ーーーーー沖ノ島海域・
陽が落ち、闇に包まれた海。
ここは数時間前まで激しい戦闘が行われていた場所だ。
その証拠に、艦娘か深海棲艦のものであろう艤装の残骸が散乱して
いまだ燃え盛り周囲を淡く照らすそれを見つめる、大小二つの人影があった。
「アノ子タチハ失敗シタノネ。」
小さい方の人影が、漂う残骸を蹴飛ばしながら言った。
鉄色の着物にスカート型をした黒の袴、その裾から覗くこれまた黒いハイヒールのブーツ。
頭の右側で束ねられた艶やかな黒髪は、ドリルのようなカールがかかっている。
大正浪漫を体現したような出で立ちの少女はしかし、普通の人間ではない。
夜風で荒れる海面に立っていることもだが、なによりも死人のような青白い肌が、特異な存在であると教えている。
「ソウネ、ドウデモイイケド。」
素っ気ない態度で返したのは大きい人影だ。
こちらは白いセーラー服にマントを羽織り、白い長髪で顔の右側を隠している。
少女と対照的な白い女性もまた、青白い肌をしていた。
「自分ノ下僕ガヤラレタノニ、味気無イ子ネェ。」
「本来ノ目的ハトモカク、収穫ハアッタノダカラ、ソレデイイデショウ。」
態度の変わらない女性に対し、少女は呆れた様子で肩をすくめてみせる。
「タシカニ面白イ玩具ハ手ニ入ッタワネ。アレガドウヤッテ壊レテイクカ、今カラ楽シミダワ。」
何かを想像した少女が頬を紅く染め、恍惚とした表情で体をくねらせた。
指を口にくわえて息も荒く、股間の辺りを押さえて下半身をもじもじとさせている。
「・・・・・・・・・。」
その様子を、女性は興味無さげに見つめるだけだった。
「・・・ン・・・・・・ンゥッ!!」
数分間それを続けた少女の体が、数回ビクンビクンと跳ねる。
しゃぶっていた指を離すと唾が銀の糸を引き、突き出した舌との間に橋を架けた。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
汚れた口元へ舌を這わせ、唾を舐め取りながら、乱れた息を整える。
「ソレニシテモ・・・。」
指に絡んだものまで飲み込むと、横目で品定めをするような視線を向ける。
そして女性の前に躍り出て、前屈みになって顔を覗き込んだ。
「ナンデ加勢シナカッタノサ。アナタガ介入スレバ、アノ戦艦クライハ殺レタノニ。」
「・・・・・・別ニ、気ガ乗ラナカッタダケヨ。」
女性は相変わらず無表情で返すのみだった。
だが、妙な間があったことに少女が不信感を覚えたようで、さらに問い詰める。
「ジャアナンデ空母ヲ率イテマデ、アイツラノ拠点近クデ輸送部隊ヲ襲ッタノサ?」
「私ガ進化スルタメ。下僕ヲ抵抗ナク喰エルヨウニスルタメヨ。」
表情こそ変わらなかったが、女性の眉が僅かに動いたのを少女は見逃さなかった。
「フゥーン。マァイイワ、アナタハ私タチ『オリジナル』ト違ッテ下僕カラノ進化組ダシ、マダ感情ガ不安定ナノカモネ。」
尖らせた唇に人差し指を当てて考えるような素振りをし、左右に子首をかしげ始めた少女。
3回ほど頭を往復させた後、ニヤニヤとイタズラを思い付いた子どものように表情を歪ませる。
そしてゆっくりと口を開くと、唾が糸を引く
「モシカシテ戦闘ニ参加シナカッタノハ、アノ空母ガ居ナカッタカラ・・・トカ?ウフフッ!」
その言葉を聞いた瞬間、あの日を思い出して女性は胸がざわつくのを感じた。
なんだろう、心の奥底から沸き上がってくる、このドス黒い感情は。
歪んだ感情のままに女性が少女を睨む。
「五月蝿イ、ババアニハ関係ノナイコトヨ。」
一際強い夜風で髪が靡き、隠されていた顔の右側が露になる。
「ババア呼バワリスルノハ結構ダケド。・・・アナタノ顔ハ、ババアヨリモ酷イ有リ様ジャナイノサ。」
口元を押さえてクスクスと笑う少女に言われ、醜くヒビ割れた顔を手でなぞる。
失ったモノを思い、自然と指がそこへ触れた。
その瞬間、本能的に『ソレ』を理解する。
「アア・・・ソウカ、コレガ・・・・・・。」
コレガ『憎悪』カ。
女性の翡翠色の瞳に妖しい輝きが宿るのを見て、舌舐めずりした少女の口が満足そうに歪む。
それは雲間から覗く三日月と同じ、鋭利な刃物のようだった。
ーーーーーーーーーーつづく
第31話です。
いかがでしたでしょうか。
今回はちょっと前回書こうと思ってて忘れてた場面の補完になります。
間話にしようと思ったんですが・・・。
まあ、長くなりそうだったんで一つの話にしちゃいました。
相手側の話を書くのって中々難しいですね。
女性については既にお分かりと思いますが、少女は・・・バレバレですねw
まだまだ続きますが、物語がこれからどう動いていくのか、楽しみにしていてくださいませ。
では、また次回をお楽しみに。