マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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Chapter 4 ―Truth Or Happiness―
ファースト・デイ・アウト・トゥゲザー


 ―――やっぱり入院は確定していた。

 

 戻ってきた次の日に病院へと向かえば再び医者より絶対安静の指示が与えられ、病院に一か月間拘束される事となった。だが今回は前と大きく違う事があった。もはやマテリアルズを隠している事が無駄という事が発覚したので、普通に見舞いに来てくれるようになった。未だに外へ出る時は変装を忘れないが、それでも前と比べて普通に歩けるようになったのは大きな違いだ。

 

 だからと言ってテンションのあまり朝に出かけて夜までミッドを走り回っていたレヴィを許す気はない。

 

 ―――そんな事もあって、一ヶ月が経過した。退院と同時に襲撃される事もなく、なのはとシュテルが病室で会うなんてイベントも起きる事なく、普通に入院生活が終わって退院して、そして我が家へと戻ってくる。左半身の火傷はあっさりとバレ、隠しておきたかった殺人の事もバレ、そして風呂場での話し合いもバレ、

 

「俺の精神はボロボロだよ……」

 

「わっはっはっはっは!」

 

 ソファでぐったりと倒れる此方の背中の上に座って高笑いする水色がいる。だが今はそいつを無視しておく。入院中にもあったが、色々と考えておかなくてはならない事があるのだ。ともあれ、一番やらなくてはならない事が自分の強化、パワーアップだ。だがこれに関してはほぼ頭打ちだ。何せ適性に関してはほぼ開発している以前に、自分のスタイルが極まってしまっているのだ。これ以上出来る事と言えば自分の技術を磨くことぐらいなのだ。だがその技術に関しても武術を教えてもらった師は既に墓石の下。教われる事はほぼすべて教わったからこそいいもの、これ以上何かを目指そうとすれば、指針が必要になる。

 

 ―――たとえばあの緑の覇王の様に。

 

 あの王の姿は嫌という程に鮮烈に刻まれている。だから受けた一撃一撃はしっかりと記憶しているし、ベーオウルフにも記録されている。それを見て、資料や無限書庫で調べて色々と確認したりして自分なりに使える様な形に持っていったりもした。次に殺し合うために色々と対策やら模倣やらは出来ているがそれも正直な話、奇策程度にしか通じないのではないかと思っている。結局の所手を広くやろうとすれば広くすればするほど色々と取りこぼしてしまう。もっと狭く、もっと鋭く、もっと脆くならなきゃいけないのかもしれない。

 

 だとすれば、自分の求める極地は一体何なのだろうか。

 

 砕けない盾なのか。

 

 倒れず蘇り続ける不死身なのか。

 

 もしくは―――。

 

「ぬごぉー」

 

「ぺしぺしぺし」

 

「レヴィー? あまりぺしぺし叩くとイストが可哀想ですよ?」

 

「いいぞユーリ、その調子でこの水色を引きはがすんだ」

 

「駄目だよ! イストは馬鹿にならないとたくさん無駄に考えちゃうんだから僕ぐらいにならなきゃ」

 

「あぁ、じゃあいいですね」

 

「クソぉ! このガキ共最近セメント率上がってるぞ!」

 

「正直最近遠慮してたらシュテルに全部持ってかれる感があるのでだんだんですが自重外した方がいいんじゃないかなぁ、何て思い初めまして」

 

 ユーリまでがこうもなってくると本格的に我が家に絶望が舞い降りてくる。やはりどの社会でも女性が強いのには変わりはないのか。もう少しヒエラルキーのトップでいたかった。だがこうやって引きずりおろされたからには仕方がない。貴様らのお小遣い―――と思ったが、そういえばお金の管理はシュテルへと任せていた。台所も最近はめっきりディアーチェに。ヤバイ。お金を稼ぐ事以外で家に役に立ってないぞ俺。

 

 何とかしなきゃいけない、と思ったところで―――思い出す。

 

「あ」

 

「い? ―――わわわっと!」

 

 立ち上がり、背中からレヴィを振るい落としながらやるべき事を思いつく。そういえばそうだった、と軽く何故今の今までその存在を忘れていたのだろうか。……いや、おそらくは意図的に思考から外していたのだろう。自分としても苦手な意識を持つ存在がそこにいるのだ。立ち上がり、軽く頭を掻きながら近くに置いてあるサングラスとベーオウルフ、タスラムを回収する。ちょいちょい、と指でキッチンの向こう側にいるディアーチェへと近づいてくるように指図をする。その恰好をチェックする。

 

「な、なんだ。我の服装に文句があるのか」

 

「いや、文句はねぇよ。というか相変わらず凄まじいクオリティだな、それ。手作りだろ?」

 

 ディーアチェの服は上下黒のスカートにシャツという姿だが、そのどちらも店に販売されてそうなクオリティなのに手作りだというのだから凄まじい。かくいう自分もそのディアーチェの服飾のセンスというか腕前を信じてしまっているので、最近はめっきり服を買うのを止めてディアーチェに作ってもらっている。ともあれ、十分な格好だ。

 

 サングラスを装着しながらバイクのキーを取る。

 

「んじゃディアーチェ行くぞー。他のお前らは大人しくしてろよ? ちゃんとユーリの言う事を聞いておけよ? 出かける場合はしっかりメモを残せよ? あぁ、たぶんメシは食ってくるから俺達の分はいらねぇよ」

 

 片手でベーオウルフにメールプログラムを立ち上がらせ、そしてホロウィンドウを操作して軽い連絡を飛ばす。向こう側に驚きはあるものの、快い返事が返ってくる。悪くはない掴みだ。

 

「そこで私の名前が出てこない所に激しく不満なのですが」

 

「お父さん、全裸で告白してくる子はちょっと」

 

「……なるほど全裸で告白はNGと」

 

 しっかりとメモしているユーリの姿に若干の不安を感じながらもまかせるしかない。現状この家の最強戦力は間違いなくユーリなのだから。何せ―――完全に手段を選ばず本気で襲い掛かっても自分が倒せない存在こそが彼女なのだから。これ以上頼りになる存在はいない。そんなわけで家を留守にする場合は信頼を完全にユーリに預けている―――この中でも比較的にまともな方だし。

 

「んじゃ、行くぞ」

 

「ちょっと待て、我を連れて行くのは正直いいが、いったいどこへ行くのだ? 場所によっては我は覚悟を決めぬばいかぬぞ?」

 

 そんな必要はない。ちょっとだけ先輩に会いに行くのだから。

 

「行く場所はナカジマ家だ」

 

 

                           ◆

 

 

 バイクを飛ばして一時間ほど。途中で管理局員としての権限を無駄に発揮させながら到着するのはミッドチルダ西部、エルセア地方。その都市部にある住宅街にナカジマ一家の家はある。基本的に陸士108隊の隊舎に近い為ゲンヤは実家からの出勤という事になっている。だから休日は基本的に家にいる事が多い。今日は共通の休日で良かった―――というよりこっちは退院したばかりでまだ職場に復帰できないだけで、あっちは週日に得た普通の休みだ。少し悪い事をしているかもしれない、と思いつつもナカジマ家近くのパーキングにバイクを止め、降りる。

 

「ぐぬぬぬ、すこし尻が痛いぞ」

 

「あぁ、バイク乗り慣れてないとそうなるわな。基本的に車みたいに自由に姿勢を変えられるわけじゃないからな」

 

 ディアーチェからバイクのヘルメットを回収するとディアーチェが少しだけ涙目になりながら自分の尻をさすっている。誰かや誰かと比べると大分女の子らしくてかわいいなぁ、と思いながらヘルメットをバイクにしまい、鍵をかける。プレシアの件でバイクを爆砕されてしまったのでこれは前よりも少しだけいい、二代目バイク。今度は襲撃で壊れないといいなぁ、と思いつつも荷物を取り、ディアーチェへと向く。

 

「お尻さすってあげようか?」

 

「セクハラで訴えるぞ馬鹿め」

 

「あ、うん。普通はそのリアクションだよな」

 

「むしろ他の連中が男前すぎるのであろう。レヴィはテンションに任せているし、ユーリは我が思っているよりも腹黒いし、そしてシュテルはなんだか最近母性に目覚めているし。ちょっと我、アレらとキャラで比べられるのはいやかなぁ、とか思ってたりもするんだが……だから、その……あまり恥ずかしい事を言わないでくれると助かる」

 

 そう、こういう風に恥じらう普通の少女のリアクションだ。そういう仕草や表情が可愛いのだ。だがあの三人にはそれがない。というか一番男前なのはレヴィではないのか。アレ、裸のままリビングをうろつこうとするし。いや、単純に無防備なだけか、アホなだけだろう。そうだと信じさせておくれ。

 

 ともあれ、バイクから離れてディアーチェと共に静かな住宅街を歩く。

 

 歩道のすぐ向こう側にナカジマ家がある為迷う可能性はまずない。両側を確認してから歩道を渡り、逆側へと到着する。そうすればもう目的地は目の前にある。外に備え付けてあるベルを押す前に、自分の髪を軽く整え直す。そして右手に紙袋を持ち、そして左腕を確認する。今まで右手に装着してきたベーオウルフは左腕の火傷を隠す為に左手に装備しており、そしてその姿もオープンフィンがグローブからフルハンドグローブへと姿を変えている。5月にもなると少々熱くなってくるが、それでも体を隠す為に長袖は外せない。自分の恰好がちゃんとしたものだと確認し、そしてベルを押す。

 

「……っ」

 

 チラ、っと横を確認すると少しだけ緊張したディアーチェの姿が―――あぁ、と軽く思い出す。そういえばちゃんと誰かに会わせたり紹介するのは今回が初めてなのだ。だとすれば緊張するのも仕方がない話だろう。緊張をほぐす意味でも軽く頭を撫でる。髪の毛をめちゃくちゃにしない程度の優しい撫でをディアーチェは受け入れて、

 

「いい、それ以上は平気だ」

 

「ん、そうか」

 

 満足げな表情を浮かべるので頭を解放して待っていると、数秒後に扉が開く。

 

「よぉ、早かったなイスト」

 

「ども、お世話になってますゲンヤさん。あ、これお土産で。スバルちゃんやギンガちゃんと一緒にどうぞ。ウチの近くの店のケーキなんですけど食ってみて結構気に入っているんで」

 

「お、悪いな。べつにこういう点数稼ぎ俺にやっても面白い事はねぇだろうによ、っとなんだ、お前もいたのか」

 

 そう言ってゲンヤはディアーチェを見る。

 

「まあ、イストとはウマは合いそうだよな八神……ん? お前髪を染めたりしてイメチェンでもしたのか? なんだか若干目つきも悪い気がするしな。それに八神っつーには……ん?」

 

 ゲンヤの言葉にディアーチェは腕を組んで胸を張る。

 

「我をあのような子烏と一緒にするではない。我は生まれた時より王、あのような未熟な者とは違う。我が名ディアーチェ・K・B・クローディアである」

 

 と、そこまで言って、ディアーチェが姿を固まらせる。その様子はつい何時ものノリでやってしまった、と言わんばかりの表情だった。だがまあ、それはそれで説明の必要は大分省けたと思う。何せ自分が知っているゲンヤ・ナカジマという男は、仮とはいえ俺がこの世で一番信頼していた相棒の師匠でもあった人物なのだ。

 

「……スカリエッティ系列の研究所で拾った子です」

 

「その言い方するとウチのじゃじゃ馬共が”なんなのか”を把握してやがるな? 吐け、何時からだ」

 

「正直な話、身体の中に機械的な部分があるな、とは前教えに行った時に感じたので。入院中割と暇だったんで、スカリエッティの名から過去の悪行やらやっている分野を調べて、それに関わっている事件や研究所、そしてそれに―――」

 

「あぁ、なるほどなやり方と言いたい事は大分わかった。お前も頑張るなぁ……。ほら、中に入りな」

 

 扉をあけ放つと中へ入って来いとゲンヤが招き入れてくれる。その家の中は良く見るミッドタイプではなく、紹介された居酒屋の様な若干の”地球の日本スタイル”の玄関だった。玄関で靴を脱ぐ必要があるのはウチと同じだな、と感想を抱きながらディアーチェと共に家へと上がると、ゲンヤが家の中を案内しながら話しかけてくる。

 

「お前良くここへ来れたな。正直全部終わらせるまで来ないもんだと思ったぞ」

 

「いや、今スバルちゃんもティアナちゃんも学校でしょ? 覚悟決めておくんなら今かなぁ、と」

 

「あぁ、まあ、俺が見た感じティアナも本気で言ったつもりはなかったようだし、話せば意外とどうにかなるかもしれんし、悪くはないと思うぞ。まあ、帰ってくるまでの数時間―――この人生の先輩がお前の話を珍しくタダで聞いてやるよ。言っておくが俺はお前よりも大人だぜ? 存分に甘えな少年」

 

 やはり、こういう頼れる大人になりたいものだなぁ、と思う。




 相変わらず入院しているなぁ、コイツ。病院からしたらこっちくんなだろうし、保険からしてももう戦わないでって感じだろうなぁ。ともあれお疲れ様です。本当の地獄は後半からよ。

 ともあれ、ディアーチェの常識枠一強ぷりは何時になったら崩れるのだろう、陥落という意味で。

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