マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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 もうそろそろですねー。


ヒューマニズム

 最初の一撃で海ごと真っ二つにした違法研究所の入り口に入ると、イストが階段から降りる途中で動きを止め、そして振り返る。

 

「どうしたんですか?」

 

「ちょいと待ってろ」

 

 そう言うとイストはカートリッジを何本か取り出し、それを入り口周りに設置してゆく。設置を終わらせると横へと戻ってくる。

 

「なにをしたんですか?」

 

「一応入り口を吹き飛ばすんだよ。下のロックが普通に開く訳がないだろ? 内側に崩れる様に爆薬代わりにカートリッジ設置したから、岩とか使って入り口塞ぐんだよ。んで隙間は―――」

 

「―――魔法で塞げばいい、と」

 

「そ、プロテクションを使って放置するよりは魔力の燃費がいいからな、この方法。馬鹿魔力持ってないヤツの知恵ってやつよ」

 

「馬鹿魔力で済みませんでしたね!」

 

「だが許さない」

 

 そうも言っている間に、背後でカートリッジを爆破させ、入り口は爆破と共に内側に向かって崩壊する。既に十分な距離を離れていたため此方には爆風は届かず、ただ埃と岩の破片が落ちてくる。少々湿っているのはそれが海底にあったものだからだろうか。隙間はまだあるが、それでも十分壁と言えるだけのバリケードは出来上がっていた。それを手伝う様にイストと共に魔法で塞ぐ。帰り、此処から脱出する時は入ってきた時同様に海ごと吹き飛ばせばいいだけの話なのだ。だからある程度バリケードがしっかりしているのを確認したところで、階段を下りて床の上に立つ。やはり研究所というべきか、妙にメタリックなデザインをしている。そして、正面には分厚さを感じさせる壁がある。素早く調べる分には、それが上へと引き上げられて道を作る、シャッタータイプの扉であることは解る。だがどこにもコンソールパネルらしきものは存在していない。

 

 ならばやる事は一つしかない。

 

「えっと、これなら―――レイジングハート・ストライクフレーム」

 

「あー、この材質なら噛んだことがあるな―――フルンディング」

 

 拳撃と突撃。魔力の込められた二撃は目の前のシャッターを当たり前の様に粉砕し、向こう側へと道を開く。そうやって破壊された入り口を眺めつつ、二人で声を殺し、その向こう側の光景を見る。この入り口と同様、メタリックなデザインの研究所、通路が続いている。そこから枝分かれする様に別の通路、部屋へと続いているが―――存在する筈のものがない。

 

 歓迎―――即ち迎撃の意志。

 

 オートマタも、魔導師も、サイレンすらない。警戒という色がこの場所には一切存在していない。なのに研究所の奥からは人の気配がする。いや、させている。明らかにこっちを奥へ来るように誘っている様にしか思えない。その様子を眺めながら、レイジングハートを握る手を強くする。この通路は見る限り結構狭い。大型の機器を通す程度には広いし、レイジングハートのストライクフレームモード、それを振り回す事の出来る広さだ。だがここで十全なマニューバを取れるのは間違いなく近接特化の魔導師だ。自分の様な砲戦魔導師にとってはかなりやり辛い広さだ。

 

「……臭うな」

 

「……?」

 

 それは臭気じゃないって事が解るぐらいには付き合いはある。ただそれがどんな臭いなのかを共有する程長くはない。イストの漏らしたその言葉に軽く首をかしげ、前へと進む彼の後ろへと回り込み、後を付ける。彼が前衛である以上、彼が私の前に立ち攻撃を受け、そして背後から此方が必殺を叩き込むというスタイルに変化はない。軽い緊張感に包まれながらイストの二歩後ろについて歩く。口数は自然と減り、表情もふざけたものから真面目なものへと変わっている。既に展開を終えている義手にも思える様な鉄の腕をイストはにぎにぎとうごかしながら、

 

「俺毎回思うんだよな、こういう研究所の部品ってちょっと分解して持ち出してもバレねぇんじゃねぇの? って。売ったらそれなりに金になりそうだよな」

 

「あ、うん。シリアスになる事を期待してた私がバカでしたね」

 

 やっぱりいつも通りだと断定し、息を吐く。背後への警戒を怠る事はしないが、今ので大分自分の体の中から緊張感が抜けるのを自覚できた。それが狙ってのものか、狙わずのものか、それを判断する事は出来ないが、一種のペースメイキングなのだろう。わざと馬鹿をやり続ける事で常に自分という存在を崩さない。それがイスト・バサラという男のスタイルに違いない。いや、6隊全体のスタイルでもあると思う。

 

「ほら、さっさと探索進めましょうよ。待ち伏せされているんですから。その場合はイストが肉壁よろしくお願いします」

 

「おう、メイン盾は砕けないって名言を知っているな貴様」

 

「えぇ―――内側から叩いたらどうなるか解りませんけど」

 

「お前、俺ごと敵を撃ち殺すつもりだろ……! 鬼畜! 砲撃厨! ツインテールの悪魔!」

 

「ちょっとだけやりたくなってきた」

 

 だが実際の所、そんな事はない。最近ちょっと一発位なら誤射かもしれないとか絶対に思っていない。断じてそんな事はありえない。だってわざと誤射するなんてキチガイの極みではないか。

 

「ま、まずは部屋を一つ一つ確認、だなっ!」

 

 近くの扉をイストは蹴り飛ばしつつ中へと侵入する。拳を構えて入った直ぐ後に続いて中に入る。中に人の気配は感じられなかったが、それでもオートマタやセントリーガンが設置されている場合はある。故に突入の瞬間はどういう部屋であり、常に戦闘の用意ができていなければならない。幸い、この部屋にそういう障害はなかったようだ。

 

 存在するのは無数の円形のガラス、ポッドの様な装置だった。その中に何かが浮いているように見える。そしてそれがなんであるかを確認しようと目を凝らした瞬間―――視界が闇に包まれた。その感触からそれが制服の上着だと気づくには数瞬かかった。

 

「ちょっと、何をするんですか!」

 

「なのはちゃん、プロジェクトF関連の施設に入って研究を見たことあるか?」

 

「……ほんの少しだけなら」

 

 本当に昔、懐かしい話だ。

 

「じゃあ、内臓とか脳とかのグロ系に耐性はあるか?」

 

 その質問の意図を悟った。おそらく、あまり見ても気持ちのいいようなものが目の前にはないのだろう。というよりも今宣言した通りの物が存在しているに違いない。だから頭にかぶらされている上着を取って、イストへと投げ返す。

 

「大丈夫ですよ。吐いたりしませんしショックにも思いません。それはたぶん同じ技術で生まれてきたフェイトちゃんにも失礼な事ですから」

 

 そう言ってしっかりと浮かび上がり姿を見る。まず一番近くにあったのは皮膚の無い人間だった。次には内臓のみの人間、首だけの人間と、そういう風に欠損の多い者がひたすら浮かび上がる、そんな地獄のような部屋だった。言葉ではしっかりとは言ったが、それでも初めて見る凄惨な光景に衝撃は隠せない。軽く太ももを抓り、痛みで軽く乗り切った所でイストへと視線を向ける。

 

「それよりも何時もの軽口はどうしたんですか?」

 

「あぁ、なんだ? 寂しいのか、このいやしんぼめっ! 俺のトークが体に染みついて忘れられない体になったか……!」

 

 これで何時ものノリだと思う。イストの足にローキックを決めてからレイジングハートを近くの端末へと向け、情報の洗い出しを開始させる。その間にイストの部屋は探索を開始する。イストの憶測では既に相手は此方の事に感づいていると予想している。だとすれば、

 

『No data found』(データが見つかりません)

 

「ん、有難うレイジングハート」

 

 やはりデータは存在していなかった。ここに到着する前に既にデータの削除は完了していたという事だろう。此方の仕事は終わったのでイストの方へと向けば、軽く祈りを終わらせたイストが装置の電源を切っている様子が見えた。そういえば前、話で元はベルカの司祭の家の出だと言っていた。何の因果でこんな事をやっているかは解らないが、此処にいる生まれられなかった命たちを断つ為にはぴったりの人物かもしれない。……いや、待て、これだけふざけた人物がここだけマジメってのはありなのか。

 

「むう」

 

 ちょっと思考回路がおかしくなっているかもしれない。今日が終わったらゆっくりと整えよう。たぶん、ショックが抜けきっていないのかもしれない。……いや、確実にそうなのだろう。だからゆっくりと深呼吸し、周りを窺いながら部屋の外へと踏み出す。入ってきた時同様、通路には何もない。罠も、そして待ち伏せもない。拍子抜けするほど何もない研究所。

 

 ……それでも感じる。

 

 視線を。

 

 確実にどこからか見られているという感覚が体を貫いている。それをもう一人は気づかないわけがないだろう。こういう事に関しては遠距離攻撃に特化している自分の方が詳しいと思うが、それでもここまで露骨な視線を感じ取れないわけがない。そしてそれを理解してて黙っているという事は、何かあるという事を理解しているのだろう。おそらくだが、こういう場合―――相手は己の力に対して自信がある、というのが良くあるケースの話だと聞く。だとすれば簡単な話だろうが、如何なのだろうか。

 

 言葉では言い表せられないような不気味さがここにはある。

 

 まるで悪意が渦巻いているような、そんな気がする。

 

「んじゃトレジャーハントを続けますか」

 

「あ、どさくさに紛れて盗もうとしたら容赦なくバインドするので」

 

「仲間を売る事が出来るぐらいに強くなったなのはちゃんが頼もしいと思えると同時に少しだけ寂しいとお兄さんは思います」

 

「知ーりーまーせーんー!」

 

 腕を振り上げて存在をアピールするが、それを鼻で笑ったイストがマーカー代わりに壁を軽く指で抉り、傷痕をつける。その後を追いながら、研究所の更に奥へと向かって歩いて行く。その頭に浮かび上がる疑問は色々とある。たとえばその一つはこの人員の数だ。

 

 この規模の研究所であれば武装隊の投入が現実的な話だ。なのに突入を任されているのは二人だけ。

 

 ……やはり、普通にはいかないのだろう。

 

 せめて覚悟だけでも、と腹をくくりながら歩みを進める。

 

 

                           ◆

 

 

「―――さて、予想通り来てくれたね」

 

 巨大スクリーンに移る二つの姿を眺める。もちろん、それは自分が今、存在している研究所、その通路を歩いている二人の魔導師の姿を捉えている。赤髪、長髪を尻尾の様に纏めるサングラスの男と、ツインテールに白いバリアジャケットの少女。警戒しながら進んでいるのは此方でも見える。一々全ての部屋をチェックしているから歩みが遅いのも理解ができる。だけど、こうやって待っている身としては実に暇だ。

 

「うーん、これはラスボスっぽく奥で待ち受けるってシチュエーションは諦めよう! そう、最近のラノベでも魔王って意外と近所のコンビニをブラついているらしいし、ここは私もダンジョン内をランダムエンカウントするべきじゃないかなぁ!?」

 

 後ろへと振り返ると、そこには幾つかの姿がある。そのほとんどが嫌悪の視線を向けて視線を逸らすが、一人だけ困った様子で頬を書きながら答える姿がある。

 

「いやぁ、ラスボスがダンジョンでランダムエンカウントしたらクソゲー認定じゃないかなドクター。あぁ、でも最近のクソゲー認定も結構ハードルが高くて、最低でもフリーズするバグが20種類は発見されないとクソゲー認定はされないとか」

 

「それはクソゲーではなくバグゲー認定ではないのかねぇ」

 

「ちなみに今年のクソゲーナンバー1認定はチュートリアルのモンスターがラスボスで、そこで倒されるとゲームオーバーという内容。しかもそこに到着するまでに乱数の問題でバグ100種類とか」

 

「開発者それ狙って作っているよね? ―――実に話が合いそうだ!」

 

 ですよねー、と呟く男の姿を無視して再びスクリーンへと視線を向ける。

 

 あぁ、間違いない。

 

「私を殺す為に送り込んできたね老害諸君!?」

 

 送り込まれた二人相手なら確実に自分が逃げないで”遊ぶ”という事を確実に見抜いてきての人選だ。見事しか言いようがない。脳味噌だけになっても悪意のある考え方であれば鈍らないらしい。たしかにこの人選であれば遊ぶしかない。というか遊ぶ以外の選択肢を選べない。復讐に燃える男と管理局で今、最も注目されているストライカー級魔導師。

 

「彼らで遊ばなきゃ欲望なんて称号がクソの様なものになってしまうね」

 

 丁度その為の手駒は出来上がっているのだ。丁度招待状を送ろうとさえ思っていたのだ。本当ならもっと効果的にやりたかったのだが―――まあ、仕方がない。今回のテーマは実にシンプル、主役は残念ながら準備不足でエース・オブ・エースにはならないが、

 

「―――欲望の為に家族を殺せるか」

 

 シンプルにそれだけだ。

 

「これだけのデータを提供してくれたんだ―――ならそのお礼を兼ねて遊ばなくてはなぁ。あぁ、そうしないのは実に不誠実ではないか」

 

 そして笑う。

 

 どう転ぶのであれ―――それはどれも人間らしい結果となるだろう。




 実は一人を除いて、クローン元の人物たちが一同に集まったイベントってのがあるのよね。

 そんなわけで欲望1号さんが楽しそうです。だけどちょっとキチ具合が足りないと思うのでプロットに修正加えてきます。

 あとライザー剣とか言われたので艦隊のアイドルのファンやめてくる。

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