マテリアルズRebirth   作:てんぞー

42 / 210
 今回は心理描写メインであんまし状況動いてませんね。

 そしてたまには王道らしく。


ハロー・セイ・ザ・ドゥーム

 痛い。

 

 焼けつくような痛みが全身を襲う。それでも意識を失わないのは確実に鍛錬のたまものだろう。日ごろから重ねてきた鍛錬が無防備であれど、命を救っている。特にこの数ヶ月は狂ったように体を鍛えている。そのおかげもあって前よりは少しだけ強くなった自信もある。何よりもベーオウルフが此方の魔力を勝手に使って生存モードを起動している。魔導師が意識不明か行動不能の際に勝手に自立稼働し、自己判断で魔導師を保護するモード。それが今までの戦闘の傾向から一番的確な防御と強化と回復魔法を使ってくれている。だがそれも魔力というリソースが底を尽きれば終了だ。それでも暫くは持つだろう。何せ魔力Aとは管理局でもそこそこ上位に入る部類だ。才能に恵まれなかったからストライカー級は夢に終わったが、それでも騎士クラスとしては十分な実力者だ。

 

 ―――あぁ。

 

 どうしようか。

 

 口から血反吐を吐き、壁に背を預けて言葉にならない言葉を呟く。友を取るか、家族を取るか。結局のところはその二択で終わってしまう。何も見ず知らずのクローンを殺せと言う程簡単な話ではないのだ、これは。此方へと向かってルシフェリオンを手に歩いてきているシュテルは、一年前に拾ってきたシュテルと出発点としては何も変わらない少女。あの花瓶を振り上げて王様を守ろうとした可愛らしい少女と一切変わりがないのだ。平和な生活に投げ込めば魔力を握る杖も帳簿をつける為のペンに変わって、戦闘のために使う魔力もイタズラをするための道具に変わってくれる。その未来が確実に見えている。養えるか、とかそういうのは全く問題じゃなくて、そういう可能性が広がっているのだ。―――そして大人としちゃあその可能性を殺してはいけない。未来を創るのが大人という存在の仕事だ。俺もまだ19歳で、それこそどこかの世界じゃ大人とは言えない年齢かもしれない。だがこの世界、俺の世界、ミッドでは十分大人と言える年齢だ。だから……俺にも子供を守って、そして未来を作ってあげる義務はある。

 

 だけど―――。

 

 

                           ◆

 

 

「遺言だ―――”ティアナを頼む”と」

 

 

                           ◆

 

 

 ……頼まれちゃったんだよなぁ。

 

「げほっげほっげほっ」

 

 一撃目でどうやら内臓を浅くだが傷つけてしまったらしい。流石にゼロ距離からの砲撃を何度も叩き込まれればどうもなるか。幸いだったのはアレが純粋な魔力砲撃ではなかった事だ。炎熱変換のせいで余計に痛みはあるが、体を貫通するように放っていない。耐熱術式をバリアジャケットに予め組んであるのが功を奏した。おかげで致命傷には至らない。―――いや、相手が手加減しているのも最大の要因だろう。

 

「……っどう、しよっかなぁ……」

 

 真剣に悩む。あの外道は殺す。何に変えても殺す。それだけはこの存在全てと引き換えでもなさなくてはならない。それは生き恥を晒している身として全力でやらなくてはならない事―――約束だ。交わした約束は絶対に果たさなくてはならない。何よりも、これは一人だけの約束じゃない。

 

 

                           ◆

 

 

「―――殺してよ! 兄さんを殺した奴! まだアンタが生きているんだったら捕まえて殺してよぉおおお―――」

 

 

                           ◆

 

 

「は、ははは……」

 

 呪いの様に生きているなぁ、と思う。

 

 アレが子供の感情が爆発した言葉だってのは知っている。それが本音じゃないって事も解っている。アレはやりきれない感情だったんだ。誰かに当たらなきゃ心が壊れてしまうようなショックを逃がすための方法だった。そして俺は生存者で、死亡したのは彼女の兄。だったら唯一生き残った俺に当たるのが普通だ。だからいい、ティアナはアレでいいんだ。彼女は何も悪くはない。―――怒りってのは一時的に狂っているのも同義だ。だからアレは間違っちゃいない。

 

 だけど、

 

 その兄から妹の面倒を託された。復讐を約束した。殺せって言われた。ほら、兄妹で言葉が揃っている。ならその約束を果たさなくてはならない。でも、でもだ。

 

 目の前にいる少女を殺せば―――それは家族を殺した事と同義になる。

 

 いや、正確には違う。家族を自分の目的の為なら”殺せる”という事になってしまう。そんなの絶対におかしい。あってはならない。存在してはならない選択肢なのだ。あの少女も、この少女も、ここで終わらせてはならない。なぜなら、

 

「―――まだ迷っているのですか」

 

 ルベライト。シュテルがそう呟くのと同時に体は再びバインドによって拘束されて浮かび上がる。抵抗する気のない此方へとルシフェリオンをシュテルは付きつけると、吐き出す様に声を上げる。

 

「ふざけないでください……!」

 

 砲撃が放たれた。ベーオウルフが張ったプロテクションはデバイスが処理能力に任せて張ったものだ―――魔導師が張った時の様な柔軟さはない。故にそれは砲撃受けてあっさりと消し飛び、身体は炎を受けて焼きこげながら吹き飛ぶ。何度も地面を転がりながらやっと動きを止めた体は、そこで軽くシャッターへとぶつかる。そこでようやく気付く。

 

 あー……こんな所まで戻ってきたのか。

 

 血が流れ過ぎたせいで大分頭が冷えて来たらしく、ゆっくりとシャッターを眺める事なんてできた。そこに開いた穴が自分の腕が貫通させたものだという事を確認しながら、体を軽く持ち上げ、その向こう側の光景を見る。そこからは一つの光景が見えた。

 

「―――っ!」

 

「ほらほら、どうしたんだ! 僕のオリジナルのライバルの実力はこの程度なの?」

 

 水色の閃光がデスサイズの形をしたデバイス―――バルフィニカスを手に、壁や天井を足場に、瞬発と加速を繰り返しながらなのはへと接近と離脱のヒット&アウェイで襲撃していた。それに対してなのははストライクフレームモードのレイジングハートを構え、背を壁に預ける事で水色の閃光、レヴィの攻撃角度を制限していた。アクセルシューターを弾幕として張りつつ応戦しているため持っているようだ―――なのはの近接戦における技量はレヴィには遠く及ばない。

 

 レヴィが少しずつなのはへのラッシュを加速させているのは目に見えている事実だ。

 

 だからこそ体は動ける。

 

「……!!」

 

「イスト!」

 

 シャッターを突き破りながら一気にレヴィとなのはの間に割り込む。背中に一撃、レヴィの斬撃を受けるがそれは反射的な【防御】のおかげで浅い斬撃に終わる。そのままなのはを抱きかかえ、素早く魔法を発動させる。発動させる魔法に迷いはなく―――それは転移魔法。

 

「逃げるつもり!? かっこわるいよ!」

 

 レヴィの声が聞こえ、

 

 そして、

 

「―――戦う事は出来なくても守る為なら動けますか。いいでしょう。どうせそう遠くには逃げられません。追いつめるまでに覚悟を決めておいてください―――次は殺します」

 

 シュテルの言葉を耳に、一気に転移する。

 

 すぐさま視界は切り替わり、あらかじめチェックしておいた、研究所の入り口近くのポイントへ転移する。下層よりは通路は狭いが、そのぶんシュテルとレヴィも同時に襲ってくるには難しい場所だ。息を吐き出しながら腕に抱いたなのはを解放する。

 

「イスト、傷が……!」

 

 

 近くの壁にもたれかかると、少し離れたなのはがバリアジャケットと、自分の顔に付着した血を確認して此方の様子に気づく。だから心配させないためにも魔法を使って回復を開始する。幸い火傷も裂傷もどれもそう深いものではない。時間さえあれば簡単に塞げるものだが―――そこまでの時間は許されていない。それよりも、

 

「なのはちゃん、お前逃げろ」

 

「え?」

 

「ちょっくら特攻かますわ」

 

 フルドライブモードで生存の為に全魔力を回した状態ならシュテルもレヴィも生きたまま突破できるはずだ。あとはその状態からあの屑に一撃を叩き込めばいい。問題はあの屑がそれなりにできる魔導師だった場合、一気に俺が詰んで死んでしまう事だが、そこらへんは賭けだから仕方がない。自分の命にそこまで横着する事はない。が、怖いのは友との約束を果たせない事だ。約束を果たせないのであれば死んでも死に切れない。

 

「駄目です! そんなボロボロの体じゃあ……!」

 

「―――えぇ、そんな無謀な事は止めた方がいいですよ? あのドクター、何時でも転移する準備は完了していますから特攻なんてした日には喜びながら目の前で姿消しますよ」

 

「僕も王様もあの人嫌い」

 

「むしろ好きな人がいると思いますか?」

 

 そう言って通路の奥から現れたのはシュテルとレヴィの二人組だった。そこにスカリエッティの姿はない。おそらくあの場から動かず此方の様子を見ているのだろう、忌々しい。今すぐあの首を握りつぶしたい。その執着の為だけに今は生き残っているのだ。だが―――その代償が家族と言われた場合、どうしても動きは鈍ってしまう。

 

 だがそれとは別にもう一つ困惑する存在もいる。

 

「―――私……?」

 

 なのはが自分とそっくりの少女を見て驚きの声を漏らす。シュテルはなのはの方を見ると、頭を軽く下げる。

 

「どうも初めまして高町なのは。あなたのDNAを元に作られたクローン、そして闇の書のマテリアルを参考に作られたシュテル・ザ・デストラクターと申します。私のオリジナルと出会えたことは光栄ですが、正直な話貴女にはそこまでの執着はありません。イストを殺した後で貴女は殺しますのでゆっくりレヴィの相手でもしていてください」

 

「シュテるんシュテるん! ぶっちゃけ彼女弱いよ? たぶんフルドライブモードなら一気に殺せるんじゃないかな」

 

「なっ……!?」

 

 なのはあまりにも殺伐とした内容の会話に驚愕を示していた。自らのクローン、殺す事が前提の会話、それはあまりにもなのはの知っている常識から外れた会話内容だ。正直に言えば、今ここで混乱したまま逃げてくれれば幸いだ。そうすれば、一人になれる。そうすれば色々とやりやすい所はある。

 

 が、

 

「―――首都航空隊第6隊規則第三条、まずはぶん殴って、捕まえてから考えろ……です!」

 

 ずいぶんと逞しくなったなぁ、と思って、身体の動きを止める。こんな状況で、何もしがらみを持たない後輩の身が羨ましく、そして頼りになる。いや、彼女にも多くあるのだろう、ただそれを見せないのか―――飲み込んで前へ進んできただけだ。

 

「貴方はどうするのですかイスト」

 

 シュテルは此方を見て、そしてルシフェリオンを構える。

 

「貴方の後輩はこうも勇ましい姿を見せていますよ―――それが逃避であるかどうかは別として。その姿を前に貴方はまだたたらを踏むのですか?」

 

 あぁ―――そうだ。ここでも体は動かない。戦う意志を見いだせない。

 

 だって、普通に家族を殺せる奴なんているか。

 

 別人? 姿が一緒?

 

 ふざけるな。

 

 それだけの理由で十分すぎる―――一体どれだけの人間が別人として割り切って戦えると思うのだ。そんな事を判断できるやつなんて英雄と呼べるような精神異常者達だけだ。俺はそこまで狂っていない。そこまで狂えちゃいない。だからどう足掻いても無理だ。目の前の少女を殺す事は、不可能に近い事だ。だが、それでもやらなくてはならない事がある。だからこそ残ったのは特攻という選択肢。

 

「―――じゃあ、言わせてもらいましょう」

 

 シュテルは此方へと視線を向け、ハッキリと表情を浮かべた。

 

 それは―――笑みの表情だった。

 

「なにをやっているんですかイスト。全く馬鹿馬鹿しい。別に殺されたって文句を言いませんし恨みもシマセンヨ。だって私達はこんなにも幸いを与えられたんですから。それよりもくだらないクローンとかにこだわらずデバイスの一つでも奪ってくる気概位見せてくださいよ。馬鹿みたいに熱くなってしまって。そういうのキャラじゃない筈ですよ」

 

「……は?」

 

 それはあまりにも似すぎていた。我が家で馬鹿をやっている少女に。だから思わず笑い声が漏れそうになって、戦いの最中であることを忘れそうになって、そして黙っていてくれるレヴィにもなのはにも感謝しなくてはならない。何も訊かずに待っていてくれるなのはと、そして邪魔をせずに見守ってくれているレヴィに。

 

「……と、貴女の家にいる私なら言うでしょう。どうでしょうか、データだけは無駄に揃っていますので見事再現してみたシュテル・スタークスの発言は」

 

「……あぁ、すげぇ似てた。超似てた」

 

 ただ、

 

「ウチの家にいるやつの方がもっと馬鹿っぽいなぁ……」

 

「そうでしたか」

 

 はぁ、と溜息を吐く―――別人、別人。そう呟いても目の前の少女がどういう存在であるか、それを変える事は出来ない。そして目の前の少女の発言で、一気に見えるものも変わってきた。あぁ、そうだ……少しばかり血が頭に上っていたのかもしれない。

 

 本当に大事なものとはなんだろうか。

 

 それを守ろうとする意志とは。

 

 そして、それを守るために必要なものとは。

 

 胸のペンダント―――待機状態にあるデバイスに触れる。

 

「―――待たせたな」

 

 壁に寄り掛かるのを止める。ここからは立てる。理由付けは終わった。覚悟は―――解らない。たぶん後で泣く。男でも泣くときは泣く。ただ隠れて泣くだけ。そう、もっと馬鹿になろう。馬鹿な先輩なのだから。もっと馬鹿で、破天荒で、そして体を使って守る。あぁ、そうだ。そういうやつじゃなきゃいけないんだ。

 

「ベーオウルフ―――」

 

『Jacket reset』

 

 バリアジャケットを張り直すのと同時に首にぶら下げたペンダントを引きちぎる。

 

「―――ウィズ」

 

 それが手の中で姿形を変えて、そしてやがて銃の形へと完成する。片手で握れるハンドガン。少々無骨ながら、大口径のソレは本来自分のものではなく、とある死者の所持品。忘れない様に常に持ち歩いていた遺品。

 

「タスラム」

 

『Good morning sir. Ready now?』(おはようございます、もう準備は良いんですか?)

 

「―――”なのは”、レヴィを殺れ。シュテルは俺が殺る」

 

「殺るとか殺れとか激しく物騒なのであえてそこはスルーしますけど―――私が軽くレヴィちゃん? を捕縛したらそっちの子も捕まえに行くので覚悟しておいてください。あ、あとそれ終わったらイストにも軽く一発ぶち込んで話を聞く予定なので」

 

「出来るもんならな」

 

 闘志は、ある。―――戦える。

 

「吠えてくれますね。生かして捕まえるつもりですか―――それが無駄だと教えましょう。どのような結末であっても」

 

「ま、どうせ僕ら使い捨てだもんね。それでもしっかりやっちゃうところが僕らのダメな所なんだけど。あーあ、羨ましいなあ、もう一人の僕。同じような生活がしたかったなぁ」

 

 心に突き刺さるような言葉を放ってくるレヴィの顔には笑みが浮かんでいる。おそらく意図的に此方に刺々しい言葉を使ったのだろう。そしてその言葉に対する反応を見て、レヴィはニヤリと笑みを更に歪ませる。

 

「シュテるん、ちょっと交換しようよ。ほら! クローンお約束のオリジナル超えやろうよ!」

 

「駄目です、この悲劇のヒロインポジションは私の物です。貴方は端役としてエースとの対決で我慢しておきなさい」

 

「シュテるんのバカぁ―――!!」

 

「それよりも私が端役なんて聞き捨てならない事が聞こえたんですか」

 

 お前ら仲がいいなあ、と思える程度には心が持ち直せた。あぁ、本当に―――、

 

「では―――」

 

「―――早い者勝ちって事で!」

 

 ―――糞だな。




 マテ子の活躍があるのに誰も喜ばない。皆まだまだ? って聞いてたから喜ぶと思ったのに解せぬ。我が儘だなぁ。良い、いいだろう。もっと活躍すればいいのだろう? そんなわけで次回をお楽しみに。

 ワシの絶望ストックは108個あるぞ。

 そんなわけで、誰を殺して、なぜ殺さなきゃいけないのかってお話です。

 なのはちゃん、まだそこまでスレてないから大丈夫ですかね(棒

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。