マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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 海にいる間は1日1更新


ホット・スポット

「青い空! 白い砂浜! そして青い海! 海だ―――!」

 

「イスト? ものすごく響きが悪いです」

 

 ユーリにそんな事は言われなくても知っている。ただ言いたかっただけだという衝動がそこにはあったんだ。

 

 家から来てでてきたクォーターを脱げば、そのすぐ下はトランクス型の水着だ―――流石にブーメラン型を履く程の勇気はない。ともあれ、持って来たビーチパラソルを適当に開いている場所へと突き刺し、立てる。その横に直ぐ近くで貸し出しているビーチチェアを二つ設置し、その間に持って来た鞄やらの荷物を置く。そして終わった所で

 

「さあ、浮き輪を膨らませる作業の開始だよ!」

 

「はいはい」

 

 レヴィが既に浮き輪を持ってスタンバイしていた。ソレを受けとり、浮き輪やらボートやらを膨らませる作業を始める。息を吹き込む所のキャップを外し、大きく息を吸い込んでから浮き輪の中へと勢いよく吹き込む。全力で息を吹き込んだ結果、

 

「おぉ! 一気に4分の1も膨らみました」

 

「その調子ですよ」

 

「お前ら見ている余裕があったら少しは別のを膨らませてろ」

 

 息を思いっきり吸い込みながら文句を告げるとぶーぶー言われながらも娘達が頬を膨らませて浮き輪へと空気を送り始める。その光景を軽く眺めてから自分の分を終わらせるために一気に息を吹き込むが―――一瞬で終わる。やはり成人した男と、14の少女では肺活量に大きな差がある。こういう魔力とかまったく関係の無い所だと自分の方が圧倒的優位で……そして小さなことかもしれないがそうやって勝てるのはちょっとだけ気分がいい。ともあれ、一番近いのでユーリが膨らませているのを横から掠め取る。

 

「あ」

 

「俺の方が早いし貰うなー」

 

 言い訳を聞くまでもなく、ビーチチェアに座りながら浮き輪に一気に空気を送り込むと、ユーリが軽く頬を染めながら手を頬に当てる。

 

「私が舐めて唾液を絡めた浮き輪の吹き口にイストの口が―――濃厚な間接キッス成功です!」

 

「やっぱお前ががんばってろ」

 

 浮き輪をユーリの顔面へと叩きつける。この娘、確実に近くに陣取っていたのはこれを狙っての事に違いない。シュテルと違って油断も隙もない。黙っていると思って油断してはいけないタイプだ。たぶん虎視眈々と狙ってきている。実際コワイ。

 

 ともあれ、なんやかんやで浮き輪を膨らませ終わるとそれらを娘達が全部抱える。

 

「イストー!」

 

「泳ごうよー!」

 

「パス。だるい。お兄さんはまずはこの空間でゆっくりくつろぐの」

 

 手を振りながらそんな事を言うとディアーチェがあきれた表情を此方へと向けてくる。

 

「お前は少々老け込みすぎてないか。あとお前ら、崩したお金はカバン中淹れておくからお腹がすいたら適当に食え」

 

 そんな事を言ってマテリアルズを次から次へと持ち上げ、海へと投げ込む。放物線を描きながらばしゃ、と音を立てて海の中へと落ちた娘達の姿を眺めてから荷物の中に置いたサイフを確認し、そしてベーオウルフを拾い上げる。確か電子マネーは通じる筈だ、とパンフレットの内容を思い出しながら軽く見渡せば目的の店は見つかる。

 

 つまりは屋台。

 

 若干行列が出来上がっているが、それに並んで数分後、行列の先頭へと到着し、商品のリストを見る―――そして電子マネーを使って購入するのがソーダ。瓶の中に入ったソーダ。確かにビールを飲むのもいいかもしれないが、後で海に入る事になるのだろうしアルコールの摂取は控えておいた方がいい。ナンパする時に酒臭いと避けられるし。他の娘の分も買っておいてやろうと寛大な心で御代わり分を含めた10本ほど購入する。それだけ購入すれば普通は持ち歩くのが面倒になってくるが、指の間に一本ずつ挟み、二本を脇で抱えれば十本ぐらい軽く持ち運べる。少しだけ面白い恰好であることを無視すれば無理な格好ではない。さっさと購入したソーダを持って自分のパラソルまで持ってくると、あらかじめ用意しておいたクーラーボックスの中に九本いれて、そして一本だけ封を開けて中の液体を飲む。

 

 やっぱり甘い。

 

「甘い」

 

『Supposode to be sweet』(甘くなるようにできているんです)

 

「そう言ってもなぁ」

 

 元々そこまで甘いものには執着の無い人間だったのだが、十代女子と一緒に生活していると嫌でも飲んだり食べたりする生活へと変わった。本来の自分はもうチョイ辛いもの好きだったはずだ。いや、そこらへんディアーチェが意志を汲んでくれて夕飯とかに少し辛い物を出してくれるのは嬉しいのだが、やはり人間とは割と変わるものだなぁ、と実感している。

 

『But you do like the change』(ですがその変化を貴方は楽しんでいます)

 

「もちろん」

 

 変わらないものなんてない。この世に永遠はない。だから変わり続ける今を楽しむのが人間という生き物だ。だから、

 

「ナンパするか……!」

 

『……』

 

 左手にベーオウルフを装着して左手の火傷傷を隠し、サングラスを装着して顔の傷を隠す。全て隠せているわけではないが、問題ではないレベルだ。シャツも着ているので体についている傷跡も全く問題ではない。そう、見せられない部分を隠して、話術で惚れこませたら後は逃がさないだけ……!

 

「よし、お兄さん気合をだすぞ」

 

 ソーダを飲み干してクーラーボックスの横に落とす。柔らかな砂地に突き刺さって瓶はサク、と音を立てながら半分だけ埋まる。やる気が出たので娘共に見つかる前に行動に出る事とする。あの娘共、軽く海の方を見れば水泳勝負に興じているが、こっちがナンパに出たとすればまず間違いなく妨害してくる。

 

「社会で学んだ会議から逃げるための気配遮断スキルが今こそ活きる時」

 

『……』

 

 ベーオウルフが呆れて何も言えないのは解っている。だが問題は割と深刻なのだ。そう、生理現象とは自然の摂理―――人間として生きる上では必然的なもの。だがあの娘共が常時べっとりで風呂場にまで突撃してくるので割と一人になれる時間がない。

 

「一夜、一夜だけでもいいんだ、素敵な夜を……! バレなきゃわ、ワンチャン……!」

 

 そう言っている自分に若干自信がなくなって行く。なんだか直感的に無理じゃね、と感じ始めているがその予感に負けるわけにはいけない。未来の為。健全な生活の為、そしてちょっぴり自分の欲望の為に、ここで運命に負けるわけにはいかなかった。

 

「いざ行かん、海に来て開放的になっている女子を求めて……!」

 

 

                           ◆

 

 

「―――そもそも本気で僕の探知範囲から逃げられると思ってたの?」

 

 駄目だった。というか三人目に話しかけていい感じに入ったと思ったらレヴィに掴まった。良く考えたら人間センサーから逃れる事なんてできないのだ。とほほ、と声を漏らしながらパラソルまで戻ってくると、海水で濡れた少女達がプラスチックの容器から麺を啜って食べていた。時間を確認するともう昼なのか、と少しだけ早く感じる時間の経過に驚く。

 

 罰ゲームにレヴィを肩車しながらパラソルへと到着すると自分の分の麺っぽい食べ物が用意されていた。

 

「ほほう、失敗したか」

 

「嬉しそうに言うんじゃねぇよばぁーか! ばぁーか! サングラスを取り上げられてから誰も寄りつかねぇンだよばぁーか!」

 

「イエーイ」

 

「グッジョブですレヴィ」

 

 レヴィはやってくると即座にサングラスをパクった。それだけでもう女性は寄ってこない。確実にどっかの紛争地帯で戦っていたような顔をしているからだ。そりゃあ誰も進んで近寄ってくる事はしないだろう。そしてこれ、本気で将来まともな恋人作れるのかなぁ、と心配になってくるが―――あぁ、そういえばその心配をする必要もなかった。

 

 聖王教会との約束がそこらへんには絡んでいるし―――。

 

 ともあれ、

 

「うるせぇ。人の不幸を笑うんじゃねぇよ」

 

「家主の不幸でメシが美味いです」

 

 ユーリは絶対に泣かす。というか敬語組二人は確実に泣かしてやる。家に帰ったら地味な嫌がらせで涙目にしてやると誓いながら、受け取った昼食を口にしてみる。麺料理としては少々味の濃いものだ。たぶんソースを濃く絡めた料理で、美味しいかどうか、と問われれば……正直そこまで美味しくはない。だがぶっちゃけこんな場所で食べるものはこういうもんだと思う。

 

「あんまし美味しくはないけど雰囲気で食うもんだよなぁ、こういうのって」

 

「そうなの?」

 

「不味くてもみんなでワイワイやってりゃあ”あぁ不味かった!”って笑いながら思い出になるもんだろ? 大体そう言う感じなんだよ」

 

「ほうほうほう」

 

 興味深そうに話に耳を傾けるシュテルの姿を見て、どうでもいい知識に対して貪欲だなぁ、とその姿勢を評価する。まぁ、そうやって馬鹿をやっている分には確実に可愛いのだ。数年後、どういう姿勢かどうかはわからないが、いい方向へと進んでくれればいいのだが、とは思う。

 

 そこまで美味しくも不味くもない麺の食べ物を食べ終わるとクーラーボックスから二本目の瓶を取り出す。その様子にあー、と娘達が声をあげる。

 

「あれ、買っておいたって言わなかったっけ」

 

「言ってないよ!」

 

「喋るよりも先に奪います」

 

「ぺいっ」

 

「ぐわっ」

 

 クーラーボックスへと飛び付こうとしたシュテルをユーリが後ろから踏みつけて押し潰し、先に到着する。そうやってソーダを奪取する様子を眺め、仲がいいなぁ、と苦笑する。

 

「というかお兄さん次からは参加するんだよね?」

 

「何にだよ」

 

「もちろんビーチバレー。ちなみに僕とシュテるん、王様とユーリのタッグでお兄さんはソロで試合するの」

 

「ちょっと待ってそれ俺苛められてないかなぁ」

 

 一人だけ大人だからハンデとかこの少女達は言っているが、お前ら自分の分野においては俺を軽く超えるインフレっぷりを披露するのを忘れてないか。そんな事を言っても少女達は話を聞き入れてくれない。だから溜息を吐いて。ソーダを飲み終わったら最初の一本同様砂浜へと落とし、上半身を隠していたシャツを脱ぎ捨てる。

 

「ならば仕方あるまい―――保護者として、一人の男として、そしてナンパに失敗した怨念を背負った敗残者として本気を出さなくてはいけないようだな……!」

 

「キャー! イストサーン!」

 

「カッコイイー!」

 

「濡れるッ! 抱いてッ!」

 

「貴様らノリがいいよなぁ」

 

 ノリがいいのではなく、基本ノリだけで生きている様なものなのだ。だからこのノリが止まったら半分死んでいるような状態。というか正気に戻ったら羞恥心で死ねるからノリに乗ったら降りる事を許されない感じが正しい。だからやる時はとことんまでやらなきゃいけないのだ。

 

「一つ教えておこう。実はお兄さんビーチバレー初体験だぞ!」

 

「勝ちましたね」

 

「えぇ」

 

「容赦する気が欠片もねぇ」

 

 既に勝利を確信している少女達に目にものを見せてやらないといけないので素早くベーオウルフにネットへとアクセスさせ、ビーチバレーのルールや遊び方を把握してみる。だがどう調べたところで一人が不利なのは目に見えている事だった。こいつら、最初から勝たせる気がないというかガチだった。

 

「クソ、お前ら……!」

 

「うん? 何か文句あるんですか? あるんです? あ、ごめんなさい。今そういう類のを受け付けてないんですよ。だからすみませんね、ちょっと文句とかは聞いてあげられないんですよ。あ、でも全部終わった後にベッドの中であればゆっくり愚痴とかを聞いてあげなくとも―――」

 

 シュテルの頭を掴んで全力で海の方へと投げる。キャー、と声を上げながら楽しそうに海へと落ちてゆくシュテルの姿を多くの人が周りから見ている。もう人目は気にしない―――気にしたってどうにもならない事は解っているから。

 

「もういい! ところん付き合ってやるよ!」

 

「わぁー! お兄さんがキレた!」

 

「やった!」

 

「喜ぶなよ!」

 

 ―――結局、日が暮れるまでそうやって、全力ではしゃぎ続ける時間は続いた。




 海にいる間は1日1更新ですねー。ゆっくり感を出す為。というかこれ終わったら最終決戦なので、こう……ソッコーでラストバトル入るのって間違ってないかなぁ。という感じで。

 でも2更新しないと満足できないので適当に何かを更新している。シンフォでも書こう。

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