皆がそれぞれ己の武勇を誇り、所謂寄せ集めの部隊にもかかわらず一応のまとまりを見せたのはつまり、それだけ自身を含めたこの第一陣にそれなりの自信の表れでもあった。
がしかし――島に上陸した部隊は壊滅した。
それも一方的に、抗う事が出来たものなど一人もいない。
圧倒的な蹂躙による制圧。
いうなればアレらは天災の類が人の衣を纏っていたのではないかと思う程の理不尽の顕現であった。
故、生残った僅かな者も皆無事で済んだものはおらず、島に足を下した時の覇気が皆無だったのは言うまでもない。
そう、だからこそ、彼等を襲った天災たちの目的は果たされた――――筈だった。
甲冑を身に纏い、空気を揺らめかせるほど濃密な魔力の残滓――襲撃時よりは幾分収まってはいるが――それを納めもせず前を行く女形の異形に付き従う様にして数歩後ろを歩く男の姿。
その姿は連れの女性と男との距離感からも仲睦まじい間柄を窺わせるが、その姿と、周りの雰囲気がその印象を粉微塵に打ち砕く。
空は闇色に、一寸先も見通せない程仄暗く。
周囲に真面な動植物は存在せず、木々は痩せ細り、辛うじて生きているようなそれらが乱立している。動物に至っては生の営みを感じさせない程に無であった。
もしくは、彼ら以外にこの場に生き物がいないのではないかと思わせる程に、見る者に死を思わせる場所だった。有体に言って地獄のようだと表現されても間違いはないだろう。
と、進む男女の足音を除いて静寂に包まれていた場所に――
「―――なんだ、随分と、派手にやらかしてきたみてぇじゃねぇか御両人」
「■■■か―――」
先に反応したのは女性の異形。
互いに見知った間柄ではあるようだが、如何せん受け応える女性に棘の様なものが見受けられる。
その若干の鋭い言葉を飄々と受け流す声の主は彼等の視線の先、地面から突き出る様に据えられた岩の一角に腰掛けた筋骨隆々の男のものだった。
髪色は見上げる男女のそれとは違い、砂色に近い頭髪をざんばら――という程ではないが、肩口まであるそれを気にした様子もなく、流れる風に好きに晒している。
服装も甲冑を身に纏う二人に比べれば着物を着崩した、あるいは
意図して軽風な態を装っている様な男ではあるが、それがこの異形の全てではないのだろう。
「別に、アレの撃退は我らの総意だろう」
そして、そんな男の性格も癖も良く知っているだろう二人、その内の女はつまらない事を聞くなという風に吐き捨てる様にして答える。
先程の襲撃の際、上陸した部隊に対する怒りの発露といい、彼女達がアレ等に相当の恨みを抱いていたのは明白だろう。
「そ、例え埃の様な底辺でも、積もれば始末に悪い、ってね」
「っとにコイツは……さすが、相変わらず嫌味が利いてるなオイ―――」
そして恨みという点で優男も例外でははなく、雰囲気こそ女よりは物腰柔らかだが、語る言葉には棘をふんだんに盛り込んでいる。そして、その言葉は一見すると侵入者に対する罵倒の類に取れるが――岩上の男はどこか覚えのある言葉だったらしい、それも嫌な意味での方である様子だ。
「……まあいいさ。で、これからどうするんだ?」
「どうする、とは?」
侵入者たちは壊滅的打撃を与えた。
これで去るなら程度の者達ならば島には平穏が戻るだけ。
無知無謀にも少数で先を目指すというのなら、より深い絶望で奈落に見舞えばいいだけの話だ。
が、だというのに、目の前の節だった男は本当にわからないのかと問い聞かせる様に語りだした。
「部隊は壊滅、生残りはほとんど……いや、僅かにはいるかもしれないだろうが――それでも進撃してくるという可能性もなくはない。お前さんらも、アレがあの程度で諦める筈もないのってのは分かってるだろ。島の外にはアイツの泥を被った走狗がわんさかいる。幸い、今回の連中には自覚が少ないようだが……終いには――」
その口から洩れるのは不安、懸念、憂慮に煩慮、疑懼。
先程二つの異形が巻き起こした蹂躙、それを知って尚彼が指摘する気掛かりは、まるでナニカに恐れを抱く弱さの様なものが見て取れる。
だがそれは本来ありえないだろう。
あれだけの暴威、大隊一つを瞬く間に、それもたった二人――実質女が蹂躙したようなもの――でみせたあれほど力を持つ彼等が何に対して恐れを抱くというのか―――
「関係ない。誰が来ようと何が来ようと、ただ、斬る。それだけだ」
故に、返す言葉は女の力強い否定の言葉。
何が来ようとこの地に余所者は踏み込ませないという誓いに他ならない。
「―――そうだ、その為に、私達は強くなったはずだっ」
そしてだからこそ、続くか細い、されど力強い怒りの言葉は彼女達の、この島の真実を匂わせた。
その独白とも取れる言葉は当然傍にいた優男は当然として、超常とした丈夫の耳にも届いただろう。だが、それを聞いたからこそ、彼等はあえてその言葉には言及しない。
その言葉に込められた怒りと悲しみを、彼等は誰よりも悔い嘆き、共通の痛みとして胸に刻んでいたのだから。
「ま、そういう事だね。■■■も、態々来てもらって悪いけど■さんも疲れてるし、出来れば報告は早めに済ませたいんだけど―――」
「ん――? ああ、いいっていいってそんなもん。本来ならもっと奥に控えてるお前さんらがかっ飛んでいってくれたんだ。その程度の些事はこっちで何とかするさ」
彼等の間柄に上下関係というものはない。だが、同じ島に住む者として互いに憎からず思っている所はあるのだろう。
だからこそ、労いはするし心配もする。襲撃者たちに勇んで飛んで行ったのは彼女達だが、それでいがみ合う程その絆は脆くはない。
それ故、岩から降り立つ男の言葉に特に文句は返さず、軽い会釈で促された男女二人はゆっくりとその先に向かう。
「それでは■■■、後は頼んだぞ」
向かう先、おそらく彼等にとってのねぐらに歩を進めるその姿は襲撃時から一転して弱々しく見え、付き従う男の距離も、先程より少々縮まっている様に見えた。
「―――さて、面倒な事になってきたなコレは」
そんな二人の姿が小さい点になって見えなくなった頃、その姿を微笑ましいげに眺めていた男は相貌を苦々しげに歪め、海岸の方へ視線を投げる。
このままではいられない。
いつかは変化に巻き込まれる事もあるだろうとは覚悟していた。
だが、その変革の兆しに直面して、正面から構えられれるものがどれだけいるのか―――
「ハッ、愚問だなそりゃ。なるようにしかならねぇよな、きっとよ。だから―――」
この気持ちは借り物でも張子でもないと、視線を鋭く、己の覚悟を証明する為に彼は歩き出した。
壊滅した遠征部隊。
そう、“全滅”ではなく“壊滅”。
突然現れた暴威を前に、皆
それ故急ごしらえではあるが、船の残骸から野営地を離れたところに急患を休ませられる小屋を設けた。むろん、雨風を凌げれば上等という代物だったのは言うまでもなく、お世辞にも居心地は良くはない。
そんな場所で、消沈していた少女が一人、簡易に設けられたベットの前で祈るように手を組んでいた。
「―――カゲロウっ」
ベットに横たわっていたのは、カゲロウと呼ばれていた鬼の子だった。
死んでいる訳ではない。
あの時、突然の襲撃に襲われた混乱の中、立ち向かうもの、逃げ惑うものを押しのけ、彼は少女、アルカを守る為に身を挺したのだ。
怪我は見るに堪えないものだったが、幸いにして命に別状があるわけではない。
だが、設備も碌に整っていないこの場所では怪我といえども致命傷になる。故に、彼は他者とは異なった点、鬼の子という身体的丈夫さと異様に高い回復力に救われていた。
もし、アルカが彼と同じ傷を負っていたら―――考えるまでもなく自分は助からなかっただろう。
だからこそ、彼女は自身の非力さを責める。
対等とはいわなくても、近しい何かを感じていた存在だった。
“空白期”を迎えて最初に傍にいたという事もあり、なんとなしに、そのままともに行動する事が多かった。それだけの間柄ではあったが、思い返せばその存在に救われた事は数え切れない。
そもそも、記憶を白紙にされる様な症状に見舞われて、彼女が錯乱しなかったのは近くに心許せる人物がいたからだろう。
抵抗はなかった、懐疑も、恐怖もない。
人とは異なる特徴を持った彼ではあったが、傍にいるのが当然と受け止め、遠征に参加する前から長い長い旅を共にしたパートナー。
「ごめんなさいっ」
何度も何度も、繰り返される謝罪が狭い個室に響く。
気を使ってくれているのか、手当を担当していた者も席を外してくれている。勿論、怪我をした者に対して治療に回れるものが少ないのだから、ある意味では当然の処置と言えるのかもしれないが、今はアルカもその対応が有難かったのだ。
「――やぁアルカ。こんな所にいたのかい」
だが、そんな空気などどこ吹く風という風に扉を開けて現れた白衣の様なコートを身に纏う男が入室した。
「え――と、どなたですか?」
泣き腫らしていた目元を袖で拭い、背を向ける形になった不敬を詫びて会釈するアルカだったが、目の前の男にはてんで覚えがなかった。
今回の遠征にあたって部隊の者の顔は一応すべて記憶していたと思った彼女ではあるが、脳内の検索にはまるで引っかからない。
恰好からして、戦う、というより研究職、もしくは医療関係に携わる風ではある。
もしかしたらカゲロウの容態について何か聞き忘れた事でもあったかと彼女は突然の来訪者を前にしてワタワタと慌ててしまうが――
「ははっ、まあ覚えていないのも無理はないよね。“空白期”の所為で僕らはいろいろな絆を奪われた――でも、僕は君のことを知っていたよ。だから、あえて嬉しいよアルカ。久しぶりだね」
そんあ彼女の姿が微笑ましいと笑みを零す男は、片手でなだめる様に自分の目的を告げた。
「ギフト、さん……ですか」
カゲロウが心配だからと個室から然程離れず、同じ建物の外で話す事になって告げられた名前を反復するアルカ。
どうやら目の前の男、ギフトは“空白期”において他の者とは比べて比較的軽い症状だったらしい。そしてその穴だらけになった記憶の断片に現れた少女というのが、アルカだというのだ。
「ああ、遠征の第二陣に志願したのはたまたま、というか僕の研究所、御上の通達だから運命も何もないけどさ。うん、だから先遣隊の名簿を見た時には驚いたよ。まさかこんな所で君に会えるとは思わなかったからさ」
彼なりにに探し歩いたそうだが、世界というのはただでさえ広大であり、記憶が無いという事は土地勘もないという事で、捜索は手がかりすらつかめなかったという。
それでもあきらめきれず、今日まで探し続けた執念は尊敬に値するが――
「えっと、その、申し訳ありません。私、貴方のこと―――」
「まった。会いたかったっていうのは僕の一方的な都合だし、君が謝ることじゃないよ。僕はこの再会に感謝しているし、それだけで満足だ。勿論、それを切っ掛けに、あわよくば記憶も――なんて思ったりしたけど、知ってる人と会えるっていうのはそれだけで得難いんだよ」
記憶を失った者達に、それはままある光景だった。
同じ症状にかかるものがいれば、その深度も様々だ。
記憶をきれいさっぱり白紙にされた者、生活知識を剥奪された者、隣にいた恐らく知り合いだろう人間の名前すら思い出せない者もいる。
そんな中で、ごく稀に穴だらけではあるが、“空白期”以前の記憶を保った者がいる。
そうした者は混乱が少ない分、これまで社会的貢献に大きな影響を与える者が多く、記憶を失った集団をまとめるのは、彼等がいなければもう十数年は要したと言われるほどである。
そして、目の前のギフトと名乗る男もそんな記憶を残していた人間の一人なのだろう。一人でこの場に現れたが、コートに添えられた階章は部隊の長を表すものだった。
そうした役割を持つものがこうした場に、それも安全も確認できていない早期に訪れるのは予想外ではあったが、彼を含め、今は第二陣の到着がただただ有難かった。
聞けば既に第二陣の船から医療資材が優先的に搬入され、火の車状態だった人員もある程度落ち着けるめどが立ったらしい。
そして、そんな部隊の彼が個人的理由だけでこの場に現れる筈もなく、こうしてアルカの前に現れたのは偏に真面に話ができるのが彼女を含め少数だったためだろう。
聞けば此処までに幾人か長話にならない程度に聴取は取っていたそうだ。
だから、この作業は報告というより確認作業に近い。
もちろん、アルカ本人に会いたかったという彼の言葉に嘘はないだろうが、部隊の長として窺う彼の顔は真剣そのものであり、彼女もそそれに合わせ、状況を頭の中で整理しながら一つ一つ互いに確認していった。
「成程――この島には僕たちの失った記憶を取り戻す為の何かがある、か。島目前での襲撃といい、先遣隊上陸時に襲撃してきた、二体……というべきか。それらの存在からしても、ここに手がかりがある可能性が高いだろうね。――ああ、もちろん、一筋縄ではいかないのは確実だろうけどね」
結論として、事態の深刻さをより重く受け止める事になったのだが。
苦笑と共に、アルカの緊張をほぐす為か、強張っていた表情を崩し、笑みすら浮かべておどけて見せる。
なんとなしに、その表情と語り方に懐かしさを感じた彼女は思わず笑みを返してしまうが――流石に不謹慎かと慌てて顔を振って引き締める。
ここは先の襲撃で傷ついた人がたくさんいる。そんなところで和気藹々、という訳にはいかないだろう。
が――
「ほら、そんな顔しないで―――今度は僕たちの部隊もいる。大丈夫、今度はこちらから出向く番だ。だから、これからは一緒に頑張ろう」
そんな彼女の頬をつつくようにして表情が硬いと指摘する顔は、見た目に反して子供っぽさを感じさせた。
思わず和みそうになった表情を、アルカはまた慌てて引締めようと額に力を込めるが――今度はそれも長く続かず、目の前から笑い声を返されてしまった。
そして、そんな彼女の前に差し出される手に思考が追い付かなかった彼女が思わず首を傾げそうになると、目の前の青年は横を向き、心なしか熱を持ったように淡く頬を染め、むず痒そうに人指し指でかいていた。
「再会と、これから一緒に頑張ろうって、意味だけど……アルカ、でいいかな。――はは、ごめん。なんかさん付けも違和感あってさ」
「そんな、こちらこそよろしくお願いします。ギフトさ――」
と、反射で返しかけたアルカではあったが、不意に刺さる視線を感じて言葉に詰まる。
正面、やや情報からの抗議の矢だ。普段鈍いと相方から指摘される事が多い彼女にも、この時ばかりは把握できた。
「あはは、よろしくね。ギフト」
苦笑と共に握り交わされた手。
感動の再会、というのには何とも締まりのない括りとなってしまったが、お互いこの出会いに心強いものを感じていた。
幸先はすこぶる悪い。だがきっと――とあやふやだった未来像が見えてきた気がしたのだった。
ども、tontonでーすよ!
ハイ、なんとなしに続いた“召喚演舞”第二話、如何だったでしょうか?
■が多くてよく解らない? いえ、これも神咒神威神楽に沿った、前作のキャラを覆うという手法です。読み手側は、どれがどれなのか想像すると面白いでしょうね。まあ、そっちの原作と違い、こっちにはCGが無いのでいまいち伝わり辛くはあるでしょが……そこは私の画力、ならぬ執筆力次第! ―――ぷ、プレッシャーが(震え
いえいえ、兎も角、更新は相も変わらずこっちの方は遅いでしょうが、これからも続けていくのでよろしくお願いしますデスヨ!
そして最後にちょっと呟くと―――短編にする筈だったのにこのペースだと長編ぽくなりそうなんだけど(戦慄
が、頑張ります!