EBA~エーバ~   作:雪宮春夏

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 短めですが、敢えてここで投稿します!雪宮春夏です。

 新年二発目の投稿となります。

 昨年と比べれば、スローペースに春夏自身も自己嫌悪になりそうですが、無理のない範囲で頑張っていきたいと思います。



♯7 引き続き 探偵リボームズ……その結論 

(嘘だろう……UMAが、人を襲う、なんて…)

 スパナのもたらした情報は、UMA大好きな彼にとってはどうやら耐えきれない内容だったらしい。

「俺達の……一体何がいけなかったんだ……!?」

 そこで悪いのが己達と仮定する辺りは、謙虚なのかも知れない。その場で座り込んでしまった獄寺に、当然彼らの進む足取りも止まる。

「アルコバレーノ。アレ……何とかならないんですか?」

 しかしここでそんな獄寺の心情に同調する者は一人もいない。

 一癖も二癖もある守護者達といえども、ここまでUMAへの愛を拗らせているのは獄寺ただ独りである。

「どうにもとは言えねぇな。……獄寺。いい加減にしねぇと一人で並盛へ帰らせるぞ」

 しかし、常にはUMAへの愛を拗らせるだけの獄寺は現在、それ以上に十代目への執愛を拗らせていた。

「十代目……」

 ポツリとその言葉を呟いた瞬間、明らかに意気消沈としていた獄寺の瞳に、爛々と輝きが戻っていた。

「そうだ! 十代目だぁっ!!」

 がばっと、音が出るほどの勢いで立ち上がった獄寺の頭脳は今まで与えられてきた情報を整理するために、今目まぐるしく動いているのだろう。

 ゆっくりと歩調を戻しながら、獄寺はやや早口で黄のアルコバレーノに訴える。

「つまり、UMAの遺伝子を打ち込まれた十代目が、意図せず人を襲い……」

 そこで僅かに、獄寺の言葉は止まった。

 信じがたい事実だろう。その一方で今までの疑問が解ける答でもある。その答を、その場にいる守護者の誰よりも早く導きだしたのは、一番頭脳が明晰な獄寺であった。

 しかし、それをはっきりと口にすることは出来なかったのだ。言葉とすればそれは現実味を増す。

 それを否応無しに分かっていたからである。

「殺した、そう言うことだぞ」

 言い淀む獄寺に変わって、言葉として出したのはリボーンだった。

 その事に己が話さなくて良かったという安堵と、リボーンに話させてしまったと言う事への申し訳なさで獄寺の胸は一杯になる。

 そんなバカなと、己が導き出し、リボーンが発した言葉を否定する事は出来ない。なぜならそれを肯定すれば、矛盾がなくなることも確かだからだ。

 それと同時に自らの意志ではなく、操られていたかも知れないという仮定にも安堵した。死ぬ気にならなければ気弱な性格ではあるものの、十代目、沢田綱吉は自ら人を殺すような、悪虐非道の人物ではない。そんな彼の人物像を信じたかったからだ。

 

 

「成る程。そして正気に戻った瞬間にその事実に直面して恐怖し、逃げた……となると」

「自ら並盛から出ていった。……でもそうなると、目撃証言も無い物なのか?」

 骸とスパナの容赦のない疑問の提示に、自然と獄寺も思考を戻す。

(何者かによる手引き………だが、襲われた当初に都合良く十代目が信頼できる奴らが手をさしのべるって事はあるのか? 下手したら罠の可能性もある)

 誰かに手を借りた、と言う可能性は低いだろう。何よりも、意図せずに人を殺した直後であったのならば、十代目である沢田綱吉の性格からして、親しい者から距離を置こうとする筈……。

「そこら辺はまだ分かんねぇ。ただ現状においても連絡がねぇのはこれで納得できる事だろう?」

 そう、自らの意志で離れ、尚かつ戻る気が無いのなら、連絡など取るはずも無いと。

「成る程。取りあえず理解はしましょう。それで……では沢田綱吉はこのまま放置すると?」

「んな訳ねぇだろ」

 しれっと言い返すリボーンは薄い笑みを浮かべてはいるが、その眼の奥は笑っていない。

 その怒りが向かう先は逃げた綱吉か、この事態を引き起こしたこのファミリーの人間か。

「まぁ、ツナの奴の危険はもうそれほど高くはならねぇだろ。ここの奴らが他のファミリーと結託していた様子はねぇ。だからこそ、事が起こるまでは尻尾も何も掴めなかったって事なんだがな」

 切り替えるように滔々と語るリボーンだったが、その目は何かをまだ考え込んでいる様だった。

 その内容までは、獄寺には察せられないが、邪魔をするのも憚られた為に、黙って次の言葉を待つ。

μ計画(ミュープロジェクト)の概要が分かれば、もう少し、動けるかも知れないけれど」

 そんな獄寺と異なり、慮る気も無いスパナは、件のプロジェクトのデータを見ながら、どこか残念そうに口を開いた。

「確かにな。成功例がねぇって事も不安要素ではある。……実際にあいつの体内で何が起きるのか分からねぇってことでもあるぞ」

 漸く口を開いたリボーンの残した不吉な言葉に、自然と、獄寺の顔も強ばる。

 そんな彼を構うことなく、リボーンは懐から通信機をとりだし、どこかへ通信をかけていた。

「……帰るぞ。並盛へ。まずはそこからだ」

 

 目を開けて瞬間、あまりの眩しさに、短く悲鳴を上げていた。

 悲鳴を上げて、漸く俺は意識を失っていた事と……そうなるまでのあれこれを思い出した。

(あれ? でも何だろう? さっきまでとは何かが違うような……)

 敢えて言うならば頭がすっきりとしている、と言うべきだろうか。心なしか身体も軽い気がした。

 一度目に意識を取り戻してから今までずっと、体から溢れそうな食欲……それに伴っていた焦燥感もない。

「もしかして……俺死ねた?ここって天国……とか」

 しかし哀れにも、言葉を紡ぐ途中で、否と己の超直感が否定をくれた。何より。

(良かった。流石にここまで殺風景な所が天国じゃあ、良い気分にはなれないもんなぁ。……と言うより)

 この殺風景……生活感が無いと言い切れる場所は、匂いと言い物の配置と良い、学校の保健室や施設の医務室などを思い浮かばせる所だった。……つまりは救護室。

(あの人に……助けられたのかなぁ)

 思い浮かぶのは銃を向け、俺に問いかけてきた青年。俺とそう変わらない年齢に見えた彼の事で。そんな彼に始めに感じたのは申し訳なさ、だった。

 あの時、俺は確かに死ぬ気で引き金を引いた。

 おかしな話だが、死ねるという確信さえあったのだ。

 今なら思うが、あの状況で目の前で身元不明な遺体を作られても、彼からすれば迷惑なだけだろう。捨て置くにも、良心が痛むに違いない。

(かといって、風紀委員みたいに、死体の処理を秘密裏に出来る所なんて、早々無いだろうし)

 ここで俺が目を覚まさなければ、あの人は途方に暮れていただろう。

(……でも俺、これからどうしよう……)

 さっきまで使っていたと思われる寝具の上に座りながら、今度は俺自身が途方に暮れる事となった。

 今更、並盛に戻れるとは思っていない。誰が許したとしても、意識のない内に敵であったかも知れないとは言え人を、しかも明らかに人のやり方ではないやり方で殺した俺を、俺自身が許せないからだ。

(かといって、行くところも頼るところもないんだよなぁ)

 正確にはあるには有るが、頼ったら最後、なし崩し的に家庭教師及び、その背後にいるボンゴレ一同にバレる知り合いしかいない。しかもその中の何人かは進んで彼等に俺の滞在を申告するであろう事も容易に想像が出来た。

(何だろう……家出を思い立って行動する子どももこういう心境何だろうか……)

 心配されている、と言う点では有難いのだが、何事も過ぎれば毒にしかならない。

 八方ふさがりとも言える状況に自然と薄ら笑いを零した所でふと俺は気づいた。

「そういえば、ここ……どこだ?」

 そう。今現在俺のいるこの場所が、俺の知らない、また、彼等の知らないだろう場所である事に。

(いや、順当に考えれば、あの人の家……何だろうけど)

 しかし、人の家にしては、生活感が無いのだ。

 そう、学校の保健室や施設の医務室を思い浮かべたように、どこかよそよそしい。

「……どこかの会社、とか?」

 頭の中にふと人体実験という黒く危険な考えが過ぎるが、超直感は、危険を知らせていない。

(ともあれ、ここでジッとしててもしょうがないよな)

 一人頷くと、なるべく音を立てないように立ち上がり、改めて周囲を見回す。

「……あ」

 グルリと見回した先、寝具の横に寄り添うように置かれた小さな台の上に、見覚えのある……ありすぎるものを見つけた。

「ナッツ……?」

 そこから先は、咄嗟の行動だった。何故そんなことをしたのかと尋ねられても、上手く答えることは出来ない漠然としたもの。

 敢えて理由をつけるとするのならば、リングの中にいる筈の彼がやけに静かなことに、一抹の不安を覚えたのかも知れない。

 いつもなら、たとえリングの状態であっても、彼は小さく鳴いたり、声を上げてくれる。

 そっとリングに手を伸ばした俺は、何故か触るか否かの所でその手を止めた。

 漠然と感じる予感。空気が伝って震えるような、明確に感じる怖気。

 漠然とした悪寒。それを否定したくて、再度手を伸ばし……リングに触れた瞬間、感じた熱さに俺は思わず息を吞んだ。

 痛みはない。だが、起こったそれが何なのか明確に理解した俺の顔はおそらく、これ以上無いほど青ざめているだろう。

(リングに……()()された……!?)

 マフィアになる気など無い。再三言い続けてきたそれは、紛れもなく俺の本音だった。

 けれどその一方で、マフィアに俺を縛りつけるこのリングは同時に、苦楽を共にしてきた相棒で、皆との、仲間である証であったのだと……拒絶された今になって、漸く俺は自覚した。

 

 その拒絶はまるで、俺がもう仲間の元へ戻ることは決して出来ないと、そう念を押された様にも感じられた。

 




 ブランクがかなりあるので、昔よりも稚拙になっているかも知れません。

 これからもゆっくりゆっくりの更新になるかも知れませんが、見放さないで下さると嬉しいです。

 それではまた。

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