マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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 5000以下だと自分的基準で短い判定ですねー……。そんなわけで短いです。


ジョブズ・フォー・ワーカホリックス

 隊の部屋へと入室し、片手を上げながら挨拶をする。

 

「おはよう諸君」

 

 そして帰ってくる返事は解りきっている。

 

「お前どうしたんだ」

 

 だから答える。

 

「出会いがしらに砲撃叩き込まれた」

 

 そうするとあぁ何時もの事か、と誰かが言って直ぐに解散、全員が己の席へと戻って書類仕事やネットで遊び始めたりする。こうして、空隊第6隊の朝はまたやってくる。

 

 

                           ◆

 

 

 スカリエッティが動くとイングからの密告を受けても大きな動きとしては何かがある訳ではない。耳に届くのは小さな小競り合いばかりで、特に大きな事件らしい事件の発生もない―――つまりは首都の防衛を任務とする空隊もだいぶ暇になる。そしてそういう時期はたまにだがある。まるで一か月間なんの犯罪も起きない時だ。そういう時はグランドの申請をしたりして体を鍛えるか、大人しくデスクで腐るか、もしくはどっかへサボリに行くしかない。

 

 流石にそこまでコイツは慣れていなかった。

 

 足をデスクの上乗せる様に伸ばし、くつろぎながら本を読んでいると、近くのデスクに正面から顔を突っ伏すなのはの姿が見える。予想外に暇過ぎる結果、あんな風に何もできない状態へと突入したらしい。練習場の使用申請を今から出しても使用可能になるのは最も早くて明日、今日一日は別の隊が訓練の為に使用してしまっている。その為、普通に訓練する事も出来ずに倒れているなのはが出来上がった。表面上は大分砕けてきている。アレ程硬かった敬語はだいぶ抜けてきて、敬語は止めた。人によってはさん付けだが、自分の様に普通に接する相手も増えてきた。だがそれはあくまで表面的なものだ。まだまだ中身は真面目な少女だろう。

 

「仕事しないのも仕事なんだけどな」

 

「むしろ俺達に仕事は来ちゃいけないもんなんだけどよっ、と」

 

「おい」

 

 そして同僚が堂々とデスクの上に座ってくる。そして投げてくるものは―――ビール缶だ。そいつの手には既に封の空いているビール瓶が握られており、酒の臭いが軽くだがする。こいつ、今飲み始めたのではなくて少し前から飲んでいるな、とアタリをつけておく。ビールを此方へ渡したのは明らかに口止め料―――なんていう概念が存在しているわけでもなく、ただ単にお酒を飲む喜びを分け合いたかっただろう。

 

「昼間から飲んでるんじゃねぇよ」

 

「あ? 俺の耳腐った? イスト君が常識語ってるよ! ―――やべぇ、超こえぇ」

 

 ビール缶を顔面へと叩きつけてからキックで吹き飛ばす。飛んでゆく体を軽く避けてやっている事に再び集中しだす辺り、ウチの隊はいつもこんな感じだなぁ、等と思っていると、アル中がまぁマテ、と足を震わせながら立ち上がる。

 

「まぁ待て、待つんだイスト―――アレ、お前こんなにもロリィだっけ。あぁ、男も貧乳のようなもんか。巨乳以外は人権ねぇしどうでもいいな。やーい貧乳」

 

「二番、高町なのは、行きます」

 

 再びアル中が吹き飛んだ。アイツは口は災いの元という言葉を知らないのか―――あ、いや、これはなのはの世界のことわざだ。なら知っているはずもない。ならばこれを機に是非とも覚えてもらいたい。昼間から酒を飲んでいると人生は痛みに溢れる、と。壁にぶつかり、床へと倒れる姿を眺め、あぁ、ちょっとだけビール勿体なかったかもしれないと今更後悔する。だがそれもあと数時間待てばまた懲りずにやってくるに違いない。

 

 つまり今日もミッドは平和です。

 

 読みかけの本を広げ、確認する。古い、ベルカのとある争いに関する記述。それは覇王と聖王が昔、本気で争い合い、そして聖王が勝利するためにある武装を使用していた、という事に関する記述。格闘家、武術家は腕が武器であり凶器であるからこそ、ガントレット等の兵装で強化するが、その威力を上げる為に腕そのものを凶器とする、

 

「この鉄腕っての、義手か何かかねぇ……」

 

 とりあえずここら辺は解釈が多すぎて正しく情報を取得する事が出来ない。古代ベルカ語の解読は相変わらずハードワークすぎて泣ける。できる事ならば最近大分仲良くなったユーノに解読を丸投げしたいが、それでは借りている意味がない。中退しなきゃ良かったと、まともに学校を卒業していない現状に憂うが、良く考えれば学校で古代ベルカ語なんて教えてなかったし別に卒業してない事を憂う必要はなかった。

 

「無学歴万歳……!」

 

「いつか来るとは思ってたけどついにイストが狂ったの」

 

「お前、俺に対しては明らかに容赦ないよな」

 

 いい事か悪い事かは判別がつかないが、とりあえず楽しいので悪い事ではないと思う。だから特にそこから会話を発展させるわけでもなく、どうするかなぁ、と口に出して呟く。実際の所やりたい事はたくさんある。だが一番の問題は似たようなタイプの魔導師がいない事なのだ。実際純格闘タイプはアマチュアとかを探せば割とたくさんいるのだが、それがハイレベルになってくると数が少なくなってくる。問題は色々とあるが、一番がリーチの問題だ。格闘は他の武器や魔法と比べて極端にリーチが短い為、メインでの運用が地上以外では若干難しい所にある。だから結局は杖を握って魔法使った方が楽、なんてのが多い。そしてそうするやつは多い。だがそれを突き抜けたやつは強い、というのが現状。

 

「どっかに格闘メインの魔導師いないものか……」

 

「あ、知り合いに一人いる」

 

「え」

 

 なのは視線を向けると、なのはが首をかしげながら人差し指を断たせる。

 

「ほら、はやてちゃんと一緒にヴォルケンリッター。その中に守護獣のザフィーラ、って人なのかなぁ……? がいるんだけど、私が知っているかぎりAAAランクで格闘メインにしている人ってそれぐらいかなぁ」

 

「金だすんで渡りつけてください」

 

「全く淀みの無い頭を下げる動き、プライドが欠片も見えない……! というかはやてちゃんと知り合いなんだから自分から頼めばいいのに……」

 

 プライドで強くなれるのであれば人生なんてイージーモードなのだろうか。だが残念、恵まれていない人間にとっては人生は常にハードモードで襲い掛かってくるのだ。頭を下げるぐらいだったらなんと安い事か―――まあ、本当に下げたくない時は下げない程度のプライドは持ち合わせている。あとは、そう、男子としての矜持ぐらいだ。それぐらいアレば十分だ。

 

「まあ、ザフィーラって無職だし頼めばはやてちゃん、貸してくれるんじゃないかなぁ。暇なときに連絡をいれればいいと思うよ」

 

「格闘家には必ず何かがある様な呪いでもあるんですかね。無職……」

 

 意外な所から見つけた仲間はどうやら無職らしい。

 

 AAAで無職。

 

 俺も将来職を失うのだろうか。

 

「うん? あ、ご、ごめん。ザフィーラは要人警護の資格とか取得しているんだよ? ただ何か職に就いたりすると緊急の時に自由に動けないから働いていないだけで。だから特に問題があるとか、ハブられているとか、女の多い家に一人だけ紛れ込んだ異分子とか絶対考えてないからね?」

 

「口から考え漏れてんぞ」

 

 何故だろう、こうやってなのはを見ていると昔の、というか数ヶ月前までの無垢ななのはが恋しくなってくるのは。あの頃はからかうと面白いリアクションが見れて実に良かった。今では砲撃マシーン化してしまったりセメント化したりと、中々に容赦がない。少し、というかやっぱりこいつここへ来てはいけなかったのではないかと思う。これで戦技教導官志望なのだから、将来の教え子たちがどうなるかは考えたくない。

 

 まぁ、これで待望の対戦相手を見つける事が出来た。あとははやてとの交渉次第だが、そちらはどうとでもなる。ともなれば、自由になれる時間まで適当に時間を過ごせばいいのだろう。が―――、

 

『Master, you got mail』(メールが届きましたよ)

 

「表示よろしく」

 

 ベーオウルフが目の前にホロウィンドウを浮かべ、そしてメールの内容が表示される。そこに書かれている内容を最初はそのままの姿勢で読み、そして後半に移るにつれて姿勢を正してゆく。そして読み終わったところで改めて姿勢を正し、立ち上がる。パンパンと手を叩き、部屋中の視線を集めながらホロウィンドウの内容を隊全員のデバイスへと送信する。

 

「はいはい皆さん暇な時間は終わりですよー、っと。ミッドチルダで凶悪事件発生、陸士76隊の皆さんが泣きついてきましたよー。というか隊長なに俺にメール内容フォワードしてんだよ。給料もらってんならちゃんとメール送信しろよオラ」

 

「おーい、メールを更に回してくるやつに言われたくないぞー」

 

 たぶん俺にメールが回ってきたのは”イ”でメールアドレスの上の方にあったからに違いない。かなり破天荒な隊長、実績だけは確かなので逆らえなく、面倒な事この上ない。だが冗談やおちゃめが十分通じる人物なのでそこらへんはやりやすい。総じて評価は面倒だけど気のいいオッサン、となっている。

 

 立ち上がりながら再びメールを確認する。今まで部屋の中は割と平和だったが、仕事が入ったとなれば別だ、色々とやる事は一気に増える。まずは陸士76隊からの引き継ぎ作業、書類関係、現場へと向かったりしながら調査等々、そういう風に隊は騒がしくなってくる―――それでもまだ仕事の無い一部はいる為、結局はずっとニートしている奴もいる。本来は首都が襲われた場合の防衛戦力なのに陸の真似事をやっているのだから当たり前と言えば当たり前の話なのだが。

 

 ともあれ、誰も名乗り出ないので、

 

「なのはー、外の空気を吸うついでに殺人現場に行こうぜー」

 

「それ、人を誘う言葉じゃないよね」

 

 苦笑されながらも今まで暇オーラ全開だったなのはは気力に満ちた様子で立ち上がり、直ぐに横に並んでくる。まだ数ヶ月しか経過していないが、大分この小さな相棒の存在に慣れてきたものだと思う。当初は本当にやっていけるのかと、内心思った事さえあったものだが、それも結局は杞憂で終わった。結局はこうやって仲良くやっている―――が、

 

 この光景をティーダが見たらどう思うのだろうか。

 

 死者は何も語らない。死者は蘇らない。死者に意志は宿らない。

 

 死者は終わっている。

 

 だからこそ生きている事は重要で、何よりも尊い。だけども、生きているからこそどうしても考えてしまう。死んだ者はどう思っているのか。自分の今を見たらどういうのであろうか。所詮は戯言だ、何せ答えを得る事は出来ないのだから。だけども、意味のある戯言だとも思う。何せ過去を振り返る事は女々しくも、決して悪ではないと思うから。

 

 だから、ティーダはこうやって新たな相棒を得た自分を見て、どう思うのだろうか。

 

「いや、決まっているか」

 

「何か言ったかな?」

 

「いんや、周りに美少女が多すぎて人生辛いって話」

 

「あぁ、イストの場合は……」

 

「うん。その、なんだ。問題全部終わったら一人か二人でもいいからそっちで預かってくれないかな。正直今の内ならいいけどこのお父さん思考が四年後通じるかどうか非常に怪しいんだ。だからな、いいだろ? な……?」

 

「結構声が必死なのでここはスルーするべきだってレイジングハートが言っている」

 

『Master, I haven't said anything yet』(マスター、私はまだ何も言ってないのですが)

 

「お前本当にいい性格している様になったよな」

 

「ほら、そんな事よりもイスト先輩、事件事件!」

 

 先輩は止めろ、と言いながら歩き、そしてメールに添付されている資料を確認する。基本的には通り魔事件らしい。今まで被害にあったのは全て管理局在籍魔導師で、陸士がメイン。だがこの件が此方へと移譲されるようになった理由は一つ、

 

 今朝発見されたばかりの陸戦AAAランクの陸士魔導師の死体。

 

 また一筋縄じゃ生きそうにもないな、と感想を抱きつつ、現場へと向かう。

 

 また眠らない夜が続きそうだとも。




 なのはさん大分酷くなったな。そんなわけで地雷設置とフラグと伏線は一通り完了したので、ゆっくりと進行させながらそれを起動させるだけの作業です。いやぁ、ここまで長かったー……。

 次章でSts前時期の大騒動は終わりですからねー……。段々色々とヒートアップです。

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