以上です。
申し訳ない。誰得ですね。
試験中の暇つぶしに携帯でぽちぽちやってたのを最後まで書いちゃいました。
後にして思えば、一番最初に気付いた異変が股間から生えているべきものがないことだったというのが恥ずかしくてならない。
「オオオオオアアアアアアアアアアアアア!?」
なんか寒いと思って、体を見下ろしたらち×こがない。その時点で悲鳴を上げていた。
次いで自分が全裸だと気付く。そして声がおかしいと気付く。
更に周囲の景色が妙にスケールが小さいことに気付く。三階建ての家が俺より小さいってどういうことなの。
そして最後に。
――なんか、小さいの飛んでるね。後ろからなんか噴射してるよ。
うん。よーく見てみよう。
……。
小人ですね。俺が大体百七十かそこらだから……身長十五センチくらいかな?
「ォオオオオオオオオオ!」
叫び声がおかしい。俺、今『すげええええ!』って叫んだはずなんだけどな。
なんだか雄叫びみたいだぞ。
そしてその小人が、俺のほうに向かってくる。
――キャッチ!
成功。手の中でじたばたもがく小人さんのお顔を覗き込む。
……なんかすっげえ絶望的な顔してるんだけど、どういうことなの。
ってかさぁ。
さっきから思ってたんだけどさぁ。
これ、小人が小さいんじゃなくて、俺がでかいんじゃないの?
ほら、だってなんか、この小人が持ってるこのカッターみたいなの、見覚えあるんだもん。具体的にはアニメとか漫画とかで。服装もさ、このベージュのジャケットとかさぁ……。
――立体機動装置じゃないですかぁあああ!?
と、いうことは。
――俺、『進撃の巨人』の世界に来たの!? そして俺は巨人なんですか!?
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?」
あ、また雄叫びになった。危うく手の中の小人――改め兵士さんを握りつぶしてしまうところだった。取り敢えず、彼を近くの建物の上に置いて――――
「な!?」
全力でダッシュ!
「奇行種だ! 気をつけろ!」
あれっ、これまず間違いなくマークされたよね。
逃げろ! 奇行種走りにならないように気をつけながらな! あれ気持ち悪いから!
でも、俺、これどうやって振り切ろう。まず間違いなく殺される気が――
「ォオオオオオオオオオオオオ!」
――ん?
今雄叫びを上げたのは俺じゃない。
と、なれば他の巨人。しかし巨人は声を上げないはずだ。
どういうことなのか。声がした位置は近い。もしや俺と同じような状況のお方がいるのでは。
と思ったら。
……ん? あの大蛇○似の顔はどこかで見たぞ? もう一度言おう、具体的にはアニメとか漫画とかで。
――え、エレンじゃないですかぁああああああああ!?
急遽進路変更。考える前に身体が動く。
踵で急ブレーキをかけてからの大ジャンプ。建物を一つ二つ飛び越えて、体を捻ってからの着地。
驚きの視界の動き。すげえ飛べるこのボディ。
憧れのエレン巨人体から少し離れたところに降り立って、彼を観さ――ってこっち来たぁ!?
俺の阿呆! なんで気付かないんだよ! エレンは巨人駆逐系男子じゃんか!
……しかし、周囲の状況を見るにこれはアレか。トロスト区の防衛作戦か。あっ、あんな所にミカサとアルミンがいるぞ。手を振りたいのを必死に我慢。だって怖いもん。
暢気なことを考えているように見えるだろうが、そんなことはない。
エレンのパンチを必死に回避する。ぶぉん、と空気を斬る音がした。
――こ、怖ぇええええええええええ!
後方に飛び退る。背を向けて逃げよう――と、したところで。
エレンに他の巨人が飛び掛った。エレンはそれを難なく蹴り飛ばすが、巨人どもは次々に現れる。
……どうする? 下手すれば俺も他の巨人と一緒に殺されるぞ。
悩む。二秒ほど考えて――決めた。
幸いというかなんというか、俺も身体は大きい。エレンと同じくらいだから、十五メートル級ってところか。身体もよく動く。純粋な格闘技には詳しくないが、俺はプロレスが大好きだ。問題ない。
今後のことは取り敢えずおいておこう。俺は愚かな
――ということで。
走っていって十メートルくらいの奴に後ろから抱き着いて――ブリッジ!
ドゴォオオオオン、と地面が揺れた。そりゃそうだろう。十五メートルサイズの怪物のジャーマンスープレックスである。
身をおこすと、エレン巨人体がこっちを見たのが分かったが、彼は俺より先に他の巨人を攻撃する。
目をちらりと横に向ければ、ミカサとアルミンとあと一人、コニーが何かを話している。ほら、さっさと逃げなさい! 原作どおりエレン巨人体を誘導するんだ! いいな?
四メートル級を蹴り飛ばし、十五メートル級にスパインバスターをかましながら無言で言うが、当然伝わらない。
所で――たった今思い出したんだが。トロスト区防衛戦、ちょうどエレンの巨人体がミカサ達の近くに居るとき。
確か、ジャン達訓練兵は、巨人に群がられた補給所に突っ込もうとして多大な犠牲を生むのではなかったか? 幸いながらこの原作知識、恐らくではあるが適用されるだろう。エレン巨人体と一緒に居るミカサ達に被害はなかったはずだ。
だから寧ろ、俺はあっち――今見える、あの高い建物に向かって行った方がいい。
エレンたちは心配だが……彼らには
そうと決まれば善は急げだ。こっちはエレンに任せるとして、俺はあそこに向かおう。
難しいことは考えるな。
俺はただ、俺に出来ることをやれ。
そうだな。この世界にあやかって――戦え! 戦わなければ勝てない!
と、少しばかり格好つけておこう。
軽快に地響きを鳴らして走る。邪魔な建物は飛び越えて、邪魔な巨人は蹴飛ばして、向かう先の建物めがけて華麗に駆け抜ける。見る見るうちに近くなるその建物の目の前に来て――俺は、そこに居た巨人の顎に、突き上げるようなスウィート・チン・ミュージックを叩き込んでやった。
――って、足痛ぇええええ!!!
俺は無様に悲鳴を上げた。
◇◆――◆◇
ジャン・キルシュタインは、視線の先で繰り広げられた光景に顎を落とした。
突如後方から現れた希少種が補給所の前に立ったかと思うと、そのまま見事な蹴りを他の巨人の顎に抉りこませたのである。捻り斬れた巨人の顎から上が、回転しながらあさっての方向へと飛んで行く。蹴りで生まれた風に煽られて彼は僅かによろめいたが、視線は逸らさない。否、逸らせない。
「――は?」
開いた口から声が漏れる。
なんだ。なんだこれは。
愕然と見入る彼の前で、その巨人は轟くような雄叫びを上げた。
「ォオオオオオオオオオオオオ!!!」
そして、失った右足の先の修復が終わると同時に、人間達には見向きもせずに周囲の巨人を蹴散らし始める。ご丁寧に弱点のうなじに当たるような攻撃ばかりで、だ。
目的は分からないが、その巨人の攻撃は着実に補給所の周囲から巨人を減らしていた。
自分の周囲には他にも巨人が居るというのに、彼はしばらく目の前の奇妙な光景に目を奪われていた。
しかし、そこは流石に聡明な男である。
そう長くもしない内に気を取り直し、自分と同じように巨人に見入っていた訓練兵達に向かって声を張り上げた。
「今だ! 理由は分からないが、あの巨人が暴れている内に――早く!!」
言い放つと同時、自分も立体機動装置を使って前進する。彼の後ろにマルコ・ポットが続き、他の訓練兵も次々に飛び出していった。
――が、しかし。
いくら巨人が減ったとはいえ、やはり補給所には数多くの巨人たちが居る。
ジャンの後方で大きな悲鳴が上がった。「あ」から始まって長く続いたそれは、何かが千切れるような音と共に唐突に止まる。他のところからも、断続的に悲鳴が響いた。
そして――ジャンが、補給所との距離を半分ほど詰めた時。
ひゅっ、と風を斬る音がして。
彼は、目の前に現れた掌に受け止められていた。
「がっ……」
急な減速で、息が漏れる。しかし彼にはそんなことを意識している余裕はない。
目の前に大きく広がる醜悪な巨人の顔。十メートル級である。
大きく広げられた口の中には、人間の体など易々と食いちぎる歯がずらりと並んでいる。
「くっ、そ……!」
体を捩ってなんとか逃れようとするも、巨人の握力には勝てない。
口が近づいてきた。
ジャンが死を覚悟し、恐怖に顔を歪めた時――
「ォオオオオオオオオオ!!!」
不意に横から飛んできた例の巨人が、目の前の顔を横様に吹き飛ばした。
は? と、本日二度目の絶句。彼が最初の位置を出たときは――あの巨人は、もっと遠くに居たはずだ。それが何故、目の前にいる?
「まさ、か――」
呆然とするジャンをよそに、うなじを失った巨人はぐらりとよろめく。十メートルの高さから、蒸発しきっていない手に握られたまま叩き付けられ――今度は、倒れかけた巨人の体が例の巨人に受け止められた。
三度目の絶句を繰り出しながら、ジャンは自分の目の前に居る巨人の身体をまじまじと見る。
他の巨人と何か違う点があるようには思えなかった。
その巨人はジャンの身体を握る巨人の腕を引きちぎり、腕ごとジャンのことを地面に下ろした。
この時点で、ジャンの疑念は確信に変わる。
――この巨人は、人間を守っている。
彼は巨人に向かって声を上げた。
「おい、お前!」
他のところへ行こうとした巨人の動きが、僅かだが――確かに止まった。
ジャンは少しでも意思を疎通させるべく、声を上げる。
「どうして人間を助ける!?」
しかし、巨人はそれ以上の反応を示すことはなかった。ジャンを振り返ることなく、他の巨人の元へと駆け出していく。
数秒間それを見送っていたジャンだったが、一つ大きくかぶりを振ると、補給所を見据えて射出装置のトリガーを引いた。
◇◆――◆◇
――び、びっくりしたぁあ!!
俺は内心で大きく動揺していた。
ジャンが殺されかけていたのである。
それを見た瞬間、形振り構わず――自分の脚がなくなるのにも構わず――屋根の上からミサイルドロップキックを放ってしまっていた。両足と着地の際の右手を持っていかれた。糞痛かった。
自分の体の一部がなくなるというのは、随分痛いものだ。
そして、俺が動揺しているのには他にも理由がある。
ジャンに話しかけられたのだ。目の前で彼を見て「うっぉおおお! 生ジャンだ! すげえ!」という風に内心舞い上がっていたせいで、逃げ出してしまった。今更後悔するが、もう遅い。腹立ち紛れに巨人どもにパイルドライバーを食らわせ、チョークスラムの餌食にする。
打撃系は出来るだけ控える。痛いのは嫌なのだ。
俺はエレンと違って元から巨人のようなので――恐らくはそれに『憑依』したということなんだろう――、他の巨人どもに餌だと認識されることはない。無防備な木偶の坊どもに攻撃を叩き込めばいいだけだ。
と、いうか。そんなことよりも深刻な問題があるのではなかろうか。
ジャンが殺されかける、という展開が原作にあったか? いや、ない。
つまり。
俺が現れたことによって、原作との相違点が発生した?
――これはマズい。
慌てて視線を横にスライドさせると、ジャンをはじめ、アニやライナーたちも無事に補給所に入っていくのが見えた。内心で安堵。
――そして、エレンの巨人体が近づいてくるのも見える。その後方にはミカサにアルミン、コニーも無事だ。安堵が深まる。
だが、万が一ということもありえる。
俺は補給所の周囲に居る巨人を蹴飛ばして――痛ぇええ!!――、エレンのほうへと近づいていった。もちろん彼の標的にならないよう、つまり視界に入らないよう、慎重にだ。
ダンボールが欲しい、と切に思った。
辛うじて気付かれずにエレンたちの後方につくことに成功する。後ろからミカサ達に近づこうとしている巨人共をクローズラインで二体纏めて狩る。代償として腕を持っていかれたが、痛みは一瞬だし――もう精神が痛みに慣れ始めた。五メートル級を二体蹴飛ばす。
腕と足が回復された時点で、既にエレンは補給所前に到着し、ミカサ達はガラスを突き破ってその中に突入していた。
今後は俺にはどうしようもない。アルミンが作戦を立て、彼らがそれを遂行することを祈るしかない。
視線の先で奮闘するエレンに倣って、俺も巨人を千切っては投げ、千切っては投げる。
時折俺を敵だと勘違いしたエレンが――いや間違ってはいないのか?――襲い掛かってくるが、それもなんとか回避して、俺は戦い続けた。
ここは夢ではない。体を走る痛みがそう告げている。だから俺もいい加減、この後の身の振り方を考えなくてはならない。
壁の大穴が塞がれてしまうということは即ち、俺の逃げ場所がなくなるということだ。人間から巨人になったエレンとは違い、俺は恐らく人間には戻れない。
――視線の先で、巨人化エレンの身体に巨人が噛み付く。それを皮切りに、彼の周囲には彼を餌と認識した巨人たちが群がった。
その光景は俺の知る原作に相違なく、恐らくこの後の展開に問題はないだろう、という推測を俺に立たせた。
確かこの後、エレンは周囲の巨人を一掃した後で巨人体の中から出てきて……それで、トロスト区奪還作戦が立てられるんだったか。
補給所の屋根に、ミカサが降り立ったのが見えた。他にも主要なキャラクターが続々と現れる。噛み付かれたエレンを見て、何か言い争っている。
一方の俺はといえば、巨人に狙われることも無いので悠々と戦闘を続けている。
……しかし、そろそろこの場をお暇したほうがよさそうだ。
金色の短髪をした気持ち悪い体型の巨人。トーマスを食った奇行種である。
それを見た瞬間に――エレンの怒りが、噴出する。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
自分の身体にまとわり付く巨人共を引き摺って、その奇行種の首根っこに喰らい付く。
そしてそれを顎の力だけで持ち上げ――大地に叩き付けた。
俺のジャーマンスープレックスより激しい地響きがした。
その緑色の虹彩が一条の軌跡を描き、次の獲物へと狙いを定める。
叩きつけられて下半身が千切れ飛んだ奇行種を引き摺って、投げ飛ばす。巨人は奇行種の身体に圧迫されて吹き飛び、建物を破壊して絶命した。
エレンは、次の獲物を探して視線を巡らせ――俺を見つける。
やっべー。
踵を返して走り出す。恐らく、エレンはもうすぐ力尽きる。
建物を飛び越えて逃げる。直ぐに、後方から巨人がくずおれる音が聞こえてきた。
◇◆――◆◇
850年。五年前と同じように突如現れた超大型巨人によって、トロスト区の扉が破壊された。侵入した巨人によって、区内はほぼ制圧される。
そんな状況の中、突如現れた二体の奇妙な巨人の存在によって、とある作戦が組まれた。
考案、ドット・ピクシス、アルミン・アルレルト。作戦名『トロスト区奪還作戦』。
その作戦とは――巨人に変身する能力を持つ訓練兵、エレン・イェーガーが巨人となり、超大型巨人が扉を破壊した際の大岩を運んで、穴を塞ぐというもの。
今まで巨人から種族を守ることしか考えてこなかった人類にとっての、初の攻勢となる作戦である。
不確定要素は、もう一体の奇妙な巨人。
エレン・イェーガーが変身した巨人と同様、他の巨人を攻撃するが、その正体は不明。
補給所の周辺の巨人をエレンと共に殺し、その直後に姿を消した。
目の前で姿を確認した訓練兵、ジャン・キルシュタインによれば、その巨人は十五メートル級であり、毛髪の色は黒、虹彩も同色で、身体の均整は人間に近いものがあるという。
通常の巨人と違い――また、エレン・イェーガーの巨人体とも違い――他の巨人を投げ飛ばしての攻撃が多い。また、エレン・イェーガーの巨人体に攻撃する気配がなかったという。
現在の所在は不明。トロスト区に残って他の巨人を殺していると推測される。
その巨人をもしもエレン・イェーガーの元に誘導することが出来れば、それは余りに大きな戦力となる。犠牲をより少なくすることが可能だ。
よって、作戦において存在する部隊は三つに分けられた。
まず、作戦の要であるエレン・イェーガーと、彼を護衛する精鋭班。駐屯兵団より、イアン班、リコ班、ミタビ班以下数班が選出された。訓練兵団からは、ミカサ・アッカーマンが選出。
次に、大人数で以て巨人を街の隅に誘き寄せる班。訓練兵団、駐屯兵団より数多く選出された。
最後に、奇妙な巨人の探索に当たる第二精鋭班。こちらは訓練兵団よりジャン・キルシュタインと駐屯兵団より数班。発見したら青い煙弾を上げる。それを確認したら、駐屯兵団より選出された第三精鋭班が街の隅に集められた巨人のうち数体を引き付けてその巨人の元へ向かい、第二精鋭班と合流して引き付けた巨人を餌にし、作戦の主要地へと誘導する。
まずは誘き寄せから始まった。大量の兵士が壁からぶらさがり、巨人を街の隅に来させる。
作戦は成功したといえる結果に終わったが――結果として、役二割の兵を失う。
そんな中、巨人捜索班が壁の上より出発する。
そして数十分の後、青い煙弾が確認される。第三精鋭班が出発。街の隅の巨人を五体引き剥がすことに成功。確認された場所まで誘導する。その際、第三、第二精鋭班の半分近くを犠牲にした。
そしてその直後に、エレン・イェーガー及び彼の護衛の精鋭班が出発。
巨人は他の部隊によって壁の隅に誘き寄せられているので、彼らの道程を邪魔する者はいなかった。
立体機動装置を生かして街の上を高速で翔け抜け、岩の目の前までやってくる。
エレンは己の右手に、思い切り歯を突きたてた。
閃光。
建物が削り取られる。
砂煙の内より――腕が。
捻り寄せられるように形勢された骨格と筋肉が、現れる。
幾本もの繊維がむき出しになった筋肉で、巨人となったエレンは僅かの間立ち尽くし――
「エレン?」
――彼を見つめていたミカサ・アッカーマン目掛けて、その拳を突き出していた。
◇◆――◆◇
直ぐ近くで、青い煙が上がった。
……これはどういうことなのだろうか。
何をするでもなく立ち尽くしながら、俺はそちらのほうを見ていた。俺が居るのはトロスト区の端であり、原作で巨人が集められていた場所と反対のほうに位置する場所だ。
そんな場所の直ぐ近くで煙弾が上がるのはおかしい。色も、原作では最初に上がるのは赤色だったはずだ。確認しに行きたい気持ちを押さえつけて、俺はそれに背を向けて歩き出す。
――結局、俺がどうしてこの世界に来たのかはわからないままだ。
そして、俺がこの後どうするべきかも、わからないままだ。
人間の天敵と言う種族としてこの世界に来たからには、人間から敵視されることは必至だろう。下手をすれば彼らに殺される。
それだけは避けなければならない。
だから、俺はトロスト区奪還作戦への加勢は、しないことにした。
だから、俺はこうしてここにいる。
見物に行きたい野次馬根性と、人間が死ぬことへの忌避感――俺が行けば人間を救えるという罪悪感を押さえつけて、俺は立ち止まったままで居た。
俺の周囲に巨人はいない。みんながみんな、俺に殺されるか街の隅に行くかしてしまった。
巨人を殺すことの忌避感は、不思議と――いや、別に不思議じゃないかもしれないが――
なかった。楽しいかといえばそんなことはないが、それでもどこかで巨人共の駆逐を望んでいるのかもしれない。
そして、数分が経った頃だろうか。
俺の周囲に人間達がやってきた。そしてその後方には、巨人が居る。
何 故 ! ?
俺は酷く動揺した。巨人は概ね街の隅に行ったはずだ。こんな反対側に来るはずがない。
また原作との相違点が出来ているのか。
これはまずい。
現状、俺の敵は人間と巨人の両方だ。というか、人間から身を守りながら巨人が人間を食わないようにしなければならない。
超、難しい。
巨人から意識を外さないように、人間を観察する。――って、ジャン?
またお前か。
知ってるのは彼だけだ。でも確か原作では、ジャンはエレンの護衛についていなかったか?
どういうことだよ、おい。
「――こっちだ!」
リーダーらしき人間が唐突に逆転して、立体機動装置を使って飛び出していった。他の人間も続いて方向転換。彼らの行く先には――巨人が。
おいおいおいおい。
一、二……五体。
それが、少しずつ差を開けてこちらに向かって歩いてきている。
――――なんとなく分かったぞ。これは、つまりあれか。
原作との関連性から考えても、恐らく俺を利用するという腹積もりなのだろう。
利用されることに否やはない。
だが、問題が二つある。
捕縛されることと、作戦に関わって原作に異変をもたらす危険性があることだ。
とはいえ、後者に関しては既にどうしようもない。ジャン達がこんなところに居るという時点で、異変は起こっているのだ。
今になって思えば、ジャンが殺されかけた時点で原作からは大きく離れていたのだ。俺がトロスト区奪還作戦に関わらないわけにはいかなかったのかもしれない。
俺は覚悟を決めることにした。
ここからは、俺が未来を知る物語ではなく――俺が紡ぐ物語にしてしまおうじゃないか。
取り敢えず、拘束されることは全力で回避することにしよう。
それじゃあ――俺は取り敢えず目先の敵だけを、駆逐してやろうじゃないか。
建物を踏み台にしつつ、一体目の巨人にとび蹴りを喰らわせる。
派手に吹き飛んだそいつは空中で半回転してうつ伏せに着地した。しかしうなじは残っているので立ち上がろうとし――人間に始末された。
その間に、俺はその後方にいる巨人の足を払っている。
――はは、見ろよ!
俺は巨人になったけど――人間と共存してるぜ!
高揚。
気分が良い。最高だ。
倒した巨人のうなじを踏み潰しながら、俺は三体目に肩から突っ込む。スピアーと呼ばれる技だ。
見る見るうちに門が近づいてきた。もうすぐ作戦地に到達する――というところで、赤い煙が立ち上るのが見える。
――エレンが暴走したか。
俺が居ても、話の大筋は変わらないのだろう。俺は何を思うでもなくそれを見ていたが、俺の周囲にいる人間は違ったらしい。
「な……作戦が失敗したのか!?」
「糞め、じゃあ犠牲になった兵士はどうなる!?」
「冗談じゃない……あいつは何のために死んだ!」
「わかってた……最初からそんなの有り得ないってさ」
どよめきが走る。ああ、そんなに緊張感を欠いたら――
巨人に食われちまうぞ。
兵士を掴んだ巨人の腕を、肩口から強引に千切り取る。落ちる腕を受け止めて、建物の上に置いてやった。
相変わらずこっちの身体も痛いが、回復すればその痛みも嘘のように消えてなくなる。やったね! 冗談じゃない。
やはり投げに限る。
――段々と視界に入る巨人が増えてきた。
扉もエレンも近いから、まあ当然か。
腕が鳴る。
エレンの姿が見えた。
首筋にアルミンが張り付いている。
ああ、そろそろだな。
俺は周囲を見渡した。
十メートル級が四体。十三メートル級が一体。七メートル級が二体。
自分の役割は理解している。
エレンが岩を運ぶのを護衛すればいい。
そして、適当なところで壁の向こうにトンズラしてしまえばいいのだ。
取り敢えず景気づけに一発、ということで、近くに居た十三メートル級に思い切り――俺の腕が吹き飛ぶくらい強くクローズライン。
――首が飛んだ。
い、痛ぇえええええええええええええ!!!
「ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
雄叫びになるのは便利だ。様になる。
首をなくした巨人には、近くに居た人間がとどめを刺す。
蒸発の煙をかき分けて進む。七メートル級を殴り倒して、十メートル級を蹴り飛ばす。
本日二度目のスパインバスターを十メートル級にかました所で――
地響きが聞こえてきた。
――来たか!!
◆◇――◇◆
トロスト区奪還作戦は、巨人となったエレン・イェーガーの暴走により失敗するかに見られた。
だが、アルミン・アルレルトの説得によって、エレン・イェーガーの巨人体は目的を取り戻し、自らの役割を果すべく立ち上がる。
岩を抱えたエレン・イェーガーの巨人体が確認された時点で、イアン・ディートリッヒは声を張り上げていた。
「死守せよッ!!」
命に代えても、エレン・イェーガーを守れ――と。
士気が、盛り上がる。
人間よりも、エレン・イェーガーを攻撃対象として認識する巨人達。
奴らを止めるのにもっとも貢献しているのは――人間ではなかった。
巨人を攻撃する奇妙な巨人。エレンと同様に人間が変化したものかとも考えられているその巨人は、エレンに群がる巨人を悉く殺していた。
その奮闘により、人間の犠牲者も、確実に減っている。
一歩一歩確実に歩み進めるエレンを、遮るものは何もない。
ミカサ・アッカーマンとアルミン・アルレルトは顔を見合わせた。
互いの瞳に希望の灯が宿っているのを、二人は確信した。
――戦え。
ミカサには、エレンの言葉が聞こえたような気がした。
――戦え!
アルミンもまた、同様である。
風を斬る巨人の拳、乾いた音を立てる立体機動装置。
そして、はじけ飛ぶ血肉。
緑の眼光はそれを見据えて、着実に足を進める。
そして――遂に、扉の穴の前に到達する。
それを確認した奇妙な巨人が、動いた。
唐突に、近くにいた十五メートル級の巨人を抱きかかえ、走り出したのである。
エレンに、向かって。
――事ここに至ってエレンも獲物に定めたか、と人間の間に緊張感が走る。ミカサが反応し、立体機動装置を起動させる。
身体を浮かしかけた彼女はしかし、その巨人の目がエレンを見ていないことに気付いて動きを止めた。
その巨人は、姿勢を低くしてエレンの横を通り抜け。
――十五メートル級の巨人ごと、穴の外に出て行ったのである。
直後。
エレンが、大岩を振り下ろす。
轟、と風が吹き荒れて――作戦は、成功した。
人類の、初勝利である。
しかし、人間にとって大きな戦力になるはずの巨人には、逃げられた。
◆◇――◇◆
気分はライバックである、と言ってどれだけの人に通じるかは分からないが、取り敢えず言っておくことにする。
Ryback rules!
さて、ちょっと空気読めない人――巨人だ――になってしまったが、無事壁の中からの脱出には成功した。
だが、少し――というか、盛大な問題がある。
確か、壁の向こうには、丁度調査兵団が居るんじゃなかっただろうか。
「――巨人だ!」
やっぱりぃいいい!!
ガスを噴出しながら飛んでくる人間たちを回避しながら駆け出す。
ああ、なんかデジャヴ。
俺は内心半泣きになりながら逃げ続けた。
続きません。