ーーー沖ノ島海域・
「そうね。そんな作戦はいらないわ。」
『『えっ?』』
通信機から女性2人の驚いた声がする。
口論をしている所に知らない声が割り込んだのだから、当然の反応だろう。
「こちら日本海軍所属、重巡洋艦 足柄。これより貴艦隊を援護するわ!」
「同じく駆逐艦 曙、救援にきたわよ。」
「駆逐艦 潮です。あの・・・無事ですか?」
『米海軍所属、空母 サラトガです。私の艦載機はすでに全機発艦して敵機迎撃中です。』
『戦艦 アイオワよ。こちらは13ノットしかSpeedが出せないの・・・あまり無事とは言えないわね。』
軽く自己紹介しながら、米軍の艦娘から状況が伝えられる。
足柄はほんの少しの思案の後、今後の方針を決めた。
「貴艦隊はこのままの進路を維持して。敵艦隊は私たちが対処する。」
『わかりました。救援に感謝します。』
視線を船団から敵艦隊へと移す。
まだこちらの存在に気づいていないのか、船団への砲撃を続けている。
「まったく、全周囲の無線で話してあげたっていうのに・・・。」
両手を腰に当てて、足柄がため息をつく。
無線の電波に気づいて狙いをこちらに変えてくれればよかったのだが、そう上手くはいかないらしい。
「砲撃するのに夢中でこっちに気づいてないとか?」
「私たちを無視してでも、船団を攻撃する理由があるのかも・・・?」
「どっちの可能性もあるけど、考えるのは後。やるわよ2人とも!」
主砲に砲弾を、魚雷発射管には酸素魚雷を装填して装備の最終確認を行う。
「まずは敵艦隊の5時方向から接近。一度背後を抜けてから同航戦に持ち込むわ。作戦通り頼むわよ。」
「はいっ!」
「やってやろうじゃないの!」
足柄、潮、曙の3人が敵艦隊へ向けて進路を取り、加速する。
距離が縮まるなか、主砲を構えてその時を待つ。
「まだよ・・・まだ、まだ・・・。」
すでに奇襲の準備は整った。
後は仕掛けるタイミングを間違えなければいい。
緊張で鼓動が早く脈打ち、額から汗が流れ落ちる。
そして、その時は来た。
「機関一杯!砲雷撃、用意、撃てぇー!!」
足柄の号令の下、全艦一斉砲撃が開始された。
激しい爆音が鳴り響き、敵艦隊へと砲弾が降り注ぐ。
しかし速度を上げながらの砲撃は、命中することなく何もない海面に水柱を作った。
「潮!撃ちまくるのよ!!」
「うん!!」
曙と潮が連携して交互に主砲を撃ち、敵へ襲いかかる砲撃を絶やさない。
敵はこちらに気づいていなかったようで、一瞬驚いた様子を見せる。
そして2人の連続砲撃を驚異と認識したのか、
後方からの奇襲には成功したが、このままではT字有利を取られてしまう。
「まあ、この角度から攻められたら、そうするわよねぇ。」
だが、それはこちらの『予定通り』。
足柄の口角が僅かに上がり、ニヤリと笑う。
「でもそこは・・・キルゾーンよ!!」
言い終わると同時に、爆発音がして先頭のル級が水柱に包まれた。
それを皮切りに次々と大きな水柱が立ち上って敵艦隊を覆う。
「や、やったぁ!」
潮が歓喜の声をあげる。
その大腿部に装着された三連装魚雷発射管からは、左右合わせて4本の魚雷が無くなっていた。
曙と足柄の魚雷も同数が無くなっている。
「自分達が有利な位置につけたと思った?残念、誘い込んだのよ。」
ドヤ顔をした曙が胸を張って鼻を鳴らす。
やった後に薄い胸を思い出して少し自己嫌悪したのは内緒だ。
「上出来ね。でも、まだこれからよ!」
気の緩みかけた2人を足柄が叱咤して気を引き締めさせる。
水柱の水飛沫が収まっていき、やがて再び敵の姿が見えてくる。
「流石に撃沈とはいかないか・・・。」
姿を見せた敵は健在だった。
それでも、たしかに損傷は与えられたようで、リ級2隻が中破、ル級1隻が小破しているのが確認できる。
「足柄さん、敵艦隊の動きが!」
「はぁ・・・見上げた根性ねぇ。」
雷撃を受けた敵は取り舵で転舵したかと思うと、陣形を複縦陣に変えて再び船団へと向かい始めた。
リ級を左列にして盾替わりにするあたり、船団への執着心が見てとれる。
「船団に行かせるわけにはいかないわ!ここで仕留めるわよ!」
「当然でしょ!」
再度攻撃体勢を整えるために足柄たちも取り舵を切った。
手負いのリ級さえ沈めれば、後は肉薄して雷撃で決着をつけるだけだ。
一度後ろを振り返り、2人と視線を交錯させ、頷き合う。
「右砲戦、用意!撃てぇー!!」
ーーーーー沖ノ島海域・
足柄たちが船団と接触した頃、霧島は単独で敵艦隊と戦闘を繰り広げていた。
「主砲、敵を追尾して!・・・撃て!!」
霧島の放った砲弾は命中こそしなかったものの、確実に
そして至近弾の作り出した波がヘ級を横から襲い、僅かに動きを鈍らせた。
「そこ!副砲撃て!」
その隙を霧島が見逃すはずはなく、即座に追撃を加える。
ヘ級は体勢を崩していたために、回避行動をすることも出来ないまま波間へと消えていった。
「軽巡へ級を撃沈!さあ、お次は誰かしら?」
リ級やロ級からの反撃を回避しつつ、次の目標に狙いを定める。
主砲を斉射したところで、通信機から声がした。
『霧島さん。第2次攻撃隊、発艦させます!』
後方に待避させている飛龍からの第2次攻撃の連絡だった。
『友永隊なら誤射はしないと思いますけど、ちゃんと待避してくださいね。』
「了解よ。攻撃隊の到着まで敵の注意を引き付けておくわ。」
すでに蒼龍と飛龍の第1次攻撃隊による先制攻撃で、イ級とホ級が葬られている。
先程撃沈したヘ級も除けば、残りはヌ級とリ級、ロ級を残すのみだ。
(これで、この敵艦隊が船団に向かうことは阻止できたはず。足柄はうまくやっているかしらね。)
主砲と副砲を交互に撃ちながら、船団へと向かわせた足柄たちに思いを巡らせた。
ーーーーー数十分前ーーーーー
「問題?何かあったの?」
歯切れの悪い足柄の言葉に、違和感を覚えて問う。
『曙が、損傷した偵察機を見つけたのよ。』
「偵察機?」
『ええ。既に保護したけれど、たぶん、探してる船団のだと思う。』
「なら、その偵察機の妖精に聞けば船団の位置は特定できそうね。でも問題というのは・・・。」
偵察機を保護したのなら、もう船団を見つけたも同然だ。
ならば何が問題なのだろうか。
『妖精から教えられた船団の位置が、霧島たちと真逆の方向なのよ。』
「・・・たしかに問題ね。でも、それだけじゃ無いんでしょう?」
『そういうこと。妖精が言うには、船団へ向かう敵機動部隊を見たらしいの。その危機を知らせる前に敵機に攻撃されて、命からがら逃げて今に至るって状況よ。』
「・・・・・・・・・。」
『・・・どうする、霧島?』
足柄の言いたいことはわかる。
船団に足柄たちを向かわせれば、数的不利な状態で背後の敵艦隊と戦わなければならない。
かと言ってこちらとの合流を優先すれば、船団に敵機動部隊が牙を剥く。
どちらを選んでも、被害・・・犠牲が出る可能性がある。
それが分かっているから、足柄もどうすべきか決めかねているのだろう。
『どうするもないでしょ。』
「曙さん・・・?」
どうすべきか考えていると、曙が口を開いた。
『私たちは船団の救援に向かうべきよ。』
『曙ちゃんの言う通りです。ここで船団を見捨てるなんてできません!』
「私と蒼龍の攻撃隊で反復攻撃すれば、きっと大丈夫だよ!」
「二航戦の力、見せる時だね!」
曙の意見に、潮だけでなく飛龍に蒼龍も賛同している。
血の気が多いというか、なんというか。
自分でもどうすべきか、どうしたいかは分かっていた。
きっと足柄もそうだろう。
事実上の満場一致、深呼吸して覚悟を決める。
「わかったわ。足柄、そっちは船団へ向かって。」
『・・・いいのね?』
「敵艦隊はなんとかするわ。危なくなったら逃げに徹するから大丈夫よ。」
『了解、また後で会いましょ。・・・気を付けて。』
「そっちもね。さあ、行動開始よ!」
ーーーーーーーーーー
「うあぁっ!?」
激しい衝撃で霧島は現実に引き戻された。
思考に集中力を割いたことで、動きが鈍り攻撃を受けてしまったようだ。
(第三砲塔が損傷か・・・戦闘中に考え事に没頭するものではないわね・・・。)
「この霧島を沈めたいのなら、今の30倍は撃ち込むことね!」
命中弾がでたことで勢いづいたらしく、敵は砲撃を繰り返している。
だがその散布界は広く、命中する気配がない。
「まぐれはそう続かないってことよ!」
狙いをつけ、主砲で反撃しようとした時、目が合ったリ級が笑ったように見えた。
その瞬間、言い知れない悪寒が霧島の背筋を駆け巡る。
嫌な予感がする、と思った時には遅かった。
爆発音と共に水柱が霧島を包んだ。
霧雨のように広がる水飛沫の中から這い出ると、立っていることが出来ずに膝をつく。
「うぐ、足が・・・・・・なにが・・・どうなって・・・。」
リ級の主砲といえど、戦艦である霧島にはそうそう有効打にはならない。
それは些細な、ほんの少しの慢心。
砲弾で装甲を抜けないならば、どうするか。
艦娘であれ深海棲艦であれ、取るべき手段はひとつ。
「雷、撃・・・・・・!!」
艦隊戦における切り札ともいうべき雷撃だ。
たとえ相手が堅牢な装甲を持つ戦艦だろうと、魚雷ならば関係ない。
(乱れ撃ちの砲撃は囮・・・・・・雷跡が見えなかった上に、この威力・・・酸素魚雷?・・・・・・深海棲艦が?)
雷撃の可能性を考慮していなかったわけではなかった。
だが、敵は巧みに霧島を罠にはめた。
火力と装甲、共に自身の方が
砲撃も外ればかりで、状況は自分が優勢であると。
(足に力が入らない・・・ここから逃げることは不可能、か。)
飛龍たちの第2次攻撃隊が到着するまではまだ時間がかかる。
味方からの援護は期待できない。
顔を上げると、ニタニタと笑うリ級と目が合う。
どうやら楽には沈ませないつもりらしい。
「万事休すね・・・。」
リ級とロ級の主砲がゆっくりと動き、動けない霧島に照準が合わされた。
(ごめんなさい、お姉さま・・・提督。)
ーーー『何があっても諦めるなよ。必ず無事に帰ってこい。』ーーー
ーーー『分かっています。それに今回は捜索ですから、心配いりません。』ーーー
「ーーーッ!?」
全てを諦めかけた時だった。
出撃ドックでの比良との会話が頭をよぎる。
(そうだ・・・。諦めるな、無事に帰れ。これは命令だったわね。)
なんてことはない、ありふれた言葉。
普通なら建前として掲げるだけで、何の意味も成さない。
でも、それを出撃の度に大真面目に言う人たちがいる。
「まったく。あんな大真面目に言い聞かせるんだから・・・。」
震える足で立ち上がる。
このまま何もせずに終わる訳にはいかない。
「諦めるわけにはいかないでしょう!」
力強く叫んだ霧島の主砲が、雄叫びの如く轟いた。
ーーーーーーーーーーつづく
第29話です。
いかがでしたでしょうか。
次回で船団救出編は終わる予定です。
では、短いですがまた次回をお楽しみに。