これは日を追うごとに徐々に暑くなっていく、梅雨の終わり頃の1日である。
※今回は台詞少な目、文章多目かもです。
ーーーーー鎮守府・
遠くに聞こえる、何かを叩くような音で目を覚ます。
重い瞼を軽く擦りながら上半身を起こして伸びをした。
油断すると再び夢の世界へ旅立とうとする、寝起きの体を目覚めさせるのには丁度いい刺激だ。
「んん~~・・・・・・ふぅ。」
枕元に置かれた目覚まし時計を見る。
どうやらセットした時間よりも、かなり早く起きてしまったらしい。
「・・・ん。」
丸い本体の上側にあるスイッチを軽く押して、目覚まし時計のアラームを止めておく。
布団を静かに畳んで、シャワーで寝汗を流すべく支度を始める。
(着替えにタオル・・・そうだ、せっかくだから大浴場に行って、湯上がりに牛乳でも飲もう。)
この鎮守府の大浴場は基本的に24時間開いている。
というのも徹夜で修理や整備をする者や、夜警に出る艦娘もいるためである。
部屋にも小さいお風呂はあるのだが、あまり使われておらず、殆どの者が大浴場を使う。
その理由は脱衣場に設置されている自販機で、入浴後に牛乳を1杯飲むのが流行となっているためだ。
(準備よし。・・・さて、行こう。)
入浴の準備や着替えを入れた、持ち手のついた籠を手に提げて部屋を出る。
早朝であるためか、寮の廊下は薄暗い。
一定の間隔で点在するフットライトの灯りを頼りに、寮から大浴場へと続く渡り廊下へと進んでいく。
フットライトから発せられた光が、木で作られた床板に柔らかく反射していて、どことなく高級感を感じさせる。
(というか、ここの設備ってそこらの高級旅館並みなんじゃ・・・?)
建物の外観はともかく、24時間開放の大浴場といい寮の各部屋の内装といい、とても軍施設とは思えないほど生活感に溢れている。
一体どれだけの予算をつぎ込んで建築したのだろうか。
今度、その辺りの話を聞いてみるのも、話のネタが増えていいかもしれない。
そんな事を考えている内に渡り廊下までもうすぐの所まで来ていた。
(気づいたらもうこんな所まで・・・・・・ん?)
考え事をしていたから気づかなかったが、何かの音が聞こえるのに気がつく。
どうやら渡り廊下の方から聞こえてきているようだった。
寮と大浴場のある建物を繋ぐ渡り廊下は、1階とその上階で違うタイプの物になっている。
2階から上の廊下には窓が付いていて、換気を怠ると夏場は蒸し暑くなりそうだ。
だが、今使おうとしている1階部分は窓どころか壁も無い。
つまり、上階の渡り廊下の真下を通る、ただの屋外通路といったところだ。
(扉が開いてる・・・誰かが閉め忘れた?)
渡り廊下へ出るための、窓ガラスの付いた扉が片方、僅かに開いていた。
どうやら音はここから漏れてきていたらしい。
きっと誰かが開けて、キチンと閉めるのを忘れたのだろうと結論付け、扉を開けて屋外へ出る。
(あ・・・音の正体はこれだったのか。)
部屋も廊下も薄暗かったせいか、渡り廊下へ出て初めて気づく。
空は雲で覆われており、そこから数えきれない程の滴が降ってきていた。
(雨・・・・・・。そうか、梅雨入りが遅かったと新聞で読んだ気がする・・・。)
遅い梅雨入りだった為、6月後半に入った今でも連日雨降りになることが珍しくない。
それでもここ数日は晴れていたので梅雨は明けたものと思っていた。
この雨は明け方に降り始めたのだろうか・・・・・・晴れが続くようになってきたし、そろそろ梅雨明けが近いのかもしれない。
(静かな雨音・・・ずっと聴いていたくなる・・・。)
雨が作り出した水溜まりに雨水が跳ねる音が心地良くて、つい聴き入ってしまいそうになる。
だが、今は雨音に浸ることよりも、本来の目的であるシャワーを浴びに行くのが優先だ。
横目で雨で水が弾ける水溜まりを見ながら、名残惜しさを振り切るように、足早に大浴場のある建物へと入っていった。
ーーーーー鎮守府・
脱衣場には他に誰かが入浴に来ている気配はなかった。
そんな日もあるか、と手早く寝間着と下着を脱ぎ、綺麗に畳んで荷物と一緒に脱衣場の籠にしまう。
浴室内用のハンドタオルを、綺麗に畳んで積み上げられた山から1つ、手にとって浴室内に入る。
「ここはいつ来ても広いな・・・。」
大浴場というだけあり、内部はかなり広々としている。
シャワーに立ち湯、サウナ、水風呂、さらには露天風呂に打たせ湯など、充実したラインナップだ。
一部の者たちは露天風呂でお酒を飲むのが最近の楽しみらしい。
かかり湯を足元から順に体にかけ、徐々にかける場所を上へと移動させる。
「ふぅ・・・少し温いかな?・・・・・・かかり湯だし、あまり熱くても困るか・・・。」
胸元までかかり湯をかけたところで、手頃な場所を探し、腰掛けに座る。
ハンドルを捻ると、お湯が蛇口から流れ出し、真下に置かれた風呂桶に溜まっていく。
(少し熱い・・・温度調節のハンドルは・・・・・・よし、丁度いい温度になった。)
お湯の温度を調節し終え、今度はハンドルをシャワーに切り替える。
すると蛇口からのお湯が止まり、代わりにシャワーヘッドからお湯が雨のように溢れ出す。
軽くシャワーを浴びてから、石鹸を泡立てて体の隅々まで綺麗にする。
髪もシャンプーとリンスを使って丁寧に洗う。
仕事上、潮風と海水に晒される機会が多い為、身だしなみを整えるためにも念入りに洗い流すようにしている。
しかし早朝に浴びるシャワーの、なんと気持ちのいいことか。
寝汗を流して眠気も覚めて、一石二鳥とはこのことか。
(さっぱりした。・・・・・・ついでにちょっと露天風呂に・・・いや、雨降りだしやめておこう。)
夜に来ると大抵、飲兵衛たちが居るおかげで、あまり露天風呂には入ったことがなかった。
自分以外に利用者のいない今はまたとないチャンスであったが、雨に濡れるとまた洗い流さなければならなくなるため、断念した。
タオルでしっかりと水滴を拭い取ってから浴室から出る。
脱衣場に置いてある畳まれたバスタオルの山から1枚抜き取り、体を拭いていく。
一通り拭いてから、自販機でコーヒー牛乳を購入する。
ウィーンという小さな駆動音を響かせ、ロボットアームが器用に瓶を1つ抜き取り、取り出し口へと運ぶ。
「♪~♪~~♪」
コーヒー牛乳の瓶を手に取ると、慣れた手つきで蓋を剥がしてゴミ箱に捨てる。
思わず鼻歌を歌ってしまったことに気づいて、少し恥ずかしくなった。
恥ずかしさを誤魔化すように、コーヒー牛乳を一気に飲み干す。
「んくっ・・・んくっ・・・んくっ・・・・・・・・・けぷっ。」
一気飲みすれば誰だって大なり小なりゲップは出る。
そう、これは仕方のないことなのだ。
でも誰にも聞かれていなくてよかったと思う。
「さ、髪も乾かして一度戻らないと。」
空になった瓶を回収用の箱に入れる。
そしてドライヤーでしっかりと髪を乾かす。
自然乾燥など、もっての他。
生乾きの嫌な臭いはダメ、ゼッタイ。
「これで、よし。」
髪を乾かし終え、着替えも済ませて大浴場を後にする。
丁度徹夜で作業してきた者たちと入れ違いになり、軽く挨拶を交わした。
再び心地よい雨音を聴きながら、渡り廊下を通って部屋へ戻る。
雨は先程よりも少し強くなっているようだった。
ーーーーー鎮守府・
まだ時間があるからと、部屋で読書をしていたら、朝食の時間に少し遅れてしまった。
食堂の中はすでに混雑していて、朝食を食べる艦娘や士官の姿が至るところで見られる。
これは持ち帰りできるサンドイッチにした方がよかったかと考え始めた所で、遠くから名前を呼ばれた気がした。
(誰だろう・・・たしかあっちの方から・・・。)
声の聞こえた方に目を凝らすと、一人の艦娘ーーー夕立が手を振っていた。
こちらが夕立に気づいて手を降り返すとそれに気づいて、今度は手招きをし始める。
どうやら、こちらへ来て一緒に食べないかということらしい。
この込み合った状況の中でそれは願ってもないことだ。
朝食の載ったトレーを傾けないように気を付けながら、人混みの間を縫って夕立の待つ席へと向かう。
「おはようっぽいー!席取っておいたっぽい!ほめてほめて~♪」
元気よく挨拶をする夕立に挨拶を返しながら隣の席へ腰かける。
ほめてとせがむその頭を優しく撫でてあげる。
指が艶やかな髪をなぞる感触が、撫でる側に心地いい感覚を与える。
撫でられたのが気持ちよかったのか、夕立は笑顔になって朝食を食べ始めた。
「いただきます。」
自分も手を合わせて朝食をいただくことにする。
今日の朝食は、食堂で大人気の『お艦の焼き鮭定食』だ。
ほかほかの白米に、塩味の効いた銀鮭、赤味噌の味噌汁にきゅうりの浅漬け。
さらに大根おろしの載った、ふわふわの玉子焼きまで付いている。
この50食限定の『お艦』シリーズの定食が出る日には、決まって食堂には長蛇の列が発生する。
(鳳翔さんの料理は美味しいから、皆食べたくもなる・・・か。)
そう、この定食は鳳翔が食堂の手伝いに出る時にしか食べられないのだ。
一度食べたらやみつきにならない人はいないとの評判だが、自分もその内の一人なので何も言えない。
出遅れたとはいえ、この定食にありつけたことは幸運だった。
「美味しいっぽーい!ぽいじゃないっぽいー!」
夕立も同じ定食にありつけていたようで、勢いよくもぐもぐと食べ進めている。
顔をこちらに向けさせ、その頬についたご飯粒やら何やらをティッシュで拭き取ってあげる。
ご飯は逃げないから、落ち着いて食べればいいと思うのだが・・・。
ふと食堂の入り口に目をやると、焼き鮭定食の食品サンプルが入ったガラスケースに張られた、『完売御礼』の張り紙を見つめて立ち尽くす赤城と加賀の姿が見えた。
ーーーーー鎮守府・
全体朝礼を終えた士官や艦娘たちがぞろぞろと出撃ドックを後にする。
今週は提督たる比良が留守にしているため出撃はあまり無く、せいぜい周辺海域の哨戒程度だ。
本日の哨戒任務にあたる艦娘も、つい先日、航空戦艦への改装を終えた伊勢と日向が艤装のテストを兼ねて、空母の替わりとして出撃する以外は特に変わった様子はない。
雨天では艦載機の発着艦が困難となり、空母は置物と化してしまう。
そのため、たとえ悪天候であろうと砲撃戦が行えて、いざ天候が回復した時には水上機による航空攻撃も可能な航空戦艦が抜擢されたのだ。
(航空戦艦か・・・。水上機とはいえ航空機を運用できるのはすごいな。)
『これからは航空火力艦の時代』とは、日向の弁である。
今度機会があれば、『特別な瑞雲』というのを見せてもらいたいものだ。
とにかく、今日は大多数の艦娘や士官と同じように、自分もさほど忙しくない。
やることをさっさと片付けてゆっくり読書でもしていようか。
息抜きに休憩用の和室から見える、紫陽花が満開の庭園を散歩するのもいいかもしれない。
間宮へ行って甘味を食べるのもいい・・・・・・いや、きっと今ごろ間宮は空母の急襲で地獄絵図になっているとみた。
さすがに巻き込まれたくはない、やめておこう。
「何をするにしても、まずはやることを片付けないと・・・。」
そうと決まれば、報告書の作成に取りかかるため自室へと向かった。
今から始めれば昼前には終わるだろう。
ーーーーー鎮守府・
「・・・・・・・・・・・・。」
ぺらり。
本のページを捲る。
雨の日のここは好きだ。
無駄に広大な鎮守府の敷地、その陸地側の奥に木造2階建ての日本家屋がある。
艦娘や士官を問わず大人気の甘味処『間宮』である。
その裏手には広い庭園があり、晴れた日には散歩を楽しむ艦娘の姿がよく見られる。
紫陽花の咲き乱れる小道を進むと、庭園の中ほどにある鯉の泳ぐ池が見えてくる。
その中心に小島があり、池に架かる小さな橋を通り小島へと渡った先に、様々な木に囲まれた小さな
東屋は、四角錐の屋根を支える4本の柱、その間の2面を腰くらいの高さまで木の板で覆っている。
そこに木で出来た椅子を取り付け、L字型の長椅子としている。
今はその長椅子に座り、読書に勤しんでいるというわけだ。
(やっぱり雨の日はここで読書するに限る・・・。)
雨降りでも間宮に客は来るが、わざわざ傘をさしてまでここまで来ようとする者は滅多にいない。
せいぜい、池の周りの小道をぐるりと一周していく程度だ。
そういった周囲の雑音を雨がかき消してくれるため、読書に集中するのにはうってつけなのだ。
だから非番の時や、今日のように暇な雨の日はよくここに来る。
誰にも邪魔されず、本の世界に浸る。
ぺらり。
ぺらり。
ぺらり。
長時間、本に集中していると目の疲れと眠気を感じる。
そんな時は顔をあげて、藤掛から垂れ下がる、見事に咲いた藤を眺める。
いつもならそれで目の疲れが忘れられるのだが、日頃の疲れのせいなのか、昼食で満腹になったお腹がそうさせたのか。
雨音の子守唄もあって、眠気に誘われるまま瞼をとじた。
ーーーーーーーーーー
何かを叩くような音で目を覚ます。
視界に入ってきたのは、雨粒が木の葉を叩く様だった。
どうやら東屋で座ったまま眠っていたらしい。
「ん・・・・・・?」
横になっていた体を起こそうとして、違和感に気づく。
なんで横になって寝ているのだろうか。
それよりも、今、自分は何に頭を乗せている?
ぺらり。
「っ!?」
真横から聞こえた音に、反射的に体を起こす。
「ん、起きましたか。」
半袖の白い制服に軍帽、そして聞きなれた声。
自分が頭を置いていたのはーーー。
「・・・司令官。こんな所で何をしているんだい?」
主力艦隊の指揮を執る安住だった。
その手にあるものを見れば、何をしているのかは一目瞭然なのだが。
内心の動揺を悟られないように、あえて聞く。
「読書ですよ。最近は中原中也にハマっているんです。時雨さんもよかったら読んでみますか?」
「いや、そうじゃなくて。こんな雨の日に、なんでこんな所にいるのかな?そしてなんで、僕の頭を膝に乗せて座っていたのかな?」
自分の聞き方が悪かったと、笑顔(目は笑っていない)で言葉を変えて質問をし直す。
その怒気を感じさせる問いに安住は、気まずそうに目を泳がせながら頬をかいて答えた。
「ええと、静かに読書できる場所はないかと庭園を散策していたら、ここで眠っている時雨さんを見つけて。」
「ふーん、それで?」
ジト目が安住に突き刺さり、より一層気まずそうに続ける。
「最初は向こう側に座ったんですが、時雨さんの体がどんどん傾いていったので、そっと直そうとしたんですが・・・。」
「うん・・・・・・うん?」
なぜだろうか、嫌な予感しかしないのは。
止めるべきだと脳が警鐘を鳴らすが、既に遅かった。
「寝ぼけた時雨さんが、すごい力で私の膝を押さえ込んで枕にしてしまったんですよ・・・あはは・・・。」
(自分で招いた状況だったーーー!!何をしているんだい僕は!?)
安住から語られた真相に、顔が瞬く間に熱くなるのを感じる。
心臓の鼓動がこれまでにないほど激しくなっていく。
何か、とにかく何か言わなければ。
そう思って口をついて出た言葉はーーー。
「な、なんで、すぐに起こさなかったんだい?」
(僕はどうしてそこでそんなことを聞いてしまうんだい!?)
混乱した頭からまともな判断がなされるはずもなく、掘った墓穴をさらに掘り下げてしまった。
「時雨さんがあまりにも気持ち良さそうに眠っていたので、起こすのも悪いかなと・・・。」
(ああああああーーー!!僕のバカバカバカ!!何やっているんだい!?失望したよ!?)
心の中で頭を抱えて、ぶんぶんと首を左右に振りまくる。
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「それに・・・。」
(うわああああーーー!!・・・それに?)
「時雨さんの寝顔が可愛らしくて・・・ついそのままに・・・。」
「~~~~~///」
安住の思わぬ追撃で、沸騰した頭がパンクする。
声がでない口をぱくぱくさせながら、何か言おうとした体勢で動けなくなる。
分かっていてやっているのか、この男は。
「・・・・・・私の顔に、何か付いていますか?」
「ぁ、ぅ・・・。」
言われて気づく。
安住の顔を見つめる状態になっていたことに。
なんでもいいから誤魔化そうと、回らない頭で必死に言葉を探す。
(ーーー!!)
安住の背後の、ある物が目に留まる。
「う、梅の実を見ていたんだよ。ほら、司令官の後ろ。」
「ん?・・・ああ、本当だ。よく熟れていますね。」
指差したそれを見て、安住が感動しているように目を細める。
その視線の先には、雨露に濡れた梅の実が雫を垂らしながら静かに揺れていた。
どうにか気をそらすことが出来たようだ。
安心してほっと胸を撫で下ろす。
「これだけ熟れているなら、今度いくつか収穫して、梅干しにしてもいいかもしれません。」
「そういえば、提督が結構前に幾つか収穫して、梅酒を作るとか言ってたよ。」
「梅酒好きですからねぇ。しかも、あの人の作る梅酒はすごく美味しいので、いつも取り合いになるんですよね。」
そう言って楽しそうに笑う安住の横顔に思わず見とれてしまう。
また頬が少し熱くなる。
なんて無邪気に笑うのだろう。
(意外と子どもっぽく笑うんだね・・・。)
「さて、そろそろ夕食の時間です。戻りましょうか、時雨さん。」
立ち上がって安住が手を差しのべてくる。
その手に自分の手ではなく、傘を握らせて自分も椅子から腰をあげた。
「傘、忘れると濡れるよ。司令官?」
「あはは。忘れていく所でした。」
それぞれ傘をさして庭園の出口へと向かう。
池に架かる小さな橋を渡り、池の外へと出る。
そして紫陽花の咲く小道をゆっくりと歩いていく。
「・・・・・・ふふっ。」
「司令官、どうかしたのかい?」
安住が突然、微笑んだのを不思議に思って問いかける。
何か面白い物でもあったのだろうか。
「いや、時雨さんと一緒にいると、いつまででも聴いていたくなるくらい、雨音が気持ちよかったものですから・・・ふふ。」
心臓の鼓動が一瞬、大きくなる。
「・・・・・・おだてても、何も出ないよ?」
「それは残念ですねぇ。」
たいして残念そうでないように笑う安住。
この小道が狭くてよかったと、思う。
後ろを歩いていなければ、見られてしまっていたかもしれない。
熟れた梅の実のように、朱に染まった頬を。
「・・・・・・そういうところに、惹かれたのかもしれないね・・・。」
「ん、何か言いましたか?」
「なんでもないさ。それより、早く行こう。急がないと夕食の限定50食の定食が無くなっちゃうよ。」
庭園を抜けた所で、小走りで安住を追い抜いていく。
慌てて追い付いた安住と、今度は並んで食堂へ向かって歩く。
急ぎ足で、けれど雨が奏でる音楽をゆっくりと楽しみながら。
(止まない雨はない。でも今だけは、このままで・・・。)
この鳴り止まない雨音が、隣を歩くこの人に、高鳴る鼓動を聞かせないでいてくれるから・・・。
ーーーーーーーーーーつづく
第21話です。
いかがでしたでしょうか。
今回は終盤までメインの登場人物が誰なのか、明記しないでやってみました。
夕立が出てきた時点で察した方も多いかも?
渡り廊下は、学校とかでよくみられるアレをイメージしていただけるといいかと。
東屋は、伝わりづらいと思ったので、無い絵心を絞り出して写真から模写した挿し絵をいれてみました。
縮尺とか色々おかしいですが、どんなものか伝わったなら幸いです。
この話を思い付いたのは、丁度台風が来てて雨がすごかったからですね。
結構雨音とか好きなんです。
そしてまたお前か、安住。
第1部のメインは安住なのです・・・。
暫くはほのぼのとした日常風景を書いていこうかと思います。
まあ、また後書き詐欺みたいになるかもですけど・・・。
よろしければこれからも読んで頂けるとうれしいです。
では、また次回をお楽しみに。