聞こえるか、この鐘の音が() 作:首を出せ
―――ついさっき、レイフォードさんのことはどうにもならないと言ったな。あれは嘘だ。
現在の状況を言葉にして説明するのであればこれに限る。場所は教室から移動して食堂。講義で十人中十二人がやらかしたと答えるであろう所業を行い、クラスの皆からドン引きされていた彼女だったが、ここでグレン先生の本命であるフィーベルさんとティンジェルさんが彼女に話しかけた。
何度も言うが彼女達はこのクラスの中心人物だ。そんな彼女達はコミュニケーション能力がずば抜けて高い。特にティンジェルさんはカンスト一歩手前レベルである。その結果、コミュニケーションのコの字もないレイフォードさんも同意して同行した。
……そして、食堂にやって来たレイフォードさんはここでまさかの事態を引き起こす。食事を選ぶ際に気に入ったのだろうイチゴタルトを一心不乱に口に運んでいったのだ。その姿はまるで種を口の中にため込むハムスターのようだった。さてここで質問である。小柄な美少女がそのような行動に出ればいったいどうなるだろうか。さらに付け加えるなら、ずっとレイフォードさんの方を見つめていたフィーベルさんにタルトを取られると思ったらしく、小さい体をすべて使ってタルトを入れている皿を守ろうとする彼女の姿を、どう思うだろうか。
答えは、庇護欲をくすぐられる。
ここまで言えばもう後は語るまでもないだろう。その姿に再び心を打たれたクラスメイト達はフィーベルさんとティンジェルさんの後押しもあり、レイフォードさんに関わっていく。
一度交流を持ってしまえばあとは、水が上から下に流れるかの如く順調に物事が進んでいった。元々レイフォードさんも変わっているだけで悪い人というわけではない。そういったこともあり、彼女は少しだけ遅れたが無事クラスの皆に受け入れられることになる。食堂では彼女の周りでタルトを渡している姿が目に付いた。
どことなく珍獣に餌を与えているように見えなくもないが、その感想は俺の胸の中に秘めておこうと思う。
「………フッ」
「安心したように笑っているところ悪いんですけど、どうしてグレン先生は毎度毎度俺の所に来るんですか」
もう飯は奢らねえぞ。競技祭も終わったし、何より貴方にはもう給料が入っているはずだからな。何時までも生徒に集るようではだめになってしまうし。
俺の視線に気づいたのか、グレン先生はレイフォードさんから目を離すと咳払いを一つして俺に向き直った。
「サン様!」
「あ、駄目です」
これはダメなパターンですね、間違いない。この男がこうして敬語を使ってくるということは俺に頼み事(金関係)だと決まっている。ダメだって言っているのに数日経つとすぐにこう言ってくる癖はなくさせた方がいいかもしれない。俺とアルフォネア教授の為にも。
「早えよ、サン。……まぁ、流石に今のは冗談だ。今回は普通に話をしに来ただけだよ」
「……なら一層どうしてこちらに来るのか理解できないのですが」
話し合いがしたいならそれこそフィーベルさん達の所に行けばいいと思う。男同士で話し合いたいというのであれば他の生徒に話しかければいいと思う。……もしかして俺が孤立しているからこうして気を使ってくれているのだろうか。やだ、グレン先生立派に先生できている……。
「成長、したんですね……!」
「お前何言ってんの?」
違ったんか。
「俺がお前に話しかける理由ねぇ……正直に言っちまうと話しやすいんだよなぁ。同年代か年上と話している気分になるんだわ」
「―――へぇ」
少しだけドキッとした。確かに俺は年相応の精神年齢ではない。成長はしていないが、元々精神年齢は大人なのだから今の肉体年齢からみれば大人びて見えるだろう。今までは他人とそこまで深くかかわらないから気づかれることはなかったが……この人は一体どれほどのポテンシャルを秘めているのだろう。
「とりあえずそんなところだ。……だからあくまでも金を借りに来ているだけってわけじゃねえ」
「バレましたか」
「むしろバレてないと思ってたのかよ。これでも俺はお前達の担当魔術講師だぜ?非常勤だけどな」
「………いいんじゃないんですかね。むしろ、ウチのクラスで貴方を非常勤と見下す生徒はいないと思いますよグレン
それだけのことを彼はやって来たからね。
「………よくそんな恥ずかしいこと言えるよな、お前」
「事実を述べているだけですよ。むしろ、素直に真面目な賞賛を受け取れないグレン先生は子どもっぽいですよね」
「覚えとけよ……」
聞こえんなぁ?
この後(講義で)無茶苦茶にされた。流石にそれは大人げないと思いますよ、グレン先生。
✖✖✖
遠征学修……それはアルザーノ帝国魔術学院において必修の教科に位置される講義。クラスごとにランダムに行き先が配置され、宛がわれた施設で実際の魔術に触れて見解を広めようとする試みから生まれた行事である。要するに修学旅行と社会科見学が合体したものと思えばいい。場所によって社会科見学の面か修学旅行の面かどちらかが大きくなることもある。
で、学院内随一のトラブルメーカーと個性豊かな仲間達(2組)は何処に宛がわれたのかと言われれば、帝国白金魔導研究所と呼ばれる場所である。ここは白魔術と錬金術を複合した魔術のあれこれを行う施設となっており、それらの術の特性上新鮮なマナが大量に必要となるらしい。つまりこの施設を建てる所は決まって自然豊かな所なのだ。
更にここで情報を付け加えよう。この白金魔導研究所はサイネリア島というリゾート地も完備している島に建設されている。そしてトドメとばかりにその島の気候は年がら年中夏らしい。ここまで来れば後は分かるだろう。要するに、見学に行くのは二日目なんだから一日目はバカンスしようぜと、バカすぎる講師が言ったのだ。
「――――――そして、ウチのクラスの女子は……レベルが高い……!」
『おぉ……うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
そしてその釣り針に見事に引っかかる正直な思春期男子達。別にその反応が悪いと言う訳ではない。むしろ、正常に発達していると確信が持てるし思春期男子からすればあの程度は普通のことだ。
ただ、TPOはわきまえるべきである。俺達が遠征学修先であるサイネリア島に行くためには当然船に乗らなければならない。現在は港までの道のりを馬車で走っている途中なのだが……俺達が乗っている馬車と並走している馬車には女子陣の皆さんが乗っているわけで、結果何が起こるのかと言えば―――
チラリと隣の様子を窺ってみれば、ものの見事に突き刺さるゴミムシを見るかのような冷たい視線。これは死ねる。特にモテたいと思っている彼らには致命的な視線なのではなかろうか。その視線は当然グレン先生にも向けられている。彼は上げた好感度を下げなければ生きていけない呪いにでもかかっているんだろうか。
「おい、ギイブルにサン。どうした?全然盛り上がってないじゃねえか」
クラスメイトの九割(男子)が盛り上がっているから、その中に混じっていない俺とギイブルはとても目立つ。それはグレン先生をこちらに呼び寄せるには十分だった。別に話しかけてもらえるのはいいんだけど、ここで俺がこの話題に参加すればただでさえクラスから低い好感度がマントルに突入してしまう。この人はそのことが分かって誘っているのか……!
「そもそも僕の目的は勉強です。リゾート云々は初めから重要視していません」
ギイブルはここでもぶれない精神を発動。手に持っている教材を目で追いながらグレン先生に言葉を返す。彼は本心からそう言っているのだろう。実際、日頃の生活状況から彼はフィーベルさんとは別ベクトルの情熱を魔術に注いでいると思う。しかしギイブル……この状況でそれは悪手だ……。
「そんなこと言って、実は頭の中で女子達の水着を思い浮かべていたんじゃねえのか?ほれ、俺にだけ正直に言ってみろよ。このむっつり」
「んなっ……!」
日常におけるグレン先生の在り方は小学生、もしくは中学生男子のような精神構造だ。ここで自分興味ありませんオーラを出すとからかわれることは明白。まぁ、彼の場合は俺達の担任としての意識があり、孤立させないようにするための試みという可能性もなくはないのだが。
実際に先程まで会話に混ざらなかったギイブルを強制的に引きずり込ませ、女子からの蔑みの視線を向けさせた。うん、上記のことが本当だったとしてもこれは酷いな。
「サンはどうだ、気になるあの子……白猫の水着とか想像しなかったのか?」
「なっ……!!」
「――――――はぁ、グレン先生。そういった話をするなとは言いません。しかし時と場所を考えた方がいいと思いますよ?」
グレン先生の言葉に隣の馬車のフィーベルさんが反応する。流れ弾が飛んで行って非常に申し訳ない気持ちになった。とりあえずこれ以上被害を増やすのはあれなのでこの辺でその話題を切り上げてもらう。
「なんだよ、お前もむっつりか?」
「いえ、もちろん女の子に興味はあります。グレン先生みたいなホモじゃないので」
「おいコラ」
「しかし、それを語るのであれば時と場所を考えます。何故ならばそれこそが女性に好かれるいい男の条件だからです」
ホモのことに触れないと言ったな。あれは嘘だ。俺にむっつりの称号を押し付けようとするならばこちらもホモという称号を盾にとって対抗せざるを得ない。そんなことを考えながら口から出任せを言っているといつの間にか周囲は静まり返り、クラスメイト(男子)の視線がこちらに集中してきていた。一体どうしたのかと思うが、すぐに答えが出て来た。彼らは俺が言った女性に好かれるという言葉に反応したのだろう。何処までも思春期していてとてもほっこりした気持ちになる。
「ほう、では聞かせてもらおうか。サン、お前が思うモテる男ってやつを」
『(コクコク)』
ホモの件はひとまず置いておくらしい。グレン先生は額に青筋を浮かべながらも俺に先を促した。自身の怒りよりもこの話題を優先する辺りなんとも残念な先生である。だが困った。異性どころか同性にすら嫌われる俺が思うモテる男像なんて普通はあてにならないと思うのだけれども、彼らの目は真剣である。……藁にも縋る思いというやつだろう。ならば、何とかそれっぽいことを言ってごまかさなければ。
俺は普段ショック・ボルトを改良する時に使う頭をフル活用してそれっぽい言葉を構築し口に出した。
「良いですか?女性とはその大半が察してほしいと考えています。言葉だけではない、仕草から、声のトーンから、表情から自分の真意に気付いてほしいと思うものなのです。……つまり察しのいい男は間違いなくモテます」
ここまで言うと、クラスメイト(男子)は二通りの反応を示した。それは自身が気づかいのできる男かどうか自己評価をしたのだ。そして、気遣いができると評価した男は新世界の神もかくやという風に笑い、そうでない結論を下した者は柱の男みたいに泣き散らした。もうこの段階で色々危ない気もするがその辺は気づかないふりをして言葉を続ける。
「察しのいい男とは何か?それは偏に空気を読める人と言ってもいいでしょう。周りの雰囲気を察しそれに対して適切な行動が取れる人物は例え異性でなくても好意的に思う筈です。―――――――此処で、問題です。先程の話、私達男子からすれば歓喜極まりないものだったでしょう。しかし当の女性達からすればどうなるか……」
もはや語るまい。どう考えても不快になる。ただでさえ年頃の女の子、中には気にしないという子もいるだろうが、当然そういった話題に拒否反応を示す子もいる。ましてや今回その感情が向かっている先は自分達なのだ。嫌悪の気持ちは二割増しだろう。
「更に、先程貴方達がこの場で話していたことを思い返してみてください。……果たしてそれは、この場の空気を最適に読めていたと思いますか?」
男子だけならば間違いなく最善だった。性の話についての統一感は時に馬鹿にならない力を見せる。
が、それは男子という括りで見ただけに過ぎない。クラスという単位、女子が混ざってきた場合の最善はその考えを心の中に押し留め表面に出さないように努めるべきだったのだ。例え、その話を振ったのがグレン先生であったとしても。
見る見る顔を青くしていく男子一同。これ以上の追撃はオーバーキルかもしれない。けれどここまで来て手を緩めることはできないと俺はトドメの言葉を紡ぐ。
「最後に、あちらをご覧ください」
俺の指が示した先には――――先程からずっと白い目で見ている女子達の姿があった。
『う、うぁぁぁぁっぁぁぁっぁあぁああああ!!???』
次々と粉々に砕けて消えていく男子(比喩表現)を見届けながら俺は外に流れる自然の景色に視線を移すのだった。やっぱり、自重は必要だよね。
「………」
―――それにしても、
まるでアニメみたいだけど、学院を出てからずっと視られているような感覚に陥っているんだよね。一瞬だけ
✖✖✖
「………で、アルベルトがいるってことはリィエルは当て馬か」
「あぁ。本命は俺の魔術による遠距離からの攻撃だ」
遠征学修の場所であるサイネリア島に着いたグレン達一行は、各々が港で見たい場所を回る。その時、担当講師であるグレンは元同僚であるアルベルト・フレイザーと接触していた。
本来であれば、アルベルトがこうしてグレンに接触してくることはない。だからこそ、グレンはこの場で自身に伝えたいこともしくは目的があると理解していた。
「んで、わざわざ任務中に俺に接触したんだ。何か用があるんだろ?」
「リィエルには気を付けろ。あの女は危険だ」
アルベルトの口から出た言葉は自身の同僚に対する言葉とは思えなかった。当然、その発言は看過できないのかグレンも食って掛かる。しかしアルベルトは自身の態度を崩すことはなく、極めて冷静に言葉を続けた。
「俺とお前だけは知っているはずだ」
「……!だが、あれはもう昔の話だ」
「相変わらず甘いなグレン。………警告はしたぞ」
視線を逸らすグレンをアルベルトは一瞥してその場を立ち去ろうとする。しかし、しばらくしたところで足を止めるとグレンの方へ振り向いた。
「それと、サン・オールドマン。あの男の取り扱いには十分に注意しておけ」
「何……?」
アルベルトが放った言葉にグレンは疑問の声を上げる。リィエルはまだ彼自身認めたくはないが納得できる理由がある。もちろんサンの怪しい経歴にも気づいているが、それでも彼がそこまで言われるような人物には到底思えなかった。
「サンの経歴の事か?でも、それならもう身の潔白は証明されているだろ。……あの連中が自白剤まで使ってな」
「そうだ。だが、監視についたものは悉く気絶させられている。それも事実だ。それにな……あの男、俺が見ていたことに気づき、干渉してきた」
「!?」
アルベルトは接近戦もできるが遠距離戦で力を発揮することができるスタンダードな魔術師である。そんな彼は遠距離からの攻撃を可能にするため遠くの出来事も確認できるような魔術を使用し、観測者としても高い能力を誇っていた。その為グレンは驚愕する。アルベルトの能力の高さは同僚であるが故に嫌と言うほど理解している。だからこそ、それに気づきあまつさえ干渉することができるなんて信じられなかった。普段の彼はショック・ボルトに多大な熱を注ぐ学生だというのに。
「こちらとしても早急に対処はしない。あの男は天の智慧研究会よりも未知の存在だ。下手に刺激し、藪をつついて蛇を出すなどは得策ではないからな。だが、グレン。だからこそ気を付けろ。奴が敵という確証はないが、味方という保証もないのだから」
そのまま立ち去っていくアルベルト。グレンはただその背中を見送ることしかできなかった。
「(サン・オールドマン……奴に関しては情報が少なすぎる。これからも警戒は必要か)」
✖✖✖
場所は砂浜。辺りに広がるのは一面青く澄み切った海に、水着を着込んだクラスメイト達。何だかんだ言って皆テンションが上がっているのだろう。我先にと海に飛び込んでいく姿が見える。
男子達もグレン先生に感謝しながら海に飛び込んでいっていた。とにかく思うことはみんな元気であるということだ。
「ギイブル、こういう時くらい遊んで来たらいいんじゃないか?」
「何でそれをオールドマンに言われなくちゃいけないんだ。そもそも僕は勉強をしに来たのであって遊びに来たわけじゃない」
「少しは息抜きも大事だと思うけどね」
水着にすら着替えてないとはギイブルの意思も固そうである。日陰で教本を読み漁る彼の姿を見て苦笑しながら俺は何となく海の風景を眺めていた。その風景には水着の女子も居るのでとても眼福である。
TPOをわきまえて表情に出さないように眺めればいいのだ。だから俺は悪くない。時折地面を横歩きしているカニを眺めながらのんびりと過ごしていると、突然俺の身体に降り注いでいた太陽の光が遮られた。
どうせグレン先生が来て、寂しいだのなんだの言いに来たのだろうと思いつつ顔を上げてみれば、そこに居たのは意外なことにフィーベルさんだった。花柄のビキニと下に着けているパレオが大変よくお似合いである。隙間から見える足とか素晴らしいと思いますよ。ええ。もちろん表情には出しませんけどね!
にしても彼女がこうして俺の元に来るのはとても珍しい。ましてや一人で来るなんてありえないと思いつつ周囲を見渡してみれば、少し離れた所にティンジェルさんとレイフォードさんがいた。ティンジェルさんはこちらに気づいたのかニコリと微笑みかけてくれ、レイフォードさんは相も変わらず眠たそうな瞳でボーっとしていた。……状況から見てティンジェルさんに焚き付けられてやって来たといったところだろうか。
「ねぇ」
頭を働かせているとフィーベルさんから声がかけられる。声量は小さく、表情も赤くなっていることからとても照れていることが分かった。ぶっちゃけ、そんなになるなら俺の相手をしなくてもいいんじゃないかとも思う。
「なんですか?」
だが、話しかけられたのであれば反応しなければならない。カニに向けていた視線をフィーベルさんへと移す。すると彼女は自身の体を抱き締める様にした。恐らく隠したいのだろう。……けれど、それは逆効果である。何処がとは具体的に言わないが、そのポーズの所為で強調されているのだ。指摘したら絶対殺されるから言わないけど。
「そ、その……どう?」
「その水着ですか?とてもお似合いだと思います。可愛いですよ」
「―――――――!!」
女性の服は素直に褒める。これは鉄則。……まぁ、服を褒めることに対して恥じらいを感じるには少し年を取り過ぎたということもあり、母さんから教えられたこの秘儀を披露することができた。
一方、フィーベルさんは先程よりも四割増しで顔を赤くしてしまっていた。おぉう、大丈夫なのだろうか。
次の行動をどうするか迷っていると、そろそろ限界だと感じたのかティンジェルさんがボールを持ってこっちにやって来た。ビーチバレーのお誘いらしい。既にグレン先生は誘っているらしく、何やら向こうの方から気合の入った掛け声が聞こえて来た。断る理由もないので俺も参加の意思を伝えておく。
もしチームを組むことを拒否されればグレン先生に頼ろうと思いつつ、俺は木陰に居るギイブルを誘った。
「らしいけど、行く?」
「何度も言ってるだろ僕は行かない」
「……負けるのが怖いとか?」
「ほう?」
……意外と負けず嫌いなギイブルを釣るために適当に挑発してみたのだが予想以上に効果があったようだ。彼は制服をバッと脱ぎ捨てて水着姿になると俺に後悔させてやると言いながら歩いて行った。
「お前、水着着てたのかよ……」
予想外の事態に呆然となりつつも、彼に倣いビーチバレーのコートへと向かう。するとティンジェルさんが珍しく俺に近づいて来た。ちなみに彼女は青と白のストライプ柄のビキニである。
「サン君。システィの水着、褒めてくれてありがとう」
「は、はぁ……」
何やら上機嫌な彼女に俺は困惑する。どうしてフィーベルさんの水着を褒めることでティンジェルさんが喜ぶのだろうか。このことについて考えようと思った矢先、身体全体に突き刺すような寒気を感じた。そこに視線をずらすと、殺気立っている男子達の姿が。
とりあえず殺されないように頑張らなければ。