聞こえるか、この鐘の音が() 作:首を出せ
今回の話は今までとは結構違うので苦手という方はすぐさまブラウザバックをお勧めします。
IF√……の予告みたいなもの。公開は未定であり、後悔している
それはIFの物語。
ほんの些細な出来事でこうなっていたのではないか……そういう話だ。いや、彼がその身に宿した力のことを考えるのであれば、こちらの方が本来の物語と言ってもいいのかもしれない。
しかしそれを証明できるものなどありはしない。この世全て起こることは必然であり、成るべくしてなったのだから。
これはその必然を覆した――――否、覆されてしまった。『彼』の物語である。
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彼は不思議なことに二度目の人生を送っていた。原因は自称神様がはやりの神様転生というものに興味があるということで殺されてしまったことである。
最も彼は全ての出来事に実感というものが湧かずに、為すがまま、されるがままに流されて第二の人生を歩み始めた。彼はそれでも不満はなかった。生まれ変わった世界は魔術というファンタジー且つ、物騒なもので溢れかえっていたがそれでも両親に恵まれたからである。明るく子どもっぽいが決めるところは決めてくれる父親に、日本でもないのに父親の3歩後ろで控えている絶滅危惧種、大和撫子のような母親……元■■■■ 、現サン=オールドマンである彼にとってはそれが何よりも救いだったのだ。
だが、それも長くは続かなかった。
父親は仕事の途中で事故に遭い死亡。その母親も後を追うように死んでしまった。残ったのはお約束の如く現れる財産目当ての親戚のみ。
サン・オールドマンとなった彼はその親戚に財産の一切を受け渡し、人前から姿を消した。
……彼にとって、両親こそがこの世界で生きていくための理由だった。自身には■■■■だった記憶がある。そういった意味ではこの世にサン・オールドマンという人間は生まれていなかったのだ。彼のことをサン・オールドマン足らしめていたのは、彼のことを心の底から愛してくれていた両親だけ。幼い彼に友達はおらず、テンプレの親戚は彼のことを金を得るための道具としか見ていない。
そう。両親が死んだ時、同時にサン・オールドマンという人物もこの世から消えてしまったのだ。
幼くして姿を消した彼は、近所の広場に寝泊まりを繰り返していた。サン・オールドマンが死んだと本人は分かっている。だが、自分の生きる意味を失っても生物としての本能なのか。それとも理不尽に殺されていたのが無意識のトラウマとなっていたのか死のうとは思わなかったのである。そうして日々を生きているうちに、彼はある少女と出会ったのである。
その少女は銀色の髪を持ち、真っ直ぐの瞳を持った少女だった。彼女はサン・オールドマン
……しかし。不幸というものは誰にも平等に降りかかってくるものだ。悪と呼ばれる者達にも、正義と呼ばれる者達にも……平等に。
彼は銀色の少女を狙った誘拐に巻き込まれてしまった。無関係の人間を纏めて攫ってくるなど三流にもほどがあるが、そんなことを考えている時間は彼に在りはしなかった。
聞こえてくるのは男たちの声。その中には金を手に入れるだの、誘拐した銀色の少女を殺すなどと言っていた。これを聞いて焦るのは当然同じく連れてこられた彼である。彼にとって少女は自分の名前を呼んでくれる唯一の存在だった。もちろん、それは教えた名前を呼んでいるだけである。それでも■■■■の名前を言ってくれる存在には変わりない。……自分でも勝手にして気持ちが悪いと思ってしまっているが、いつの間にか彼女と話し、名前を呼ばれることが生きる理由となっていたのだ。
男たちが動く。
どうやら先程少女の両親に連絡を取り、金を用意させたことで少女が用済みとなったのだろう。この時代には監視の魔術があり少女のことを確認できるのだが、そのことを完全に忘れている当たり、やはり彼らは誘拐犯としては三流だろう。が、■■■■も自身が使う魔術以外には疎い。その為彼らの注意を惹きつけるために誘拐犯の足を引っかけ転ばせて注意を自分に向かわせた。
サンドバッグもとやかくと言うほどに殴られ、蹴られる自身の状態を客観的に把握しながら持つ時間はのこり数分だとあたりを付けた。そして、彼は望む。この状況を打破する手立てを。外部からの助けでも、なんでもいい。むしろ自分が死んだとしても構わない。元々既に死んだ命。自身のことを気にかけてくれる存在もこの世にはいない。だが、目の前の少女は違う。両親が居て、尊敬できる祖父が居て、そして叶えたい夢がある。そんな未来ある彼女を目の前で失うわけにはいかなかったのだ。
そんな時、彼の願いに応えた存在が居た。神様なんてものではなく、ましてや正義の味方でもない―――だが、誰よりも頼りになる存在が。
―――――――――選んだな。
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気が付くと俺は今までとは明らかに違う場所にその身を投げ出していた。広がる光景は薄暗い炎に包まれた遺跡とも見間違える。肌を撫でる空気は冷たく、温かみを感じさせない空間が恐怖心を煽った。そして更に感じる。本能に訴えるほどの震え。未だ自身が感じて振り切れないもの。……『死』の気配を。
俺は反射的に自分の真後ろに振り向いた。どうしてそうしたのかはわからない。しかし、しなければならないという強迫にも似た感情が働いた。……そうして俺が振り返った先には、牛のような立派な双角を備え、髑髏面の奥に青白い眼光を滾らせた大男が立っていた。
そのたたずまいに一切のブレはない。存在するだけでも次元が違うと分からせるほどの人物。俺はその存在の正体を知っていた。嘗て生きていた世界に置いて、数々のプレイヤーを熱狂させた男。死すらも超越した神々の天敵。備わっていなかった恐怖を植え付ける、人類最強の暗殺者。ハサンを殺すハサン、最初にして最後のハサンである――――――――初代山の翁。グランドの位を冠する傑物が目の前で蒼い瞳をこちらに向けていた。
余りに予想外にして圧倒的な人物の登場に、思わず全身が硬直して意識が吹き飛びそうになる。だが、自身の状況が切羽詰まっていることを思い出し意地でもその意識を繋ぎとめた。
そんな中、初代山の翁は淡々と告げる。
『―――我が契約者よ。汝は現状の打破を望むか』
「……はい。望みます。初代山の翁殿」
自分でも意外に思うほどその言葉はするりと出て来た。生前の俺であればテンションMax。色々な意味で取り乱していただろう。だが、今の俺にはそのような余裕などありはしない。
『それが何を意味するか……理解できない程愚かではないはずだ』
「全て承知の上です」
よくて俺が死に、この状況を切り抜けられる。悪ければ俺も彼女も死ぬ。それだけのことだ。目の前の人物初代山の翁のことは詳しく知っているわけではない。むしろやっていたゲームで語られたこと以外は何も知りはしないくらいだ。だが、それでもこうして直接対峙するだけで色々と感じ取れることもあった。
『………選んだな。対価は後に告げる。今はその手で、鐘を鳴らせ』
「―――ありがとうございます……!」
もしかしたら、これは俺が見ている夢なのかもしれない。いくら何でもトントン拍子に進みすぎている。だが、もはや夢かも知れないこれにも縋るしかないのだ。俺は目の前の初代山の翁―――初代様の差し出した剣を静かに取った。
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最初に気づいたのは、彼をサンドバッグにしていた誘拐犯たちだった。自分達が攻撃していた子どもの身体から突然蒼い炎が噴き出し、彼の身体を包み込む。誘拐犯の男たちはとっさに少年から距離を取る。いざという時の為に両親が子どもの身体に自爆用の魔術を仕込んでいたかと彼らは当たりを付けた。この世界では先祖代々より受け継いだ魔術も存在している。その情報を公にしないために一切の証拠を残すことを赦さない家系も存在するのだ。彼らは今目の前の少年がそうだったのではないかと思い、彼のことを綺麗さっぱり忘れた。そして、本来の目的である少女に目を向けた。
彼女は、自分の知り合いの少年が集団リンチされる姿を見て気を失ってしまっていた。誘拐犯たちは好都合だと言って彼女に対して魔術を発動しようとする。それはランクが低いながらも軍用魔術として使用されているライトニング・ピアス。子ども一人の命など簡単に消し去れるほどの代物だった。
魔術式を構築し、そのまま放とうとした………その時。
彼らの耳に重く響く、音を聞いた。
「な、なんだ?」
「これは……鐘の音か?」
「この付近に教会なんてものはなかったはずだぞ……?」
疑問が次々と口を伝っては外に飛びだしていく。普段であれば鐘の音色程度は気にも留めないだろう。だが、これは違った。鐘の音が彼らに語り掛けてくるのだ。今すぐそちらに向かうと。
彼らの背筋が同時に凍った。少女に対して向けようとしていた魔術を消して、別の魔術式を構築する。鐘の音を警戒してのことだ。他の誘拐犯たちも同じようにして警戒態勢を取った。隈なく室内を見回した時、彼らはその光景を目にした。
「あっ」
一体、男たちの中の誰がその呟きを発したのか。彼らにはそれを確認するすべはななかった。彼らは唯目の前の光景にその視線を釘づけにされたのだ。
場所は先程少年が燃えて死んだと思われた場所。蒼炎によって出た煙が先程まで少年がいた場所に集まっていき、黒い輪郭を作り出した。それは人の形をしており、高さは約二メートルといった所だろう。
初めは二メートルの人型という漠然とした情報しか得ることのできなかったその煙は時間を断つごとにその姿をはっきりとしたものに変えていった。これに誘拐犯の男たちは、生物の本能から来る恐怖心に襲われた。あれは対峙してはいけないものだ。あれは近づいてはいけないものだ。そう訴えるが、身体が動かない。まるで地面に縫い付けられたかのようだった。
鐘の音が先程よりも強く聞こえる。
その音は厳格であり、清らかでもあり、神々しくもあり、そして――――恐ろしかった。
「ひぃ!?」
「ち、チィ!お前らぁ!魔術を使え!」
「―――!!」
誘拐犯たちの頭と思われる男が自分に纏わりつく恐怖心を振り払い仲間に号令をかける。仲間達も自身の頭の言うことで何とか手を動かしその煙に向かって様々な魔術を発動した。
だが、黒い煙は健在だった。
一寸も変わることなく同じ場所にてその身体をはっきりとさせていく。
不幸と言うものは誰にでも平等に降りかかってくるものだ。それが正義と呼ばれる者達にも、悪と呼ばれる者達にも。
カチャリ。金属がこすれるような音がした。
カチャリ。黒い煙が一歩踏み出す音がした。
カチャリ。黒い煙だったモノが剣を取り出す音がした。
もはや男たちは自分の先を見た。これから先に救いなどはなく、逃げ道などもない。なんせ自分たちの目の前に居るのは生物が皆平等に逃れられぬ者であるからだ。
『――――聞くがよい。この鐘は汝の名前を指し示した。告死の羽、首を断つか。――――『■告■■』』
――――この日、三人の男たちと一人の少年は完全にこの世から消え去った。
これは、本来の歴史からそれた彼の物語。
初代山の翁を認識し、己の意思でその力を懇願した、彼の話。
その存在には意味がない。その存在には理由がない。そのように思ってしまっていた彼が一人の少女に救われた。それだけの小さな話だ。
『彼』
経歴は上に書いてある通り。元■■■■であり、サン・オールドマン。現在名前は生前の名前で通している。精神的に病んでいるところに少し会話をした少女に傾倒してしまったヤンデレチックな男。やばい(確信)
この出来事から初代山の翁の力を貸してもらえるようになる。もちろん、初代山の翁の了承が必要であり、その回数は18回と限られている。またこの回数は本来の晩鐘が鳴り響いた時でもカウントされる。
本当の回数は19回なのだが、その最期の一回は彼が自分の首を切り落とすときに使用されるため初代山の翁は18回と彼に伝えた。人類最高峰の力が使うことができるのであれば自分の命くらい安い。むしろ失礼ながらも在庫処分と疑ってしまうレベルの激安価格であると彼本人は考えている。
実は初代山の翁のことを認識している為、本編よりもフィードバックは大きい故に本人もそれなりの実力を図らずに手に入れていた。
戸籍というか、帰るところがぶっ飛んだので自分から帝国宮廷魔導士団特務分室に殴り込みに行き職を手に入れるというアグレッシブさをみせている。執行官No.は20で審判である。この仕事を始めてから毎年毎年晩鐘が鳴り響いていることに彼は内心でファンタジーマジやべぇと考えていた。
あ、特務分室には本人の実力で入ってます。