『正義の味方』の原材料   作:Wbook

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ちなみに位置関係を仮に東西南北で表すなら。

東……緑谷、葉隠、鉄哲チーム

西……心操、峰田、鱗、拳藤チーム

南……轟、小大、角取チーム

北……爆豪、物間チーム


騎馬戦②

「八百万、上鳴。常闇と耳郎にも注意向けとけ。あいつの“個性”がここまで届かないとは限らねえ。一千万取った瞬間を狙われるかもしれねえ」

「了解ですわ!」

「ウェ……っとと、大丈夫。まだ俺大丈夫……!」

 

 

 士郎の打ち込んだ剣は長大な刃渡りを持っているため、地面と鍔の手前に陣取っている緑谷チームとはかなりの距離があった。……少なくとも、常闇と耳郎の“個性”ではそこまで届かないのだろう。

 届くのなら、鉄哲チームなど無視して緑谷のハチマキを取りにいっているはず。

 

 しかし、緑谷チームと相対する轟チームに届かないかは判断し切れなかった。

 

 最終種目に出るだけなら、何も緑谷の一千万を取る必要はない。轟の持つハチマキを取るだけでも良いのだから。

 油断した隙を突かれないと限らない以上、警戒は必然だ。

 

 

『今更だけどさぁ、イレイザーヘッド? アレって良いワケ? だーいぶフィールドからハミ出てる気がすんだけど?』

『俺に聞くな。ミッドナイトに聞け』

『というわけで主審ミッドナイトさんそこんとこどーなのよ?!!』

『崖っぷち感が格好いいしアリ!!』

『はい有効とのことですし気を取り直して試合に戻りましょう!!』

 

 

 轟チームはゆっくりと緑谷チームとの間合いを詰めていく。不用意に接近すれば、士郎の投影に対応しきれない可能性があったからだ。上鳴と八百万が動けたなら話は違ったのだが、二人は常闇と耳郎を牽制しているため派手な動きは出来ない。

 

 狙いすましたソードバレルも、いざとなれば飯田のスピードで避けられるうえ、轟の氷結なら壁を作って防ぐことも出来るのを考えれば、この行動自体は士郎達にとって都合が悪いのも確かなことであった。

 

 

「緑谷……」

「うん、分かってる。コレはもう使えないね」

 

 

 士郎は緑谷に渡していた刺又を消した。轟相手では、直接触れることになる刺又は役に立たないと分かっているからだ。

 距離を取るための刺又だが、凍結されてしまっては意味がない。

 

 

「直接戦闘なら……衛宮、お前の“個性”は脅威だが、こいつはあくまで“騎馬戦”だ」

 

 

 ……轟の言う通り、相手を過度に傷つける可能性が高い士郎の“個性”は、本来こういう場面には向いていなかった。もっと士郎が“個性”を習熟させ、汎用性を高めていたなら話は別なのだが……それは無い物ねだりでしかない。

 

 手をこまねいている間にも、ジリジリと距離は詰められる……。

 

 押し返すための武器は、全て殺傷性の低いものに限られるため、選別に時間がかかってしまっていた。剣では如何に刃を潰しても、ソードバレルの速度を考えれば、人体など軽く貫いてしまうだろう。直接携えた武器では当然凍らされる。

 牽制が可能性で、さらに言えば行動を抑制できるような……そんな都合が良い武器など即興では思いつかない。必然的に捕縛、打撃系の武器に限られた。

 そして、この距離で詳しい相談などしようものなら、轟チームに聞かれてしまう。

 事前に用意した策以外は使えないだろう。

 

 ……元々、剣のフィールドは轟と相対しないための策でもあったのだ。騎馬のままアレを越えられるチームは、麗日をこちらで確保している以上有り得ない。そこまでは視野に入れていたのだが……八百万と組まれたのが痛かった。

 

 

「……どうする、緑谷。あれ、“使うか”?」

「いや……まだ早い。たぶん轟くんはギリギリでこっちのハチマキを取りにくるはずだから」

 

 

 轟本人もこちらの会話は聞いているはずだが、まるで意に介していない。

 確かにいま、緑谷チームが立っているのは袋小路……どうとでも料理出来る自信があるのだろう。

 

 いま攻めて来ないのは——時間一杯まで粘り、こちらの反撃の芽を無くすためなのだ。

 

 

『序盤からやらかしやがった緑谷チームが轟チームに追い詰められてやがる!! しかしどういうことか轟攻めない!? どうしたどうしたタイムアップになっちまうぜぇ!!?』

 

 

 剣の上でそうした膠着状態が続く中、地上ではまた別の展開が。

 

 

「ラチがあかねえ! 先にてめえ等のポイントいただくぜ!?」

「できるもんならね! こっちこそポイントもらっちゃうんだから!」

 

 

 このまま待っていてもチャンスがあるとは限らない……しかし、この場を離れるのも特大ポイントを諦めることになる。

 となれば、この流れに行き着くのも当然の結果だ。

 

 緑谷チームと同じ区域に居た二チーム。葉隠チームと鉄哲チームは、お互いのハチマキを奪い合う。

 

 

黒影(ダークシャドウ)ッ!!」

「そんなもんが俺に効くかよぉ!!!」

 

 

 鉄哲の“個性”は身体が鋼鉄のようになる、スティール。

 闇が深いほど能力が増し、代わりに日中は攻撃力を制限される——無論、鉄哲達は知らないことだが——常闇の黒影(ダークシャドウ)では突破出来なかった。

 

 

「硬い……!」

「切島と似た“個性”か、やっぱり強いッ!」

 

 

 如何に弱っているとはいえ、素手で黒影(ダークシャドウ)を迎撃できる力は脅威だ。流石に衝撃までは殺さないようで何とか後退させることは出来ているが、厄介なのは確かなこと。まさしく攻防一体である。黒影(ダークシャドウ)に反応出来るなら、耳郎のイヤホンジャックも届かないだろう。

 反射神経や運動能力……“個性”以外の能力に関しても切島並みとなると、やりにくさもひとしおであった。

 

 

『おおっ! 目立ちまくってた緑谷、轟以外にも動きが!! 具体的に言えばブチギレ突貫野郎——爆豪だぁぁぁぁぁあああ!!!』

「誰がブチギレだってんだぁぁぁ!!!!」

 

 

 今まさにキレッキレの爆豪が、ついに剣の壁を突破してきたのだ。

 

 

「っの、クソ物真似野郎手こずらせやがって……!! デクゥゥゥウウウウ!!!」

 

 

 今までこっちに来れなかったのは、触った相手の“個性”をコピーする物間と争っていたからだ。かなりの苦戦を強いられ、一時はハチマキを奪われたほどである。

 制限時間の半分近い時間を費やし、何とかソレを取り戻し、なおかつ物間チームのハチマキを奪った爆豪チームは、彼らの妨害を斥けながら氷と剣の壁を爆発で破壊したのだ。

 

 

「デェェェェクゥゥゥゥゥウウッッッ!!!!」

 

 

 一方、完全な封じ込め状態から脱せずにいる……緑谷チームが居た区画の向かい側に位置する場所には、四つのチームが居たはずなのだが……全くと言っていいほど目立った動きが無い。

 取ったり取られたりの繰り返しが続くだけで、面白みがないため、まるで注目されていないが——その状態を誰一人として脱しようとしない有様は、あまりに不自然であった。

 

 

「……この壁は都合が良いな。おかげで、他の連中に“個性”がバレずに済んだ」

 

 

 心操チーム。彼らの中においても、騎手である心操以外は……掛け声一つあげることは無かった。

 

 

『さあ各地で戦線が開かれる中、緑谷チームと轟チームは我関せず!! いまっだに睨み合いを続けてやがるぞ!!?』

 

 

 残り時間は既に二分を切ろうとしていた。

 

 

「そろそろ奪るか……」

 

 

 終盤、焦りが出て下に待ち構えている葉隠チームと鉄哲チームの意識がこちらから離れるのを轟は見越していた。

 全戦力を緑谷チームに向けられるこの瞬間こそが、轟チームにとっての勝機であった。

 

 

「くっ……全投影連続層射(ソードバレルフルオープン)!」

「食らうかよ……」

 

 

 絨毯爆撃のように放たれる投影武器、轟はそれを氷の壁で防ぐ選択を取る。砕け散る度に新たな氷を作り出し、弾切れまでそれを続ける轟に対し——前準備の居る士郎の方はそうもいかない。

 

 

『まるで大質量マシンガン!! 人間武器庫の如き衛宮に、轟はクールに対応だ!! どっちの息切れが早いか見ものだぜ!!』

 

 

 “個性”である以上制限はあるが……いま、この場においての話をすれば、先にへばるのは間違いなく士郎の方だ。

 足止めできるのは、装填した投影を全て撃ち尽くすまでの僅かな時間……それを過ぎれば、飯田のスピードで一気に距離を詰め、王手をかけられる。

 

 ——だが、それだけあれば十分だ。逆転の一手は、既にこの場に揃っている。

 

 

「……っ!? てめぇら……!?」

投影、待機(バレット クリア)

『お、おおおおおお!?!? コイツはやべえクレイジーだ!!?——足場、消しやがったぁぁぁぁああああ!?!!!』

 

 

 この場に立っていること自体が、そもそもの間違いなのだ。今ここは、全ての生徒に平等なフィールドではなく……“衛宮士郎が支配する剣の上(領土)”なのだから。

 

 足場が無い以上、飯田のスピードは言わずもがな。

 轟の“個性”を持ってしても冷気を伝えることが出来ない。上鳴の放電も絶縁体が間に合わないために使用は不可能。

 

 

『だがこれだと自分たちも落ちちま……ああああっ!!!! いつの間にアイツら!?!』

「麗日さん、触った!?」

「おーるおっけー! いつでもいけるよ!!」

「よし、衛宮くんお願い! 麗日さん発目さん、顔避けて!!」

停止、解凍(フリーズ アウト)!」

 

 

 代わりの足場は既に用意していた。——消し去った足場の、すぐ真下に。

 もっとも、麗日の手が加わった今では、そのデカく幅広なだけな剣も、単なる足場とは言い難い。

 もはや錨は上がった——いまこそ、出航の時。

 

 

「——いっけぇぇぇえええ!!!!」

 

 

 緑谷が背負っていたバックパックから炎が吹き出る。そして、それを推進力として……悠然と、船は空へと舞い上がる。

 それは即ち——誰の手にも届かない、絶対安全圏。唯一それを撃ち落とせる可能性がある八百万には、しかし準備するだけの時間が無い。

 

 

『おいおいおいおい緑谷チーム!!? そいつはどんな箱舟だ!?! そんな隠し球持ってやがったのかこの野郎!!!』

 

 

 となれば、結果は決まっている。

 

 

『——タァイムアップ!!!!』

 

 

 誰一人として手出し出来ないまま、一千万ポイントを守り切り。

 

 

『じゃあ早速結果発表!! 第一位、こいつは言うまでもねえ——緑谷チームだぁぁぁぁぁあああ!!!』

 

 

 地上に戻ってきた緑谷チームを待っていたのは、溢れんばかりの大歓声。第一種目に引き続き、またも一位を取った緑谷は特に大きな喝采を集めていた。

 

 

『そして第二位、爆ご……って心操チーム!!? いつの間に!?!』

「やったね、みんな!!」

「うん、勝てた! やっぱちょっと卑怯くさかったけど……」

『第三位、爆豪チーム!! 第四位、轟チーム!!』

「おかげで目立てました! ベイビー、美味しいところを持っていけましたよ!!」

『以上四組が、最終種目へ……進出決定だぁぁぁぁぁぁッ!!!!』

 

 

 そう、ようやく舞台は整った。

 

 

「緑谷」

「……衛宮くん」

「悪いが、俺が勝たせてもらうぞ」

 

 

 紛うことなき、勝利宣言。普段の衛宮士郎からは考えられない行為だ。それはひとえに……。

 

 

「負けないよ、衛宮くん。——僕だって、勝ちに来てるんだ!」

「——望むところだ。お互い、全力でな」

 

 

 ——ひとえに、緑谷出久をライバルと定めているからだ。

 

 

「……一応、私達も出るんやけどなぁ」

「え、あ……ご、ごめん麗日さん、そんなつもりじゃあ……!」

「わ、悪い二人とも……決して忘れてたわけじゃ……」


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