聞こえるか、この鐘の音が()   作:首を出せ

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サブタイトル通りに日常回となっております。よって初代様は出てこないし、戦闘描写もありません。ついでに言えばレオスも出てきません。
そんな感じでよろしければどうぞ。


たまには穏やかな日常を

 

 

 

 

 

 

―――1

 

 波乱の遠征学修も終わり、少しずつ平穏な日々が戻り始めていた頃。俺は何故かグレン先生に呼び出されていた。……正直、恩師でもあるグレン先生にこういうことを考えるのは大変アレだが、今度はどんな厄介事を背負わされるのだろうと嫌でも思ってしまう。なんせ今までの行動全てが疑われても文句を言えないレベルの物だからだ。教材の持ち込みやハーレイ先生を口撃で撃退したり、リィエルの暴走を止めたりと挙げれば切りがない。

 ここ最近彼は俺のことを万屋とでも勘違いしているんじゃないかという使いっぷりだった。もし今回もそのようなことがあればここいらで一発ガツンと言ってやろう。

 

「おう来たな」

「グレン先生、今日は一体何の用ですか」

 

 片腕を上げて呼びかけるグレン先生。その風貌はいつも通りのグレン先生だ。つまり、シリアスグレン(俺命名)ではないということ。すなわちロクでなしの方のグレン先生だ。

 その所為で俺の警戒レベルは一気に二段階引き上げられることになる。このパターンは、近くに食堂があるということと今がお昼時ということを考えて飯を奢ってくれパターンだと予想した。

 だが、彼の口から聞こえて来た言葉は俺の経験則から成る予想を超えてくるものだった。

 

「今丁度昼時だろ?最近いい感じで収入があってな、昼飯奢ってやるよ」

「なん……だと……?」

 

 グレン先生の口から飛び出て来た奢るという言葉。それは魔術競技祭において優勝記念の打ち上げをする時以来のことだ。だが、それは優勝し彼に特別賞を貰えたからに他ならない。いくらボーナスが入ったからと言って彼が俺に対して何かを奢る確率はゼロに近い。つまり……

 

「グレン先生に擬態しているお前、いったい何者……!」

「ちっげぇよ!俺は正真正銘のグレン・レーダスだっての!なんだその反応、せっかく人が奢ってやるって言ってんのによ!」

「先生先生。常日頃の言動を思い返してください。そしてその後に俺が言った言葉をもう一度脳内再生してみてください」

 

 暫く自分の記憶を辿っているのか考え込むグレン先生。そして最終的に彼が出した結論は―――

 

「何の問題もないな」

「今度学院長室に殴り込みに行くのでよろしくお願いしますね」

「らめぇぇぇ!これ以上減ったら生活できなくなっちゃうぅううう!!」

 

 余りに必死に懇願してくるのでそれだけはやめてあげることにした。……ま、こっちも日頃の行いが行いとは言え、グレン先生の好意を疑ってかかったという負い目もあるしね。

 そんなことをして微妙に生徒たちからの注目を集めつつ、俺はグレン先生に昼食を御馳走してもらった。頼んだのは本日のおすすめである。定食屋みたいなメニューだが、この学院は食料関係には力を入れているのか無駄にそういったことがあるのだ。ちなみにおばちゃんの腕と舌は確かなのでこのおすすめメニューに外れは存在しない。

 

 手早く料理を受け取り空いている席に座る。その直後グレン先生も来たので二人合わせて食事前の挨拶を済ませてから目の前の料理を口に運び始めた。

 

「ところでサン。聞きたいことがあるんだが」

「なんですか?」

「お前がリィエルにあの言葉を仕込んだっていうのは本当か?」

「何のことだかさっぱりわかりませんね」

 

 ジト目で睨みつけてくるグレン先生に対してこちらは毅然とした態度で返す。フフフ、甘いぞ。俺達は隙を見せればすぐに食い尽くされそうな世界で生きて来たのだ。この程度で精神的動揺を狙うなど片腹痛し。

 焦りもせずに食事を続ける俺。だが、グレン先生も俺の反応に深く突っ込んでくることはなかった。何故だ。その話を切り出すということは確実に俺が犯人だと分かっていてのことだろう。でなければ彼が自分からお金を出すなんてことはあり得ない。……一体何を狙っているんだ……。

 

「ほーぉ、そんなこと言っちゃうんだ~」

「そんなことも何も、知らないことは知らないですし」

「―――実はな。リィエルとお前が遠征学修の時、二人でこっそり会っていることを白猫に伝えたんだ」

 

 自信満々という風に言葉を紡ぐグレン先生。しかし内容は俺に対して害悪となるものとは思えないものだった。正直それがどうしたというレベルである。首を傾げながらもスプーンを口に運ぶ俺だったが、その後に続いた言葉に俺は口に含んだ料理を吹き出しそうになった。

 

「その時白猫に、サンは純粋無垢なリィエルにあれこれ吹き込んでいると話した」

「――――ごほっ!?」

 

 吐き出しそうになったのを何とか堪えつつもその言葉のダメージは計り知れない。……確かに遠征学修以降、色々と聞いてきたりご飯を食べるようになったリィエルには色々吹き込んだといえば吹き込んだだろう。だが、それは常識やこの街の施設などといった事柄である。

 だが、グレン先生のことだ。フィーベルさんがR-18方面で受け取りそうな言い方で伝えたに違いない。……だが待て。それにしても彼女が直ぐに接触してくることはなかった。フィーベルさんの性格ならそれが判明した途端にゲイル・ブロウと共に殴り込みして来そうなのに――――いや、待て。もしかしてこの食事は――――!?

 

「―――気づいたようだな。サン、そう―――白猫達は既に食堂の前で待っている。お前に逃げ場はないんだよ」

「――――――!?」

 

 くっ、まさか今度は俺が社会的に抹殺されることになるなんて。しかも下手人はつい最近関係が修復され始めたばかりのフィーベルさんだと……!?

 思わず手に持っていたスプーンを落とす。カランと食器と当たる音がするがそんなことに意識を割いている余裕なんてなかった。

 

「サン。俺はこう言っちゃあなんだが、生徒でもあり友人でもあると考えている。―――友達同士思いは共有しないとなぁ?」

「………」

 

 もはや俺に逃げ場などは存在しない。

 ここから俺は最後の晩餐と言わんばかりにそのメニューを消費しきったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、フィーベルさん達を巻き込んでこんなバカなことをやっている俺達ですが普通に仲良しです。いぇーい。

 ま、この後滅茶苦茶怒られて嘘だと判明した後グレン先生共々更に怒られることになったんだけどね。

 

 

 

――――2

 

 

 

 

 遠征学修を経て劇的に何が変わったかと言えば間違いなくリィエルとの関係と答えるだろう。彼女は自身のことを打ち明けて以降俺のことを友人として慕ってくれていた。それは万年ボッチだった俺には大変ありがたいことなのだが……その所為か、困っていることも少しだけあった。

 

「サン、食べる?」

「いや大丈夫。其れよりもねリィエル。そういうことは余りしちゃいけないよ?」

「どうして?システィーナやルミアとはよくこうしてる。サンも二人と一緒で友達。だからやってもおかしくない」

「それはねリィエル。性別が違うからなんだ」

「性別が違うと友達になれないの?」

「もちろん俺とリィエルは友達同士なんだけどね……社会の面倒なところでね、世間体とか外面的な評価とかも関わってくるんだ。だから――――――こちらに突き出したイチゴタルトはそのままリィエルが食べてね」

「ダメ。嬉しいことは共有するものだってグレンも、二人も言ってた。ならサンとも共有したい」

 

 純粋な好意で言ってくれているのが分かるからとても断りづらい。いや、ぶっちゃけるなら俺だけであればこのまま彼女が差し出してくれているタルトを食すのだって問題はない。しかし、ここはなんせ食堂であり、当然他の生徒の目に触れる。……前の世界でもそうだがこの時期の少年少女達は男女の関係に敏感だ。当人達にその気がなくとも噂が噂を呼んで尾ひれがついて最終的に全くの別物と化すことだってある。ましてや俺は自分達のクラスでも避けられているボッチ。そんな人とそういう噂が立ったらリィエルが可哀想すぎる。

 

―――正直既に遅い気がするけどね。そこらかしこから飛んできている嫉妬の視線と殺気を感じながらもなんとか彼女に納得してもらおうと説得を試みる。だが、リィエルの意思は固い。是が非でも食べてもらいたいという鋼の意思を感じた。

 突破口が思い浮かばず、どうしようかと考えているまさにその時―――希望の光が向こうの方からやって来てくれた。

 

「……二人とも何してるの?」

「隣空いてる?」

 

 リィエルの友人であるフィーベルさんとティンジェルさんである。来た、友達キタ。メイン友達来た、これで勝つる!と大歓迎の内心である俺は早速二人に助けを求めた。

 

「隣は空いているので座ってもらって構いません。其れよりも()()()()の説得をお願いしてもよろしいですか?」

「―――(ピクッ」

 

 食事を乗せたトレイを机に置いて席に座る二人に助力をお願いする。ちなみに現在の状況をしっかりと伝えておくことも忘れない。頼みごとをする時はどういう理由で助けを求めているのか、その理由を明確化することが大切なのだ。

 

 話を聞いてくれた彼女達。てっきり直に賛同してくれるかとも思ったのだが、あまり反応はよろしくなかった。特にフィーベルさんの反応が全然ない。ルミアさんは苦笑しならがも別にそれくらいいいんじゃないかなと言っていた。くっ、やはり天使にはなんてことのないものに映るというのか……!

 

「フィーベルさんなら分かるのではないですか!?」

「…………」

 

 反応しない、だと……?

 

「サン君、サン君」

「なんでしょう?ティンジェルさん」

「多分システィは、サン君に名前で呼んで欲しんじゃないかな」

 

 ティンジェルさんの言葉、それを聞いた俺に電流が走る(ショック・ボルト)。成程、俺は彼女のことを名前で呼ぶときにファミリーネームで呼ぶようにした。それは前世の記憶が残っているからだ。しかしつい最近友人になったばかりのリィエルは既に名前で呼び合っている。……先に知り合っていた人物が後から知り合っていた人物と自分達よりも親し気にしていれば腹も立つだろう。……まぁ、これは彼女が俺のことを友人と思ってくれていること前提なのだが。今回はフィーベルさんの親友であるティンジェルさんの意見でもあるためきっとうぬぼれではないだろう。

 

()()()()さん、何とぞ説得を……!」

「……(プイ」

「えぇ……」

「サン君、敬語とさん付け」

 

 細かく修正を入れてくれるティンジェルさんがいい人すぎる……。しかし、彼女がそこまで求めているのであればしっかりと友人に対する態度を取らなければいけない。さぁ、最後の硝子(ヘタレフィールド)をぶち破って全て壊すんだ!しなければ。

 

「システィ。お願い!」

「………まぁ、いいわ。リィエル。サンは恥ずかしいみたいだからまた後でやってあげて」

「後で?」

「そう。此処だとサンは周りの目が気になってできないみたいだから。そうね……明日たまにはみんなでお弁当作って食べ合いましょうか。そこでならきっとサンも食べてくれるわよ」

「本当?」

「えぇ、ほんと。ねえ?サン」

「モチロンデゴザイマス」

 

 俺に拒否権は存在しない。と言うか、助けてもらったのだ粛々と従うしかないだろう。それにしてもリィエルを丸め込む速度が尋常じゃないな、フィーベルさん。

 

「サン、今内心で私の事ファミリーネームで呼んだでしょ」

「――――!?」

 

 読心術でも持っているのではないのかと思われるほど正確なタイミングで言葉が飛んでくる。この時、俺は理解した。彼女には当分敵わないだろうと。

 

「あ、私のことも呼び捨てにしてくれると嬉しいな」

「喜んで呼ばせていただきますルミア」

 

 今回だけで大分助けられたからね。しょうがないね。

 

 何はともあれ、これで俺の世間体は守られたわけだ。いやー、めでたしめでたし。

 ――――になるとでも思ったか。美少女三人に囲まれて傍から見たらじゃれ合っているようにしか見えないようなやり取りをしたことによって嫉妬と殺意はマッハである。完全に火に油を注いだ結果となった。針の筵、その言葉がお似合いな状況下で俺は何とかその日の食事を終えた。

 

 

 

―――――3

 

 

 

 

 さて、訪れてしまった約束の日。

 俺達はそれぞれ作った弁当を持ち寄って学院で人通りの少ないところにやって来ていた。メンバーはこの前食堂に居た人とグレン先生である。彼はたまたま見つけたので俺がサルベージしておいた。流石に男子一人は精神的に辛いものがあるからな。グレン先生も只で飯が食えると大喜びだったし。誰も不幸にならない優しい世界だ。

 

「サン、口を開けて」

「はいはい」

「あー……ん!!」

「刺突!?」

 

 加減と言うものを知らないのか!?

 腕を突き出すその瞬間に、勢いがおかしいことが気付いた俺はぎりぎり頭を下げることによって喉への損傷を防ぎ、無事食事を口の中に入れることに成功する。ムグムグと咀嚼してみるととてもおいしかった。

 

「んく、とってもおいしい。ありがとうリィエル」

「……ん」

 

 少し照れたように返事をするリィエル。その姿は外見と相まってとても似合っていた。隣ではフィーb……システィが彼女の頭を撫でていた。どうやら、今の料理はシスティが朝教えながら作ってくれたらしい。それはすごい。その後リィエルはグレン先生にもあーんをしていた。結果、グレン先生の口の中に刺突が炸裂することになる。

 ……そろそろ止めないとまずいな。グレン先生は頑丈だし、何処かでゴキブリ並みの生命力があるから大丈夫だと聞いたことはあったけど、これからリィエルも人間関係を広げていくだろうしそういった意味なら今から矯正しておくのも悪くない。

 

「リィエル。他人に食べさせたいのなら、ゆっくりと相手が食べやすいようにするといいよ」

「そうね。ちょっと私がやってあげるわ」

 

 俺の言葉に続いてシスティが見本を見せようとする。実にいい手だ。相手に実物を見せるというのは実際有効。古事記にもそう書いてある。彼女は自分が作って来た弁当箱からおかずを一品取り出すとそのまま前に差し出した―――俺に向かって。

 

「えっ」

「ん!」

 

 食えと。それを俺に食えと申すか。

 見渡してみればニコニコ笑顔のルミア。ニヤニヤ笑顔のグレン先生、真剣な表情で様子を窺うリィエルの三人。これは逃げられない。特にリィエル。彼女はその見本でしっかりとしたあーんをマスターしようという覚悟の瞳をしていた。

 ……まぁいい。今更食べさせ合いで恥ずかしがるような精神構造はしていない(名前呼びすらできない模様)大人しく口を開けて彼女がおかずを入れてくれるのを待つ。そして中に入ったことを確認すると咀嚼してから飲み込んだ。うん、かなりおいしい。

 

「おいしい……すごくおいしかった」

「そ、そう?」

 

 料理の腕を褒められたからか頬を染めるシスティ。実際に本当においしい。実はシスティさんかなりの優良物件なのでは?………本当にもったいない。説教女神の肩書が無ければすぐにでも彼氏ができそうなのに。

 

 まぁ、それは置いておいて、見本から極意を学び取ったのかリィエルはしっかりとあーんができるようになっていた。システィはリィエルの頭を撫でて褒めていた。母さんみたいと思ったのは俺だけのナイショである。

 

「もぐ……はむ……ぅん」

 

 次々と食事を食べていくリィエル。グレン先生曰く昔は食事を只の補給としか思っていなかったそうだが、今の表情を見る限りその考えは綺麗さっぱり消えてそうだな。頬をリスのように膨らませながらもその瞳には満足の文字が浮かび上がっているように見える。

 

「って、あまり急いで食べ過ぎると飲み込めなくなるよ」

「あぁもう、口元も汚しちゃって……リィエル、ちょっとこっち向いて」

「ん?うむぅ……」

 

 もしかしてリィエルも皆で食事ということでテンションが上がっているのではないかと思いつつ自分のおかずに手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ルミア」

「なんですか、グレン先生」

「あいつら夫婦か何か?」

「……フフ、その内本当の夫婦になりそうですね。ところで、グレン先生。このおかず私が作ったんですけど食べてくれませんか?」

「是非くれ!」

 

 

 ――――誰が夫婦だ誰が。と言うか、そっちも人の事言えないでしょうが。

 

 

 なんてことを考えつつも、俺達は楽しい時間を過ごした。

 いや、普通はこういうのが学生生活ってもんだよね。テロリストに襲撃されたり、先生と生徒が女王とトラブル起こしたり、遠征学修で真っ黒実験施設に行くことは異常だよね、うん。

 

 




次回からしっかりと時系列進めますのでお許しください。
レオス達が出てきたら後はもう完結まで僅かです。もしよろしければそれまでお付き合いください。

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