これを書き始めた切っ掛けのテーマとしては、一応『ライブ会場での奏の死を回避するには』、或いは『英雄願望』です。


感想お待ちしております。


2017/11/25
見やすくなるよう少し編集(?)

2020/6/28
一部誤字修正
指摘感謝です

1 / 1
―――取柄が無くて、能力的に強くも無くて、ヘタレなキャラクター。

―――日常パートでも大した活躍が無い、メインキャラクターの脇でちらりと出て来たりする、名前持ちではあるというくらいのキャラクター。

―――そんな、地味な端役のキャラクターが、一番輝く瞬間って、何だと思いますか?



            ――――とある少女の日記より抜粋



私が英雄になる、たった一つの方法。

「旦那、これは・・・・・・」

「誰かの日記、ですか?」

 前触れもなく突然現れては人間を襲い、同質量の炭素に変換して殺害する、特異災害と呼ばれる極彩色の脅威――【ノイズ】

 その特異災害に対し、唯一まともに効果のある対抗方法であるFG式回天特機装束、通称【シンフォギア】を所有する特異災害対策機動部二課の本部にて、二課の長である風鳴弦十郎が手に持つノートを見て、二課に所属する二人のシンフォギア装者、天羽奏と風鳴翼は、怪訝そうな表情を浮かべながらノートから弦十郎の顔へと視線を移す。

「・・・・・・()()のノート、日記だ」

 どこか難しそうに顔をしかめながらの弦十郎の言葉を聞き、二人は視線を床に落としながらある少女を思い起こす。

 彼女ら二人の表の顔、アイドル、ツヴァイウィングのライブと同時に【ネフシュタンの鎧】と呼ばれる完全聖遺物を起動する実験を行った日、あろうことかライブ会場の真中で発生したノイズ。それらによって多くの観客が被害に会う中、少しでも観客を守る為その力を以て対抗した紅い片翼が折れ、墜ちかけた双翼を、自らの命を犠牲に救い上げた少女を。

 

 

 

 

 

今まで、特に日記を書いていた訳では無いけど、書いてみる事にする。

特に理由は無い。本当に、何となく。

良い事も特になかったし、とりたてて悪い事があったわけでもない。

強いていうなら、後で何かの役に立つのかもしれない、と思ったくらい。

いつまで書き続けるかはわからないけど、でも、しばらくは書いてみる。

 

 

今日も、何事も無い一日だった。

面白くも何ともない、普通の一日。

こんな事日記に書く必要があるんだろうか?

日記にどんな事を書くものなのか、分からないから取り敢えず書いておく。

何も無い、って事は、平和だってことでもあるから。

最近は、この辺にノイズが良く現れるらしい。気を付けないと。

 

 

何事も無い一日。

何というか、何で生きてるのか、とか何のために生きてるのか、と思うくらいに何も無い。

私の価値って、取柄って何なんだろう、と割と思う。

何より、自分の感覚にフィルタがかかっているような、と言うか、自分の視界の筈なのに画面を眺めているように感じると言うか、こう、現実にあまり実感が湧かないのだ。

・・・・・・日記を書き始めて三日目で何を書いているのだろうか。

こんな事考えていてもどうしようもないし、この辺で切り上げる事にする。

 

 

今日は、クラスメイトがCDを貸してくれた。

貸してくれた、と言うよりは押し付けられた、と言うのが近い状況だったけれど。

最近人気のユニット、ツヴァイウィングのものらしい。好みの曲ではあった。

天羽奏、そして風鳴翼だったか。天羽奏は聞いた話では17歳、風鳴翼は15歳らしい。

私とそう年が違わないのに、輝いているなぁ、と思う。

燃え盛る炎のような天羽奏。どこまでも続く空のような風鳴翼。

それに比べ、私は何なのだろう。

白のように清く正しい訳でも無く、黒の様に悪に染まる気も無い。輝く部分が全く無い。

様々な色が中途半端に混ざり、くすんでいる。

まるで、灰。

・・・・・・何を色で例え始めているのだろう。

漫画やライトノベルの影響でも受けたのかも知れない。中二病にでもなったのだろうか。

ツヴァイウィングのCDは自分で買ってみる事にする。

 

 

 

 

 

「炎に空、か・・・・・・」

「最近、あたし達のファンになってくれた奴だったんだな・・・・・・」

 

ツヴァイウィングのCDや、自分たちの印象について嬉しく思いながらも、その前日や感想の後の記述に、翼は思う。

 

彼女は、何を思い、日常をどう感じながら過ごしていたのだろうか。画面を眺めるよう、と彼女は書いていた。私は、風鳴翼としてしなければいけない事をひたすらに行い、鍛え、シンフォギア装者となり、奏と出会い、装者としての任務もあるが、夢であった歌手にもなる事が出来た。ただ、ひたすらに生きて来た。辛い事も数多くあったが、充実している、とも言える生活を送っている。

 

奏と自分にしか出来ないシンフォギア装者として、そしてツヴァイウィングとしての活動もある。ツヴァイウィング、そして装者という立場は、彼女の望む『自分の価値』とも言えるのだろう。もっとも、彼女が装者のような危険な立場を望んでいるとは思えないが――

 

奏が日記のページを軽く、しかし、内容が頭に入る程度にパラパラと目を通していく内に5ページ程で手を止めた様子を見て、翼も日記を覗き込んだ。

 

 

 

 

 

 

父さんが、事故で死んだらしい。

元々、トレジャーハントという、どこのマンガのキャラだ、と思ってしまうような現実味の無い、犯罪すれすれから十分引っかかるレベルの事までする、文字通り命がけの危険すら起こりうる趣味を持っていた人だ。覚悟、と言うか、ある種の諦めは付いていたからか、やっぱり、という思いすらある。

家にいる時はRPGゲームをよくやっており、ファンタジーな作品が好きらしかった。それをこじらせてか、それともあのトレジャーハンターの映画に影響されての事かは分からないけど、よく海外に冒険に出かけるようになった。なまじお金に余裕があるのも、ストップをかけきれなかった理由だった、と昔死んだ母さんが苦笑顔で言っていたのを覚えている。それが格好良くも可愛くもあった、ともその後に惚気ていた。

明日は、父さんが良く言っていた、「もし死んだときに見てほしい物」とやらを確認して、父さんが死んだらしい場所、確かバル・ベルデとか言う場所に向かう予定だ。

あまり治安は良くないかもしれない。注意しないと。

 

 

 

 

 

 

「親が・・・・・・死んだ?」

「彼女が奏を救った時に用いた例の聖遺物は、彼女の父が見つけ、言い残していたらしい物なのだそうだ」

 

弦十郎が、奏が見ていた日記のページをめくり、書いてある文を指す。

 

 

 

 

 

 

言いつけ通りに例の物を確認したけれど、これは何なんだろうか。

何というか、魔法の杖のような杖だった。

二匹の蛇が杖に絡まっているような装飾。

これ、ケーリュケイオンとかカドゥケウスとか言ったりするのではなかろうか、と思っていたら、一緒に箱に入っていた書置きにそれを肯定する内容が書かれていた。嘘くさい。

まあ、そんなことはあり得ないだろう。

ロンギヌスの槍とかなら実在していたとしても、ケーリュケイオンは神が持っていた物だ。

でも、父さんは本物だと確信すらしているような事が書いてある。

何はともあれ、自分の一番の宝物とまで書いてあったものだ。大事にしてくれとは言われていたけど、本人もあれだけ気に入っていたのだ。死んでしまったのだし、最後くらいは少し一緒にしてあげてもいいだろう。その後にちゃんと持って帰れば、遺言にも背かないだろうし。

・・・・・・税関通るのだろうか。

 

 

 色々とあって、日記を書き損ねていたから、まとめて書こうと思う。

先ず一つ。父さんとはちゃんと会えた。なにやら女の子を庇って銃弾を受けたらしく、死体は綺麗だった。どんな状態なのかと少し気になっていたから、少し安心した。

二つ。これが何と言うか、父さんが好きだったゲームの子守歌のようなものを歌っていたら、ケーリュケイオンの封印が解けた・・・・・・みたいな。石みたいに灰色だったのが、大理石のような色になった。まさかこの歌が封印を解く鍵なんて事でもあるまいし、何が起こったのやら。しかもこのケーリュケイオンの蛇、偶にまばたきしたり舌を出したりなんか動いてるんだけど。

三つ。このケーリュケイオンを知っている人と出会った。長い白髪の、お金持ちの女性、と言った雰囲気の女性で、名前は確か、フィーネ。綴りはどう書くのだろうか。譲ってほしい、と言われたけれど、遺言だから、と言うと割とあっさり引き下がった上に、他の人に取られないように手回しをするとまで言ってくれた。どうやら、父さんとは知り合いらしく、この人もケーリュケイオンのような伝説で語られるような武器や道具を探しているらしい。

ケーリュケイオンも、私が手放すと言わない限りは渡さなくていい、という約束だったらしく、先程のものは冗談のようなものだったとか。なんでまたあの父さんが、こんな美人さんとそこまで仲良くなったのか。この人は日本を拠点にしているらしく、次は日本で会いましょう、と言って別れた。後ろにいた、やたらと流暢な日本語で少し口の悪い銀髪の可愛い女の子は娘さんだったのだろうか。今度会ったら聞いてみても良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「俺がこれを読んで確認させた所、ケーリュケイオンの情報はデータベースに入っていたが、それに対してのアクセスや、アウフヴァッヘン波形への反応は完全にカットされ、ウチの設備とスタッフをもってしても簡単には破れない程に厳重なセキュリティが掛けられていた」

「二課の内部にこの女性が潜んでいる、と言う事ですか?」

「外部からのクラッキングという線も否定できんが、可能性としては・・・・・・な」

 

 

 

 

 

 

家に着いて一息ついた事だし、週末という事もあってケーリュケイオンの使い方について試してみた。現状分かった事は二つ。

1.自分の怪我は治せないらしい。

2.他人の怪我を自分に移すことが出来る。逆も多分可。

裁縫針で少しだけ刺してみた怪我ですら治せなかった。痛い。

2つ目は、人体実験のようで余り気が進まなかったけど公園にいた、転んで擦りむいたらしい男の子で試した。男の子には見えていなかったみたいだけど、杖の二匹の蛇が伸びて男の子と私の腕に噛み付き、少しすると怪我が消えて私の膝に怪我が移っていた。その時はスカートではなかったからバレなかったけど痛かった。

恐らく、怪我を癒すという伝承は、怪我を使用者に移した事で怪我を無くしたという事で発生したのだろう。生き返るというものも、使用者が神であった事から、寿命を分け与えたという事かも知れない。それなら、一方的に他人に送る事も出来るのかも知れない。例えるならば、ステータス情報の交換、ともでも言うのだろうか。それも、怪我などのバッドステータスも含む。

 怪我を自分に移す事で他人を回復、或いは自分の怪我を相手に移して自分が回復、という事も出来るのだろう。

機会があったら試してみたい。

 

 

平日は、流石に鞄に杖を入れて持って行くわけにも行かないしケーリュケイオンは家でお留守番。

何が起こるでも無い、至って平凡な日だった。ケーリュケイオンをもっと使ってみたくはあるけど、こう言うものはあまり人目の付くところで使わない方が良いのだろうし、少なくとも週末まではこのままだろう。

つまらない、と言うと少し不謹慎な気もするけど、やっぱりもっと使ってみたい。何とか持ち歩いてみようか。

 

 

この前ツヴァイウィングのCDを貸してくれた小日向さんが、何時も一緒にいる立花さんと二人で週末に近くの会場で行われるツヴァイウィングのライブに行くらしい。今回は参加出来無さそうだけど、次は予定を開けて行ってみようと思う。勿論、チケットが取れたらの話だけど。

違和感のないケーリュケイオンの持ち歩き方法は模索中。

 

 

ケーリュケイオンに、魔法先生よろしく手近にあった包帯を試しにぐるぐると巻き付けてみた。違和感が凄い事と、何やら蛇の部分がもぞもぞと嫌そうに動いているように感じてすぐ外したけど。

漫画だと、こういった棒状に近い物を持ち歩くとなると竹刀袋やギターケースが定番のイメージだけど、剣道もギターもやった事が無いから持って無いし。

某カードキャプターや、リリカルな魔砲少女の杖よろしくペンダントサイズになってくれれば楽なんだけど。

そんな事を考えつつ、ケーリュケイオンを掲げながら冗談半分で「待機状態」と言ってみたら、本当に右腕に蛇の入れ墨のような状態になって収まった。逆に、「展開」と言ったら杖に戻るらしい。

持ち歩きの面は解決したけれど、コレをどうやって隠そうかという別の問題が出て来てしまった。

 

 

 

 

 

 

「アタシの腕に浮かんだ蛇の入れ墨みたいのから聖遺物の反応がある、っていうのはそれが理由か・・・・・・」

「奏君、ものは試しだ、唱えてみてくれないか」

「あいよ旦那――『展開』」

 

 叔父様の言葉に応え、奏が腕を伸ばしながら唱えると、ズルリ、と蛇の入れ墨に似た紋様が腕から手、そして空中へと移動し、杖の形を成した。それをむんず、と掴んだ奏に、蛇はどこか不満げなように見える表情を浮かべて、片方の頭は奏を、もう片方は私に向けて舌をチロチロと見せた。

 

「これが、ケーリュケイオンで間違いないか?」

「ええ、あの時彼女が使った物と相違ないかと」

「杖でありながら、待機状態として所有者に同化する事が出来る聖遺物・・・・・・そんな物も有るとはな。しかし、日記には蛇は意思を持っているような記述があったが、俺には普通の杖に見えるのだが・・・・・・奏君、翼、お前たちにはどう見えている?」

「アタシには、一応蛇に見えるって感じだな。ぼやけて見えると言うか、重なって見えると言うか」

「私には、蛇に見えます。恐らく、シンフォギアの適合率などに関係しているものかと」

「成程、な・・・・・・」

 惜しい人材を、と漏らしかけて首を振り、顔に手を当てる叔父様。――実際、それだけの適正があるのならば、いずれはシンフォギア装者としても相当なものになっただろう。

しかし。彼女が命を賭して救ってくれたおかげで今この場に奏が存在する事が出来ている事を考えると、私はそれを言葉にする事は出来そうにない。何故なら、彼女が装者になる未来はきっと、奏が死んでいる世界なのだろうから。

 取り止めの無い日常を記した内容であった次の日のページを軽く読んでめくると、その後は書かれていなかった。この日が最後に日記に書きこんだ日らしい。その後には何かないか、と翼はパラパラとめくっていき、最後のページと裏表紙の裏に書いてある文章を見つけた。だが、これは――

「日記では、無い?これは――ッ!!」

 

 

 

 

 

これが、彼らへの侮辱に値するような考え方なのは理解しているつもり。

だって私は、彼等のようになりたいと考えているのでは無く、彼等のように死にたいと、そう考えているのだから。

 

片思いの相手の兄を手伝う為、ゲームとは言え、少しでも敵を倒すために最後の足掻きとして自爆魔法を使った妖精の少年の様に。

 

「全ての大人」へと宣戦布告したテロ組織の一員となり、押し寄せる政府の兵隊から女性や子供たちを逃がす為に戦場に戻って、自分を巻き添えにして爆死しながらも足止めを果たした少年の様に。

 

気弱で、自らを無能な臆病者と自嘲しながらも、押し寄せる吸血鬼達への抵抗の意思と指示を示し、司令室に雪崩れ込んだ吸血鬼達と共に自爆した将軍の様に。

 

反帝国を掲げる集団の襲撃を受け、自分の中の理想と現実の差に打ち拉がれながらも救いを求める市民を守る為に立ち上がり、その場で自らが出来る事を成し遂げ、そのまま力尽きた「正義」を愛した三等武官の様に。

 

勇気と覚悟を持って、命を落としながらも何かを成し遂げた彼等の様になりたいのでは無く。

 

何かを成し遂げて命を落としたのなら、こんな私でもその他多数の人間では無く、何者かに、英雄になれると、英雄になったキャラクター達と同じ事が出来るという事への自己陶酔をしたいと、そう、考えているのだ。

 

だって、誰かが英雄になるのなら、誰もが英雄になれるはずなのだから。

 

そう、この思考に名前を付けるならきっとそれは、

 

歪んだ英雄願望、或いは、前向きな自殺衝動だ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 その日は、特に何も予定が無い週末だった。

 行きたい、と思ったライブはあったものの、知った――と言うより、そもそもそのライブをするツヴァイウィングに興味を持ったのがついこの間だったのもあって、チケットの入手は不可能だったのだ。小日向さんと立花さんは一緒に行くそうなので、少しうらやましい。

 

 まぁ、無い物ねだりをしてもしょうがない訳で。予定も無いから、本屋やらゲームショップやらを梯子でもしようか、と思い立ち、適当に身軽な服を来て家を出る。

 

 さて、どこから行こうか、とショルダーバッグを肩に掛けて歩き出そうとした時、目の前を通り過ぎていった乗用車が急に止まり、ドアが開く音が聞こえた。すわハイエース案件か、と振り返ると、そこにいたのは先ほど思い浮かべていた人物の一人、小日向さんが立っていた。彼女曰く、親戚が入院してしまい、急に家族でその親戚の元に行く事になってしまったので、もしよければ代わりにライブに行かないか、という事だった。

 

 元々ライブに行けないので暇つぶしに適当に出かける、という所だったので、願ったり叶ったりとはこの事、とチケットを受け取った。後で代金を払う、と言うと、彼女はどうせ無駄になるところだったチケットだし別にいい、と言って、彼女の親御さんが急かしているのが聞こえた所で押しつけるようにして車に逃げられてしまった。まぁ、逃げられてしまったものは仕方がない。後で払えばいいか、とチケットを改めて眺め、一度家に戻る。本屋に行くなら兎も角、ライブに行くのならもう少し真面な服の方が良いだろう。

 

 先程よりも少し気合の入った――とまでは行かないにしても、余所行きの時に着ていた服に着替える。アクセントとして適度にレースがあしらわれた白いワンピースに、ベージュ色のカーディガン。これなら腕のケーリュケイオンも隠せるし、極々平凡な私でもそこそこ見られるようにはなる無難な組み合わせだ。そこに、昔父さんに買ってもらった花のヘアピンでも着けておけば、面白味の無いショートカットも少しは見栄えが良くなるだろう。後は、と男性も使うようなショルダーバッグからそこそこ小洒落たポシェットに変え、スニーカーだった靴も服に合う様に白のヒールサンダルに。眼鏡は今の所コンタクトにするつもりは無い。なんで目に直接レンズを着けなくてはいけないのか。

 

 身支度を改めて終わらせ、時間を確認してみると既に開場時間の30分ほど前だった。バスかタクシーでも拾えば、会場時間には間に合うだろう。交通費に関しては、元々自転車でふらふらと出かける予定だった身としては余計な出費にはなるけれど、まぁ楽しみの為の出費だしこの位は気にしない事にする。

 

 丁度家の近くを通りかかったタクシーを拾い、ライブ会場へ向かうと、既に長蛇の列という表現では足りないような長さの列が並んでいた。流石は超人気ユニット、と言う所か。小日向さんの話では先に立花さんが来ているらしいけれど、この様子では見つけられそうに無い。まぁ、チケットは連番らしいし会場に入れば会えるだろう。ただ、この客入りだ。物販は諦めた方が良いかもしれない。

 

 会場時間になりました、というスタッフの声がやや遠くから聞こえ、列がじわりじわりと動き出した。流石にこの人数、余りサクサクとは進まない。動き始めてから10~20分は経ったか、と言う時間が立ち、ようやく会場に入れた。人ごみの中ながら、空調が効いていて先程までよりは少し心地よい。会場に入った流れに従い、そのまま席を目指す。下手に外れると大変そうだし。

 

 席にどうにかたどり着くと、分かってはいた事だけど立花さんが既に座っていた。結ちゃんやっと来た!と嬉しそうな声で呼ばれ、悪目立ちしてしまう事に小さく溜め息を吐く。立花さんは何時も元気だね、なんて呆れながら言うと、未来にも同じような事言われる、と楽しそうに笑っていた。小日向さんも大変そうだなぁ、と思ったけれど、よく考えてみたら小日向さんは何時も困ったような顔をしながらもどこか楽しそうに立花さんの世話をしている。まるで母親か、年上のお姉さんか、格調高く言うと百合という表現になるその道の人である。

 

 まぁ、冗談はさておいても、ムードメイカーで行動的な立花さんと、そんな彼女を一歩引いた位置で支える小日向さん、という組み合わせは、とてもいいコンビだと思う。最早夫婦の様ですらある。立花さんが男性で、この世界が物語なら、この二人が主人公とヒロイン、と言われて納得するくらいに。

 

 小日向さんと一緒に見れなくて残念だったね、と声を掛けると彼女は首を横に振り、一人で見る事になると思ってたけど、結ちゃんが来てくれたから安心した、と、そう返された。やっぱり、友達と一緒の方が一人より楽しいもんね!と言う立花さんに、驚きで反応が遅れてしまった。どうやら、私は立花さんの友達だったらしい。私と立花さんはあまり話した事無かった筈だよね、と確認してみると、未来の友達なら私の友達みたいなものだと思ってるしね!と屈託のない表情で返されてしまった。

 

 きっと、小日向さんは、立花さんのこういう所が好きになったんじゃないかと思う。確かに、鬱陶しいと感じる人は居るかもしれない。だけど、彼女のこういう在り方は私にとってはとても眩しくて、私がなりたいと思う、そんな理想の姿なのだ。だからこそ、私とは全く違う彼女の事は嫌いになれないし―――同時に、主人公的なその姿が、とても妬ましく感じてもしまうのだ。

 

 ホールが暗くなり、曲が流れ出す。ツヴァイウィングの代名詞とも言える歌の一つ、逆光のフリューゲル。周りの人たちがライトを付けていくのに合わせ、中のカプセルを割ってライトを付ける。それを見てか、隣で困っていたらしい立花さんもパキ、と音を立ててライトを光らせ、周囲と一緒に歓声をあげる。

 

 ホール中に光る羽が舞い、上からツヴァイウィングの二人が降りて来る様子に歓声のボルテージが上がって最高潮になると同時に、ライブは始まった。

 

 歌い踊る二人にあわせてホールに響く合いの手、色とりどりのライトを用いた演出によって更に場が盛り上がっていく。サビに入ろうか、という頃合いになると、最初に降りて来たホールの中央にある足場から一番奥の広くなっているステージへと走っていき、サビが始まるタイミングで一度タメが入って天井に蒼と紅の光が走り―――

 

 

 ホールの天井が翼の様に開いた。

 

 

 周りが歓声を上げている中、私はあまりの展開に・・・・・・へ?と、思わず気の抜けた声を漏らしてしまう。何なのこれは。こんなホール、それこそ漫画やアニメの領域だと思っていたのだけれど、まさかこんな身近に実在しているとは思っても見なかった。

 

 まぁ、こんな事を気にし続けても仕方ないし、ライブに改めて意識を向けることにする。

 

夕日の中で歌う二人を見て観客の盛り上がりはヒートアップしていき、一曲目が終わった直後、まだまだ行くぞという天羽奏の掛け声と共に二曲目のORBITAL BEATへと移行、イントロが流れ出して数秒で、それは起こった。一階の観客席が突如爆発、更に追い打ちを掛けるように上空や一階観客席にノイズが出現したのだ。

 

 

 爆発とノイズの出現で他の観客達が混乱し、我先に、と逃げ出している中、私は見た。先程までステージ上で歌っていたツヴァイウィングの二人が、先程までのステージ衣装とは違う――言うなれば、バトルスーツのような物を見に着け、片や槍、片や刀を携えた姿。

 

 現実に存在する変身ヒロインを、英雄を、私は見た。

人類には抵抗の手段が皆無に等しく、突如現れる故に特異災害と呼ばれるノイズ、それも人間サイズから家よりも大きいものまで様々な物を次々と屠っていく彼女達を。

 

 ああ・・・・・・これが。

 

 これが、主人公。

 

 

 思わずぼう、と見とれていると急に足場が崩れ、我に返った時には瓦礫と共に一階まで落下した。自分の他に悲鳴がもう一つ隣から聞こえたので、立花さんも一緒に落ちたらしい。私は何とかぶつけた痛みはあっても怪我せずに済んだものの、立花さんに確認すると、どうやら右膝を痛めたらしい。

 

 これ以上の何かが起こるかもしれない事を考えると、うかつにケーリュケイオンを使わない方が良いだろうと判断した私は、立花さんに肩を貸してその場を離れる為に歩き出す。彼女らを見ていたかったけれど、戦場となっている一階にいては完全に邪魔になってしまう。そう思い、一階の出入り口に向かって一緒に歩き出した直後、立花さんが壁側に向かって半ば吹き飛ぶ様に倒れ込んだ。

 

 立花さんに声を掛けながら何が起こったのか、と確認すると、心臓付近に何かが刺さったような傷が出来ているのが眼に入った。何かの破片が戦場になっている方向から飛んできたらしい。先程まで戦っていた天羽奏がこちらに駆け寄って来て、立花さんに死ぬなと、目を開けろと、生きるのを諦めるなと、そう励ます。

 

 かっこいいなぁ、と、そう素直に思った。この人なら、きっとノイズも全滅させられるんだろうなと、そう思えるくらいに。この子は私に任せてください、と言うと、真剣な――いや、何かの覚悟を決めたような表情で、彼女は頼んだ、とただ一言返し、私たちに背を向ける。絶対にお前達は守って見せるから、安心してくれ。そう言い残し、槍を携えた彼女は、ノイズに向かって歩き出した。

 

 思わず、溜め息がこぼれる。何でこう、私の周りにはこんなにも主人公然とした人達が多いのだろうか。天羽奏と風鳴翼に至っては、変身ヒロインだ。こんな事が、まさか現実に起こるとは思わなかった。あぁ、全く――

 

 

 

 死ぬには良い日だ。

 

 

 

 思わず声に出してしまったらしいそれが聞こえたらしい立花さんが、どこか虚ろながら不思議そうな表情を浮かべているのを見て、私は笑みを浮かべる。大丈夫、貴女の事は私が助けるから。立花さんにそう言って、ケーリュケイオンを展開する。私がこれを手に入れたのはきっと今日の為なのだから、躊躇わない。杖の蛇を互いの心臓部分に伸ばし、立花さんが心臓部分に受けている傷と、私の健常な状態を入れ替える。

 

 しかし、ここで一つ誤算があった。一部の破片が、移せなかったのだ。

 

 何故、と疑問が浮かんだ瞬間、私が感じたのは胸に突然現れた熱。そして、数秒経った後に、その熱は痛みへと変わった。痛いという言葉と胸の熱以外に頭が真っ白になるような感覚。そんな中で、他にもう一つだけ感じ始めた物があった。

 

 天羽奏の歌、だった。どこか神秘的で、同時に力強くも感じるその歌を聞いていると少しは痛みが和らぐ気がして歌に耳を傾けていると、必死な風鳴翼の声が聞こえる。それは、その歌を歌っては駄目、という静止の言葉。それを聞いて、少しぼやけ始めた思考の中でもどこか嫌な予感がした。それは、その言葉はまるで、

 

 自爆でも、しようとしているかのように聞こえて――

 

 そう、頭の中で至ったその時、天羽奏からノイズに向けて力の波動のような物が向かっているのが見えた。その波にノイズが当たると、ノイズが悉く破壊され、崩れていく。これだけの規模の攻撃、風鳴翼の必死な声。間違いない、これは自爆に近い、最終手段の攻撃なのだと、そう理解した。

 

 ノイズを滅ぼしていった波が収まると、天羽奏がふらりと倒れ、風鳴翼が彼女を受け止める。

 

 このままでは彼女は、天羽奏は死ぬと、そう感じた。そしてもう一つ、直感だけれど、気付いた事がある。これは、言うなれば英雄が代変わりする為のイベントなのだ。なら、きっと立花さんが心臓に受けた、移せなかった破片こそが何かの力を持つ物なのだろう。

 

 ――やっぱり、彼女達は主人公だった!!

 

 痛みも感じるけれど、それ以上に興奮が上回っていた。この世界に、この現代に、英雄は実在したのだ!! とある世界の英雄は言った。「誰かが英雄になるのなら、誰もが英雄になれるはず」と。ならば、私の同年代の少女が英雄になれるのであれば、私もまた、方法と形さえ選ばなければ英雄になれる。なれるに決まっている!!

 

 私の命なんて価値の無い物よりも、彼女達の方がもっと価値がある。だって、どうやっても人類には太刀打ちできず、逆に触れられれば炭素になり果てるしかないノイズという脅威に、唯一太刀打ち出来る存在なのだから。私のようなモブと彼女達、どちらがより重要かなんて、考えなくても分かる。

 

 杖の状態にしたままのケーリュケイオンを天羽奏に向け、命じる。

 

 その内容は、『彼女のバッドステータスを私に、私のバッドステータス以外を彼女へ』。主人公を救って命を落とすなんて美味しい役、他の誰にも渡してたまるものか。これは、私が望んだ絶好の機会だ。

 

 蛇が地を這う様に天羽奏へと伸びていき、届く。風鳴翼が必死に声を掛けているところを見るに、相当危ない状態らしい。もう片方を自分に噛み付かせ、交換を開始させると、途端に体が崩壊していくような感覚が襲ってくる。どうやら、天羽奏は本当にマズい状態だったらしい。全力で誰かを守り、体が崩壊するほどのダメージを受けながら相棒に看取られて逝くなんて、正に英雄だと、そう思う。

 

 彼女は、彼女らは、きっと何時か世界を救う。他にも同じ力を持つ仲間たちが増えるかも知れないし、増えないかも知れない。でも、唯一つ確信をもって言えるのは、仲間が増えようと増えまいと、ノイズを倒し尽し、世界からノイズの脅威を無くしてくれる英雄は、彼女達なのだ。

 

 そして、私は命を落とす筈だった英雄を一人救う事が出来た。彼女は、天羽奏はきっと、表ではツヴァイウィングとして人々を元気付け、裏ではノイズを倒す英雄として、これからも活躍を続けるだろう。

 

 私は、彼女を救う事で、世界を救う手助けをする事が出来たのだ。

 

 

 

 あぁ、目が見えなくなって来た。

 

 

 音も、殆ど聞こえない。

 

 

 体の感覚も薄れて来た。

 

 

 これが、死なのだろうか。

 

 

 満足だ。この終わり方こそ、私がずっと望んでいた事。

 

 

 このまま生きていても何も成せないような私は、こういう方法でこそ、一番輝ける。しかも、英雄を救ってなんて、これ以上の死に方は無い。

 

 

 

 

 

 

――――私は、英雄になれただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

―――取柄が無くて、能力的に強くも無くて、ヘタレなキャラクター。

 

―――日常パートでも大した活躍が無い、メインキャラクターの脇でちらりと出て来たりする、名前持ちではあるというくらいのキャラクター。

 

―――そんな、地味な端役のキャラクターが、一番輝く瞬間って、何だと思いますか?

 

―――もし。もし私が死んで、これを読んでいる貴方がその代わりに生き残ったのなら。

 

―――決して、自分を責めないで下さい。その必要は欠片も存在しません。何故なら、

 

―――貴方は、きっと私の自己満足に巻き込まれただけだから。

 

―――巻き込んでごめんなさい。

 

―――最後に、自分勝手ではあるけれど一つだけ。

 

―――自己満足に付き合ってくれてありがとうございました。

 

 

                       ――――とある少女の日記より抜粋

 




これのテーマは、あらすじにも書きましたが
『ライブ会場での奏の死を回避するには』
『英雄願望』
の二つと言う事で。

元々、ほぼ死んでいるような誰かの命を救うのにデメリット無し、と言うのはどうなのかと思っていたので、主人公が死ぬ事は決めていました。

怪我や死すら覆すような聖遺物、と考えて、真っ先に浮かんだのがカドゥケウス(ケーリュケイオン)だったので、考えた当時からそれも当時から決めていましたが、じゃあデメリットはどう設定すんのよ、と考えた結果、ステータスの交換、に至ったという事で。ケーリュケイオンよりもカドゥケウスの方が個人的に親しみがあったのですが、ケーリュケイオンの方が響きが好みかなぁ、って感じで。

このケーリュケイオンのステータスの交換、本文内では所謂状態異常のみでしたが、一応ステータスの数値自体も可能です。例えば、近接特化の相手からSTR、DEFを吸い取り、自分からは状態異常を押し付けるなんてバカみたいな事も出来ます。何やこのチート。
まぁ、続きは書くつもりはありませんしって感じで。

奏は、絶唱の反動が無くなった他、主人公こと日下部結の置き土産として、結のステータスの全てと、待機状態で腕に宿る、という状態を気に入っているらしいケーリュケイオンを(半ば流れで)受け取った状態というなんだこのチー(ry

さて、この結ちゃんの父さんとフィーネの関係ですが、趣味と実益を兼ねた協力者、という感じです。父さんはトレジャーハントをして聖遺物を探す事が好きで、フィーネとは支援をしてもらえる代わりに聖遺物、或いはその疑いがある物を見つけた時はそれを報告、フィーネに引き渡すと言う物で、ケーリュケイオンに関しては、フィーネとしてはネフシュタンの研究が終わるまではしばらくかかるし、素直にトレジャーハントと聖遺物に当たる物がが好きという事で他意が無い事から、協力者として信用しているため、しばらく預けてやるか、という位の気持ちでした。


彼女の英雄願望は、読んでいて分かったかも知れませんが、Dr.ウェルに近いです。強いていうなら、嫌がらせであるとか、悪印象を受けてでもなりたい、とは考えていないと言う位でしょうか。

結に救われた奏ですが、全てのバッドステータスを吸い上げられた影響でリンカーの悪影響も消えた事もあり、ノイズと戦う理由に、彼女の分まで生きないといけない、というものが増え、以前よりも自分を大事にするようにもなった事でしょう。日記を読んでからも、「それでも、コイツがあたしを助けてくれたことは変わらない」と言っていると思います。

今回、一番予想外の結末になってしまったのはフィーネさんですな。
ケーリュケイオンが二課に見つかるどころか、装者に半ば取り付いている状態になり、システムの改ざんも発覚する事で身バレの可能性が原作よりも早く高くなるという。

まぁ、この他にも書きたいことがあったらまた後で書き足すかもしれません。

では、最後にはなりますが、拙作を読んでいただき有難うございました。
また何か投稿した時は、そちらもよろしくお願いします。

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