マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ブライト・モーニング

 少しずつ眠気が覚めてゆく。体には軽い倦怠感がある。横に暖かい感触があるな、と眠気を振り払いながら視線を横へと向ければ―――そこには同じシーツを被ったナルの姿が見え、何事かと一瞬思うが……昨夜の情事を色濃く思い出してしまう。そしてテンションとか勢いとか、初めてなのに色々とやったなぁ、軽くだが自分のやった事に対する惨状に頭痛を覚える。弐ラウンド目までは覚えているがその先は記憶がない。一体どれだけやってたのだろうか、と後半はたぶん本能だけだったと思い、彼女の寝顔を見る。

 

「……」

 

 まるで息をしていないかのように思えるほど静かに眠っている。どうなのだろうか、彼女は。こうやって無防備に目を瞑っている彼女は人間なのか、もしくはデバイスなのか。シャットダウンしているのか、眠っているのか。その判別はつかないが……もう寝顔が可愛いのでどっちでもいいんじゃね、と思っている自分がいる。いや、だってそうだろ。可愛いは正義だと言うし。と、昨夜の出来事に関しては軽いあきらめの境地に達する。

 

 うん……実に情けない。惚れろとかっこつけておいて結局この結末。ティーダなら絶対隠すことなく指さして笑うだろう。あぁ、でもそういう話のタネになるんだったら別にいいんじゃないかなぁ、とも。まあ、やってしまった事はやってしまったのだ。リインフォース・ナルと情熱的な一夜を過ごしてしまった事実はどうにもならないんだ。だからそれは諦めよう問題なのはこれからだ。

 

「ん……」

 

 ナルの寝顔を眺めていると、彼女が少し声を漏らしてから目を開けてくる。そして此方の顔を確認すると、微笑む。

 

「おはようございますイスト」

 

 そう、問題は彼女だ。どうしようも何も、関係があるのはもはや否定できない事なのだから彼女にどうやって接せばいいのだろう。彼女はいたがここまで深い関係になった事なんて今まで一度もない。正直頭の中はパニックしまくっているが、それをなるべく顔に出さないようにし、

 

「好きなように話してもいいんだぜ? ロードとか、所有者とか、主とか。そんな事を気にする必要ない。お前らしいお前でいてほしい」

 

「……そう、なのか? なら―――おはよう、イスト」

 

 そう言って微笑んだナルはすり寄ってくると此方の胸に顔を押し付けてくる。幸せそうに声を漏らす。

 

「貴方に逢えて良かった」

 

 こうやって幸せな姿を見るに、たぶん……自分の取った選択肢は間違いではなかったのだと思える。あの時、助かる道を示した事を、教えた事を、与えた事を、それが間違いではないと思える。歪んでいるかもしれないし、押し付けかもしれないが……それでも笑えているのであればこれは間違いなく良い結果なんだと思う。だから幸せそうにしているナルの事はいいとして、問題は別だ。

 

「……」

 

「……」

 

「……あ、続けてどうぞ」

 

 ディアーチェ以外の娘がドアの外側に張り付いて室内の様子を眺めていた。確実にナルはそれを察しているだろうに無視して此方に寄り添っている辺り、実は性格が超大物なのではないかと思う。が、ま……とりあえずは、理由と言い訳と、そしてこの娘共を部屋から追い出すのが先決だ。―――なんて言えばいいんだろうこれ……!

 

 

                           ◆

 

 

 いつも通りのダイニングテーブル、何時も通りの朝食。だがそこには少しだけ何時もとは違う光景があった。何時も通りテーブルの上にはディアーチェが作った朝食が並んでいる。トーストとエッグとサラダ、様々な種類のジャムが置いてあり、飲み物は健やかな成長を願って牛乳が置いてある。それが終われば中央に置いてあるフルーツを好き勝手にとって食べるのが我が家のスタイルで、何時も葡萄が品薄状態になっている。ここまではいい。テーブルの上に置いてあるものに変化はない。変化があるのは一箇所だ。それも自分の横。

 

 テーブルも割と誰がどこに座るか、というのは決まっている。円状のテーブルに全員で向かい合う様に座るのが通例だ。そしてそれは今もそうだ。基本的に自分の横にはシュテルかレヴィ、日にちによってはユーリで、対面側にディアーチェが座っている。デバイスであるがゆえに食べる必要のないナルは必要最低限のエネルギーしか摂取しないのでほとんど食べない。食べる事があってもキッチンでトーストをさっと一枚食べる程度で朝食は終わる。それが本来の風景。

 

「む、少しだけ口周りが汚れている。待て……ん、いいぞ」

 

「お、おう」

 

 接触する程近くまで椅子を寄せてきたナルがすぐ横にいた。シュテルとの間に挟まる様に。そしてティッシュを片手に此方の口周りを軽く拭う。どうやらパンに塗ったジャムが食べる時に少しだけついていたらしい。まあ、それぐらい自分でもできるので断ろうと思ったが、それを言おうとナルへと視線を向ければ、

 

「うん、どうしたんだイスト? 新たにトーストを用意するか? それとも別の用事か? 何も遠慮する必要はないぞ」

 

 純粋な笑みと共に此方を迎えてくるので何も言えなくなる。昨夜、ナルを男を堕落させる女だと言ったが、まさにそうだ。つくしんぼうって言ってもいい。理解して人間性が増した分、”役目や目的”からではなく”喜び”から尽くす事を覚えてしまった。ほぼ確実に昨夜を原因に。その結果、こんな風に楽しそうにべったりな女になった。あぁ、で、こんな事態を起こす事となった主犯たちとなると―――。

 

「ルシフェリオンはどこですか」

 

「ないわ阿呆」

 

「じゃあタスラムでいいですよ。射撃型デバイスですし。実は結構相性いいんですよ。その気になれば真・ルシフェリオンブレイカーも……あ、タスラムなので真・タスラムブレイカーですね」

 

『That sounds as though you are going to destroy me』(それではまるで私を破壊するかのような名前です)

 

「あ、ルシフェリオンは特別性のデバイスなのでもちろん普通のデバイスでぶっ放そうとすれば魔力に耐えきれずベーオウルフします。ベーオウルフ、つまりぱりぃーんとなりますね」

 

「破壊の事をベーオウルフって言うの止めようよぉ!! 一応殺した事に罪悪感感じているんだよ俺! だからこう、間接的に俺を責める様な会話を止めようよ!」

 

 頭を抱えてテーブルに突っ伏す。そこに横から、レヴィが肩に手を置く。その方向へと視線を向けるとレヴィは笑顔と共に大丈夫だよ、と声をかけてきてくれる。何が大丈夫だが解らないのでその内容を問い返してみると、

 

「助かる方法はあるんだよ―――ねえ、お兄さんってロリコン趣味ないかな」

 

「言っておくけど基本的に肉体的に18歳以下のもんには勃たねぇから何を提案しようが無駄だぞ」

 

「じゃあ諦めようよお兄さん」

 

 諦めの言葉が早いよ。そうツッコミを入れようとするがレヴィは既にパンにジャムを塗る作業へと戻っていた。この状況で自分にどうしろというんだ。軽く頭を抱えたくなる事態、視線を今度はユーリへと向けると、ユーリがサムズアップを向けてくる。地味にうぜぇと感じるがそれは黙っておく事とする。

 

「あ、私の助けが欲しかったら別に構いませんけど貸し一という形でカウントされます。それでも助けられたかったらどうぞ言ってください。一瞬でケリをつけますので」

 

「その貸し一とかってのが一番怖いってのは経験上知っているんだよ……!」

 

 何せ貸し一、つまり相手の意見が大体通るという状況になるのだそれは。貸し一でうなずくのはめちゃくちゃ危ないと既に習っているからこの条件にだけは絶対に頷けない。もうこいつら最初から手を組んでいるだろうという感じの会話の進め方に改めて頭を痛めると、もういいだろう、とディアーチェが言う。

 

「大体焚き付けたのは我らであろう。祝福する理由はあれど醜く嫉妬とは何事か貴様ら。それでも誇り高き紫天のマテリアルズか。そこで祝福するのが器量の示し方であろう。なのに揃いも揃って貴様らときたら罠へとはめる様な手段を取りおって。良いか、その様な手段を我らが取る必要はない」

 

 何故なら、

 

「このディアーチェ、己に恥じるところも臆する所もない。故に今勃たぬと言われても良かろう、許してやる。あぁ、我は発展途上だからな。今の我に魅力を感じなくとも仕方があるまい。ならばこそ、我らは己を磨き、そして見せつければいい―――その時になって再びこの愚か者を誘惑して言わせてやるのだ”あぁ、いい女になってしまって。なんであの時から手を出さなかったんだ”と」

 

「相変わらずディアーチェはイケメンですねぇ」

 

「あとあざといよね、王様」

 

「許せません」

 

「もう我にこいつらを統率するのは無理だ。今日限りで王様やめようかなぁ……」

 

 割とガチな声でディアーチェがそんな事を言い出すので流石に全員で焦ってディアーチェのフォローに入る。何気にディアーチェが我が家の主柱である事実に変わりはない。彼女がストライキとか何か問題が起きたら我が家の食糧事情が一気に崩壊する。べつに他の連中が料理できないわけでもないがディアーチェ級は完全に無理で、ディアーチェの手料理を食べてきた自分たちにもうコンビニや普通に自分で作れるレベルの料理ではあんまり満足できなくなってきている―――つまり胃袋を完全に握られているのだ。

 

「か、考え直そうディアーチェ? ね?」

 

「うんうん、王様がいなきゃ僕達の希少価値が消えちゃうからさ!!」

 

「落ち着きましょうディアーチェ。落ち着いて―――今日のおやつマドレーヌとか大丈夫ですか?」

 

「挑戦してみる」

 

 どうやら料理の話で持ち直した駄目らしい。もう王様と言うアイデンティティは駄目かもしれないが……まあ、戦う必要がないのであればそれでもいいんじゃないかなぁ、とも思う。まあ、とりあえずは、ナルとどう付き合っていくかが問題だ。そもそも昨夜に手を出したのと、この馬鹿娘達が煽ったのが問題なのだ。溜息を吐いて改めて自分の状況を理解する。

 

 愛が重い。情が深すぎる。何時からこうなったんだ。

 

 この小娘たちが自分に対して深い愛情を向けているのは理解している。だが何故だ。何故ここまで自分に依存する様な愛情を見せてくる。その理由が全く思いつかない。だって自分がやった事は誰もがやる事だ。家族を守る。それは己の身を以て証明しただけなのだ。だから当たり前の行動に受けるこの深い情愛。若干理不尽ではないかなぁ、何て思う。

 

 まあ―――シュテルが告白してきた辺りから”これ、普通の恋愛とか無理そうだなぁ”とか段々と悟り始めてきた部分もあるのでこの件に関しては完全に諦めている。もう完全になるようになれ、何て心境になっている。だから、

 

「どうすんだよ」

 

「ん? 私か?」

 

 あぁそうだよ、とナルを見る。一応問題の中心点だ。だからこいつの意見を聞いておかないとならない。だからそうだなぁ、と言ってナルが一瞬だけ悩むような動作をしたときは緊張する。

 

「……特にこれと言った事は求めない。もう既に私は貴方の愛で満たされていると知れたから。だが……偶にいいから、私の体を貴方の愛で満たしてくれると嬉しい」

 

「ぐぎぎぎ、なんという正ヒロイン臭。これは断然許せませんね。いや、ほんとちょっとでいいから働きませんかタスラム。さきっちょ、さきっちょだけでいいので少しだけ私に力を……!」

 

「止めんか!」

 

 ディアーチェのゲンコツがシュテルの頭へと叩き込まれ、そしてその顔面が皿の上のジャムの塗られたトーストへと叩き込まれる。その光景を見て、わいわいがやがやと騒ぐ娘達を見てやっと気づいた。―――あぁ、そんな大きなもんでもないな、と。

 

 日常は関係が少し変わろうが、変わらず続いて行くのだ。




 それでも日常は続くんです。

 話が一個飛んでいると思った貴方、てんぞーの小説を確かめるとR-18が増えているのでそこを見ましょう。ソレです。

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