マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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Chapter 6 ―The New Age Rising―
ニュー・エイジ


 ―――新暦七十五年四月。

 

 軽く動かす体に全く問題はない。少しばかり颶風を強く感じるがこの程度は既に予測済みだ―――故に問題はない。既に展開済みのバリアジャケットは体にフィットし、最大限のパフォーマンスを発揮してくれるようになっている。爽やかな朝の風を顔と体で感じつつも、右手で握る、己の命を預けるに足る一つ目の相棒を目視する。全体的に白いがオレンジ色の装飾を施されているそれはここ数年、自分を戦いと訓練で支えてきたデバイスだ。それを軽く片手で握り、時間を確認する。少しずつだが、指定された時刻は迫っている。だが、別に今更不安になる訳でもない。既に情報は集め終っているし、それで分析も完了している。その結果、今の自分達であれば問題ないということが解っている。だからここ、廃棄都市区間で行われる魔導師試験に一緒に参加するパートナーに視線を向ける。

 

 短い濃紺の髪に長く大きなリボン、片腕にリボルバーナックルとローラーブレードと中々珍妙な組み合わせな姿のパートナーだ。彼女も既に白と黒のバリアジャケットを展開済みの状態で軽く体を動かしていた。試験前に体を温めるように拳を左右交互に繰り出してから歩きにくいはずのローラーブレードでステップを取っていた。相変わらず器用な事だと思う。確かに機動力はあるが、アレを履いて歩いたりすることは自分には無理だと思う。ともあれ、

 

「そこらへんにしておきなさいよスバル。元々オンボロなんだからそれ、壊れるわよ」

 

「ちょ、そんな不吉な事を言わないでよー! 来る前にメンテしてきたから試験終了までは保つよきっと!」

 

「アンタそれぶっこわす前提だって気づきなさいよ」

 

 まあ、訓練校の入学前から使っている道具なのだ、スバルのローラーブレードは。機械式である手前自分達では技術力不足で大規模なオーバーホールができないし、そんな事をデバイス工房に頼むお金もない。だからお小遣いで細かいパーツを交換するぐらいしかできずに使っている―――タスラムが自動修復機能の搭載されているデバイスでよかった。おかげでメンテ少しぐらいサボっても半永久的に動き続けていられる。

 

「いけるわね?」

 

「もっちろんっ!」

 

『No problems』(問題はありませんね)

 

 スバルもコンディションを整えてきたので調子は良さそうだ。だとすれば―――問題は一切ない。軽く体を捻ったり伸ばしたりし、ビルの屋上からスバルのいる中央部分へと移動する。晴天のおかげで廃棄都市区間の端までが見える。そしてそこで、少しずつ都市の中へと紛れ込んで行くオートマタの姿が確認できる。今回の試験の為に使用されているターゲットだ。それに対して自分が与える評価は―――。

 

『―――はい、時間となりました』

 

 空にホロウィンドウが出現し、そしてその中に小さい人物が映し出される。非常に良く似ている姿だと思う。銀髪にその顔立ち―――今はもういない人に良く似ている。ただ圧倒的に身長が、身体が小さい。彼女の背後に移っている椅子の大きさからホロウィンドウに移っている人物の小ささが窺い知れる。

 

『初めまして、今回の試験の試験官をやらせていただくリインフォース・ツヴァイ空曹長です。貴方達をティアナ・ランスター二等陸士とスバル・ナカジマ二等陸士と確認しますが宜しいですね?』

 

 スバルの横へと並び、ホロウィンドウを見上げながら声を合わせて答える。

 

「はい! よろしくお願いします」

 

『はい、では現在貴方達の魔導師ランクはCでこれは魔導師Bランク昇格試験試験です。これで昇格を果たした場合貴方達のランクはCからBへと上がります。では試験内容を発表します』

 

 ツヴァイがホロウィンドウを更に出現させ、そこに様々なターゲットを表示させる。小型の浮遊砲台型ターゲット、そして攻撃能力の無いエネミーマークのついた人型ターゲット、姿だけは一緒で攻撃してはいけないダミーターゲット、そして最後に中型浮遊砲台型ターゲット。それが廃棄都市の試験用区間に設置されている。敵性ターゲットを破壊する事で点数が入り、ゴール時の残りタイムで点数が加算される。その間にどれだけ優秀な働きを見せられたかで試験から追加得点、と。予め調べていた情報とツヴァイからの話を聞いて試験のルールを確認し直す。ゴール地点も前々から確認しておいた場所だ。そこに齟齬はないので問題ない。

 

『では説明を終了します。カウント終了後に試験が開始します。頑張ってください!』

 

 そう言ってツヴァイを映していたホロウィンドウは消失し、他のホロウィンドウも消える。そして代わりに出現するのはカウントダウンを示すタイマーだった。3秒前を示すそれが出現した瞬間、思考が全てこれから行う事を最適化する為にスイッチする。

 

『3』

 

 横のスバルが自分と全く同じタイミングで片手を持ち上げる。此方は右手、相手は左手。互いに拳を作るとそれを軽くコツン、と叩き合わせて気合を互いに入れ直す。軽く横を盗み見ればスバルが頼もしく微笑んでいるのが解る。

 

『2』

 

 タスラムを握る手を軽くほぐす。無駄に力を入れてはいけないし、力を抜きすぎてもいけない。重要なのはバランスだとゲンヤは言っていた。どんな状況でも精神は常にフラットに置く事が重要で、常にマイペースを維持する事が重要だと。絶対にメンタルを己の領域から外してはいけない。

 

『1』

 

 術式を脳内で演算を開始し、そして同時にタスラムに魔力を注ぎ込む。横を見ればスバルも既に魔力を使用する直前へと持って言っているのが解る。いわゆるスタートダッシュ状態―――彼女もやる気は十分すぎる程にある。なら、

 

『―――Start』

 

 負けはない。

 

「ティア!」

 

「行くわよ!」

 

 迷うことなくビルから先に飛び降りると、それを追う様にスバルがビルから飛び降りる。その間にタスラムの姿をハンドガン姿からもっと大きな、ライフル姿へと変形させる。中空に落ちる自分と違ってスバルは壁際ギリギリ落ちる。既にやる事は相談済みだし、そしてターゲットの場所も確認済みだ。―――ここから狙えるターゲットは計十四程ある。その全ての位置をマルチタスクで分割している思考を使って把握し、

 

「鈍いのよ」

 

 狙い撃つ。ターゲットには接近しなければ魔導障壁を展開しないという特性を持っている。それは相手が機械式であり、そして事前に魔力を込められていた為、それを節約するために作られているからだ。―――故に遠距離から狙撃する場合、障壁を無視して破壊する事が出来る。魔力の消耗は最小で済む。用意しておいた遠距離狙撃用の術式を起動させ、破壊の出来るターゲトを連射で一気に破壊する。その反動によって体が僅かに流れる。だが、壁際ギリギリで落ちていたスバルが此方の狙撃が終わったのを察して壁を蹴って体を抱きとめる。

 

「じゃあ、また後でね!」

 

「遅れるんじゃないわよ」

 

 壁際ギリギリの所でスバルが此方を解放し、彼女はそのままガラスをぶち抜いてビルの中のターゲットを破壊するために移動する。此方もビルのでっぱりを足場に着地し、タスラムを両手で握ってサーチ用スフィア三つ生み出し、それをターゲットのある方向へとそれぞれ解放する。

 

「さて、この程度で躓く理由が私達にはないんだから、さっさと終わらせて帰りにパフェでも食べさせてもらうわ」

 

 

                           ◆

 

 

「ふふっ」

 

 笑い声が漏れ出る。ティアナ・ランスターの声は試験会場内に放ったサーチャーを通してちゃんと拾っているし、彼女たちの動きも把握している。だからこそ笑い声が漏れてしまう。この試験はまだ内容がある程度公開されている試験だ。Bランクの試験内容はターゲットの破壊をどれだけ効率的に行えるか、という所にある。だからこそ試験内容の開示も行われているのだ―――つまり情報収集によって試験内容を、その中身を把握するのも立派な評価対象なのだ。だからティアナとスバルの姿を見れば、彼女たちがどれだけ調べてきたのかは解っている。しかもかなりの精度でだ。でなければここまで詳細にターゲットの位置を把握してはいない。まるで容赦の欠片も見せないその姿勢は個人的には高評価だ。

 

「懐かしいなぁ」

 

 浮かぶ複数のホロウィンドウには周りの状況と、そして二人の少女の活躍が映し出されている。ティアナ・ランスターは高所から狙い撃てる限りのターゲットを無抵抗のままに破壊している。賢いやり方だ。廃ビルが多く並ぶ廃棄都市区間での狙撃は不利に見えるが、あらかじめマップと狙撃箇所を把握しているのだったらこれほど楽な作業もないだろう。場所を位置取り、狙い、そして撃つ。試験内容を把握しているからこそ取れるシンプルな行動だ。

 

「試験内容、もう少しバリエーション増やした方がいいんじゃないかなぁ」

 

『40 down』(40撃破)

 

「あ、早い」

 

 少なくとも二人でこのペースというのはかなり優秀なスピードだ。まだ成長途中であることを考えれば中々凄まじいポテンシャルの持ち主たちだ。そう思いつつ視点をティアナからスバルへと移す。空港火災の時に助けた子とここで縁があるとはなぁ、と思うが……もう一人を、ティアナを見ると世間は意外と狭いと思い知らされる。

 

「ちゃんと後続は育っているようだね、先輩」

 

 ホロウィンドウの中でスバルが素早く通路の中を進んでいる。迫りくる弾幕は避けず、拳で迎撃しながら接近し、そしてすれ違いざまに攻撃を叩き込んでタイムロスを最小限に留めている。そしてそこから次の目標へと移動するのにそのまま階段まで移動するわけではなく、壁や床を破壊して素早く接近する事を選んでいる。……確かに試験内容には環境の破壊は減点対象にならないと出ているのでこれは責める事は出来ない。資質を見るに確実にティアナの入れ知恵なのだろうこれは。

 

「これなら問題なさそうだね、レイジングハート」

 

『Probably more dangerous to let them stay at C rank』(このままCランクにしていた方が危険でしょう)

 

 そうだね、と答えながら自分の見立てをリインフォース・ツヴァイと、そしてこの試験をスカウトの為に見守っているはやて達へと送信する。心の中で小さく、頑張って―――入隊したら地獄を味わわせてあげるからね、と応援する。

 

 

                           ◆

 

 

「なんかゾクって来た……!」

 

「不思議ね、私もよ」

 

 何か不吉なものにロックオンされた様な、大体そんな感じの予感。それを拭い去りながらスバルと共に高速道路の下を駆ける。機動力に優れるスバルが前面で敵の攻撃を迎撃しながら進み、その後ろから歩みを止める事無く魔力弾を放つ。此方は体を僅かに揺らせばそれだけで回避できる故、攻撃を避ける事も迎撃する事も簡単だ。相手は機械だ―――照準はブレないから対処は簡単すぎる。

 

 素早く接近したスバルを囮に一気にターゲットを鉄塊に変えてゆく。崩れた道路などを遮蔽物に一気に殲滅し、そしてホロウィンドウを出現させる。そこにでている時間にはまだ余裕がある―――だからといってゆっくりするつもりはない。視線を先へと向ければ、高速道路の上部へと続く穴がある。そこには既にターゲットが十数ほど潜んでいる。普通に進めば囲まれて蜂の巣になる。

 

「さ、作業を進めるわよスバル」

 

「ティアは頼もしいなぁ」

 

「客観的に見て楽勝って話よ」

 

「ティアがそう言うんだったら間違いないね」

 

 そうよ、と答えてポケットから詰め替え用のカートリッジを二本ほど取り出す。一本をタスラムへと使用しカートリッジを取り換え、もう一つを握ったまま穴の下へ移動し―――それを上へ放り投げる。そしてそれに向けて迷うことなく魔力弾を放つ。魔力弾に衝突したカートリッジは一瞬で爆発を起こし―――内部に込められていた”電気属性”の魔力を周辺へと振りまく。既にディフェンサーを発動させていたスバルが素早くこっちのガードに入り、こっちへと届く分の電撃を弾いてくれる。

 

 数秒後、軽い跳躍で上へと上がれば爆発したカートリッジの電撃により、ショートして使い物にならなくなっているオートマタがそこらかしこに倒れている。痺れて動けないだけの物も残っているはずだ。見逃さない様にスバルと共に一つ一つ数えながら破壊し、キルカウントをチェックする。ちゃんと全て破壊してきたのでこれで98体。

 

「残りはボスとゴール前のだけだね」

 

「解ってるなら言わなくていいわ」

 

 足に少し強めに強化魔法をかけて、スバルと共に高速道路を全力で駆ける。タイムには余裕がある。だがそれは一切手を緩める理由にはならない。何事も己の全力で、成せる事を成す。役目を、役割を理解してそれを果たす事だけを考えろ。己の領分を知れ。ちゃんと理解している。そして思う。

 

 少しデカイぐらいの鉄屑に潰される私達ではないと。

 

 高速道路を進んでいると近くのビルから巨大な砲撃が飛んでくる。だが即座にスバルが前に出て、そして砲撃を打撃する。スバルの打撃と相殺する様に砲撃は消える。機械の性能を考えれば次の砲撃が放たれてくるまで数秒のラグが存在する。

 

「邪魔よ」

 

 銃を今の砲撃で判明した中型オートマタの方向へと向ける。魔力弾を銃口に形成し―――そして弾丸を送り込む。結果を確認する間でもなく沈黙が標的の轟沈を伝えてくれる。タスラムをハンドガンの形状へと戻し、軽く手の中で回してから握り直す。そうしている間にも走っていると、やがて高速道路の終わりが見えてくる。ゴール近くに立っている最後のターゲット、ゴールライン、そして小さな空曹長。

 

「ラストは飾らせてあげるわ」

 

「よっしゃ! ティア愛している!」

 

「はいはい」

 

 スバルが加速し、一気に飛び上がる。空中で一回転する様にしてから、上からたたきつけるように踵落としを繰り出し、ターゲットを真っ二つにする。そしてそんなスバルに追いつき、二人で同時にゴールする。若干息を切らしながらもゴールへと到着する。そこには軽い感慨と達成感が存在していた。同時に到着したスバルとハイタッチを決めると、試験官が近寄ってくる。

 

「終了です! お疲れ様でしたー!」

 

「ちっさっ」

 

 小さいとは思っていたが予想外の小ささに思わず小声でツヴァイの姿を見て呟いてしまった。幸い相手には聞こえていなかったようだった。近づいてきた試験官へと向けて姿勢を正し、そして軽い緊張と共に見る。

 

「ふふ、本当にお疲れ様です。ターゲット全破壊、タイムも良好でした。私はまず間違いなく合格には十分すぎると思う結果です」

 

 その言葉にスバルが笑みを浮かべ、自分も少しだけにやけるのを感じる。ここがまだ通過点だと解っていてもどうしても成功は嬉しい。ただ横でガッツポーズしたり飛び跳ねそうなスバルの様子を見ているとどうしても冷静になってきてしまう。この馬鹿の手綱は私が握っておかないと、そんな思いが湧きあがってくる。

 

 と、そこでツヴァイが人差し指を持ち上げ、口を開く。

 

「と、私は思うんですが、どうでしょうか?」

 

「―――そうだね」

 

 返答が返ってきたのは背後だった。

 

 振り返り、視線を声の主へと向ければそこにいたのは―――。

 

「あっ……」

 

「うん、私も良くできていたと思うよ。合格はまず問題ないんじゃないかなぁ」

 

 白いバリアジャケット姿の女―――高町なのはの姿だった。




 Sts第1話相当の話ですね。原作前が違うので大分話が変わってきますよ。

 そしてさっそく頭がおかしい感じが。

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