これは、その1つである剣道場での1コマである。
ーーーーー鎮守府・06:10 剣道場ーーーーー
よく晴れた日の早朝、剣道場に素振りの音が響く。
鎮守府内にある訓練施設の1つである剣道場で、1人の艦娘が木刀で素振りをしていた。
「ふっ!はっ!せいっ!」
「朝早くから精が出るな。天龍。」
天龍と呼ばれた艦娘は素振りを中断し、声のした方へ振り向く。
「・・・木曾か。なんだよこんな時間に。今日は非番だろ?」
声の主は木曾。この鎮守府の主力である第1艦隊に所属する艦娘だ。
「それはお前もだろう。非番の日まで朝稽古とは恐れ入るよ。」
そう言って天龍に水の入ったペットボトルを投げ渡す木曾。
「言ってろ。オレは早く前線で戦いたいんだよ。」
天龍はそれをキャッチし、剣道場の壁際へ移動して胡座をかいて座る。
そして首に掛けていたタオルで汗を拭うと、ペットボトルの蓋を開けて水を飲み始めた。
「くぅ~!よく冷えてて身体に染み渡るぜ!!木曾、サンキュな。」
「・・・・・・なあ天龍。」
木曾は天龍の隣へ来て同じように座り、ごくごくと美味しそうに水を飲む天龍に問いかける。
「んあ?なんだよ。」
「お前はどうして前線に行きたいんだ?」
「・・・・・・別に、どーでもいいだろ。」
罰が悪そうに顔を背ける天龍。
言いたくない理由でもあるのだろうかと、木曾が思案していると剣道場の入り口から声が聞こえた。
「それは私たちも知りたいところですね。」
声のした方をみる二人。
そこにいたのは剣道衣に身を包んだ安住と比良だった。
「少佐に提督かよ。盗み聞きとは、趣味が悪いんじゃないか?」
「ここに何しに来たんだ?というのは愚問か。その格好を見れば分かる。」
悪態をつく天龍と、何かを察する木曾。
「偶然聞こえてしまったんだ。そう怒らんでくれ。」
「我々も、朝の稽古と言ったところですよ。」
道具置き場に無造作に置かれている木刀を取りながら、二人が道場の奥へ入ってくる。
天龍は少々不機嫌そうな顔をしているが、比良も安住もさして気にしていないようで、各々素振りをはじめる。
(ふーん、まあまあ様になってるじゃないか。)
(剣術のことはよくわからんが、そうなのか?)
天龍と木曾はそれを暫く眺めていた。
やがて素振りを終えた比良が、天龍へ話しかける。
「どうした、天龍?なんなら俺たちの相手をしてみるか?」
「んあ?提督たちが、オレと?」
比良の突拍子もない提案に、天龍は何を言っているんだと肩を竦めてみせる。
「普通の人間のあんたらが、オレたち艦娘とやりあえる訳ないだろ?」
「おい天龍、少し提督たちに失礼じゃないか?」
木曾が天龍を咎めるが、比良は構わないというように手を振って見せる。
「たしかに、俺みたいなオッサンじゃ相手にならないだろうけどな。安住はどうだ?なかなか出来る方だと思うぞ。」
いまだ素振りを続ける安住に目をやる天龍。
(少佐ねぇ・・・身体つきはひょろっちいが、素振りからすると少しは出来そうだが・・・。)
見定めるような視線で安住を見つめていた天龍に、比良がさらに声をかける。
「安住に勝ったら、前衛艦隊への編成も考えてみるって条件ならどうだ?」
「提督、それはいくらなんでも・・・。」
比良の提案に木曾が呆れた様子をみせるが、それに天龍が反応した。
「提督、その話マジだな?」
「もちろんだ。安住が勝ったら、かわりにお前が前線に行きたい理由を教えてもらおうかね。」
天龍の目が一瞬細くなるが、前線に出られるまたとないチャンスだ。
「いいぜ!やってやろうじゃねぇか!」
比良の条件をのみ、天龍と安住の試合が決まったのだった。
ーーーーーーーーーー
素振りを終えた安住は今、剣道場の中央で天龍と向かい合っていた。
比良が審判としてルールの説明を始める。
「ルールは特になし!どんな手を使ってでも、最終的に相手を制圧した方が勝ちだ!」
「いいのか提督?そんな無茶苦茶なこと言って。」
さっそく木曾が苦言を呈する。
「実戦じゃあルールも糞もないからな。なんでもありだ。」
「実戦、ねぇ・・・。」
何か問題があるか?と付け加え、比良は説明を続ける。
「武器は妖精さん謹製の『当たっても痛くない!訓練用木刀!(定価6,980円 税別)』を使ってもらう。何か質問はあるか?」
「いえ、ありません。強いて言うなら、勝手に試合を決めないで貰いたいですね。」
「オレも特にないぜ。提督、さっきの約束忘れんなよ?」
安住が少しばかり嫌味を言ったが、二人とも準備は万端のようだ。
比良は二人の顔を見て「構え。」と指示する。
天龍と安住が腰に持っていた木刀を仮想の鞘から引き抜くようにして抜き、天龍は下段、安住は中段で構える。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
構えた姿勢のまま、暫くの時間が流れ、剣道場が静寂に包まれる。
剣道場の窓辺に留まっていた小鳥が飛び立つ音を合図に、試合が始まった。
「始め!!」
「でやああああああ!!」
先に仕掛けたのは天龍だった。
艦娘の身体能力を遺憾なく発揮し、瞬く間に安住との距離を詰める。
(ーーー速い!)
下段からの鋭い切り上げが安住を襲う。
しかし、それは木刀によって阻まれる。
そのまま数回打ち合った後、鍔迫り合いとなった。
「さすが、艦娘の身体能力ですね。一瞬姿を見失いましたよ。」
「少しはできるようだが・・・これはどうだ?」
天龍が後ろに飛び退き、鍔迫り合いが終わる。
しかし次の瞬間、目にも留まらぬ速さで天龍が飛び込んでくる。
突進突きといったところか。
「くっ・・・・・・!?」
身体を右に逸らし、突きをかわす安住。
だが、天龍の攻撃はそこで終わっていなかった。
突き出された木刀が向きを変え、胴を切り裂くように襲ってきていた。
天龍は突きが回避されたと判断するや、足を踏ん張り急ブレーキで突進を止め、木刀の刃の側が相手を向くように寝かせて凪ぎ払っていたのだ。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
「今のをかわすとは思わなかったぜ。・・・フフ、怖いか。」
木刀があたる寸前、天龍の後方に向かって飛び込み前転の要領で逃げ、事なきを得た安住。
片膝をついて息を乱すその頬を冷や汗が伝い、一瞬小さく身震いする。
(い、今のは危なかった・・・・・・・・・フフ、怖い・・・。)
ーーーーーーーーーー
「ほお。天龍はさすが遠征艦隊の旗艦だけあるな。あの安住に膝をつかせるとは。」
比良が感心したように言う。
「まあ、天龍は刀を装備する艦娘の中でも1、2を争う腕前だって評判だからな。」
木曾がなぜか誇らしそうに言う。
それを聞いた比良は目を丸くしていた。
「それ・・・マジか・・・?」
木曾は比良に得意気な笑みをしてみせると、試合を見るように促す。
「どうだかな。ほら、そろそろ決着がつきそうだぞ。」
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何度も打ち合っている内に、安住は徐々に追い詰められていた。
「オラオラ!どうした、そろそろお手上げか?」
「はぁ、はぁ・・・くっ!」
休みなく繰り出される斬撃を、安住はなんとか捌いている。
防戦一方となった安住へ天龍が畳み掛けるように連続攻撃をしかける。
「そろそろ終いにしようぜ!少佐ァ!」
これまで以上に素早く、重い斬撃が次々と襲う。
連撃に耐えかね、ついに安住が体勢を崩してその背中を天龍に晒す。
その隙を逃さず、天龍が木刀を振りかぶる。
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「これは、決まったな。提督よ。」
「・・・ああ。」
天龍の勝利を確信し、木曾が比良に勝ち誇る。
だが、比良の次の言葉に木曾は目を見開く。
「安住の・・・・・・勝ちだ。」
剣道場に木刀が床へ叩きつけられた音が鳴り響く。
それは天龍と安住の試合に決着がついたことを意味していた。
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何が起こったのかわからなかった。
手からは木刀が無くなっており、首筋に突きつけられた木刀が、もしも実戦なら命は無かったことを思い知らせる。
理解できたのは、自分が負けたということだけだ。
「オレが・・・負けた・・・?」
信じられないというように目を見開く天龍。
「・・・勝負あり、ですね。」
そう言って天龍の首筋から木刀を離す安住。
そして刃に着いた血を払うように一度だけ木刀を振り、手の中でくるくるとそれを回転させて逆手に持ち変え、鞘へ納めるように腰へ挿す動作をする。
それはまるでーーー。
「居合い・・・か?剣筋がまったく見えなかったぜ・・・。」
「ええ、抜刀術です。まさかこれを使うことになるとは思いませんでした。」
ここで時間は少し遡る。
安住は体勢を崩し、天龍に背中を晒した。
しかし実際には体勢を崩したフリをして右回転し腰を低く落として、抜刀術の構えを取っていた。
それは天龍から見れば、よろめいて背中を晒した状態でしゃがみこんだようにしか見えない。
天龍が木刀を振り下ろし、斬撃が安住を捉える瞬間、安住の木刀が仮想の鞘から抜かれた。
弾けるように抜き放たれたそれは相手の斬撃を受け流し、かつ、その手から木刀を弾き飛ばした。
そして天龍の手から木刀を弾き飛ばした安住は、返す刃で上段から木刀を振り下ろし、首筋に触れる寸前でその斬撃を止めたのであった。
「は・・・はは。オレの完敗だ。見直したぜ、少佐。」
「いえ、正直に言ってかなり危なかったです。あの演技に引っ掛かってくれなかったら、私が負けていました。」
清々しい表情でお互いを称え合う二人。
そこへ沢山の拍手が鳴り響いた。
「うおっ!?なんだ!?」
驚いて周囲を見渡す二人。
気がつくと剣道場の周囲には起床してきた艦娘や士官たちが集まっており、大勢の観客となっていた。
「いい勝負だったぞー!」
「天龍さんかっこよかった~!」
「まさか少佐が勝つなんてなぁ~大損だ・・・ガックリ。」
「大穴の少佐に賭けて大正解だー!ウッヒョー!」
早朝の鎮守府に観客からの賛辞が響き渡る。
その中から、数人の艦娘が飛び出してくる。
「天龍さん、すごくかっこよかったわ!」
「かっこいいのです!」
「さすが天龍さん、かっこいい系のレディーね!」
「天龍さんの動き、はっやーい!」
天龍率いる第5艦隊の駆逐艦娘たちだった。
かわいい妹分たちに抱きつかれて戸惑う天龍だが、その表情は満更でもなさそうだった。
「安住、おつかれさん。」
比良が安住に水の入ったペットボトルとタオルを差し出す。
それを受け取り、タオルで汗を拭う安住。
「ありがとうございます、提督。」
「どうだ、天龍との試合は。」
「とても有意義でしたよ。それに、天龍さんの気持ちは刀を通じてよく分かりました。」
安住は目を閉じ、天龍との試合を思い返す。
「ほう。で、どうだったんだ?」
「ふふっそれは言わないでおきましょう。前線に出るばかりが、彼女の目的を果たす手段ではないと気づくでしょうから。」
「そうか。なら自分で気づいてくれるのを気長に待つかね。」
「ええ。さ、汗を流して朝食を食べにいきましょうか。」
「あーもう、分かったから離れろよー!暑いっての!」
駆逐艦娘たちに囲まれていた天龍に、木曾が話しかける。
「天龍、提督から伝言だ。自分の手が届く範囲で守ってやれ。だとさ。」
「!!・・・やれやれ、お見通しだったってか。」
比良の伝言の意味に気づき、頭をかく天龍。
「ああそれと、少佐からも伝言だ。また今度、手合わせしよう。だと。」
「フフ、それは楽しみだな。次は絶対負けねえ!」
天龍は安住との再戦の日を思い、闘志を燃やすのだった。
(俺も剣を教えてもらおうかね・・・。)
その後、早朝の剣道場で安住に教えを乞う木曾の姿が、度々見られるようになったとか。
ーーーーーーーーーーつづく
第14話です。
いかがでしたでしょうか。
今回は鎮守府の遠征番長こと、天龍にスポットをあてています。
天龍が戦闘にでたがる理由、それを考えていたら思い浮かびました。
遠征艦隊の妹分たちを守りたくて、自分が戦闘にでて敵を多く倒すことが、守ることに繋がる。
そう考えている天龍、かっこよくないですか?
ということで書きました。
今回、執筆が完了して保存を押したタイミングで一度データが吹っ飛びました。
自動バックアップから手直ししている最中にこれまた画面が固まり、なぜか投稿されてしまいました。
まあ、残りは前書きと後書き書いて、最後に一度読み返すだけだったからよかった・・・。
データが吹っ飛ぶと焦りますね。・・・フフ、怖い。
頭が真っ白になりましたよ・・・。
では、また次回をお楽しみに。