レッカ・C・クロハはハードコアに生きたい   作:木曾のポン酢

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ACVDをプレイしていたところ。唐突に天から「ここたま…ここたま…」と語りかけられたので書きました。現在連載中の作品の息抜き作品ですので、更新はのんびりとしたものとなります。

とりあえず、そこまでキチってないキャラを書く練習&ACVD欲発散の場とします。

ここたま。


独立

昔から、スリルの中に生を感じていた。

周囲も巻き込んで、子どもの頃から危ないことばかりしていた。

 

一番最初にソレと出会ったのは、11の時だった。色んな家の屋根を伝って走り回っていたら、落っこちて、ついでとばかりに車に轢かれた。

親によると、一週間眠りっぱなしだったらしい。

 

「お嬢ちゃん。言いたか無いが……」

 

真っ暗闇の中で、鴉の翼のような外套を羽織ったソレは、諭すように私にそう言ってきた。顔はしゃれこうべなのに、なんだか困ったような

 

「このままじゃ死んじまうぜ。お嬢ちゃんはまだまだ子どもじゃないか。世の中楽しいこといっぱいあるんだから。そんな命を粗末にしちゃぁいけないよ」

 

「悪魔なのに、そんな事心配するんだ」

 

「悪魔じゃぁなくて死神なんだがなぁ」

 

自称死神は、ぽりぽりと頬を掻く。

 

「まぁ、うん。あんま、嫌なんだよね。小さな娘が俺たちの世話になるってのは」

 

「変なの、物語では、そういうのって綺麗なお姫様を連れていってるのに」

 

「好き嫌いがあるんだよ。俺はあんまりそういうのは好かんのさ」

 

そして死神は溜息を吐くと、私の身長まで腰を落とすと。優し気な口調で言った。

 

「とにかく、今回の事故じゃぁ奇跡的に後に残る怪我はしなかった。今日は俺は注意しにきただけだからな。今度からは皺くちゃな婆さんになるまで、俺とは会わないように堅実な生き方を……」

 

「ねぇ」

 

その言葉を遮って、私は死神に尋ねた。

 

「私、もっともっと派手に刺激的に生きたいの。何か、死神にそういうおまじないってないの?」

 

死神は思いっきり顔を歪めた。そんなの無いと突っぱねた。

 

私はごねた。泣いて暴れて縋り付いて強請った。

 

攻防は一週間に渡った。最後は、判断能力が鈍った死神が「一番簡単なのなら良いのかもしれない」という勘違いをしたところに付け込んだ。

 

 

 

 

 

私のハードコアな人生は、こうやって始まった。

 

 

 

 

 

レッカ・C・クロハは、隊長室へと続く廊下を気怠げに歩いていた。

緑を基調とした制服のあちこちには皺ができ、機体に絡まないよう短くしている黒髪は右に左にと跳ねていた。時折あくびをしながら、ぺたりぺたりと廊下を歩くその姿は、規律の厳しいEGFでは到底許されるものではない。

だが、彼女とすれ違う者は、誰もその姿を注意しようとはしなかった。それどころか、部下や同僚たちは歩く彼女に道を譲り、尊敬と畏怖を込めた瞳で敬礼をしてくるし、上官も何も言わずにその姿を黙認する。まぁ、大半は目を合わせようともしないが。

 

レッカはそれを無意識に無視しつつ歩いていき、ついに隊長室へと辿り着く。

 

コン コン コン

 

ノックを行うと、中からどうぞと声が響いてくる。

一度大きく深呼吸をすると、レッカはドアノブを回した。

 

ドアを開く。よく冷えた空気が流れ込んできた。

 

中には、2人の男が座っていた。自分の直属の上官であるエリア048掃討部隊の隊長であるウラジーミルと……ハルト・G・ロック?

リーヴスで、最年少で一個大隊を任されてるエース・オブ・ジ・エースだ。

 

そんな奴がどうしてここに?レッカは、自分の腕と挙げた戦果に対して絶対の自信を持っているが、だからこそそんな虎の子部隊とは縁遠いと確信している。

 

「あぁ、君が噂の……」

 

立ち上がったハルトが握手を求めてくる。唐突に握手を求めてくる人間と酒を勧めてくる人間から良い話を聞いたことがないレッカは、更に警戒を強める。

 

ハルトの手を握る。身長の関係上、レッカがハルトを見下ろす形となる。ハルトが小さい訳ではない。レッカが大きすぎるのだ。レッカ・C・クロエは、彼女のルーツである民族の遺伝子を無視した、2m11㎝という長大な身長を持っていた。

 

「さ、クロハ君かけなさい。スコッチを開けよう。」

 

そういいながら、ウラジーミルがグラスを持ってきた。

 

嫌な予感がさらに強くなる。そもそも、この隊長が私を前にして上機嫌なことがおかしいのだ。

 

まぁ、酒は嫌いではないのでありがたくいただくが。私は促されるままにソファに座り、出されたスコッチを喉に流し込む。この程度なら別に酔いもしない。

 

「さて、じゃあ早速本題に入るとしよう。」

 

そういうと、ハルトは目の前に座った。ウラジーミルは自らの執務机に座る。

 

「レッカ・C・クロハ君。君をリーヴスに迎えたい」

 

何の裏も無ければ、それは喜ぶべきことだ。指導部直属の特殊部隊、EGFパイロットの将兵の中でも、極一部のものしか所属できない精鋭中の精鋭。

 

レッカは表情を変えずに、その裏を探ろうとする。

 

答えはすぐに、ハルトの口から伝えられる。

 

「君には、リーヴスに今度設立されるアグレッサー部隊への配属を推薦してある。君ならば、間違いなくこの職務を果たせるだろう。」

 

成程、上は敵と味方に大きな損害を与える「死神」を、後方に下げることにしたのか。

良い手だな。レッカは他人ごとのように感心した。リーヴス内のアグレッサー部隊なら、いろいろと扱いも良いだろう。士官学校次席、軍大学でも五本の指に入る席次で卒業した人間は、粗末にはしないということか。

 

普通の人間ならば、喜んで頷くだろう。

私は、一度深く呼吸をする。

潮時だな。貯金はギリギリ足りる。退職金も合わせれば、何とかやっていけるだろう。

 

「ありがとうございます。」

 

私はそう言って礼をする。そして、常に懐に入れている封筒を取りだすと。机の上に置いた。

 

「ですが。私は戦場のほうが好きです。ですので、後方に下げるというならば、本日をもってEGFを辞めさせていただきます」

 

封筒には、辞表と書かれていた。

 

 

 

 

 

「なぁんでエリートコースからわざわざ外れるのかねぇ」

 

「別に、出世したくて努力したわけじゃないから。」

 

身の回りのものを整理しながら、レッカは呟く。と、言ってもそこまで荷物は多くない。家具はもともと寮に置いてあったものだし。給料はほぼ全て貯金に回していたので嗜好品の類はほとんどない。幾つかの戦術書に小説。ちびちびと舐めて楽しむ高級ブランデー一瓶。まとめて購入している煙草のカートン五つか。そして大型のノートパソコンと下着や私服数着。そして自費で買った上等なパイロットスーツも。みな、手持ちのトランクでこと足りる。

 

「大人になったら、さすがにもう解いてくれと頼んでくると思ってたんだが……」

 

「三つ子の魂は百までよ、エーリッヒ。11の時にはもう狂ってたんだから、そりゃずっと狂ってるに決まってるでしょ」

 

「あークソ、あの時の俺はなんで呪いをかけちまったんだ。ったく……」

 

「よく言うわよ」EGFの制服を全てたたみ、机の上に置いておく。アイロンは……、まぁ、別にいいだろう。

 

「エーリッヒ、向こうで相当に出世してるんでしょ?」

 

「な、なんでわかった!」

 

エーリッヒが驚愕の声を上げる。こいつ、本当に嘘がつけないよな。

 

「わかるわよ。服の材質が人間の私から見ても良くなってるし……、そのペストマスクも、おしゃれって言ってたけど階級章みたいなものなんでしょ」

 

むむむ……と少しうなると、エーリッヒは認めた。

 

「あぁ、そうだよ。レッカ、今や俺は死神界の期待のホープだ。ここ数百年でここまで営業成績の良い死神はいないらしい」

 

「おめでとう。情けは人の為ならずとはよく言ったものね」

 

「あの注意は、純粋にお前を想って言ったんだけどなぁ」

 

私服として愛用しているダークスーツを身にまとい。黒づくめの外套を羽織る。

 

「何というか……」ペストマスクの下で、エーリッヒは顔をしかめる。

 

「ん?なに?」ハットを被ったレッカが尋ねる。

 

「いや、8月だってのに正気じゃないよなって」

 

「お洒落は我慢なのよエーリッヒ。それに、この辺りは夏も涼しいし」

 

ノックの音が聞こえた。どうぞと入室を促す。

 

失礼しますと言いながら入ってきたのは、まだ頬の赤い新兵だった。

 

「お車の用意が出来ました」

 

「はい、ありがとうね」

 

にこりと、新兵に向けてほほ笑む。自分の異名を知らないのだろう、美人からの笑みにドギマギと固くなっていた。

 

「機体はもう?」

 

「はい、すでに出発しています」

 

それを聞いて安心した。しかし、上も太っ腹なことだ。退職金代わりとはいえ機体をまるまるくれるとは。まぁ、相当にピーキーな性能に改造していたし、パーツを分割するにしても縁起が悪いと考えたのだろう。宗教狂いのEGFらしい理由だ。

 

「なら、私もすぐに出るわ。」

 

そう言ってトランクを引き、自室を出る。

 

「あの、荷物を……」

 

「いや、いいわよ。もう私はEGFの人間じゃ無いからね。」

 

そう言って断る。現役時代は士官の義務として任せていたが。別に、部下に煙草の火を着けさせたりするのは好きなわけではない。

 

「わかりました。……あぁ、そういえば」

 

新兵がこちらを振り返った

 

「ん?なに?」レッカが尋ね返す

 

「いえ、部屋に入る前に話し声が聞こえていたので……。もしかして、電話中で迷惑をかけたかな……と」

 

あぁ、成程。

 

「いや、良いのよ。ちょうど切るところだったから。」

 

レッカは笑顔で、いまだ死神に魅入られていない若者にそう言葉をかけた。

 

 

 

 

 

「ここがサインズかぁ」

 

盾と剣のエンブレムの掲げられた看板。自動ドアを潜り、床のよく磨かれたロビーに入る。

 

中では、何人かの人間がいた。寝転んでACパーツのカタログを読む老人、仕事仲間と思わしき女性と会話する若者。煙草を吸いながら、入ってきた人間を観察……つまり、今現在は私を睨んでいる……男。それぞれ好き勝手にやっており、最後の男以外は私が来たことにも気づいていないように感じた。私は、それらを一瞥すると受付に向かった。

 

受付には、女性が一人座っていた。彼女に声をかける。

 

「先ほど連絡をしたクロハです。」

 

「あぁ、クロハ様。お待ちしておりました。機体のチェックと登録は今現在行っています。いまから、パイロットとしてのデータを登録しますので、どうぞ中へお入りください」

 

レッカは頷いた。何の実績もないルーキーならば、これから最低限傭兵としてやっていけるかを確認するために身体検査をやるのだが、レッカにはEGFで正式にパイロットをやっていたという実績があるので、これは免除とされた。

 

 

 

パイロットデータの登録はすぐに終了した。パイロットネームと機体名、エンブレム、そして主に活動する地域を入力すると、それで終わりだった。

 

ロビーで煙草を吸いながら、レッカは渡されたカタログに目を通す。アセンブルを変更するつもりは今は無い。ただ、武装ではいくつか気になっているものはある。軍属だった時には、EGFと財団のパーツや鹵獲品しか使わせてもらえなかったので、シリウスやヴェニデのパーツを正式に購入できるというのは嬉しい。それに、EGFでの戦功のお陰で最初からDランクを与えられえていた。

 

「まぁ、このランクじゃレーザー兵器はいいの無いなぁ。今使ってるのも十分に良いものだし。とりあえずバトルライフルを……」

 

「レッカ、お客さんのようだぞ」

 

基本的に私の右上を常にふわふわしているエーリッヒがそう呼び掛けてきた。レッカが顔を上げる。

 

「よぉ、ちょいと良いかい?」

 

そこには、先ほどこちらを観察していた男がいた。骸骨の書かれたTシャツと、ジーンズというラフな格好で、近くで見てみると、自分と比べられるほどに背が高い。

 

「なんでしょう?恋人でしたら、今は募集していませんが」

 

「ストーカーでもか?」

 

ストーカーと聞き、レッカの心は揺れた。女性にしつこく付きまとうソレではなく、戦場の運び屋たちの呼び名だ。傭兵はそれぞれ運び屋と契約して、それを戦場までの足としていた。契約形態に次第では、オペレーションや支援攻撃なども行ってくれる。

 

レッカは少し視線を上げ、エーリッヒに発言を求める。

 

「まぁ、死臭は感じないな」

 

ならば、話を聞いてもいいだろう。前に座るように促す。

エドワードと名乗った男はソファに座ると、私に声をかけた理由を口にした。

 

「まず一つは、これまで契約していた男が死んじまったからだな」

 

「戦死?」

 

「いんや、アルコールの飲みすぎでぽっくりとよ。あんた、やりすぎると死んじまうような趣味は持ってないよな」

 

「どれもこれも過ぎたるは猶及ばざるが如しだとは思うけど……、まぁ、無いわね。しいて言えば、ACに乗るのが趣味だけど」

 

「あぁ、死んじまう趣味でもそれはOKだ。で、もう一つの理由だが……」

 

びしり、と男は指と自らの四白眼を向けた。髭にまみれたその顔は不潔だが、別に不快感は無い。顔自体が整っているからだろうか?

 

「俺の見立てだが、あんた、結構な腕利きだろう?手続きの短さを考えるに、おそらくは元軍属の」

 

「まぁ、そうだけど。腕利きってのはどうして?」

 

腕利きと褒められ、レッカは上機嫌にそう感じた理由を尋ねた。

 

「勘だな。あ、勘だからって舐めるなよ?こちとら20年以上戦場で飯食ってるんだから、俺は愛機の計器とおんなじくらいこいつを信頼している」

 

「ほほほう、勘ね。その勘に根拠とかはあるの?」

 

「勘の根拠ねぇ……」

 

エドワードも煙草を取り出す。珍しい、葉巻だ。

 

カッターで吸い口を切り、男は一服する。そして少しばかり唸ると、強いて言えばと前置きをしてから口を開いた。

 

「自分は絶対に死なないという自信が見えた。根拠無くそう考える馬鹿は大抵そのすぐ後におっ死ぬが、あんたにゃその根拠が感じられたからだな」

 

ふむ。レッカは感心した。少なくとも、人間の中身を見ることのできる目は持っているらしい。

 

「OK、じゃあ契約について話しましょうか。とりあえず、サインズに貴方についての資料を求めてもいいかもなとは思い始めてるから」

 

レッカは笑みを浮かべてそういった。まぁ、別に一生モノの契約という訳ではないし、初めての運び屋はベテランに頼むというのも悪くはないだろう。

 

 

 

受け付けに要請すると、すぐにエドワードについての資料が渡された。そのまま案内された個室に入り、資料に目を通す。

ほほうとレッカは唸った。どうやら、自分は結構幸運らしい。

経歴を見ると、エドワードは歴戦のストーカーであることが分かった。私がおんぎゃあと生まれた頃にはヘリパイロットとして戦場に出ていた。これまで契約した傭兵は8人。3人が契約中に戦死、2人が契約解除、2人が引退、そして1人がアルコール中毒で死亡……と。

 

保有戦力もなかなかのものだ。ストーカーにとっての基本である大型ヘリのほかに、軍艦も所有しているらしい。

と、そこを見ていて気付いた。

 

「UNAC?なんでそんなものをもってるの?」

 

UNACは、最近三大勢力に配備が始まった無人ACだ。財団から三大勢力やサインズに供給が始まったこのシステムは、戦争に必要な物量を揃えるのにぴったりだと、どんどんと普及が進んできた。エドワードは、これを二機持っているらしい。たしか、個人向けには供給されていなかったはずだが……

 

「なに、戦場で拾ったのさ。AIというか、こういうのの調整は昔っから好きでね。」

 

「どうにも、あの手の人形って手ごたえが無いから好きじゃないんだけどなぁ」

 

UNACとは、これまでも何度か戦場で出会ったことがある。しかし、そのどれもこれも動きは単調で、危機感はほとんど感じなかった。

 

「いやいや、いじってみたらなかなかに奥深いんだよ。三大勢力はブルってプログラムをいじらないから、あんな単調な動きしかさせられないが。いじればそれこそ人間の乗ったAC程度には動けるぜ」

 

「ふーん……。」

 

どうにも実感がわかない。まぁ、仲間として配備された時にそこそこ楽だったことはあるので、いて困るという事はないが。

 

「自分で言うのもなんだが、経歴に目立った染みはないと思うぜ。どうだい?」

 

「うん、十分ね。良いわ、契約成立よ。報酬の取り分は?」

 

「オペレーション・戦闘支援もやって、こっちが3だ。」

 

「良いの?新人に7も渡して」

 

驚いたようにレッカが尋ねた。破格の値段だ。独立する前に少し調べたが、その契約形態ならば取り分は半々のはずだ。

 

「愛人契約料だとか言ったらあんたをひっぱたいて契約は白紙だけど」

 

「ないないないない。あんたは別嬪さんだが、こっちは自分よりも背の高い女にゃ欲情しねぇよ」

 

そう言ってエドワードは豪快に笑った。随分と広い守備範囲である。自分があと一つ二つ背が小さかったら危なかった。

 

「なに、単純な話だ。確かに俺も命を張るが、あんたらAC乗りが頑張ってくれないと稼げねぇからな。まぁ、目の前にぶらさげるニンジンってわけだ。」

 

成程。そういう考え方ならば有難くいただくとしよう。

 

「さて、こっちについてはこれくらいで良いだろう。あんたについて聞かせてくれないかい?あぁ、安心してくれ。俺は人に関しては勘を信じてるんでな。少しばかりの問題行動には目をつむるよ。」

 

問題行為に目を瞑る……かぁ。まぁ、契約ってのは信頼だ。説明はしといた方が良いだろう。

レッカは、気持ち決め顔を作ると、ゆっくりと口を開いた

 

「EGFの〝死神〟……この二つ名、聞いたことがあるでしょ?」

 

「いや、無い。」

 

心の中で盛大にずっこけた。部隊内で忌み名としてそう呼ばれ始め。割と気に入ってたのに。

……あれ、もしかして、結構盛大に暴れまわったと思ったのに、私って世間的に無名?

 

おい、エーリッヒ、なに笑ってんだ。

 

「EGFで死神呼ばわり……?いったいどんなことやったんだ」

 

「……ACを100機撃墜したくらい」

 

不貞腐れたようにレッカは言った。しかし、その言葉に今度はエドワードが驚く。

 

「百機だと!?エース中のエースじゃないか、一体なんだってそんな物騒な二つ名がついたんだ?」

 

物騒。と聞いてレッカは少し機嫌をなおした。

 

「あーまー。うん。なんていうか。私が出撃したら、敵も味方もみーんな死んじゃうから……」

 

「敵も味方も……」

 

その言葉を聞いて、エドワードは何か思い当たる節があったのだろう。見る見るうちに表情が驚愕のそれへと変わる。

 

「お前、凶鳥か!?」

 

きょうちょう。はじめて呼ばれる二つ名に、レッカははじけたように顔を上げた

 

「きょうちょう……?」

 

「あぁ、凶鳥〝フッケバイン〟……、鏖殺のフッケバインとも呼ばれてるな。そうか、EGFでは死神か……。まぁ、言い得て妙だな。あんた、この辺りじゃ相当に有名だぜ」

 

フッケバイン。たしか、昔の小説に出てくるカラスだったか。EGFは、タワーから出てきた娯楽小説などを電子化して公開していた。原典は読んだことないが、フッケバインの名がついた本は読んだことがあった。

フッケバイン、フッケバイン、フッケバイン、フッケバイン……

素晴らしい響きだ。フッケバイン、フッケバイン、フッケバイン!うん、パイロットネームは本名で登録してたが、折角だしフッケバインで登録しなおそう。いまならまだ間に合うだろうし。自分の知らないイカした異名を聞いて、レッカは完全に機嫌を戻した。

 

「有名?どんな風に?」

 

「二つ名の通りだよ。俺の同僚に、あんたのいた戦場から命からがら逃げてきたやつがいたが、散々に言ってたぜ。『ありゃ人間じゃ無い、怪物だ』『あんなのがいる場所には二度と行きたく無い』って。そいつ、そのあとすぐに引退したよ。しっかし、まさか中身はこんな別嬪な女だったとは……」

 

「そうなんだ。で、どう?怖気づいた?」

 

「怖気づく?まさか?」

 

エドワードはにやりと笑った。黒々とした髭の中に、白い歯が浮かぶ。

 

「これでも、俺は生き残ることには誰にも負けないと自負してるんでね。それに、その若さで、しかも傭兵になる前から有名な奴なんてそうはいない。相当に稼げそうなきがするよ」

 

「じゃあ、契約は成立ね」

 

笑顔を浮かべて、レッカは手を差し出した。いきなりの握手は嫌いだが、信頼の握手はそこまでではない。

 

「おう、よろしく頼む。」

 

そう言って、エドワードも応じた。少しばかり軽い気もするが、まあ、命の価値が二束三文、十把一絡げなのが傭兵の世界だ。こんなものなのだろう。

 

 

 

 

 

「さて、アンタの仕事道具を見せてもらえないか?」

 

契約とパイロットネームの変更(フッケバインにした)を終え、外に出るとエドワードがそう話しかけてきた。

 

「もちろん。ガレージは下なのよね?そこに置いてあるから」

 

サインズにACの搬入を行ったEGFの人間がそう言っていた。一人は元部下で、私の挙げた戦果だけを見て私を尊敬していた女だ。去り際には「お元気で!対EGFの仕事は受けないでくださいね!」と笑っていた。

 

「確か、接近戦を得意とした重量二脚機乗りだったな。」

 

「あら、そんなことまで伝わってたの?」

 

「当然。噂だが、あんた個人を狙った依頼も結構出てたらしい。」

 

「そういえば、連続で駐屯地に傭兵が襲撃してきたことがあったわね」

 

無論、全て落としたが。

 

エレベーターに乗り込み、エドワードと色々話す。拠点は、ジャンクで買い取って修理した昔の軍艦であり。ヘリ四機とAC四機くらいなら格納できるのだという。

 

「だから、もしかしたら他の傭兵を雇ったりして、共同作戦をしたりするかもしれない。大丈夫か?」

 

「共同作戦ねぇ……言っとくけど。私はそういうの向いてないわよ。」

 

「鏖殺で死神だからなぁ。そんなに、仲間が死んでるのか?」

 

「まぁ……ね。」

 

死ぬ。本当にみんな、泡沫のごとく死んでいく。

勿論、それには理由があるのだが……ちらりとエーリッヒを見た

ぴくりともしていない。どうやら転寝しているらしい。良いご身分だ。街中を歩いていると、四六時中若い死神がノルマを稼ぐためにえっちらおっちらと走り回ってるってのに、こいつは私にかけた呪いのお陰で、働かずとも他の死神たち以上に魂を刈っている

 

「ふーん、まぁ、そのあたりはアンタの戦い方見てから考えるか……。っと、ついたか。」

 

エレベーターの扉が開いた。電子キーに記された番号を頼りにガレージを探す……っと、あった。

 

キーを通すと。ガレージのシャッターがゆっくりと開いた。

 

「では、どうぞゆるりとご覧ください。これが私の愛機……≪黒死病≫よ」

 

薄く照らされた証明の下、レッカの愛機が立っていた。鋼鉄の巨人。美しき殺人機械。かつて施されていた鮮やかな緑色の塗装は、これまで幾度も浴びてきた返り血によって黒く染まり、鈍い光沢すら放っていた。肩部には、エーリッヒを象ったペストマスクをつけた死神のエンブレム。脚部シールドには、これまで撃墜したACが着けていたエンブレムを縮小してキル・マーク代わりに貼っていた。

 

「……いままで色々とACを見てきたが」

 

エドワードが、感心半分呆れ半分といった様子でつぶやく。

 

「相当に改造してるな。基礎のパーツがなんだかさっぱりわからんぞ。」

 

「まぁそうでしょうねぇ」

 

レッカは機体へと近づく。最初にEGFから支給された時と共通しているのは頭部パーツであるUMEGAEのみだし、それすらも(整備の人間曰く)無茶苦茶な改修によって頭頂しか原型は残っていない。他のパーツも同様だ、増加装甲によってもともとのボディラインは完全に隠れている。

 

エドワードは、私の愛機の周りを歩きながら。いろいろと尋ねてくる。

 

「左腕はレーザーライフル……って、これあれか?ヴェニデ製の……」

 

「そ、ぶん殴った敵が持ってたのをそのまま使わせてもらったの。右のARAGANEは支給品だけど、代わりが見つからないからずっと持ってただけ。もう買い替えるわ。」

 

「なるほどね。」

 

と、黒死病の後ろに回った瞬間、エドワードは脚を止めた。

 

「……ハンガーに二つかかってる装備はなんだ?なんか、異様にでかい鉈に見えるんだが。」

 

「正解。鉈よ。対大型兵器用の。」

 

「対大型兵器用の鉈!?」

 

エドワードが正気を疑う目をこちらに向けてきた。どうしてだろうか、この兵器を考案した時も、初めて使った時も、その後使い続けると決めた時も、周りはこんな目を向けてきた。

 

「要塞相手に突進して鉄塊でぶん殴れる度胸を持ってるやつがどれだけいるかって話だよ。」

 

表情から何を考えたか察したらしい。あくびを噛み殺しながらエーリッヒが言った。大きなお世話だとばかりに鼻を鳴らす、使いやすいんだからいいじゃないか。

 

「HANACHIRUSATO mdl.1。MURAKUMOの拡大強化発展型として私が考案した大型ブレードよ!大質量の鉄塊を加速着けてぶん殴る……ま、マスブレードをACの規格内に収めたものと思ていればいいわよ」

 

「アンタ、こんなもんをずっと振り回してたのに生きてきたのか?」

 

エドワードが、疑うものを正気からレッカの腕に変えて、尋ねてくる。

 

「当然。いままでこいつで何人叩き潰して来たと思ってんのよ」

 

「……なるほどねぇ。うん、この機体を見てると、なんであんたがこんな物騒な二つ名をもらってるかよぉくわかるよ。」

 

そう言うと、エドワードは二度首の骨を鳴らした。

 

「よし、じゃあ。とりあえず見学はこの辺りにするよ。トレーラーに乗せるぜ?」

 

「あら、内装は聞かないの?」

 

「こんな機体で機動戦を……、それも、白兵戦をやるんだろ?大体わかるよ。それに、アンタがどう動くか見んことには評価や判断は出来ん」

 

「なるほどね、じゃあ。貴方が正気を疑ったこの子でどれだけやれるか、存分に教えてあげるわよ」

 

レッカがそう言うと、楽しみにしてるぜとエドワードは笑った。

 

初仕事は、それから一時間後。エドワードのベースキャンプである軍艦≪ニーベルングの指輪≫号にたどり着いた時に伝えられた。

 




とりあえず、どんな機体かを視覚的に知りたい人は「輝鎚 乙 白兵」で検索を。ACサイズまで縮小して、ハンガーに二つ破城槌ぶら下げて、腕にはバトライやレザライ持っています。

てか、FAこんなにデカいのか……

……はい、今回の作品を書いたきっかけは、買ってみた輝槌がカッコよかったのも理由の一つです。

それでは、ここたま。
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