マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ビヨンド・ザ・バウンド

 タクシーが止まり、扉が開いた瞬間四人が一気に飛び出す。その光景に苦笑しながら無人タクシーに料金を払い、タクシーの外へと出る。そうやって到着するのはクラナガン中央デパートの駐車場。おそらくクラナガン一大きく、そして品揃え豊富なデパート。ミッドチルダで買いたいものがあるのであれば、とにかく一度はここへ来るといい、見つからないものはないと言われるほどに雑多に物を扱っている店で、様々な店舗が中にはある。値段に関してはやはりデパートというべきか、専門店で購入するよりは少しばかり高くなるが―――やっぱり品揃えでここは凄いと思う。まとめて買えば割引もきくため、なるべくならここで買い物は済ませたい。少なくとも一人暮らしで何かを大量に購入する場合はここでいい。

 

 基本、100個単位で購入するカートリッジも全部ここで購入している。管理局員であることを証明すればそこは割引が効くからだ。まあ、そんなわけで超大型デパートへと到着すると、初めて大人数―――いや、家族全員でミッドチルダ中央部まで外出というイベントの為、四人娘の目はこれでもか、というぐらいに輝いていた。そしてそのはしゃぎっぷりを見て軽く思う。―――最後まで俺の体力は持つのであろうか。

 

 だが、まあ、全力で付き合うのは悪くはない。

 

「ほらほら、見ているだけでいいのか?」

 

 シュテルとユーリの間を抜け、頭を撫でながら前へと進み、デパートの入り口へと向かう。それでやっと自分が固まっている事に気づき、追いつく様に娘達が走って追いかけてくる。

 

「待ってください!」

 

「行きますってばー!」

 

 背中に何かが飛び付いてくるのと同時に両手がふさがる。軽く振り返ればまたレヴィが背中に引っ付いて、両手をシュテルとユーリが独占しているのを見つける。そして一人だけ、飛びついてくるのが遅れたディアーチェが場所を寄越せと言っている。その光景に苦笑し、

 

「レヴィ、流石に14歳で飛びつくのはアウトだ。周りに対して恥ずかしいから離れなさい」

 

「セーフセーフ。だからもう少しだけ、あとちょっとだけ!」

 

「アウトつってんだろ……!」

 

 こいつ……少しずつ胸が出てきているぞ……! 14歳でこれはちょっと―――大きい……!

 

 

                           ◆

 

 

 レヴィを引きはがして手をつなぐのは交代制だと娘どもの中で決まると、まずは入り口で一旦足を止め、指の動きでホロウィンドウを出現させる。超大型デパートである為、迷子対策として店内ではどこでもホロウィンドウが出現させることができる様になっている―――言い換えればデパート全体が専用のデバイスによって管理されているのだ。

 

「ほほう、面白い発想だな」

 

 自分もそう思う。何より店内であれば誰でも、どこでもホロウィンドウを出現させることができるというのが面白い。それに出現させられるのはマップだけではない。

 

「いいか? ここ、マップ内の店舗をタップすると―――」

 

「ほうほう、なるほど、店舗内の状況や商品をチェックできるんですね。あ、商品検索や在庫状況もチェックできる。うーむ、やはり下調べした通りに優秀ですね、ここは。流石最新技術を無駄に惜しまず無駄な所で使うことで無駄に有名な……!」

 

 そこまで無駄な所へ掲げる執念とか聞いたことがないのだが。

 

「ともなれば……」

 

「えぇ、そうですね。まずは三階のスポーツウェアを見に行きましょう」

 

 おぉー、と声を揃えた娘達が此方の手を引っ張る様にしながら近くのエスカレーターまで進んで行く。なんでもエレベーターだと非常につまらないので、各フロアを見る事の出来るエスカレーターの方が買い物の時は楽しく過ごせるらしい。そういう買い物へと掲げる意気込みは女の子のものだなぁ、と誰に言うでもなく呟きながらエスカレーターに乗り、三階を目指す。途中何度かエスカレーターの端から乗り出そうとするアホの子を引っ張り戻しながら、そうしている内にあっさりと三階へと到着する。そして到着した瞬間、まるで弾丸のようにエスカレーターから飛び出してスポーツ用品のコーナーへと飛んでゆく。

 

「あ、コラ! お前ら走るな!」

 

「はーい!」

 

 とか言いつつも走る事を止めない。周りで買い物をしている客が此方を見て少しクス、っと笑うのが見える。どうもすみません、と軽く頭を下げてから走り去った四人のいる方向へ少しだけ急いで向かう。やはり、というかやっぱり、というか。まず最初に彼女たちがいたのは水着―――ではなくビーチで使える玩具コーナーだった。何時の間にかカートと籠を回収して、籠の中へ何やら詰め込んでいる。

 

「やっぱり普通の浮き輪とアレだ、ボード型の!」

 

「おぉ、やっぱアレは必須であるな」

 

「ですが忘れてはいけません、ボールを!」

 

「ポンプ必要です?」

 

「イストを使うので不要です」

 

「貴様ァ!」

 

 まあ、元々俺がやらされるんだろうなぁ、とメモのリストに空気ポンプの名前がなかった時点で悟っているのでリアクションだけだ。べつに浮き輪に空気を入れるぐらいは全く問題はない。……ただ染みついた隊の芸風として反射的に何かを言わなくちゃいけなくなってしまっただけなのだ。習慣というものほど怖いものもない。ともあれ、軽く確認すると全力でネタに走っているが、あまり困ったものを籠の中へ詰め込んでいるようではない。しっかりと家を出る前に書いたリスト通りに買い物をしている。

 

「あ、そこらへんはちゃんと我が見ているから無駄買いはせんぞ」

 

「あと一応此方で予算を立てていますし」

 

「その有能さを少しは脳へリソースとして分けてくれないかな」

 

 此方の言葉を無視して娘達が再び買うべき浮き輪の選別に入る。自分だけその様子を眺めているのも暇なので、娘達が浮き輪やビーチボール、パラソル等を見ている間に少し離れたコーナーへと移動する。最新のスポーツシューズが置いてあるコーナーへと移動する。服はディアーチェがどうにかしているが靴はそうもいかない。しばらく新しい靴を買っていないなぁ、と今自分が履いている靴のボロボロ具合を確認し、買う必要性を感じる。

 

 見た所ラインナップには最新型のモデルも出ている。どうせだしそっちも購入しようと、複数出ている最新型モデルに目をつける―――なにせ、地味に踏ん張りとかの問題で靴選びは重要だったりする。基本的には一番グリップが効くのを選んでいるのだが、同じ様なタイプなのが2種類あるのが問題だ。軽くネットへとアクセスし、そして評判をチェックする。……自分が使っているブランドの物がやっぱり人気で評判がいい。なら迷う必要はないだろうと、自分の足のサイズを思いだし、積み重ねられている靴の入った箱から自分のサイズのを探し、見つける。今日ばかりは少しお金がかかっても気にしない気にしない、と自分に言いつけながら箱を脇に抱え、娘達がいた方へ視線を移し、

 

「あれ」

 

 娘たちの姿がない事に気づく。

 

「どこに行ったんだあのバカ娘どもは……」

 

 目を離した隙にすぐいなくなる。買い物へ子どもを連れて行きたくない親の気持ちを理解しながら軽く見渡すと、少し離れた水着コーナーに娘達が移動しているのを見つける。意外と近くにいたその姿にほっとし、何を心配しているんだ、と軽く自分の心を叱咤する。そう、何も後ろめたいことはないのだ。こうやって堂々と一緒に買い物する事に何の問題もないのだ。

 

 思考が物騒になってきているなぁ……。

 

 チェンジチェンジ、と脳内でつぶやきながら水着コーナーへと向かい、籠の中に靴の入った箱を入れる。そこで娘達が水着にへばりついている光景があった。

 

「水着なんてどれも一緒だろ……」

 

「聞き捨てならんなぁ……!」

 

 珍しくディアーチェが真っ先に反応し、指を突き立ててきた。

 

「いいかイストよ! 水着とはただ泳ぐためだけの道具ではない! 貴様は水着をあまりにも軽んじている! いいか、水着は泳ぐために必要な装備だ。なぜならそれは普通の服装で泳ぐことは禁じられているからだ―――常識だな?」

 

「あぁ、常識だよ」

 

 とりあえずノリがいいので反論できず頷く。

 

「いいか? 良く聞くのだぞ? 水着は服装同様女子にとっては立派なおしゃれなのだが、これを選ぶスタンダードというのは普通の服装を選ぶよりも遥かにシビアだ。何故ならそう―――肌だ。水着は下着の如く肌を露出する。下着は愛しい相手にだけ見せる為、ソイツの事のみを考慮し購入すればいい。だが水着は違う。それは自分自身の魅力をちゃんと見せながらも、水着を選ぶセンスを周りへとアピールする事も考えなくてはならないのだ。いいか、つまり水着選びとは一種の戦争だ……!」

 

「お、おう」

 

 そうとしか言い返す事が出来なかった。女子のこの服装やらアイテムやらへの意気込みは男である自分にはよく理解できない領域の話なので話し始めて1秒目の所で理解する事は放棄した。周りで感銘を受けた客や他の娘達がディアーチェを称えるように拍手しているがディアーチェの顔が真っ赤になり始めているのでそろそろ救いの手を出した方がいいのだろうか。あ、いや、ベーオウルフにこの顔を保存しておこう。将来脅迫するのに使える。

 

「む、やはり赤にしますか……いえ、ここはパーソナルカラーの紫も……」

 

「我が家の品位が疑われるからお前はまずヒモから離れろよ」

 

 シュテルの頭を掴んで軽く締め付ける。シュテルの口からぐわぁ、と声が漏れるが、そうやって頭を押さえているうちにヒモにしか見えない水着をユーリに回収させて元の場所へと置かせる。だんだんとシュテルの声から楽しそうな声が漏れ始めてくるのでシュテルを解放し、

 

「こいつどうにかならんの」

 

「無理だ。我は諦めた」

 

「そろそろ私を受け入れましょうよ」

 

 あきらめたら最後、ずるずるどこまでも入り込んできそうなので断る。まだまだ子供なので余裕だ、ということを示すためにもデコピンを叩き込んでシュテルを突き放す。

 

「ほらほら、こういうの男には解らないんだから女達で相談して決めろよ。俺はここで待ってるからさ」

 

「ウロウロはしないんですか?」

 

 と、ニヤつきながらユーリが効いてくる。馬鹿な事を言ってくれるものだ。

 

「無意味でもそこにいて付き合ってやるのが男の特権だろ」

 

「解っているのなら遠慮する必要はないな? しっかり意見を聞いてもらうからちゃんと言葉を用意して待っていろよ。何せ貴様に見せる為に選んでいるのだからな」

 

「ディアーチェ、私達のボディでこの熟女好きの不能野郎をロリコンの道へと落としてやりましょう」

 

「ユーリお前口が汚いぞ」

 

 相変わらずこのチビっ子たちは発想が恐ろしい。一体自分はどこでこの子達の教育を間違えたのだろうか。軽くこうなってしまった事に後悔を感じつつあった。

 

 

                           ◆

 

 

 ―――そうやって娘達に振り回されていると一日はあっさりと過ぎ去った。相談して意見を求められたりで一時間ぐらい選ぶのに時間をかけたり、駄々をこねたディアーチェの為に家電コーナーで色々と新型家電をチェックしたり、お腹を鳴らすほどに空かせたレヴィの為に少し早めに上の階のレストランコーナーで昼食を取った事とか。そうこうしている内に日が暮れ始める。珍しい事にはしゃぎ疲れてしまったのはユーリで―――帰りのタクシーがマンションの前に到着する頃には完全に眠っていた。普段は一番大人しくしていたのだが、よほど楽しかったのだろうか。背中にユーリを背負いながら支払いを済ませ、タクシーから降りる。

 

 話をしながらマンションの中へと入る

 

「いやぁ、バーゲンは強敵でしたねぇ……」

 

「だが我らの敵ではなかったな。うむ、偶然とはいえ良い戦果だったな」

 

「僕ら! 最強! ダークマテリアルズ!」

 

「最近のバーゲンでは魔力弾飛んだりフラッシュムーブ使うんだな。俺は知らなかったよ」

 

 ワゴンに対魔力加工が地味に施されていたのを俺は見逃さなかった。デパートで行うバーゲンセールスとは修羅の国というか修羅の戦場だとは思わなかった。一時間前に遭遇した出来事を思いだし、苦笑しながらマンションのエレベーターへと乗り込む。

 

「うぅ、しかし最新型のキッチン予想よりも大分高かったなぁ……」

 

「我慢ですよ王。そのうちイストが金を回収してくれる筈です」

 

「俺はお前のサイフか」

 

 今日の出来事や欲しかったものを口にしながらエレベーターから降り、窓から差し込む夕日に軽く目を細める。そういえばサングラスをかける事は止めたんだっけ、と思い出しながらそのまま夕陽に染まるミッドの姿を眺め、

 

「来週だなぁ……」

 

 来週には海だ、と覚えておく。

 

 たっぷり、思い出をつくらなくてはいけない。チケットを用意してくれたなのはの為に、家族の為に、

 

 そして……自分の為に。




 マテ娘共初の家族でクラナガン。テンション天元突破。自重は置いてきた、ついてこれそうになかったからな……状態ですね。

 では、次回から海で。

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