使い魔召喚の儀式を前にルイズが喚び出したのは、お馴染みのリナとナーガ!
もっとまともな使い魔が欲しい?
贅沢なことを抜かすルイズにナーガが動く!頼むからやめてくれ!
そんな制止の声を無視して、彼女は更にとんでもない事態を引き起こす!
絶望の声がトリステインの草原を悪夢に染める!

この状況を止められるものはいないのか!?
そしてルイズの進級は!?

――キスは全てを救う。君は真実の愛を知る――

召喚の呪文は魔竜吠♡

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うちのジョンをよろしくお願いします

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは今、人生最大の危機にあった。

 それはトリステイン魔法学院の進級試験。場所は学院の近くの草原。即ち使い魔の召喚の儀式である。これにしくじれば彼女は退学、実家へと連れ戻され、鬼よりも恐ろしい母親に……。

 そこまで考えた所で彼女は考えるのをやめた。

 

(いいえ、そんな失敗を前提に物事を考えちゃ駄目!私は誇り高きヴァリエールの娘!この儀式は絶対に成功させてみせる!)

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」

 

 更にダメ押しとまでに魔力を練り上げて、呪文を付け加える。

 

「宇宙の何処かにいる私の使い魔よ!神聖で美しくそして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ!我が導きに答えなさい!」

 

 というかそれはもう呪文というよりは懇願、或いはそうあってほしいという希望に近いものだったが。

 

(お願い、出てきて!)

 

 彼女の願いに答えるように眼前の空間に鏡状の光が生み出されていく―――。

 

 

 

◆    ◆

 

 

 

 今日も今日とていい天気。皆さん如何お過ごしですか。

 今日もあたし、リナ・インバースはいつも通り金魚の糞であるナーガと、

 

「ちょっとナーガ!あんたあたしの焼き魚返しなさいよ!」

 

「ほーっほっほっほっ!負け犬の遠吠えは見苦しいわよ、リナ!このお魚さんはこの白蛇のナーガ様に食べられがっているのよ!このような貧乳まな板娘に食べられては、このお魚さんも浮かばれないというもの!さらばリナ!翔封界(レイウイング)!」

 

「逃がすかぁああああ!翔封界(レイウイング)!」

 

 お昼ご飯を巡って翔封界でお空をデッドヒートをしていました。

 

「お魚さんの命を無駄にしないためにも!あんたを逃すわけには行かないわ!インバース・トルネードアタァァァック!」

 

「ちょっとリナ、風の結界纏っての体当たりは反則よ!ってリナ、前!前!」

 

 ナーガが慌てふたむいて前方を指さした。

 思わず釣られてそちらを向くと空中、それもあたし達の進路に正体不明の鏡状の物体が!

 不味い、このままではぶつかる!?

 

「ナーガ、一旦避けるわよ!あたしは右に!あんたは左に!」

 

「ふっ!らじゃー!」

 

「カウント3で離れるわ!1、2の、3!」

 

 ぶぎゃる!

 

 次の瞬間あたし達は離れるどころか完全にもつれ合っていた。

 

「馬鹿ナーガ!なんであたしのほうに飛び込んでくるのよ!?あんたは左に行けって言ったじゃない!?」

 

「ふっ甘いわねリナ・インバース!戦いとは相手の裏をかいてこそよ!この戦い、白蛇のナーガの勝利ということね!」

 

「こんな時に裏をかくなあああああああ!」

 

 そんな風に喚き散らしながら。

 あたし達は纏めて鏡状の物体へと吸い込まれていった。

 

 

◆    ◆

 

 

 召喚のゲートが生み出されてもうどれぐらいになるのだろうか。

 数十秒?数分?それとも十数分?

 渾身の呪文は確かに成功し、鏡状の召喚のゲートは確かに開かれた。

 だが―――

 

「なんで肝心の使い魔がこないのよ……!」

 

 ルイズは涙を堪えながら呟いた。

 折角初めて呪文が成功したと思ったのに、ゲートの向こうから使い魔は一向に姿を表す様子はない。

 

「おいおい、いつまで待たせるんだよゼロのルイズ!」

 

「やっぱりゼロに呼び出されてくれるような使い魔なんて居るわけなかったんだな!」

 

 クラスメイトの野次がルイズに向かって飛ぶ。

 普段なら気丈に受け流すこともできる野次も今は堪えた。

 せめて彼らに一言言い返してやろうと、向き直ろうとしたその瞬間―――

 

 どっぐぉおおおおおおおん!

 

 まるで大気が破裂したような音と共に召喚のゲートから何かが飛び出してきた!

 

「ちょっと、なんなの!?」

 

 同時に凄まじい砂煙と豪風が辺り一帯に巻き起こり、ルイズは思わずマントで顔を隠す。

 他の生徒達に至っては先に呼び出した使い魔達が轟音と風に驚いてパニックになり、大騒ぎになっていた。

 

「皆さん、落ち着いて、落ち着いて!メイジが動揺すれば使い魔達にも動揺が移ります!気をしっかり持つのです!」

 

 混乱した生徒達を引率の先生でもある中年教師コルベールが声をかけて、冷静さを取り戻させていく。

 まあ正確には彼の言葉の効果というよりは、彼の薄い頭頂部がゲートからの強風で愉快なことになっており、それを見たことで皆冷静さを取り戻したようだが。

 

 そしてようやく砂煙が収まった後、ゲートの会った所から2人の人影が姿を現した。

 

「いったたたた……。ちょっとナーガ、これ絶対あんたのせいよ!今日の晩御飯はあんたのおごりだからね!」

 

「ふっ、何を言うかと思えば……。今の出来事を勝負とするならば、勝者は間違いなくリナの裏をかいたこの私よ。よって晩御飯はリナのおごりであるべきね」

 

「また訳のわからんことを……。あれ?ていうかここどこよ?」

 

「ほーっほっほっほっ!愚問ねリナ!あなたが理解できないことを、この私が知っていると思って!?」

 

「情けないことを胸を張っていうんじゃない!……あっ、人がいるじゃない。すみませーん、ちょっとお聞きしたいことがあるんですがー?」

 

 なんだろう、これ。

 ルイズの脳みそは余りの出来事に停止状態になっていた。

 召喚のゲートから人が出てきた?

 しかも女が2人?

 そして2人共マントをつけているから、もしかしてメイジなのだろうか?

 ていうかその内の1人の黒髪の女のあの格好は何?トゲ付きのショルダーガードにマント。これはいい。しかし胸と股間だけを革の下着のようなもので覆ったその格好は完全に痴女だ。

 男漁りが趣味だと公言するキュルケが淑女に見えるレベルだ。

 男子とかなんて彼女の格好見て、鼻息を荒らげてるし。

 風邪っぴきのマルコルヌなんて興奮しながら女王様だ!とか言ってるし。

 

「ちょっと~?もしもしー、聞いてる?」

 

 もう一人の栗色の髪の女の子―――こちらはショルダーガードにマント、そして頑丈そうなズボンにシャツと旅慣れた格好をしている―――が話しかけてきた。

 そうなのだ。如何に異常な格好、異常な登場をしようが彼女達は自分が作った召喚のゲートから来た。

 つまり、自分の使い魔なのだ!

 何とか脳の再起動を果たしたルイズはなんとか貴族の威厳を保ちながら口を開いた。

 

「え、ええ!答えてあげるわよ!わ、私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!偉大なるトリステインの貴族の1人。そして―――あなた達のご主人様よ!」

 

「……炸裂陣(ディルブランド)

 

「うっきゃあああああ!?」

 

 次の瞬間、ルイズの足元の地面が炸裂し、彼女は土砂まみれになって吹き飛んだ。

 

「ちょっと、リナ……。出会い頭の人間にいきなり攻撃呪文かけるのはいくらなんでもどうかと思うわ」

 

「……いやあ、だっていきなりご主人様宣言されたもんだから、つい条件反射で……てへ♡」

 

「てへ♡じゃないわよぉおおおおおお!」

 

 土砂まみれになったルイズが雄叫びを上げながら復活する。

 

「どどどどういうこと?!いいい一体何なの!?ご、ご主人様に敬意を払うどころかなんで魔法まで撃ちこんでくるの?!あなた達使い魔をなんだと思ってるの!?」

 

 怒り狂ったピンクの髪の少女の文句を2人はひとしきり聞いた後―――

 

「知らない」

 

「というか使い魔ってなんのこと?」

 

 そう答えて彼女を脱力させた。

 そして彼女は傍らで事態を見守っていた引率の教師に向かって抗議を始める。

 

「ミスタコルベール!見ての通りこの召喚は失敗です!やり直しを要求します!」

 

「それは駄目だ。ミス・ヴァリエール。召喚の儀式は神聖なもの。呼び出されたものが絶対だ。好き嫌いでやり直しするようなものじゃないんだよ。それに」

 

 真面目な調子でそこまで言うとコルベールはチラリと呼び出された二人組、正確には黒髪のナイスバディな女性へと視線を向けた。

そこには僅かだが好色なものが込められている。中身を知らなければこその行為だ。

 

「あんな美人を呼べるなんて先生からすれば羨ましい限りだよ。できたら先生のと交換してほしいぐらいだな。ハッハッハッ!」

 

 駄目だ。このエロ親父。早く何とかしないと……。

 

 ガクリと肩を落としたルイズの気持ちも知らず、コルベールは自分の放った下ネタギリギリのギャクで笑っている。中年のおじさんにはよくあることである。

 そのコントを見て笑い始めたのは彼女のクラスメイト達だ。

 彼らはさっそく無責任に野次を飛ばし始めた。

 

 「あっはっは!ゼロのルイズが痴女を呼び出した!みろよあの格好!大道芸人か何かか?」

 「おいおいおい!片方は魔法使えるみたいだがどっかのメイジでも浚ってきたのか!犯罪だぞ犯罪!」

 「片方はいい身体してるが、もう片方は貧相な胸だな!同じ貧相なルイズにはお似合いだぜ!」

 「ゼロの胸とゼロの胸か!こりゃいいや!」

 

 そしてそれらの野次の中の何気ない一言が、後の世に置いて数々の魔族を滅ぼしデモンスレイヤーとも称され、現在進行形では盗賊殺し、ドラゴンも跨いで通るドラまた娘、大魔王の食べ残しと呼ばれるリナ・インバースの逆鱗に触れた。

 

竜破斬(ドラグ・スレイブ)

 

 

 きゅどおおぉぉぉぉぉん!

 

 

 凄まじい大爆発が召喚の儀式を行っていた草原の上空で発生する。

 空の一点に赤い光が収束したかと思うと、次の瞬間直径数百メートルはありそうなエネルギーの光球が生み出され、炸裂して衝撃波をまき散らし、その場にいた全員を地面へと叩きつけたのだ。

 遠雷の如き轟音が響き渡り、爆発による気流が辺りを席巻する中、立っていたのは術者故に魔力障壁で衝撃波を受け流せたリナ・インバースと、リナが呪文を唱え始めた時点で、顔を真っ青にして防御呪文を唱え始めた白蛇のナーガのみであった。

 ぞっとした顔でリナ達を見上げる魔法学院の人間達に対して手を上げると、リナ・インバースはこういった。

 

「えーっと、今の見て、まだ文句言えるやつ居る?」

 

 とりあえず返事はなかった。

 

 

 

◆    ◆

 

 

 

「あたしは旅の魔導士リナ・インバース。そしてこっちが金魚の糞のナーガ。それで説明をお願いしたいんだけど?」

 

 簡単な自己紹介をした後、あたしはそうニッコリと笑って彼らに尋ねた。

 騒ぎを止めるため―――そう、決して私怨ではないのである―――竜破斬をぶちかましてからは皆、人が変わった様に大人しくなり、この場にいた全員が自発的に草原に正座している。

 なぜかナーガすら青ざめた顔をして一緒に正座しているのは置いといて。

 

「とりあえずそこのおじさん。あなたがこの場の責任者ぽいから聞くけど、これはいったいなんなの?」

 

 ここにいるのは明らかに年の若い少年少女ばかり。

だからその中で唯一の大人。多分教師的な存在だと思われる、頭がやや寂しい中年の男性に話を聞くことにしたのである。

 正直、あたしはてっきり概ねどこかの魔導士教会の教室か、魔法使いの私塾での授業の一巻でなんらかのトラブルが発生したのだろうと思っていたが―――。

 

「トリステイン魔法学院……春の使い魔召喚儀式ねえ……」

 

 事情を聞いた所、正直な話思った以上にややこしい話になっているようだ。

 

「ナーガ、トリステインなんて国の名前聞いたことがある?」

 

「ふっ。私はちょっと事情があっていろんな国の事に詳しい方なんだけど……聞いたことが無いわね。よっぽどの辺境じゃないの?」

 

 その言い方にカチンときたのか、例の私達の召喚主のピンクの髪の女の子が立ち上がって抗議してくる。確かルイズと言ったか。

 

「失礼なこと言わないで!トリステインは6000年前の始祖様の血を受け継ぐ由緒正しき国よ!トリステインを知らないあなた達のほうが田舎も―――モガっなにするのよ!モガっ!」

 

 ルイズのセリフは途中で隣に居た彼女のクラスメイトが口を塞いだため、途切れてしまった。

 別に実際出身は田舎のほうだから、田舎者と言われても特に気にしないのだが、そのクラスメイトは小さな声で(あの大魔王を怒らせるな!)とか(無礼を働いたら俺達全員生贄にされるぞ!)とか言っているのが微かに聞こえた。

 失礼な。まあ確かに竜破斬はちょっとばかりやり過ぎた気がしないでもないが、そこまで怯えなくてもいいのに。

 インバース流のジョークというやつである。あたしの故郷ゼフィーリアではよくあることだ。

 しかしトリステインなんて国は確かに聞いたことがない。余程遠くの国に喚ばれたんだろうか?

 

「使い魔召喚の呪文で何故か私達が呼び出されたというのは、まあ納得したわ。でもあたし達もこんな異国の地にいつまでも居るわけにもいかないんだし、早い所帰りたいんだけど。召喚呪文があるなら送還の呪文もあるんでしょ?」

 

 そう言ってコルベールという名前の中年教師に尋ねると―――

 

「……ちょっと。なんで額から汗を流しながら目を逸らすのよ」

 

 コルベールさんは汗をハンカチで拭いながら、恐る恐る答えた。

 

「いや、実はですな。使い魔召喚魔法は呼び出した者と必ず契約をするので、その…召喚はあっても送還する方法がないのですよ」

 

「送還呪文がないですって!?ちょっとどういうことよ!じゃああたしはこっからどうやって帰ればいいの!?」

 

「ちょっとリナ。それ以上首揺さぶると死ぬわよ」

 

 思わずコルベールさんの首を掴んでガックンガックンしてると、慌ててナーガが止めてきた。

 あ、泡吹いてる。

 とりあえず彼を解放してあたしは頭を抱えた。

 

「まいったわねー。まさかこんなことに巻き込まれるなんて……せめてナーガだけが召喚ゲートに入っていれば厄介払いができたものを……」

 

「ちょっと、なんでわたしが召喚されたような前提になってるのよ!どう考えても召喚主と同じその貧相な大草原の小さな胸が触媒となって、リナが喚ばれたに決まってるじゃない!ふっ、胸の大きさで通じるところでもあったんじゃない?」

 

「なんですって!?」

 

「そうよ!ふざけないで!じ、自分だけはいいものを持ってるからって、このおっぱいお化け!」

 

 再び喧嘩腰になったあたしの言葉に追従するかのように、生徒達の中から声が上がる。

 振り向くとクラスメイトを振りきった召喚主の少女、ルイズが顔を真っ赤にして立ち上がっていた。

 

「何度も何度も失敗してようやく成功したと思ったら、あんたみたいな訳の分からない生き物が出てくるなんて……しかも貧乳、貧乳うっさいのよ!そんな格好してる上に、牛みたいな乳を晒してるほうがよっほどおかしいのよ!」

 

 いいぞ、もっと言ってやれ!

 ……まあ確かに何度も頑張ってようやく成功した召喚で、あたしのような美少女ならともかくナーガが出てきたら、流石のあたしだって泣くかもしれない。

 そんなわけで思わず彼女を応援するあたしだが、すぐに異変に気がついた。

 彼女が乗馬鞭のような杖を取り出し、呪文を唱え始めていることに。

 

 ―――これは攻撃呪文!?

 

 反射的にその場を飛び退くが、標的にされているナーガは気にした様子もなく、

 

「ふっ、所詮はもたざる者の遠吠えね……。哀れなものだわ!ほーっほっほっほっ!」

 

 と調子に乗っておられる。バカだな~。でもナーガだしな~。

 

「つ、使い魔に対する躾をしてあげるわ!喰らいなさい!ファイアーボール!」

 

 その態度にとうとう切れたのかルイズが呪文を解き放つ!

 火炎球(ファイアーボール)が使えるとは、見習い魔導士にしては中々見どころがあるようだ。

 だがナーガもあれで、一応歴戦の魔導士の出涸らしの端くれ。

 そんなバレバレのモーションで放つ呪文ぐらい避けることなど難しくない。

 颯爽とサイドステップで放たれるであろう攻撃呪文を避けようとして―――

 

 

 ちゅどぉぉぉぉん!

 

 

 あ、直撃した。

 まる焦げになって大の字で倒れるナーガ。まああとでお湯でもかければ復活するだろう。

 それ自体はいいのだが、あたしは奇妙な違和感を感じた。

 今の呪文はあたし達の使うカオスワーズとは別のものだったように思えたからだ。

 いや、そもそもそれ以前にあれは『火炎球(ファイアーボール)ではない』。

 火炎球(ファイアーボール)は着弾すると炎をまき散らす光球を撃ちだす攻撃呪文であり、実戦慣れしていれば光球を避けるのは難しくない。ナーガも普通の火炎球(ファイアーボール)だったら間違いなく避けれていただろう。

 

 だが彼女の火炎球(ファイアーボール)は光球を撃ちだすどころか、狙った場所がいきなり『爆発』した。だからナーガは避ける間もなく喰らったのだ。

 しかもその爆発は火属性の魔法のそれではなかったようにも思えるのだ。

 ……とまあいろいろおかしな点はあったが、あたしはそれらの疑問点を一旦棚上げにしてするべきことをすることにした。

 とことこと歩いて未だにぜいぜいと肩で息をしているルイズに近づくと、彼女の手を掴んで天高く掲げる!

 

「勝者!ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」

 

 おおーと周囲の観客と化したクラスメイト達からまばらな拍手が上がる。

 あたしはルイズの両手を握ると、祝福の賛辞を述べた。

 

「おめでとうルイズさん。あなたは確かに白蛇のナーガに勝った。つまりっ!あなたはナーガを使い魔として使役する正当な権利を得たということよ!」

 

「え?えぇえええええええ?いらないわよこんなの!」

 

 ちっ。押し付けるのに失敗したか。

 

「今、舌打ちしたでしょ!あなたもしかしてこんなのわたしに押し付けるつもりだったの!?」

 

「ソンナコト、ナイデスヨ?」

 

「こっちを向いて喋りなさいよ!?」

 

「いや、でもこう見えてこれは意外といい物件よ?たまに夜中に馬鹿笑いしたり食費が高く付くけど、一応いろんな魔法使えるし、家事洗濯も得意でメイドとしても有能……」

 

「そんな呪われたようなメイド引き連れてたら、わたしまで変な目で見られるじゃない?!」

 

 仰るとおりである。それでもこれは千載一遇のチャンス。なんとかルイズを説得してあの魔導廃棄物をこの異国の地に捨てていくのだ!

 

 ……なんか趣旨がずれてきた気がする。

 

 とりあえず仕切りなおしということであたしとルイズは改めて話し合うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……やっぱり見たことのない土地ねー」

 

 あの後私達は私とルイズと教師のコルベールさんとで囲んで、これからの事を話し合っていた。

 最初はどこかの辺境の国に飛ばされたのかと思って、コルベールさんに大雑把にこの辺りの地図を地面に書いてもらったのだが、地形にも国名にも全く心辺りがない。

 それどころか常識すら違っているようだった。

 この国では魔法を使えるものはメイジと呼ばれ、貴族の地位を与えられている。

 つまりここにいる見習い魔道士は皆貴族の卵というわけだ。

 それはルイズも例外ではなく、彼女はトリステインでの有数の大貴族のご令嬢らしい。

 

 そして送還呪文がないのは事実のようで、いずれにせよ気軽に帰ることができなくなった以上、なんらかの拠点が必要になってくる。

 ここまで常識が違う土地だと手持ちの通貨が通用するかも怪しいし。

 

「そういう意味じゃあんた達のトリステイン魔法学院だっけ?そこは腰を落ち着けるにはいい場所そうね。魔法学院って言うには当然魔導書とかもあるんでしょ?送還呪文探すにはぴったりの場所じゃない」

 

 そう言うとルイズは嫌そうな顔で、

 

「確かにそうだけど、あそこはあくまで貴族の為の学院であんた達が勝手に入っていい場所じゃないんだけど……」

 

「へえ~。人様を勝手に喚び出してほっぽりだそうっての。あ~そんなことになったらストレス解消の為にさっきの魔法をあの学園に撃ちこんじゃうかもね~」

 

「も、もももも勿論歓迎するわ!遠方からの客人を持て成すのは貴族の努めよ!ねえ?ミスタ・コルベール!」

 

「う、うむ全くその通り!校長へは私の方から話を伝えておこう」

 

 よっほどさっきの竜破斬(ドラグ・スレイブ)が怖かったのか、ちょっと脅……いや遺憾の意を表明したら即座に2人の態度が変わった。

 話が早くて助かる。

 

「ありがと。でも世話になりっぱなしになるというのも気が引けるから、さっき言った通りナーガを適当にこき使っていいわよ」

 

 あたしがそうさりげなく、ナーガを押し付けようとしたその時!

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 今まで焦げてたナーガが復活した!おのれ!もう少しで彼女を完全にここに引き渡す算段がついたというのに!

 

「さっきから黙って聞いていれば、なんでわたしがこの子の使い魔になるの前提で話が進んでいるのよ!?」

 

「え……?だってあたしが使い魔になるのはやだし……」

 

「自分が嫌がることを他人に押し付けないで!いったいどういう家庭で育ったのよ!?」

 

「ナーガだけには言われたくないセリフだけど…極普通の家庭よ?隙を見せたら負け、叩く時は徹底的に叩けって家訓があるだけで」

 

 それを聞いたナーガがなぜか哀れむように目を細めた。ついでになぜかルイズも。

 

「やっぱり家庭に問題があったようね……」

 

「うちのお母様と同じこと言ってる……」

 

 確かにまあうちのねーちゃんは普通とは言いがたいし、その影響を受けた自覚はあるのだが。

 

「とにかく!あんたはルイズに負けたんだし、潔くここで一生使い魔やってなさい!それが世のため人のため、世界の平和のためになるのよ!」

 

「それ絶対わたしの為にはならないわよね……」

 

 半眼になってルイズが突っ込んでくるが、あえて無視する。彼女には世界平和の為の礎になってもらうしかないのだ。

 負けたという痛い所を突っ込まれたせいか、ナーガはしばらくプルプル震えていたが……やがて思い切ったように笑った。

 

「ふっ。ルイズには使い魔が絶対に必要だというのは理解したわ。ならば代わりの使い魔をわたしが用意するというのはどう?そしてその謝礼として私達がしばらく学園の世話になる。これなら八方丸く収まるとは思わない?」

 

 代わりの使い魔を用意するって……それってすごいヤな予感がするんですけど。

 しかしルイズのほうはその案に乗り気のようで瞳をキラキラと輝かせている。

 

「ホント?別の使い魔を用意してくれるならなんだっていいわ!怪しげな格好して高笑いする痴女よりはなんだってマシよ!」

 

 言われてみればそうである。……あっ、ナーガの奴、ちょっと傷ついてやんの。

 

「でもナーガ。代わりの使い魔用意するって何用意するのよ。言っとくけどクラゲは駄目よ。ここ陸の上なんだから」

 

「ふっ。愚問ねリナ。ちゃんとルイズが気にいるエレガントな使い魔を用意するに決まってるじゃない!……それにクラゲはわたしのお気に入りだから譲るわけにはいかないわね」

 

 お気に入りなんだあれ……。

 そうこうしている内にナーガは私達から離れると召喚の呪文を唱え始めた。……ちょっと待てい!その呪文は!?

 咄嗟に呪文を理解したあたしが止める間もなく、ナーガの呪文が完成した!

 

魔竜吠(グ・ル・ドゥーガ)!」

 

 ナーガの呪文によって草原に闇が集い、物理的な実体を伴った存在へと変化していく!

 ―――それは見上げるほど巨大な漆黒の魔竜の姿を取った。

 魔王竜(デイモス・ドラゴン)

 数ある竜族の中でも最強最悪と言われる竜族。

 魔族の本拠地、カタート山脈にのみ生息し、一吹きで街をも滅ぼすと言われる闇のブレスに加え、大半の魔法や武器を跳ね返す頑丈な鱗で全身を覆っている。

 知能は低く、魔法等は使えないがその圧倒的な戦闘力はその欠点を補って余りある。

 呼び出された魔王竜(デイモス・ドラゴン)は歴戦の個体であるらしく、全身に無数の傷がついていたが、それがかえってこの竜に凄みを与えていた。

 

「「「ひゃあああああああああ!?」」

 

 あたし達から遠く離れて様子を見ていたトリステイン魔法学院の生徒達から悲鳴が上がる。

 まあ無理もない。あんな怪獣みたい―――というか怪獣そのものなドラゴンがいきなり出てきて悲鳴を上げない奴は、余程の肝っ玉が座ってる奴しかいない。

 

「ほーっほっほっほっ!如何かしら?この私の喚び出した魔王竜(デイモス・ドラゴン)は!?この大きさ、この毛並み、間違いなくカタート山脈産の個体で、好事家が見れば垂涎の眼差しを向けるのは間違いなしね!」

 

 ドン引きされているのにも気が付かずナーガは相変わらずの馬鹿笑いをしてる。

 ていうか好事家って何の好事家だ。

 あんなもん飼育してる奴はこの世にいない―――いや、いないこともないが、まともな奴でないのは確かである。

 

 ―――おや?

 揃って腰を抜かしてる生徒達の中で1人―――いや2人だけ立ったまま魔王竜(デイモス・ドラゴン)を見つめている者が居た。

 1人は青い髪をしたあたしよりも更に小柄な生徒。もう一人は―――悔しいが、中々豊満なバストをもつ褐色の肌の赤毛の生徒で、彼女は青い髪の生徒にしがみつくようにして立っている。

 因みに青髪の生徒の使い魔もドラゴンの子供のようだが、こちらは突然現れたヤクザみたいな迫力の魔王竜(デイモス・ドラゴン)に怯えて自分より小さい青髪の生徒の影に隠れていた。

 

 なんちゅー情けないドラゴンだ……

 まあ同じドラゴン同士、人間以上に互いの実力差を理解できてしまったのかもしれない。

 そして肝心のルイズと言えば……

 

「な、なななななにあれ?ていうかなによあれ!?」

 

 完全に震えていた。 

 見習い魔導士がこんなもん呼び出されて、さあ使い魔にしろと言われたらこうなるのが当然である。

 

「ナーガ。念の為聞いとくけど、こいつちゃんと制御できるの?以前もプラズマドラゴン呼び出した後、暴走してたじゃない」

 

「ふっ。その点は抜かりはないわ。最低でも喚び出して数分間の間は私に従うようになっているから」

 

「それってつまり数分間が過ぎたらどうなるわけ?」

 

「……ふっ」

 

 目を逸しやがったよこいつ。

 ともあれこうなってしまった以上仕方あるまい。ルイズには悪いが、数分間以内に契約を結んでもらえないければこちらの身も危険になる。

 

「じゃあ、ルイズ。悪いけどちゃっちゃと契約結んでくれない?あのドラゴン―――魔王竜(デイモス・ドラゴン)なら、気軽に国だって滅ぼせるからすごく頼りになる使い魔になるわよ?」

 

「わ、わわわわわたしは国とか滅ぼす予定とかないんですけどどどど」

 

 まだビビりまくってるようで、どもりながら返事をするルイズ。うーむ、もっと売り込まないと駄目かー。

 

「あのねルイズ。人生何が起きるかわからないものよ。もしかしたら7万の軍隊とかと対決する事になるかもしれない。そんな時、あのドラゴンがいればブレスで1発よ。気に入らない王様がいたらあいつに乗って直接王宮とかに殴りこみとかできるし」

 

「クーデターでも起きない限りそんなことしないわよ!もっと控えめな召喚獣はいないの?グリフォンとかユニコーンとか!この際クラゲでもいいわ!」

 

 半泣きになってわめくルイズ。

 うーん。これは駄目っぽいかなー。

 

「仕方ないわね。ナーガ、どうもお気に召さないようだしそのドラゴン一旦返しちゃってよ」

 

 そうあたしがナーガに言うと、彼女はきょとんとした顔で

 

「え?何言ってるの?わたし送還呪文なんて知らないわよ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ひゅるるるる~と一陣の風が草原を撫でていった。喚び出された魔王竜(デイモス・ドラゴン)が眠たそうにあくびをする。

 

「おまえもかぁぁぁぁぁい!」

 

 次の瞬間あたしの全力の飛び蹴りがナーガの顔面に突き刺さった。

 

 そして召喚主が攻撃されたせいか、或いはぼーっとすることに飽きたのか、とうとう魔王竜(デイモス・ドラゴン)が動き始めた!その巨体が一歩踏み出しただけで、大地が地震でも起きたかのように振動する!

 

「ちょっとナーガ!動き始めたわよあれ!なんとかしなさい!ってこんな時になんであんたは勝手に気絶してるのよ!?」

 

「リナ……。あなた今すっごく身勝手なこと言ってるけどわかってる?」

 

 半眼になってルイズが突っ込んでくるが、この際それは無視である。

 その向こうではコルベールが生徒達を避難させようとしていた。流石は教師。

 しかし逃げ方が頂けない。彼らは浮遊の魔法で蜘蛛の子を散らすように逃げようとしているが、あんな逃げ方ではブレス1発で全滅である。

 まだ青髪と赤毛の生徒のように逃げずに留まっていたほうが安全なぐらいだ。

 

 ……こうなってしまった以上仕方がない。魔王竜(デイモス・ドラゴン)が完全に攻撃態勢を取る前に竜破斬で仕留めるしかない!

 そう思い、呪文の詠唱を始めたその時―――

 

「あれー?リナさんじゃないですか?」

 

 のんきな声が頭上から降ってきた。―――正確にはドラゴンの頭上から。

 その声の持ち主はそのまま何の気負いも無しにドラゴンの頭上から飛び降りて、あたし達の前に着地した。

 

「ひゃあああああ?!」

 

 その姿を見てまたもやルイズが悲鳴をあげる。

 まあさもありなん。

 落下してきたその人物は人の形状をしていたが、そもそも人ではなかった。

 コウモリのような巨大な黒い翼に6本の腕。額の右側からはねじれた角が生えている。

 そして顔の左側には血走った瞼のない目があった。

 怪物といえばそうだが、こいつは怪物の中でも更に厄介な存在である。

 純魔族。

 生きとし生けるものの天敵であり、負の感情を喰らって生きる精神生命体。

 精神生命体であるが故に、あらゆる物理攻撃を無効化し、呪文すら必要とせず魔法を行使できる圧倒的な魔力を持つ。

 脅威の度合いとしては魔王竜(デイモス・ドラゴン)をも凌ぐほどの怪物だ。

 

「おっ。いい恐怖。ごちそうさまです」

 

 落下してきたそいつはこちらに向き直るとルイズに向かってお礼の言葉を述べた。

 まあ彼女のあの怯えっぷりは、確かに魔族からすれば美味そうな悲鳴だった。

 だがそんなことはどうでもいい。

 あたしはこの純魔族に見覚えがあるのだ。

 

「どうしてあんたがここにいるのよ!?ラギアソーン!」

 

「いや~ペットのジョンと日向ぼっこしてたら、いきなりジョンごと召喚されて私にも何がなんやら……」

 

 そう。彼(?)はあたしの知り合いなのである。

 何を隠そう、彼こそは世にも希少な魔王竜(デイモス・ドラゴン)の飼い主。

 元々は彼はかつて魔王竜(デイモス・ドラゴン)をペットにしてカタート山脈で暮らしていたが、ある日ジョン(魔王竜(デイモス・ドラゴン)の名前)に逃げられて失意の底に落ち、落ちぶれに落ちぶれて近所の人に親切にしたり、ゴミを拾ったり、三流魔道士と契約したりと魔族としてはあるまじきどん底の生活をしていた。

 しかしあたしとナーガの助けでジョンと再会、その後一悶着あったものの、またどこかで平和に暮らしていたと思っていたが―――。

 

 そこまで考えてあたしは気がついた。

 

「まさかこの魔王竜(デイモス・ドラゴン)―――、ジョンなの!?」

 

「そうですよ。大きくなったでしょう?」

 

 いや、そんな得意気に自慢されても、元からでかすぎてわかんないし……。

 

 かくして。

 ナーガの別の使い魔喚び出してルイズの使い魔にしよう作戦は迷子が1人(?)と一匹増えて終わった。

 

 

 

 

 

 そして数分後。

 コルベールさんとルイズにラギアソーンとジョンの事を改めて説明したら、もう完全に泣きそうになっていた。

 この土地では純魔族や魔王竜(デイモス・ドラゴン)の事が伝わってないらしく、彼らの生態を説明すればするほど2人は絶望的な表情になっていったのだ。

 ラギアソーンは呑気に「いやーコクのある絶望ですねー」とちゃっかり2人の負の感情を美味しく頂いてるようだが。……相変わらずこいついい性格してるなー。

 

「それでリナ……。これからあなた達どうするの……?」

 

 死んだ魚の目でルイズが聞いてくる。

 

「うーん。流石に魔王竜(デイモス・ドラゴン)と純魔族抱えて世話になるわけにもいかないから、調べ物したら何処かに行こうと思うんだけど……」

 

 それを聞いたコルベールさんが目の色を変えて引き止めてきた。

 

「いいえ!リナ殿。今回の不始末は我々トリステイン魔法学院の不徳と致す所!あなた方には元の世界に帰還できる目処が立つまで、ぜひトリステイン魔法学院へと滞在して頂きたい!

勿論純魔族の方も含めて客人としてもてなさせて頂きます。幸いにも学院は使い魔用の大型の小屋と大量の食料が用意してありますので、ジョン君にも不自由はさせないかと!」

 

「私としてはジョンのご飯が用意してもらえるなら別に構いませんが…」

 

 鬼気迫る勢いのコルベールさんに対してラギアソーンが呑気に答える。

 しかしなんだってこんなに必死なのだろうか?

 そう思っていると隣のルイズも同じことを思ったようで、小声でコルベールさんにそのことを尋ねていた。

 

 彼らのやり取りは所々しか聞き取れなかったが、(このまま彼らを放置すると……世界の危機……責任者として貴族として……我々は……この悪魔達を止める義務が……)などと何やら悲壮な決意を語っているのが聞き取れた。

 なんか彼の話聞いてるうちに、ルイズも生贄になるのを決意した乙女のような顔になってるし。

 

 まるで人を悪の大魔王か何かのように語るとは失礼な。と思ったがそれで温かい寝床と美味い食事が提供されるならやぶさかでない。

 しかしだからと言って働きもしないのに、一方的にもてなされるというのも、人としてどうかと思う。

 せめて使い魔の事ぐらいはなんとかしてやりたいのだが。

 

「しかしそうなると結局ルイズの使い魔の件は振り出しにもどっちゃったわねえ……」

 

「いいの。気にしないで。これで進級できなくても私は誰も恨まないわ。退学になったら実家に帰ってちい姉様と一緒に静かに平和にペットと遊んで暮らすの……うふふ、うふふふふふ」

 

「……ミス・ヴァリエール。気を確かに持って下さい」

 

 何やら現実から逃げるような虚ろな表情で笑い始めるルイズと彼女を慰めるコルベールさん。そんなに進級できないのがショックなのだろうか。ぜひともなんとかしてあげたい所だが……。

 

 どうしたものかと考えていると隣でナーガが名案を閃いたとばかり、手を打った。

 

「いい考えがあるわ!ラギアソーン!あなた折角だしルイズの使い魔になりなさい!」

 

 その提案にラギアソーンとルイズが同時に驚きの声をハモらせる。

 

『ええっ!?』

 

「ちょっと、ナーガ!……あんたにしちゃナイスアイデアじゃない!」

 

「リナさんまで!?」

 

 ラギアソーンが抗議の声を上げてくるが知ったことではない。

 

「いいじゃないラギアソーン。あんたは前にも三流小悪党魔道士の使い魔やってたし。やっぱここは経験者がやるべきよ」

 

「確かに使い魔経験はありますけど!でも嫌ですよ!ジョンの一件で私は生きとし生けるものを滅ぼし、絶望を振りまく清く正しい魔族として生まれ変わったんです!今更人間の使い魔なんて、荒んだ生活をしろと言われても困ります!」

 

 なんだ、その清く正しい魔族ってのは。しかしこのリナ・インバースの屁理屈と口の回転とよくわからん強弁を舐めて貰っては困る!

 すかさずあたしは追撃をかけた!

 

「あら?そんなこと言ってもいいのかしら?あたしはこんな稼業してるせいか、たまにあんたみたいな純魔族とかち合ったりすることがあるのよね。

 もしこの先魔族に出会ったら、あんたがペットに逃げられて三流魔道士と契約するまで落ちぶれたって話を手当たり次第に流してあげるわ。

 ……精神面の在り方が直接存在に作用するあんた達魔族にとって同族に嫌な噂流されるのってかなりきついんじゃない?」

 

「鬼ですかあんたは!?私も色んな人間見てきましたけど、風評を盾に魔族脅すようなえげつない人間は初めて見ましたよ!」

 

「流石はリナね……。とうとう魔族まで脅迫するようになるとは思わなかったわ。流石は私のライバル……いえ、リナをライバル扱いしたらむしろ私の評価も下がるような……」

 

 ナーガ。お前は後でシメる。だがそれは置いていてあたしはラギアソーンの説得を続けた。

 

「ラギアソーン。あんたここでジョンが世話になるってのに何にもしないつもりなの?それは魔族の名折れじゃない?逆にこう考えればいいのよ。ジョンの犬小屋と餌代の対価として自分が労働するだけだって」

 

「うーん。そう考えれば確かに契約の範疇内……かな?」

 

 よし、このまま押し切る!

 

「というわけで、ルイズ!今からこいつがあんたの使い魔ってことで話は決まったから!よろしくしてあげてね!」

 

「いや……私はもう無理に契約するつもりは……というかもう実家に帰りたくなってきたんだけど……」

 

 死んだ魚の目で虚ろに答えるルイズ。だがこれならもう後一押し!

 

「さあラギアソーン!自己紹介!」

 

 あたしが振るとラギアソーンはちょっと照れたように頭に手を当て、ペコリとルイズにお辞儀をした。うーむ、ちょっと可愛いかも。

 

「えーと、純魔族のラギアソーンです。好物は人間の負の感情ですが、動物や植物の負の感情も好きです。特技は……屍肉呪法(ラウグヌト・ルシャヴナ)とか使えます」

 

「ラウグヌト……一体何なのその呪文?」

 

 ルイズが聞くと彼は丁寧に教えてくれた。

 

「呪いの一種ですよ。この呪文をかけると相手は無限に再生する肉塊になって、死ぬこともできずに自分が生み出した肉の蛇に食われ続けるという実にエコロジーな呪いです」

 

 ……聞かなきゃよかった。見るとルイズも同じ様な顔をしている。

 

「一応聞いておくけどそれの何処がエコロジーなの?」

 

 あたしが聞くとラギアソーンはしれっと答えた。

 

「これで作った肉塊が一つあれば私達魔族の食事の心配がなくなりますからね。どうですルイズさん。誰か呪いたい人がいるなら私がこの呪法をかけてきてあげますよ」

 

「い、いいいい、いいえ!結構よ!特にそんな相手は居ないわ」

 

 かなりビビったようで震えながらルイズが首を横にふる。

 とはいえこれで厄介事に一区切りがついた。

 

「まあ、これで色々と一件落着したようだし、さっそく学院にいって食事でもしましょうか!あたしの分は10人前でお願いね!」

 

「ふっ。わたしの分は20人前でよくってよ」

 

「私は今ルイズさんの負の感情食べたんで結構です。ただしジョンにはお肉を一杯上げてくださいね。足りないと他の皆さんの使い魔食べちゃうんで」

 

「えっ?ちょっと、ほんとにそいつが私の使い魔になるの?嘘でしょ?ねえ、ちょっと!?」

 

「ミス・ヴァリエール……。申し訳ありませんがこれも世界の平和のため。耐えて頂きたい」

 

「ミスタ・コルベールまで!冗談ですよね!?ねえ?!」

 

 うむむ。泣くほど喜んでもらえるとは嬉しい限りである。実際あたし達の基準でも純魔族を使い魔にしてるような魔導士は、凄腕の魔導士として一目置かれる。稀に例外もいるが。

 

 そういえば使い魔の儀式って何するんだろう? 

 

 ふとそんな疑問が湧いてコルベールさんにそのことを訪ねてみる。

 すると彼はなぜか明後日のほうに視線を向けながらこう答えた。

 

「そんな大したことはしませんよ。術者と使い魔の間でその……接吻をするだけで」

 

 うわぁ。

 

 接吻?つまりキス?純魔族と?それは……ご愁傷さまというか……。

 隣を見るとナーガすら顔を引き攣らせている。ルイズに至っては死人の顔である。

 

「参りましたね。私はこれがファーストキスなんですが……」

 

 待てい。ラギアソーン。なんでお前が照れている?

 そして彼はおもむろにその6本の腕でがしりとルイズを拘束した。

 

「さ、それじゃさっさと契約とやらを済ませてしまいましょうか」

 

「ちょっとまって!私はキスなんてしたことないし、まだ心の準備が……!?というか私達もっとお互いの事を知ることから始めたほうがいいと思うの!」

 

「そんなお見合いみたいなことしてたら、いつまで経っても進みませんよ。私だって初めてなんですから。さっ、チューっと……あれ?リナさん、そういえば私の口って何処なんですかね?」

 

「あたしに聞かれても……とりあえずあんたは角がチャームポイントだからそこにしたら?」

 

「じゃあ角ということで……。はい、いきますよー」

 

「いやあああああああ!」

 

 かくして。

 草原にルイズの絶叫が響き渡り、この事件は一旦の幕を閉じたのである。

 その後元の世界に戻るため、様々な冒険があったがそれを語るのはまた別の機会ということになるだろう。

 

 めでたしめでたし。

 

「めでたくないわよ!!!」

 

 おしまい。

 

 

 




 フ○ーストキスから始まる~♪二人の恋のヒスト……
 ……JASRACが怖いのでこのへんでやめときます(挨拶)

 ゼロ魔クロスのお約束のギーシュ戦ぐらいまではやりたかったのですが、流石にそこまでギーシュは死にたがりではないだろうということで、すぺしゃるらしくこれで一旦終了です。

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