

「えーと、では握手ぐらいなら……」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 涙を流しそうなほどに嬉しそうに手を握り、握手をする青年を一瞬、自分よりも本当に年上なのか疑いそうになる。だが実際に自分よりも大きいのだろうから、本当なんだろうなぁ、と呟いたところで、イストが青年の頭にデコピンを叩きつける。

 

「おいおい、ウチのロリ担当の手を何時まで握ってるんだよテメェ」

 

「まずはそのロリ担当と明確に言った事を私に対して反省しません?」

 

「いえ、高町准空尉はロリ担当でいいんです!」

 

 ―――こいつもアレ系の人間か……!

 

 海と言ったらどうしてもクロノを基準に考えてしまうので、そうか、べつに変人は空だけに限った事ではなく他の部署にも存在するんだ、という事を空に浮かび上がるはやてのイメージを幻視しながら理解する。管理局にはあとどれぐらい奇人変人が存在するのであろうか……。

 

「とりあえずお前、状況報告しろやオラ」

 

「―――はい」

 

 そう言ったとたん、セダンは直立で体勢を整え、ホロウィンドウウを複数出現させる。表情は真面目なものとなり、そしてデータを此方へと送りながら解説を始める。

 

「哨戒任務で次元渡航中に反応をキャッチしたのが数日前の事となります。その絞り込みに数日、そして判明した反応の位置がこの世界となります。到着と同時に隠密を心がけ情報収集を行ってきました結果、地上から200m下、海底に研究所らしき建造物の入り口を発見しました。その中から隠されていますが魔力の反応を感じますので、まず間違いなく稼働中の施設だと思われます。一応此方の転移反応が漏れないようにジャミングを行っていますが―――」

 

「―――ジャミングを行ったら”誰かが妨害している”って証拠が残るんだよ」

 

 チ、とイストが吐き捨てるとデータに表示されている研究所の方へと視線を向ける。データと報告を確認すれば相手がここから逃げ出していない事は明白だ。―――確実に待ち構えている。だがその意図が解らない。いや、それよりも解らない事がある。

 

「待ってください―――何故私達なんですか?」

 

 それが最大の疑問だ。何故私達がここにいる。空隊の目的は首都の防衛だ。そしてその人員を割く事を中央はかなり嫌がる。だからこうやって私達二人が別次元の世界で、違法研究所のレイドを依頼されるなんて明らかにおかしい。明らかな作為性をこの出動に関しては感じる。

 

「そう言われましても本局の方からこうしろと命令が下りてきているので……」

 

「下っ端が把握できるわけがねぇよな」

 

「すみません、艦長もこの件に関しましては十分な戦力を保有しているのに何故空の力を借りなくてはいけないんだ、と結構憤慨している様子なので」

 

「ま、そうなるわなぁ……」

 

 ―――本局の指示。それだけで何か政治的、もしくは何らかの意味があるという事は察せるが、その中身までは理解できない。ただ、

 

「―――消しに来たか? いや、ならなぜこのタイミングで? 違う……高町なのはという英雄を消す事は管理局としては悪手としか言いようがない。だから……発想の逆転して―――消す為に送った?」

 

「イスト?」

 

 口から漏らす言葉が物騒極まりない為声をかけると、イストが顔を持ち上げる。

 

「意図が解らねぇ。でも―――」

 

「―――何時も通り十全に、ですよね? ―――レイジングハート! セットアップ!」

 

『Setup』

 

 レイジングハートを握り、バリアジャケットの展開を一瞬で終わらせる。そして握ったレイジングハートは一瞬で姿を杖へと変化させる。視線は真直ぐデータとして存在する研究所の方向へと向ける。横でセットアップを完了させたイストの姿を確認し、レイジングハートを構える。

 

「どうせならハデに、だ。バレてるなら強いノックを決めてやれ」

 

「レイジングハート・エクセリオン、カートリッジロード!」

 

『Cartridge load』

 

 レイジングハートが姿を変え、槍に似た形状へと姿を変える。カートリッジを排出する姿を確認しつつ、矛先を上へと向け、そして魔力を一気に吐き出す。桜色の砲撃が細い放出口より放たれるため、丸い飲み込む形ではなく薄い、剣の様な形として吐き出される、

 

「砲撃剣、ディヴァイン・ブレイカー……!」

 

 膨大な質量を振りおろし、この位置から研究所の入り口を含めた、それまでの全てを両断し、吹き飛ばす。魔力を込めて叩き込む砲撃の斬撃は海を真っ二つに割り、それが戻るまでの間、通る為の入り口と道を作る。飛行魔法を発動させ、共に出来た道へと向かって突き進む。

 

「武運祈ります!」

 

 背後で敬礼をするセダンの存在を感じながら、作為性と不吉を感じさせる仕事へと挑む。




 なのは様覚醒第一段階、砲撃をぶん回す。発想はあっただろうに何故か原作ではやらなかった事。たぶんそれはどっかの金髪巨乳のフェイトそんとかいう生物のザンバーの株を奪っちゃうから(

 だから後でフェイトそんには残念系になる方向でテコ入れしましょう。

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