『正義の味方』の原材料   作:Wbook

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落第師匠が原作に追いついてしまうからつい書き始めてしまった……。頑張ろう……。


prologue

「士郎……アンタ、本当に馬鹿よね」

 

 

 結局、あの破綻したお人好しは——人を助けて死んでしまった。

 

 若き日に、紅い背中に誓った言葉……それが守れたかどうかは定かではない。あの男は、最期の最期まで自分のことが嫌いで、誰かを救わなければという強迫観念を心に秘めていた。

 その末の最期なのだから、言い訳のしようもない。

 

 ——それでも、全く変わらなかったなんて事はないはずだ。

 

 

「アンタ……笑ってたものね」

 

 

 ずっと、寄り添い続けてきた。

 

 あの男が人を助けるのを、隣で支えてきた。救えなくて(報われず)、張り裂けそうになるあの男を抱き締め続けてきた。

 あの男が幸せを遠ざける分、間近でそれを見せ続けた。私は今、幸せだぞ!……と。

 

 それを見て、彼は笑ってくれていたのだ。

 

 終ぞ、あの男は正義の味方であり続けた。そこを変える事は出来なかったが、無駄ではなかった。無意味ではなかったはずだ。

 決してこの終わりは……あの日見た、“救えない最期”では無かったはずだ。

 

 人を救い続けた。時には救えなかったこともあった。それでも諦めず、もがき続けた。

 

 救って。救えなくて。救って。救えなくて。救って。救えなくて。救って。救えなくて。救って。救えなくて。救って。救えなくて。救って。救えなくて。救って。救えなくて。救って。救えなくて。救って。救えなくて。

 

 そんな日々を繰り返した末——。

 

 

「だってさ、アンタが死んだことを哀しむ人がね。——こんなにもたくさん、居るのよ?」

 

 

 しめやかに行われていたはずの葬儀。それがいつの間にか……人波で埋め尽くされていた。

 人種年齢老若男女問わず、ありとあらゆる人々が瞳から涙を零し、人目もはばからず泣き声を上げている。誰も彼も、何処かで見た覚えがあった。

 

 しかし、思い出すまでもない。彼らは皆——正義の味方に救われた人々だ。

 

 あの男は感謝など望むまい。必要とはすまい。しかしこの人々はそれを知っていて尚、こうべを垂れているのだ。下を向いたまま、涙を流し続けているのだ。

 

 それほどの希望を、救いを……衛宮士郎は、彼らに与えることが叶ったのだ。

 

 

「これで救われてなきゃ、嘘じゃない……この、バカ士郎……!」

 

 

 身を以て理解した。あの男はもう死んだって変わらない。誰に指図されたって変わることなんて出来やしない。

 

 ——生まれ変わったって、正義の味方を張り続けるだろう。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「おい、衛宮」

 

 

 呼び止められたのは、それなりの上背がある赤銅色の髪をした少年だ。

 一般的な学生服を、校則違反にならない程度に着崩した姿は没個性とも言える。

 

 

「はい? えっと……なんですか、先生?」

「なんですかじゃないだろ……お前だけだぞ、進路希望出してないの」

 

 

 彼を呼んだ中年男性は、少年の担任教師であり、少年は中学三年生。そろそろ本格的に進路を決め、就職……もしくは、希望する高校へ進むべく、勉学等に取り組み始める時期だ。

 しかしこの少年は、とかく自身のことを後回しにしがちで。

 

 

「ボランティアも人助けもいいが、進路くらい決めてくれなきゃ先生だって困っちまう。……なんだ、これも結局人助けさせてるみたいだな……」

「す、すみません……すっかり忘れてました。用紙とってくるんで少し待っててください」

「あ、おい。廊下は走るんじゃないぞー!」

 

 

 早足で教室に向かい、目的のものが入った学生鞄を開く。

 

 引っ張り出した進路希望用紙は長く放置されたためか、少々シワが入っており——その上、白紙である。

 

 

「うーん……さて、どうするかな……」

 

 

 少年は暫し考え込んだ後、意を決したように第一希望の欄を走り書きした。

 

 

「やっぱり、コイツしか無いよな」

 

 

 就職ではなく、進学。目指す高校は超難関。今年の偏差値は、なんと79にも及ぶと聞く。

 

 ——国立、雄英高等学校。

 

 

「なんだ、やっぱ雄英か」

「あ、先生!」

「遅いんで追いついちまったよ。しかし、衛宮に志望校聞くなんて愚問だったかなぁ。我が校の“ブラウニー”が人助けをワールドワイドに展開するつもりなら、雄英が一番だもんな」

「先生までそのあだ名で呼びますか……」

「悪い悪い。しかしまあ、お前なら大丈夫だろう。頑張れよ、受験!」

 

 

 そう言って、先生は教室を後にした。

 

 やれやれといった様子で椅子に座り込んだ少年……衛宮士郎は、窓から見える夕焼けを眺めながら、自分の選んだ目標を、改めて反芻していた。

 

 

「まあ、先生の言う通りか……」

 

 

 漠然とした、誰かを助けたいという思いが、物心ついた時から心の奥に存在していた。日を追うごとに大きくなっていったそれは、抗い難い強制力を持っており。……そのおかげで、無茶もやらかした。

 両親を心配させたことも一度や二度では無いが、この思いはどうしても消すことが出来ず、半ば信念のように居座り続けている。

 

 この思いは、確かに危険を呼び寄せるものなのだろう。しかしそれでも、両親には悪いが……どうしても悪いことだとは思えなかった。

 だから今では、自身で定めて“それ”を信念として確立させている。

 

 無茶はするなと釘は刺されているが、きっと士郎は……必要に迫られれば、幾らでもその身を火事場に投げ入れるだろう。

 危うさは承知の上。ある者は呪いとでも言うかもしれないが、それは違う。

 

 

「だって——誰かを助けたいという思いが、間違いであるはずないもんな」

 

 

 ——その“正義”は、魂にまで刻み込まれていた。

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