召喚演舞   作:tonton

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召喚演舞 舞ノ壱

 

 

 幼い頃の最古の記憶。

 これを覚えている人間がどれだけいよう。

 

 輝かしいものだったかもしれない。

 恥じ、隠し通したいものであるかもしれない。

 もしくは、忘れ去るべき汚点である場合もあるだろう。

 

 だがもし、その記憶がある日突然奪われたとしたら?

 自身が起こした忘却でも欠落でもなく、他者からによる簒奪。

 そんなものが世界規模で起こればどのような混乱に陥るのか―――これはそんな世界で立ち上がる一組の少年少女と、それを取り巻く英雄達の物語である。

 

 

 

 

 

 海峡を往く船が5隻。

 特にこれといった特徴があるわけでもなく、木造のそれは誇張も偽りもない。が、その船団は“世界と文明が滅んだ”世界において一級品であるといってもいい船だった。

 

「みえて、きたね」

 

 その一団を先往く船、旗艦と思われる比較的豪奢な船首に立つ少女が一人。

 夕焼けの朱に染まったような赤髪。長髪に伸ばした髪を左右に細く結い、大人しさの中に洒脱さを演出させようとした試みが見えるが――それでいても丸く紫水晶のように澄んだ瞳など、全体的に幼さが抜けきらない少女のものである。

 だがしかし、少女の船旅というのにはこの船の装備は剣呑であり、何より少女の瞳に宿るのは戦を覚悟した者独特の揺らめきを湛えていた。

 故に―――これから彼女、或いはこの船団が赴く先が並々ならぬ戦場であると想像するのは容易かった。

 

「あっ、姉貴、やっぱりここにいたのか!」

 

 そんな彼女の背後、船室が開け放たれた音の後に、姉貴としたい呼ぶ声が甲板に響く。

 振り返ると、人――というのには特徴的すぎる二つの角を額に生やした少年がそこにいた。

 

「ん、ちょっと懐かしくてね。見えてきたって聞いたから島を眺めてたんだ。カゲロウこそ、そんなに慌ててどうしたの?」

 

 カゲロウ、と呼ばれた少年。と思われる彼は船の中を駆け回ってきたのか方で少々息をしている。

 無論、日々鍛えているだろう身体から察するに船内を走る程さほど苦にもならないだろうが、今日の波は殊更荒い。熟練の船乗りなら走り回る徒労など取らない程だ。が、それでも苦にならない筈のものを示すというのは彼なりの意思表示なのだろう。

 単的に言うのなら、“頼むからやんちゃをするな”という抗議のようである。

 

「どうしたの? じゃないでしょ。島到着前にみんなで最後の打ち合わせをするって話してたじゃんか。ほら、早くいかないとラディリアにしこたま怒られんのおいらなんだからな」

 

「ああ! そっか忘れてた」

 

 虚の無い表情からして、どうやら少女は素で件の集まりとやらを忘れていたらしい。

 脱力したカゲロウの様子からして、彼女のこのような振る舞いはさほど珍しくもないのだろう。漏れる溜息は苦労人の貫録さえ醸し出していた。

 

「はぁ……まあ、“名もなき島”を目の前にすればその気持ちはおいらにも解らなくないけどさ――」

 

「うん――やっぱり実感わかないもんね。数年前まで私達があそこで暮らしていたなんて」

 

 彼等の世に伝えられる“空白期(パラドックス)”。

 ある日突然見知らぬ土地にいる自分を自覚し、その記憶をさかのぼる術を奪われた怪異事件。

 世界規模で発生したそれらは、ひどい症状の者で自分の名前すら喪失した人もいる。

 そうした混乱の中で社会的機能を剥奪された彼等がまとまり出すまで3年の月日を要した。短いのかもしれないし、長いのかもしれない。だが、相違した擦違いと摩擦を経て、彼等はある結論に至ったのだ――

 

 ――とある海の向こうに“過去に至る術”があると。

 

 果たして、それはだれが言い出したのか。

 文献にも、比較的健常な者の知識にも存在しない筈のそれらを、いつしか彼等は共通の認識として捉えていた。

 そう、理屈ではない。

 そこにある術、名前も知らない島の存在を知覚した時、彼等は脅迫概念にも似た感情を抱いた。

 魂に刻まれたとでもいえばいいのだろうか。あるいは、蛹から脱皮した羽虫が当然と飛べる様に――そこにたどり着かなくてはいけないと、それまで手を取り合う事すらままならなかった彼等が嘘のように組織を作り上げたのだ。

 

 その船団こそ、彼女等が乗る5隻の船である。

 といっても、未開の土地へ渡るには少々心許無く感じる数ではあるが――

 

「しっかし、島を前にして半数落とされるとか……いったいあそこに何があるんだってーの」

 

「うん、でも――だから確信できる。あの島には空白期を埋める何かがあるんだって」

 

 航海から到着をまじかにして異形の襲撃を受けてこの数なのだから、実に彼等は精鋭である証明でもあった。

 油断していた訳でもない。

 未開の土地に臨むにあたって、一人一人が緊張感を保った長旅、それがようやく一区切りという所で、それらは現れた。

 人というにはおこがましいほどの巨躯。

 波に揺られる船が玩具の木船に見える程圧倒的な暴威の顕現。

 気づいた時には先行していた3隻が呑み込まれ、続く腕の一振りでさらに一隻。瞬く間に沈められたのだから、寧ろそこからこの被害なのだから御の字である。

 そして、赤髪の少女“アルカ”の言葉の通り、だからこそ彼等は確信に至った。

 外敵がいる。その先には、望みに沿おうと沿うまいと、真意に至る隠された導があると。

 

「―――ま、そういうのは頭脳労働担当に任せようぜ。おいらたちは現場担当現場担当っ」

 

「あ、それだとまるで私が何も考えてないみたいじゃないっ」

 

 軽いじゃれ合いで怒る態で先往くカゲロウを追いかけるアルカ。

 だが、この時彼等は気が付くべきだった。

 船室にいれば感じられないだろう僅かな違和感。彼女等の世界と島を隔てる海を渡ることの重大さを、その境界を超えた事による悲劇の前兆を―――

 

 

 

 

 

 島へ先に上陸した舞台が野営地を設置してから上陸が完了するまで幾ばくか、彼等が踏んだ未開の地に関する感想はいたってシンプルだった。

 

 ―こんなものか―

 

 誰が零したわけでもなく、それは皆の胸に伝来していた感情を代弁していた。

 至って普通の浜辺。

 未開というには“見慣れている”ような奇妙さを抱かせる。

 通常、外界を目にし、違う文化に触れればその際の大きさに感銘を受けたり忌避したりと、それがおそらく人として一般的な感慨だろう。だが、この場所にはそうした摩擦が存在しない。

 

 挙げるなら、その波の音を聞いたことがある。

 頭上を照らす太陽の暖かさを感じた事がある。

 広がる木漏れ日の清涼さを、あるいは木々の葉音からおぼろげながら名前も知らない木を知っている様な――

 さらには、実る果実の甘さが舌の上に容易に再現されていた。

 

 そう、自分はこの光景を知っている。

 既視感、とでもいえばいいのだろうか。どこか脳裏にしこりを残しすむずがゆさに皆が困惑していた。

 

「ハイハイ。島に到着して物珍しいのもわかりますけど、私達の目的を忘れないように―――部隊を編成します。各自、出立前の通達にあったように―――」

 

 その困惑に染まった空気を、乾いた手を叩く音で払拭する声。

 柔らかさと、独特の高さを持つそれは女性特有のものであり、その想像通り、皆が振返る先には“管理官”と呼ばれていた女性が片手に持つボードを確認しながら皆を整列させていた。

 一目見た印象として、彼女は柔らかさと硬質さを併せ持った不思議な印象を与える人物だった。

 いや、人――でいいのだろうか。

 服装は―――らしい、といってはおかしいが、給仕嬢のような装いに違わず、てきぱきと区分していく様は文句の付けどころがないほど淀みが無い。

 が、その表情のふとした時、また日の光を照り返す髪の質など、所々で機械的、あるいは人形の様な無機質な印象を抱かせる。

 もっとも、そんな彼女の言葉は此処に集った一同にとって揶揄するようなものでもなく、信頼されているようである。

 

「はい! 管理官さん管理官さん!」

 

「―――なんでしょうアルカさん」

 

 訂正、約一名――もとい、約一組から不満の声があったらしい。

 件の甲板上で島を眺めていた少女アルカとカゲロウのものだ。

 

「私とカゲロウ、港を出る前に配属先受けてないなーおかしいなー、とか、おもって、たり?」

 

 だが、途端に凄味が利く目で睨まれた子供のように尻すぼみしていく。

 元気よく、手を挙げて主張していただけに少々奇妙にも見える。加えて、別段“管理官”と呼ばれる彼女は別に怒気を宿した視線を全力投球している訳でもなく――寧ろ無心無感情を体現したような表情で見返していたので、本来ならそのように畏まることなど無いように思える。

 

「……アルカさん。出立までの数日で貴女が提出した反省書の数々、ここで朗読してみましょうか?」

 

「あ、いえ、スイマセンデシタ」

 

「本来なら、反省の意味を込めて第二陣以降に配される予定を、総帥の意向で同行で来たのですから――すこしでもありがたみを感じるのなら大人しくすべきじゃないんですか、と。私は考えますが」

 

 会話の内容を察するに、アルカとカゲロウはこの遠征以前に何某かのトラブル、あるいは始末物の事態を起こしているらしい。それも管理官の表情を察するにあまり看過できるレベルではない様子である。

 表情らしい表情は浮かんでいない筈なのに、対面の彼女の背後に炎のような揺らめきを感じたのはアルカの気のせいだろうか。

 

「――まあ、別に私もあなた方のことを嫌っている訳ではありません。これでも、それなりには評価しているんですから。ですから、この場で情報がある程度まとまるまで大人しくしていてくださいと、そういう事です」

 

「管理官さんっ」

 

 感極まって抱きつくように飛び掛るアルカを冷静に後退して躱す管理官。

 仕事に無駄が無い彼女は所々でドライである。

 

「まったく、元気があるようなら荷卸しがまだ完了していませんから、そちらの方を手伝ってあげてください」

 

「は、はいっ」

 

 彼女等のやり取りに異界の地で緊張感が張りつめていた皆に笑いが漏れる。

 長旅で疲労もたまっていたのだろう。簡易とはいえ、自営の場を確保した安堵も一役かっていい塩梅で場の空気が統一される。

 いくら見知らぬ地に攻め入るとしても、糸を張りつめすぎていてはいつか限界が来てしまう。そうした意味で幾人かが懸念していた旅であるが、どうやらその心配も懸念だったらしい。

 

 

 

 が、それも時と場合による。

 

 

「―――ッ!!!!!」

 

 周囲を圧する極大の冷気――いや、熱気と混同した本来相反する属性が混じりあい、態勢を整えていた精鋭たちの中にも膝を屈する者が出てきている。

 だが、それも無理からぬ異常。

 もはやここまでくれば他に結論の出しようもない。

 相反する冷気と熱気の根源、その原泉である頭上の殺気を―――

 

「敵襲!!」

 

 極大の殺意は文字通り空間を圧している。

 そは熱と冷気の混沌、どのような絡繰りでなどと、それを推量る事すらおこがましい。

 異国どころか異界の、その術法を初見で見切ろうなどと土台無理な話であるのだから。

 

『ああ、やはり。どうしても来るのか――』

 

 黒髪の――おそらくは女性と、同じ色をした髪を風にたなびかせて空中から睥睨する男性との二つの影。

 おそらく、というのは彼女等の周囲が歪み、その全容を認識する事を酷く困難とさせているからだ。決して遠い距離ではない、が、その身に纏う仰々しい鎧と、顔を覆うマスクがその判別を許さない。

 だが、これだけは馬鹿でも解る。

 とてもじゃないが、アレは来客を歓迎している訳ではなく、ひどく怒り狂っていると。

 

『どこまで土足で踏み荒せば気が済むというのだ■■ッ!!』

 

 ただ浜辺にたどり着いただけであり、野営地を築きはしたが――それで怒るというのは少々分量が割に合わない―――だが彼女等にとって自分たちは侵略者側であることは間違いないのだ。

 

『仕方ないよ■さん。彼等はそういうモノで、それを慮ろうとするのはひどく徒労だよ』

 

 そんな怒りを露わにしていた女を嗜めるように前に出た男。

 然程距離が離れていないせいか、その背が正常な人と比べてあまり差が無い事に驚く。

 

『――っ、ええそうね■■■。ごめんなさい、少し熱くなってたわね』

 

『仕方ないよ―――気持ちは、僕だって痛いほどわかるからさ』

 

 先の航海で船団を襲ってきた異形の襲撃者と比べれば少々弱々しい、と感じるも、その認識は皆次の瞬間に一変する。

 女を嗜めていた男の発言を皮切りに、周囲を燃焼させていた熱が途端に高まったからだ。

 見上げれば、その男の目が、周囲の熱に反して底冷えする程に凍てついてる。彼が女より冷静だったわけではない。二人は、最初から怒りに総身を震わせていたのだ。

 

『ここは貴様らが踏み込んでいい世界ではない』

 

『それでも尚足を着くというのなら――いいさ、もう止めはしない』

 

 すらりと、二人の腕がそれぞれ虚空を踊る。

 儀式めいた優美さを思わせるソレは舞のようであるが―――舞いは舞でもアレは相対する者へ向けてた死の踊り(トーテンタンツ)だ。

 その証拠に、彼等の体が舞の終わりに近づくにつれて、熱を放つ様に高ぶっていく。

 片割れは凍てつく紫電を身に纏い。

 片割れは業火滾らせ瞳を朱に染める。

 

『『薄汚い■■の細胞どもっ、一人も生かして帰さない』』

 

 殺意の発露、その顕現をもって全てを屠ると誓う様に、彼等の手にそれぞれの魔剣が握られる。

 

『――今から絶望を教えてやる』

 

『――総て焼け爛れ、塵となれ』

 

 宣言は勧告でない。

 乞われようと首を垂れようと、お前たちは皆諸共すべて滅する。

 そう、死刑を告げる、無慈悲な断罪の告知に他ならない。

 

『――召・喚――』

 

 瞬間世界が一つの終わりを迎える。

 来るべきではなかった、あの海で半数を全滅された時点で引き返していれば―――

 背後で聞こえる恨み節はしかし、もはや後の祭りだ。

 抜かれた断首の刃は首を切り落とすまで止まる事はなく、今さらあの暴威を目にして逃れられると楽観できるほど彼等はおめでたくない。

 故に―――

 

 この日、彼等の遠征した部隊は全滅という結果をもって幕を閉じた――――――――

 

 

 






 正直、夜都賀波岐(?)の二人がこれで解る人は結構なサモンナイトloveだなと思いますw
 短編一話目という事で一応『舞ノ壱』と銘打たせて頂いてます。口調的に大分彼等が原作と違いますが、神咒神威神楽をご存知の方はある程度推察できるのではないかなと、思います。
 突発的なアイデアの発露ではありますが、どうか一時でもお楽しみいただければと思いますので、この作品もどうかよろしくお願いします。
 あ、一応、『黒円卓の聖杯戦争』優先すると宣言しますので、そちらも現在執筆中ですのでご心配なく!
 では、短編という事ですのであとがきもこの辺で。
 一話という事もあり、感想等というのは難しいでしょうが、意見等一言でも頂けると励みになりますので、そちらも含めて、よろしくお願いします。
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