召喚演舞   作:tonton

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召喚演舞 舞ノ陸

 

 何のために自分たちは“ココ”に来たのか。部隊の皆に蔓延する重い空気の源泉は、そうした感情からだった。

 島に入る前に受けた大打撃。上陸直後に事実上の壊滅。増援である第二陣で補強されたとはいえ、それでも行軍を行えたのは偏に皆に共通した目的があったからだ。

 例え待ち受けている敵が強大であったとしても、その歩みが絶望出来であったとしても。それでも、“歩みを止めるよりは遥かにまし”だと。そうしたある種特攻めいた念で進んできた。

 

 だけど、

 

『やはり、汝等も……ほんに、期待外れとはこのことか』

 

 紅い城の最上階で出会った女形の異形。これまでであった“敵”が問答無用に敵意を向けてきたのに対し、初めて対話らしい会話が成立した場で、彼女が残した言葉の一つだ。

 それまで見せていた温かみと共に笑みが消え、凍てつくように温度を感じさせない表情。彼女の言葉をそのまま汲み取るのなら、あの邂逅において彼女はこちらを値踏みしていた。つまりは何かを期待していた。

 だが、彼女と自分は初対面のはずだ。向こうが期待するようなものも何もないはずで――しかし、もし仮に彼女等がこちらの記憶外、“過去”による何某かを知っているのだとしたら話は違ってくるのではないか。

 

 例えば、例えばそう。ありえない仮定の話だが、まるで種族の違う外見の彼女達が、自分たちと彼女等がルーツを同じくした存在であるだとか。

 

「あ、あの、コーヒー持ってきましたっ」

 

 目の前に差し出されたカップ。その手を辿るように顔を上げると、そこには頭の上に獣耳をはやした、若い少年とも言えるような子が立っていた。もっとも、部隊を管理しているラディリア曰く、戦闘能力に関しては成人顔負けの能力であるらしい。人――ではないのだろうが、これもまた見かけによらないということになるのだろうか。

 

「えっと……あの」

 

「あ、ごめんね。ありがと」

 

 どうも今日は考え事が多いなと苦笑しながら、彼が持っていてくれたカップをを受け取る。急いで持ってきてくれたのか、手に取ると器の暑さに取り落としそうになった。

 

「何か悩み事ですか? ボクでよかったら―――」

 

「おいっワンコ! 人手足りないんだから早く戻ってこいよ」

 

 きまり悪く微苦笑を浮かべながら誤魔化していると、キャンプの方でこちらに手を挙げて呼んでいる男性の姿が見えた。どうやら獣人の彼と親しい者らしく、アルカに話しかけていたそれより砕けた口調で彼は返事を返した。

 

「すいません、向こうで呼ばれちゃったんで。あ、器はまとめておいてくれれば後で取りに来ますから」

 

 急ぎ足でキャンプの方に走るその足速く、それなりに離れていたはずの距離をあっという間に縮めていく。

 再び一人になったアルカは受け取ったカップのに口をつけ、また思考の海へと沈んでいく。

 

『妾達はこの先にて待つ。進むか、退くか。もはや止めはせぬ。ただ』

 

 わかっている。自分たちの望みはこの先にあって、その目標にすがって皆がようやく結束している。今は大部隊となっているこの連合でさえ、そうした旗の元に繋がっているだけ。退けばまた終わりの見えない闘争の日々がそこに待っている。

 

「相応の覚悟で臨め、か」

 

 言われなくても、自分たちが選べる選択肢なんて他にない。

 

 

 

 

 

 立ち止まっていられるわけがない。

 あの城から脱出し、本体と合流したのにちカゲロウたちは足を止めず、再度行軍を開始した。というのも、城の偵察に向かったメンバーとは別に、この先のルートを確認するために、ラディリアたちが斥候を出していたからだ。そして、カゲロウたちが戻ってくる直前、慎重に歩を進めていたはずの斥候が全て(・・)戻ってきてしまったのである。

 今までの検証から、島の内部に進むためにはルートが固定されていたのは実証済みだ。それ以外のルートを通れば押し戻されるといった具合に。だが、今回のそれは斥候の全員を問答無用で本体の場所まで飛ばしたもの。加えて一度通った筈の道が通れなくなるというおまけつきだ。

 鬼姫の言う、止めはしないとの言葉通り、当初と別のルートが通れるようにはなっていた。が、しかしそういうことはつまり、この島の化外たちがその気になれば、この部隊全てを島の外縁まで吹き飛ばせるということになる。ならなぜそれを今この時もしないのかという疑問は残るが、向こうが戦ってくれる気があるのなら進むべきだし時間をかける時ではない。

 

 かくして、行軍を再開した彼らは、四方を囲う山を越えるために行軍を開始する。道中、ラディリアが座標と方角を確認しながら進むが、現在の結界はルートをほぼ固定している。初めの頃のように振り出しに戻されるようなことがないのであれば、自然と行軍速度は上がっていくのだった。

 

「ずいぶん来たんだな」

 

 進む足が速くなれば隊の消耗を相当になる中、比較的身体能力に恵まれているカゲロウは額の汗を拭い、来た道の向こう側に見える紅い城を眺めて呟く。

 

「大丈夫か姉貴。ほら、水」

 

「あ、ありがとうカゲロウ」

 

 支給されている自分の分の水筒を差出し、隊の状況を確認しながら歩調を緩める。

 先頭を進むラディリアが逐一地図を確認しているが、彼女のそれはアナログではなく、彼女の脳内に文字通り描かれたものだ。カゲロウ自身はよく理解していないが、今こうしている間にも彼女の中で目まぐるしい量の情報が行き来しているのだろう。実際、この行軍速度が保てているのは彼女の存在が大きい。

 

「でも、だからって少しくらい休んだって……」

 

 深刻化するのは全体の疲弊だけではなく、水や食料といった備蓄の面でも表面化してくる。ただでさえ見知らぬ土地、自生する食物の安全性を検証する時間を取れない以上、いずれ備えが底をつくのは目に見えている。人が活動、いや、生きていくうえでもっとも消費する水が尽きることになれば戦闘どころか進退すら危ぶまれる。

 

「ま、そうぼやきなさんなって。大丈夫だ。ラディリアだってその辺は計算に入れているはずさ」

 

「アンタは」

 

 よっ、と軽い調子で後ろから追いついてきたのは金髪長身の青年。先の城へ先行した際に同行していたアベルトだ。口調は軽いが、彼は隊列で遅れそうになるような者がいないよう、比較的後方で全体を見ていた筈である。カゲロウの第一印象からして、軽薄そうな態に写っていたが。

 

「いい加減名前で呼んでもいいと思うけどな。どうもココの連中は肩ひじ張ってるっていうか―――っと、こういうとこ歩くときはもっと足もとに注意たしたほうがいいぜ」

 

 荒れた道に足を取られかけた少年を、会話の傍らであったアベルトがフォローする。彼自身もその足場の悪い場所を現在歩いている最中で、それも話しながらだ。

 申し訳ないと勢いよく頭を下げる少年に軽く手を挙げて返礼し、アベルトはこちらに向き直る。

 

「で――だ。えっと、ああ、ラディリアだったか。アレもここにきて動きっぱなしだったからな。でも皆に負担がかかり過ぎる、ってわけでもないだろ。ギリギリのラインってのがまたスパルタでらしいっちゃらしいが」

 

「だよな。そりゃ、部隊の大半は問題ないけどさ。中には比較的若いのもいるわけで……まぁ、実際確かにアンタの言う通りなんだけどさ」

 

 体力的な面で、“生身”とは言えないラディリアが同じように疲労しているのかは疑問だ。が、実際問題、隊の内誰かが倒れるだとか暴動が起きるだとの騒ぎはゼロである。そのあたり、たった一人でこれだけの人数をまとめ上げている手腕は驚愕の一言。素直に頭の上がらない存在だ。もっとも、だからといって不満が全く、一ミリもないと言えば嘘になるのだが。

 

「そこ! 隊が乱れてるわよ」

 

 そして、どこにも目ざといというか、所謂風紀に目端が利く人種というものはいるもので。

 男二人、こそりと愚痴に花咲かせようというところで、さらに隊の後方、最後尾の方より目尻がつり上っている女性に小言を頂いた次第だ。

 

「ま、下っ端辛いとこだわなぁ」

 

 苦笑しながら再度後方に下がっていく彼を見送る。そしていつの間にペースを上げていたのか、少し先を行くアルカに合流しようと彼は歩調を速めた。

 

 

 

 

 

 目の前の光景に圧倒されるのはこの島に来て何度目だったろう。

 城を囲うようにそびえ立つ山の一つを越え、麓にさしかかった頃。樹海のように並び立つ森を進んでしばらく、唐突に視界が大きく開けたのだ。

 

 大きく開けた土地。一見して集落のように見えるが、先ほどの城下町、と比べるとどうしてもここはそう。

 

「寂びれている。というわけじゃないわね。少なくとも、ここ最近棄てられたというには劣化具合が激しいわ」

 

 苔生した家屋。その多くは乱立する木々に押しつぶされるように、あるいは取り込まれるように根で覆われている。無事な物もいくつか見受けられるが、その多くは風通しよく大きな横穴あ空いていたりと、とてもじゃないが人の生活が感じられない。

 

「これはまた、随分大きいな」

 

 集落、とこココは仮定するとして、推察するにだいぶ自然に近く生活をおいていた種族だったのだろう。寝に覆われているものや、あるいは木の上で枝に押しつぶされているもの。明らかに木々の成長で風化させられたもので――その集落跡である中央。恐らく村のシンボルだったろう大きな切り株から察せられる情報がそれらだった。

 

「おーい! ちょっとみんなこっち来てっ」

 

 だが広いといっても見たところ集落跡地といったところ。これだけの人数がいればさほど時間も必要なく、探索の為に散っていた一人の声に一同が集まっていく。

 

「これは、畑、だよね」

 

「他にどう見えるんですか?」

 

「いやまぁその通りっちゃその通りなんだが、それで切ると進まねぇから。頼むからもう少し話広げようぜ」

 

 他に表現のしようがない。あえて言うのならその広大さはさながら

農園といったところだろうか。加え、跡地と見てとれるほど荒れていた周囲に比べ、ここだけまるでつい最近まで手が加えられていたかのように“生きている”。言葉を変えれば生活感がある、ということになるのだろう。だが、周囲には人の生活を感じられない廃墟だ。その中にポツリと維持されているという違和感がこれを見る皆に訴えかけているのだ。

 

「だけど、どれも……美味しそうですよね」

 

「ーーまさか。ここのモノを食べる、などと言い出したりしませんよね」

 

「あ、いえそのっ、や、やだなぁ管理人さん! いくら私でもそんな、こんなところでまるで食いしん坊みたいじゃないですか」

 

 行軍中で補給が望めず、軍備も限られているなかでは食事も自然と質素なものになる。それを思えば確かに、目の前のみずみずしい果物、新鮮な野菜の数々には固唾を飲むというのもわからなくはない。

 

「まあ、さすがにあんなことがあった後だし。美味しそう、って意見には同意するけど」

 

「せ、先輩までーっ」

 

 涙目で声高く主張するルエリィの叫びに空気が弛緩する。がしかし、敵地の只中ということには変わりない。

 可愛い後輩の主張も分からなくないフォルスだが、だからといって警戒を緩めるわけにはいかない。先の上陸時においても、その間隙を突くように奇襲を受けた感じなのだから。

 

「あはは、健康的で僕は良いと思うよ?」

 

 羞恥と、若干の恨めしそうなといった感情に、表情を複雑そうにしていたルエリィの頭に手を軽く置く。見れば確かに色鮮やかな果実たちに唾を飲み込んだ隊員もちらほらと。どうやら疲弊以上に行軍による無理で集中力もかなり際どいところに来ていたらしい。

 

「どうだろ? まわりの探索もあらかた回れたようだし、これだけ開けたところなら見張りを付けて交代で休憩を入れてもいいんじゃないかな」

 

 ラディリアとて進行中に全く休憩時間をとらないわけではない。だが彼女のそれは必要最低限。隊の維持を優先させたもので、全体を見た体力の平均値から計算されている。これらを念密且つ正確に行いながら行軍している手腕には正直頭が下がる思いだ。が、やはり遅れる者や不満というのは溜まるもので、

 

「はぁ……、そうですね。その提案を有益なものと判断して、15分間程休憩を取りましょう。周囲の警戒は――」

 

 無論、そのあたりは彼女も理解していた筈で、その証明に皆への指示は滞りない。

 これは余計なお世話だったかなと苦笑しつつ、フォルスも給仕を担当しているものから携帯食と飲物を貰いに行く。二人分をだ。

 

「ほら、ルエリィの分」

 

「あ、ありがとう、ございますっ」

 

 残念ながら非常食だけどねと笑ながら手渡すと、ルエリィが耳元まで赤く染めて飲物のはいったカップを受け取る。少々気恥ずかしいのか、もう片方の手で携帯食料を手で転がしている彼女を微笑ましく思いながら、フォルスも自分の分のコーヒーに口をつける。やはりインスタントの味だなと、その不味いとも美味いとも言いづらいそれを飲み込んだ。

 

 そこへ――

 

「なんだ、食わねぇのか?」

 

 突然真後ろから、ぬっと顔を出した見知らぬ顔がこちらをうかがっていた。

 

「!?」

 

 手に持っていたカップと携帯食料を投げつけるようにして距離を取り、座り込んでいたルエリィを庇うために彼女を抱えて横に跳ぶ。

 

「おーおーすごいねぇ色男。中々いい反応だぜ」

 

「だ、誰ですかあなたっ」

 

 投げつけられたそれを器用に、中身をこぼさないように受け止めた彼はこちらへの視線もぞんざいに、興味深そうにカップの中身を眺めていた。

 

「しっかしもったいねぇの。食いもん粗末すんなって教わんねぇのかよ。ん――ん、んっ、味は……まぁ不味いってほどじゃねェか」

 

 厚かましくも食料とコーヒーを豪快に一気飲みした彼は、なぜか味の批評までしだす始末。

 

「これだったらここの畑の芋の方が断然うまいぜ? ま、作った男は暑苦しいヤツ等だけどよ」

 

 そのままカラになったカップを投げよこし、右手の親指で後ろの畑を指さす男。

 島の者に共通してみられる血の気の見えない土気色の肌。跳ねた金髪に野性的な、それでいて好奇心旺盛そうな目。外套のように黒い張羅を羽織りって入るが、カップを投げた時に見えた腕、服の所々に見える隆起したモノを見るにただの住人、と見るには無理がある。いや、そもそも、この島にまともな住人がいるのかも怪しい次第だが。

 

「確認するまでもない、な。この島の住人盗賊まがいに食べ物を奪いに来たわけじゃないだろう。何のようだ」

 

「ククッ盗賊、か。おっしぃねぇ。ちょっと、いやえらい違うんだが……ま、それは置いといてだ」

 

 然も可笑しいと笑いを堪えるように、額に手をやり空を仰ぐ男。

 騒ぎを聞きつけてきたのか、ラディリアたちがこちら側に走ってくるのが視界の端に移る。状況的には多勢に無勢、相手は一人。戦うというのなら論ずるまでもなくこちらの優位が高い。だが、こちらへかけてくる者らへ視線を一度だけ向けると、そんなことにはまるで興味がないというようにフォルスを、そしてルエリィを、まるで観察するように無遠慮な視線を向けてきた。

 

「確認と、ま、挨拶だ。ようこそ、“名もなき島”へってな」

 

 人懐こそうな笑みを張り付け、男は歓迎するかのように手を差し伸べてきた。

 

 

 





 なんだかんだで投稿が遅れました。申し訳ない。
 とりあえず、島側の住人を早く登場させねば(使命感
 いや、此奴はまだ連合の方々とは顔合わせしてないし(震え

 追記:割と重要な変更。
 島の住人側の詠唱である
 『――太・極――』を『――召・喚――』
 に変更します。よりサモンナイト色を出す為ですな。
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