聞こえるか、この鐘の音が()   作:首を出せ

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一万は行ってないです。


いやー遠征学修は強敵でしたね……

 

 

 

 

 唐突に現れた紫電を纏った黒い靄。アルベルトから代行者と呼ばれた存在は、己に向けられる警戒の視線など感じていないように―――いや、それどころかグレンやアルベルト、リィエル、ルミアなぞ居ないとでも思っているかのように意識すら向けていなかった。黒い靄から覗く赤い光は、終始原型が確認できなくなったバークスにのみ向けられている。

 だが、彼らは感じていた。自分達に向けられていなくても代行者から放たれる圧倒的な気配を。

 特に敵意を向けられているわけでもない。にも関わらず彼らは膝を突きそうになる。唯その場に存在するだけでこれだけの威圧感を持つなど、グレン、アルベルトそしてリィエルといった手練れでなくても理解できることだった。そして、その圧倒的な気配を直に叩きつけられているバークス達が無事であるはずがない。リィエルの姿をした人形達はその表情を変えることなく武器を地面に落として屈し、圧倒的な防御性能を誇った宝石獣三体も一歩、また一歩と確実に後方に下がっていった。バークスは暴走状態が消し飛び、意識を取り戻す程である。もちろん、意識を取り戻したからと言って目の前の恐怖から逃れることができるわけではない。逆にはっきりと認識できてしまっている為、先程よりも不幸な状態と言えるだろう。……最も彼がこれまで仕出かして来た所業を考えるのであれば同情の余地などは何処にも残っていないが。

 

『ヒ、ヒィィ!な、なんだ…お前はァ!!』

『我の名などはどうでもよい。我は、我が為すべきことを行うまで』

 

 声を裏返しながら、限界まで研究し強化した結果、巨大化まで果たした自身の身体を恐怖に震わせながら口を開くバークスに対して、代行者は淡々と返す。その声は感情を感じ取ることのできない、何処までも平坦で機械のような冷たさを持っていた。その事実がこの者に情けがないことを確信させてくれた。当然、気づいたバークスは更に身体を震わせることになる。

 

「あ、あんたは……味方、なのか……」

 

 代行者に恐る恐る語り掛けたのは彼の後方に立ち、ルミア達を守っていたグレンである。彼は自分の身近に居る大陸最高峰の魔術師、セリカ・アルフォネアすらも越えうる気配を持っている彼に冷や汗を流しながらも確認しなければならないことを尋ねる。この場で選択肢を間違えば状況は最悪なことになる。存在するだけでも押しつぶされそうな気配を纏った存在がこちらを意識して殺しに来るのだ。慎重になるのも、どもりながらの発言も致し方ないことだった。

 

『我が目的は唯一つ。そこに居る存在の首のみ』

 

 短く答える代行者。要するにバークスを殺すのは自分の役目であるということだろう。グレンはそれでほっとしたように息を吐いた。しかし、逆にアルベルトは内心で舌打ちをする。

 帝国に潜んでいるであろう代行者。その力は強大なもので宮廷魔導士団特務分室でも全容は疎か一部の情報すらも握っていない。目の前に本人が現れたとなれば色々聞きたいことがあるのだが。

 

――――思っていたよりも、レベルが違うな。ここで行動を起こすのは得策ではない、か。

 

 アルベルトは力量差をはっきりと自覚していた。だからこそここで下手に動いては取り返しのつかないことになると考え、待機を選択する。それにより誰にも気づかれないように向けられていた意識が消える。その分バークスが受けるプレッシャーが増えた。

 

『う、うぐぐぐ……ワシの首、だと……?認めん、認められるか…!こんなところで、死ぬわけにはいかんのだ!―――行け!人形ども、宝石獣』

 

 己の主人の声が響き渡る。

 彼らは創造主には逆らえない。そういう風に作られた時からなっている。……残酷なことだが彼らは真っ当な生物としての生を望まれたわけではない。ある人物達が自らの欲望を満たす為だけに作った――――道具なのである。

 

『そこを退け』

 

 しかし、いくら道具として作られたからとは言え、その存在は生物として確かに在るのだ。動くための機関も生物と同じものを当然使っている。ならば、彼らにもあるはずなのだ。道具として作られたとしても生物としてこの場に生きているのであれば、己を一分でも長く生かしたいという欲求が。

 

 自分達の目の前に突如として落雷が降り注ぐ。

 ここは雲どころか空すらもない地下、もちろんその落雷は自然発生したものではない。後ろに居るグレン達も落雷に似た魔術を使用することはできない。であれば、それを行った人物は消去法で一名のみ。先程まで彼らが牙を剥こうとした代行者ただ一人。彼らは既に分かり切っていた事実を改めて知らされる。この存在に逆らうことなど許されない。対峙した時点で己の生命を諦めなければならない……正しく、全生命の終着点『死』のような存在だったのだと。

 

 もはや自身の創造主の命令を実行できる力など何処にもなかった。心ではない、生物としての本能が目の前の存在に対して敗北を認めたのだ。最早動かしたくても指一本動かせる状態ではなかった。そんな彼らを見て、赤く光る眼のような部分を覗かせる黒い靄は静かに言葉を紡いだ。 

 

『我が手に・嘗ての・信仰を』

 

 虚空に向けた手に魔術式が浮かび上がる。黒い靄は一歩一歩踏み込みながら魔術式を浮かべている手を横に動かした。すると、その魔術式から一本の剣が出現する。

 特にこれといった特徴はない。強いて言えば黒い靄の四分の三ほどの長さを誇っており、大剣に部類されるのではないかといった所だろう。これといった装飾もされていない、只の剣。しかし、この場に居る全員が生物としての本能から、その剣が濃密な死の気配を発していることを感じ取っていた。着実に近づいて来る死の足音を感じている。己の最期を覚悟し、意識を手放そうとしたその時――――

 

 

「待ってください!」

 

 

――――制止の声がかかる。

 この場で誰もが意見できないと思っていた存在に真正面からその行動の制止を訴える存在。それはこの場で戦っていたものではなく、一番後ろで守られている者……この中の誰よりも怯えながらも恐らくこの中でも並び立つ者はいないと思わせるほど強靭な精神を持つ者……ルミア・ティンジェルだった。

 

「なっ、ルミア!?」

 

 これにはグレンも驚愕を露わにした。まさか彼女が制止を試みるとは思っていなかったのだろう。だが、それと同時に納得もした。ルミア・ティンジェルという少女は、自身が経験してきた出来事を考えると信じられないくらいに優しい少女である。幼い頃から命の危険にさらされてもなお、他人のことを思い遣ることのできる人物はそう居ない。そんな彼女だからこそ、欲深い人間に作られただ利用され、そして命を奪われることが我慢ならないのだろう。勿論それは嘗て正義の味方を志したグレンもそうだ。彼女達、そして宝石獣達はただ生を受けただけなのだから。

 だが、同時にグレンは大人でもある。物事を天秤に乗せて量ることもできるし、責任だって付き纏うものだ。今回の場合は最悪、代行者との敵対という形になるかもしれない。本来であればここで止めるべきなのだろう。しかし、担任として、正義の味方を目指したものとして、何よりグレン・レーダスとして彼女の言葉を止めようとは思えなかった。

 

『なんだ、亡き王女よ』

 

 血のように赤い眼が蒼く澄み渡ったルミアの瞳を射貫く。自分に向けられる圧倒的プレッシャーに、彼女は心臓の鼓動が急激に速くなり、全身の血液が沸騰するかのように熱を帯びた感覚を覚えるが、それでも言葉を紡ぐことをやめない。

 

「その子達は、まだ何もしてません。ならわざわざ……その、殺す必要は、ないと思います!」

 

 特に人形達は彼女の友人であるリィエルと全く同じ容姿をしている。そこに当の本人も横に居るのだ。それが殺される瞬間なんて見たくもないし見せたくもないだろう。

 意見をぶつけられた代行者はその行動に対して激高するでもなく、笑うわけでもなくただ淡々と言葉を紡いだ。

 

『……その思考。実に甘いぞ、亡き王女よ』

「……えっ」

『この者達が日常を謳歌できるのか。この場で見逃し、生かすことで己の幸福を見つけることができるのか――――否である』

 

 代行者は語る。

 彼らには生き残ってもモルモットとして帝国に拘束されるか、もしくは帝国の失態を隠すために秘密裏に処理されるだけだと。元々Project:Revive Lifeは凍結されたことになっている。それが今になって成功例が現れ尚且つそれが帝国内で作られたとなれば大問題になるだろう。宝石獣も同様だ。

 つまり、彼らはどちらにせよ詰んでいるのだ。生まれた時点で袋小路に閉じ込められているも当然。リィエルという例外も存在するが、それが逆に彼女達の生存を著しく困難にしている原因でもある。同じ肉体スペックであれば、二つも要らないと考えるだろう。スペアが現れたならばどうするか?好きに使うと相場が決まっている。

 

『汝も理解しているはずだ。魔術講師』

「………」

 

 どうやらあえてルミアの発言を見逃し、内心で賛同していたことを見抜いていたらしい代行者からそのような言葉が飛び出す。グレンの返答は無言。無言の肯定だった。彼とて様々な戦いを行ってきた歴戦の魔術師。普通に生きていれば知り得ない黒いことなど既に知り尽くしていた。

 

「――――なら」

 

 黙り込んでしまったルミア。

 けれど、その隣に居たリィエルがルミアに代わるようにして口を開く。……尤もその内容はその場に居た誰もが予想もできないモノだったが。

 

「私が、やる。あの子達を、殺す」

「――――!?」

『………何故だ』

「私が私として生きるため。……イルシアのコピーじゃない。戦車で、ルミアの友達で、グレンの教え子の(リィエル)として生きる為に私の妹達(イルシアのコピー)殺す(背負う)

『…………汝の願い、請け負った』

 

 代行者は一歩剣を下ろし、その場で方向転換をしてバークスの方へと向かう。

 

「………」

「リィエル。宝石獣に関しては俺とグレンで引き受ける。お前はいつも通りに行け」

「うん。分かった。ありがとうアルベルト」

「………俺を勝手に巻き込むな。だが……それもしゃあねえよな」

 

 リィエルに言葉をかけて一足先にアルベルトとグレンが宝石獣三体に襲い掛かる。残ったルミアはリィエルに泣きながら謝った。こんなことになったのは自分の所為であると。

 

「ごめんね…!私が捕まったからこんなことに……」

「ルミア、それは違う。これは私が選んだこと。だから、ルミアは謝らなくてもいい―――――――――――じゃあ、行ってくる」

 

 責任を感じてしまっているルミアを慰め、リィエルはフィジカル・ブーストを起動して地面を蹴り穿つ。抉れるほどの力で蹴りつけた推進力は伊達ではなく、ほんの僅かな時間でリィエルは自身とそっくりの人形達、その懐に潜り込んでいた。そして、施設に侵入した時から召喚してあった大剣の柄を握りしめる。

 

「恨んでくれて構わない。けど、私はリィエル・レイフォードとして生きたいと、そう思っているから――――」

 

 最後まで言葉を紡ぐことはない。

 ただ、結果を言うのであればリィエルが自分と同じ顔の別人が赤い血だまりを作ることになっただけだった。

 

 

 

 一方でグレンとアルベルトのコンビが相手にする宝石獣三体との戦いも佳境に差し掛かっていた。と言っても、こちらもそこまで面倒な手順を踏んでいるわけではない。アルベルトが防御魔術を使い、グレンが宝石を利用して大陸最高峰の魔術師御用達の特大魔術を発動させるだけだからだ。

 

「――――――――遥かな虚無の果てに……!アルベルト!」

「―――」

 

 七節にも及ぶ詠唱を終え、アルベルトに合図を出すグレン。アルベルトは声がかかると同時に後方に跳躍した。これでグレンの射線を遮るものは何もない。彼らの目に映るのは宝石獣三体だけだ。

 

「助けてやれなくて悪いな……――――イクステンション・レイ!」

 

 グレンから放たれる膨大な魔力は超威力の衝撃へと姿を変えた。そしてそれは魔術、物理に対して高い耐性を持つ彼らの身体を突き抜け、そのまま三体同時に葬り去ることとなる―――――。

 

 

 

『………な、何故……何故こうも上手くいかないのだ!?ワシの魔術の有能性を何故、誰も理解しようとしない!?』

 

 味方が消え、一人叫び散らすバークス。しかしそのようなことをしたところで状況が変わるわけでもない。既に代行者は彼の目の前にまで迫っており、バークスが死ぬのは時間の問題だった。

 だが、ここで一つ彼に救いの光が現れる。……そう、バークスですら気づいていなかったエレノアの置き土産。彼女が扱う死霊魔術によって生み出された女性型のゾンビである。

 

「きゃぁぁ!!」

 

 ルミアの悲鳴に釣られて振り返る一同。そこには女性型のゾンビ達に拘束された姿があった。バークスの戦力が人形達と宝石獣三体だけだと思っていたが故の失態と言えるだろう。女性型のゾンビが腐臭を放つ腕をルミアの首に差し向ける。恐らく、動けば彼女の命はないとゾンビでありながら表現しているのだろう。直に彼女の元へと駆け付けようとしたグレンとリィエルはその場で歯噛みした。

 これによって誰よりも喜んだのはもちろん現在進行形で追い詰められているバークスだった。彼は先程までのような恐怖を多分に含んだ声音ではなく、実に嬉々としたトーンで高らかに語り始める。

 

『ハァッハッハ!!エレノアめ、中々いい土産を置いて行くじゃないか!これで形勢逆転だな帝国の犬ども!さぁ、その感応増幅者の命が惜しくば一歩たりとも動くなよ!』

 

 典型的小物のようなセリフだが、実際に彼は今優位に立っている。彼からすればルミアという皮はいらない。感応増幅という異能があればそれでいいのだ。だからこそ、このようなことができた。……これが普通であればグレン達は何一つ手出しできぬまま、ここでバークスに殺されてしまうかもしれない。

 しかし、忘れてはならない。此処には狙撃を本業としている魔術師に、常識がこれっぽっちも通用しない代行者が居ることを。

 

「くだらん」

『愚か―――実に、愚かである』

 

 ご高説よろしく語るバークスにアルベルト・フレイザーと代行者は呆れを多分に含んだ言葉を溢した。もちろんその対応をバークスが快く思うわけもなく、自分達の立場を分からせる為にルミアを痛めつけようとした処で……それが絶対にうまくいかないことを悟ることとなった。

 

「失せろ」

 

 まず、アルベルト。彼は自身の持っている多大な才能から軍用魔術ライトニング・ピアスを改良したその一言で放つ。彼ほどの人物が放てばC級軍用魔術とて、多大な効果を見せる。

 常人の目には決して捉えられぬ――まさに電撃の名に相応しい速度で飛来したソレは瞬く間に女性型ゾンビをルミアから引きはがした。引きはがされた女性型ゾンビは再びルミアを捕らえることなく追撃として放たれたアルベルトの魔術によって灰と化す。

 そしてもう一体のゾンビは既にその身体から首が消えていた。誰が殺したのか、それは一目瞭然だ。このような殺し方をするのはこの中で一人しかいない。しかし、その殺す瞬間は誰の目にも映っていなかった。まるで自動的に首が断ち切られたようである。 

 逆転に次ぐ逆転。

 三日天下どころか十分も続くことのなかった有利にバークスは言葉を失っていた。状況の変化が目まぐるしくてついていけないのか、はたまた一瞬にして不利な状況に叩き落された現実を受け入れることができないのかは定かではない。それは本人にしかわからないことだ。だが、どちらにしても彼が行き着く運命は既に決定している。

 

 もう一度聞こえる、あの鐘の音が。

 神々しさを感じる余裕はもうバークスにはない。彼にはもはや、その音色が死の足音にしか聞こえなかった。

 

 鐘が告げる自身の死。それを行うは、目の前の代行者。その赤き瞳からは逃れることはできず抵抗しようという気概すら湧いてくることはなかった。バークスの瞳に生への渇望を見て取ることはできない。そこにあるのはただただこの場で殺されるという諦観と目の前に存在している者への恐怖のみ。

 

『―――聞くがよい。我が鐘は汝の名を指し示した。告死の羽、首を断つか―――――『死―――』』

 

 代行者の持つ剣が横薙ぎに振るわれる。その剣は寸分の狂いもない。吸い込まれるようにバークスの首へと向かって行き、そのまま抵抗を赦すこともなく刎ね飛ばした―――。

 

 

 

 

 耳に痛いほどの静寂が空間を包み込む。

 この状況だけ見れば、先程まで戦闘していたとは思えないだろう。実際にバークスや宝石獣、そして女性型のゾンビは欠片たりとも存在していない。戦いがあったと証明するものはリィエルが自分を証明する為に切り裂いた、コピーの死体だけである。

 

 代行者は事を済ませると握っていた剣を消し、グレン達の方向へ振り返った。その風貌は相変わらず、深く詳しいシルエットすらも見せない靄に赤い眼のような部分が覗いているだけだ。

 

『魔術講師、そして亡き王女よ』

 

 唐突に話しかけられたグレンとルミアは思わず身体を震わせて、代行者の方を見た。圧倒的な存在だと認識できるからこそ、まさか向こうの方から話しかけてくるとは思わなかったのである。そのような彼らの動揺などないモノとして扱うかのように、代行者は言葉を紡いだ。

 

『―――その思想を忘れるな。甘さを捨てられぬ者にならず、甘さを捨てない者と成れ。多きを知り、現を知り、それでも尚持てる者と成れ』

「「―――――」」

 

 

 

 グレン、ルミアは共に言葉を失った。

 まさか代行者からそのようなことを言われるとは思っていなかったのだ。彼らの印象とすれば、代行者とは容赦の無き者である。何のためらいもなく振るわれる刃はそう彼らの脳裏に刻ませるには十分な力を持っていた。しかし、そのように考えていた相手からまさか慰められるとは思っていなかったのだ。

 

 結局、代行者はそれだけ言い残すとその場から文字通り消えた。まるで初めからその場に居なかったかのように。蝋燭の火が風で消えるようにあっさりと。

 

 

 

 

✖✖✖

 

 

 

 

「知らない天井だ……」

 

―――なんて、言ってみたものの当然嘘です。見慣れはしないけど普通に知っている天井だった。ここは俺達が泊まっている宿泊施設の一室だ。どうやら何時の間にか俺は帰って来てしまっていたらしい。記憶がないのでどのようにして帰って来たのかは全く以って不明だ。しかし、もしかしたらグレン先生達がティンジェルさんが居ないことに気づき、ついでに助け出してくれたのかもしれない。助かったやったー。

 

 ………それも可能性としてはなくもない。だが、それ以外にもう一つある。俺が知らないうちにナニカサレタヨウダとなっている可能性だ。例えば月を見たら狼に変身するとか、太陽の光に弱くなったりとか、後は頭の中に爆弾を仕掛けられたとか。ボルガ博〇、お許しください!

 

 そうなっていたら流石に冗談じゃ済まないわ。とりあえず、自分に微弱なショック・ボルトを流して異物が混入されていないか確認をしてみる。……反応はなし。頭の中に爆弾とかも入ってない。魔術に関しては専門外だからわからないけど、一先ず人間爆弾なんて頭の悪いモノにはなってないようで一安心した。

 一安心したところで気になるのは当然ティンジェルさんの安否だ。結局俺はあの研究所に入ってトラウマものの光景を目に焼き付けて気絶していただけである。要するに完全な役立たずだ。……自覚したらなんだか悲しくなってきたな。ま、まぁとにかく今も尚囚われの身なんて考えたくないなぁ……。

 

 なんならもう一度殴り込みに行ってみようか、などと考えているとコンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。ちなみに今は日の出の刻。星と月が見えなくなり、太陽が顔を出す時だ。まぁ、それにしても部屋を訪ねるには早すぎるけどね。とりあえず、声を出して俺が起きていることを知らせる。すると部屋の外に居たのはグレン先生、フィーベルさん、ティンジェルさんにレイフォードさんだった。これはこれは珍し―――くも何ともない組み合わせだけど、全員で俺を訪ねて来るっていうのは珍しいかもしれない。と言うか、レイフォードさんは無事に仲直りできたみたいだ。よかったよかった。

 

「サン、少し話がある。……大事な話」

「わかりました。聞きます」

 

 話の内容は分からない。しかし、真剣な雰囲気を察知できないくらい鈍感なつもりはない。彼女の目は何処までも真っ直ぐであり、覚悟を感じさせるものだった。ならば聞き手である俺も覚悟を決めて聞かなければ。

 

 どうやら彼女はこの場で話すらしく、部屋の中に入って来た。グレン先生は話を聞きに来たというよりは話を聞かれない為に来たようでドアの近くに寄りかかっていた。

 

 

「ルミアにもシスティーナにも、そしてサンにも聞いて欲しい。私は――――」

 

 

 彼女の口から語られたのは、とても信じられることではなかった。彼女がイルシアという子の記憶を受け継いだ作られた存在である事。グレン先生に拾われ、同じ職場で働いていたこと。その他諸々全て。

 

 信じられないことではあった。けれどそれらが全て事実だと俺は理解できた。なんせ、白金魔導研究所という名の真っ黒施設であれだけのものを目にしたんだ。今更クローンを否定するなんて違っている。それに、彼女は彼女だ。グレン先生に生き甲斐を否定されて悩んでいたことも、フィーベルさんやティンジェルさんと仲直りしたいと相談してきたのも、他の誰でもない彼女だ。我思う、故に我あり――――一般的に使われているこの言葉通りきっとそれが真実なのだ。

 

「――大丈夫だよ。なんだろうと、私はリィエルの友達だから」

「今更、そんなこと言わないでよね」

「………うん、ありがとう」

 

 まぁ、そんなこと俺が伝えなくてもこの二人がしっかりと彼女に伝えてくれているみたいだけどね。

 

 そうだな、俺が言うこととすれば――――

 

「ところでレイフォードさん。グレン先生にはあのこと伝えました?」

「……まだ」

「今伝えてみてはどうでしょう」

「………」

 

 彼女は無言でグレン先生の元へと行った。そして、耳元で恐らくこの前相談したことを話し始める。案の定彼は顔を顰めた。まぁ、今のレイフォードさんにはフィーベルさんとティンジェルさんという友人もできている。彼女達と色々過ごした方が健全ということはグレン先生も理解しているのだろう。

 けどね、グレン先生。年月の問題を早急に解決することは不可能だ。さらに言ってしまうと彼女はまっさらな状態で助けられている。もう既にレイフォードさんの奥にはグレン先生が根付いてしまっているのだ。そこだけは早急に替えが利くようなものじゃない。

 

 それが理解できていないがためにグレン先生はやはり返答を渋っていた。するとここでレイフォードさんが最終兵器を使う。

 

「ならグレン。私はグレンなしでは生きられない体にされた。だから責任取って」

「」

『―――――――――――』

 

 

 まさかこの場で言うとは思わなかったなー(棒)

 いや、流石にそれは冗談だけどさ。こそこそ話をしていたからそのセリフも小さい声で言うのかとずっと思ってたんだ。……まさか、あの二人に聞こえる音量で言い放つとは思いもしなかった。

 

 これには流石の二人も反応せざるを得ない。彼女達は額に青筋を浮かべつつも笑顔を浮かべていた。そしてそのままグレン先生に詰め寄る。

 

「どういうことですか、グレン先生?」

「いくらリィエルが可愛いからってまさかそんなことしてませんよね?……ねぇ?グレン先生」

「ヒィィイイ!!」

 

 怖い(確信)

 二人の鬼神に追い詰められているグレン先生。事の発端である俺も少しは罪悪感が生じる光景に、学院に帰った時食事を奢ってあげようと決意しつつ、俺は窓の外に移動して水平線から顔を出し切った太陽を眺めるのであった。後ろから聞こえてくる絶叫は当然無視した。

 

 

 

 




おまけ


「認めてもらえた。サンの言った通りだった」
「よかったですね。レイフォードさん」
「………」
「レイフォードさん?」
「リィエル」
「……?」
「リィエルって呼んで」
「えーっと、それはその……生まれの問題が云々かんぬん……」
「グレンに言ったこと、今度はサンにも言う」
「生まれ?何それ知りませんね。と言うわけで改めてよろしくお願いしますね、リィエルさん」
「……さん付け、敬語」
「―――はぁ、これも因果応報か……。改めて、よろしくねリィエル」
「ん」



こんなことがあったかもしれない。
……後、こんなこと言うのも何なのですが、リィエルコピーを助けなかったからと言って石(低評価、暴言)を投げたりするのはやめてください(土下座)
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