この加速する世界で   作:NowHunt

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コレカラ/リスクヘッジ

 あれから黒チビと倉崎と合流してしまった俺は、倉崎が行きたいと言い張りなぜかカラオケへやって来た。

 謡を送ってからさっさと帰る予定だったのたが、どうしてこうなった。黒チビに見つかったのが運の尽きか。

 

 別にわざわざ俺に加速研究会のことやら伝えなくていいとは思うけれど、こうして機会を作るとは律儀な奴らだ。

 しかし、カラオケの個室か……。たしかにプライバシーのある会話というかオープン性の高い話題ではないから個室はある程度理に適っているものの。

 

「別にどっかカフェとかでも良かったんじゃねーの。いちいち周りも俺らの話してることなんて気にしないだろ」

「私もそう思うがな。こうなったフーコは止まらんよ」

 

 ソファーに座ってから黒チビと軽口を叩き合う。黒チビもどうやら似た意見だったらしい。人に訊かれない……訊かれたとしても理解できる人がいない場所ならいいわけだ。それこそどっかの商業施設の隅でもいいだろう。

 対する倉崎は着くや否や荷物を放り投げ速攻でデンモクを弄り、率先とアニソンを歌い始めた。少しだけ倉崎の歌を傾聴しているが……いやコイツ歌うまっ。

 一先ず倉崎は自由にさせて黒チビに話しかけるか。

 

「まぁいいや。ミサイル女だしな。で、何だっけ? あのあとの顛末の話だっけか。あらかた倉崎から訊いたが」

「それもあるが、あのあと七大レギオンの党首で集まった会議をしたんだ。そこであった話を比企谷さんにも共有しておこうかと。関係者ではあるからな」

 

 そもそも呼び出しされた内容としては、俺が引っ掻き回したあの戦場での始末を黒チビたちがしてくれたらしい。

 

「あ、七大ってことは穴ぐらから引きこもりはでてきたのか?」

「いや、いつも通り参加したのは副官のアイボリー・タワーだけだった」

 

 あー、うん。何回か通常対戦はしたことあるけど……あんまり印象ないなぁ。

 

 過去の記憶を思い出そうとしていると、黒チビがコホンと小さく咳払いする。

 

「……そして、比企谷さんが言っていたブラック・バイスの正体は恐らくアイツだ。フーコや謡、ハルユキくんたちと話し合った結果、情報量や雰囲気に仕草などから類似しているとそう判断した。最も、比企谷さんから言われなければ着付けたとは断言できんがな」

 

 この前俺が謡たちに言った内容はネガビュに伝わっていたみたいだ。そりゃそうか。

 俺もあれから白のレギオンの幹部たちを思い返してみたけれど、一番納得のいく奴はアイボリーだったため同意見だ。あまりこれといって印象ないとはいえ、副官ならさもありなんといったところだ。

 

「ただ証拠はないからな。あくまでそういう心づもりでいた方が良いって話だ。あまり突っ込み過ぎるなよ」

「分ってはいるよ。しかし、うーむ。証拠かぁ……」

 

 と、頭を悩ませ思わず雪ノ下みたいに頭を抑える黒チビに苦笑する。非常に似た仕草だ。

 

「他のリンカーに変身する手段が不明なのが悩みどころだな。強化外装なのか心意なのか……パッとすぐさまその場で変身するのかはたまた、アカウントを切り替えするかのように、潜るときに変更できるのか……」

 

 黒チビはブツブツ呟きながら考えを口に出している。

 

「雑な推測だと俺は前者だと思う。ていうか、後者はシステムをかなり超越しているからさすがになさそうだ。心意抜きにしてもな。それこそ開発者側じゃないとアカウント切り替え……のような扱いはムリだろ。心意か強化外装かは分からないけど……変身、という前提で推測すべきだろう」

「ふむ……」

 

 再度頭を抑え唸る黒チビ。

 

「何かしらの手段ですぐに変身できるって俺は考える。利便性諸々考慮するとそっちのが都合が良い。てか、手段はいいんだよ。どうせ俺らは使えねぇし、知ったところでだ。いずれ謎を解明する必要はあるけども。ただ目下の問題は――――どう証拠を得るかってとこだな。もし仮にアイボリーが変身する場面に出くわしたとしてだ……たしかカメラみたいな記録媒体ってあったよな? メモリーカードみたいな名前だっけか」

 

 無制限フィールドでは様々なアイテムを購入できる。

 どこかに点在しているショップがいくつかあり、基本的にそこでは強化外装や他にも便利アイテムなど多くの数が販売している。もちろんゲームバランスは壊さない程度だ。

 対戦で関係ないモノで例えると、プレイヤーハウスのようなものも買える。もちろん買えれば自分好みにカスタマイズすることも可能だ。

 噂ではショップを用いて強化外装に何かしらのアビリティを追加することも可能なようだが……。

 しかしながら、値段は当然高い。消費するポイントがかなり高い。めちゃくちゃ必要になる。

 同レベルの対戦で勝利したら得られるポイントは10。これを基準に考えてみても、余裕で4桁は超えるポイントは要求されるし、ものによっては5桁あるいは6桁すら超えるものもある。

 

 黒チビは俺の言葉にどこか面白おかしく微笑む。

 

「残念、名前はリプレイカードだ。無論私も持っているよ。ただ性能としては……値段のわりに録画できる時間は短い印象だな」

「ほーん。そんな感じなんだ。まぁ、ないよか良いだろ」

 

 名前は間違って覚えていた模様。

 

「だな。もしピンポイントでそんな場面に遭遇できたら逃さず撮れるようにしないといけない。バレない前提でな」

 

 ……あ、倉崎3曲目に突入した。コイツやたらノリノリだな。歌っているのやたら一昔前のアニソンだ。趣味なの? いや、こっいにウインクしなくていいけど。

 

「話を戻して……会議の内容だったな」

 

 と、テンションが乗りに乗っている倉崎を横目に見つつ黒チビはため息を吐く。

 

 ちなみに倉崎が歌っているから会話を聞き取るために俺たちの距離はかなり近い。なんなら肩がギリギリで触れ合うレベルで近い。

 ドキドキしないといえば嘘になる。が、話している内容は至って真面目な内容なのでそんな甘ったるい雰囲気になることは絶対ない。お互い友情に近い感情はあるかもしれなが、恋情は絶対ない。

 仮にそんな気持ちを抱いたとしても、わりと真剣な話なので次には霧散している。

 非常に冷静な雰囲気が俺たちを包んでいるのがよく分かる。

 

「会議で話した内容は主にISSキットを破壊したこと。その際溢れた負の心意エネルギーが逃げ、行方は分からなかったと王たちに伝えたこと。……そして、もし加速研究会の拠点が分かったら七大レギオン総出でその拠点を攻めること。ざっくりとそのくらいだ」

「……ん?」

 

 腕を組み整然とした態度で彼女の語った内容に違和感を覚える。違和感というより、さらっと他のレギオンに対してネガビュは嘘を言ったこととなる。

 

「行方が分からなかったって……あれ、言わなかったのか。お前ら知っているだろ。あの新しい災禍の鎧について。クロウたちから訊いているよな。なんで言わな――――……あぁ、なるほど。上月に配慮したのか。あざと少女の戦力低下を他のレギオンに隠したかったのか」

 

 自分で疑問を投げかけながら途中で答えに行き着いて納得する。

 強奪というスキルのせいで2代目赤の王は自身の強大な力である強化外装を少し奪われている。これを理由に他レギオンから攻められるのはキツい。

 白のレギオンは=加速研究会なので当然今の赤の王の状態を知っているだろう。しかし、だからといってわざわざ言及するのは憚れる。仲が良いのならなおさら。

 加えて、上月に対して責任が問われる可能性もなくはない。特に腐ったバナナやヒステリック紫ババァは人の揚げ足を取るのが大好きだ。……マジでうるさいったらありゃしない。

 

「そういうことだ」

 

 黒チビは頷く。

 

「……で、それを隠したから加速研究会のある事実についても共有しなかったと。まぁ、白のレギオンの繋がりとかの明確な証拠がない。それこそリプレイカードで一部始終記録していたならともかく……いや、でもこの前、別に白のレギオンが直接相手はしていないからな」

 

 紫ダルマは無所属だし、ブラック・バイスはアイボリーと同一人物という証拠はない。ウルへラム・サーベラスも紫ダルマ同様にレギオンに関しては無所属だ。

 下手にあの場で白のレギオンを糾弾しても、詰められるための証拠がないとのらりくらりすれば済む話。慎重に進めるのも悪くはないが……。

 

「上月を慮るのはネガビュの事情とはいえ、それだと対応が後手後手にならないか? ある程度共有はした方が無難だと思うけど……そこらはどう考えてる?」

「比企谷さんの懸念も最も。そのため、次の手はちゃんと打っている。先んじて緑のレギオンにだけは真実を打ち明かす。協力を要請し同盟を組む予定だ」

 

 ドリンクを飲みつつ黒チビの言葉の意味を考える。

 

 緑のレギオン。防御に関しては最高峰であるグリーン・グランデがレギマスだ。

 所有している領土はえーっと……カレントから教えてもらった最新の情報は、渋谷区・目黒区・品川区全域と世田谷区の3割程度か。

 レギオンのメンバーだけで言うと全レギオンで1番の大所帯。総勢100名くらいだったはず。

 まぁ、いくら全レギオンで1番とはいえ、七大レギオン全員含めても、中小レギオン、また無所属の奴らの数には敵わないんだけどな。

 

 それでいてなぜ緑のレギオンかというと……。

 

「渋谷と品川を所有しているからか。白の拠点は港区。領土戦やらで叩くためには隣接している土地があった方が便利だもんな。……でもまぁ、杉並の地理から行くと新宿の方が地続きだろうし、青と組んだ方が都合良さそうな気もするけどな。渋谷から攻めるなら中野区が間にあるし必要だろ……あ、中野を所有しているのは赤の奴らか。そこらは協力を取り付けれるな」

「理由はそれだけではないがな。概ね比企谷さんの想像通りだ」

 

 頷く黒チビ。

 しかし、ざっと訊いている限りでも懸念点はまだある。

 

「お前らが上月と仲が良いのは知っているけど、他の奴ら……特に幹部辺りは説得できるのか? 多分領土を一時的に預けるみたいな流れになるだろ。反対する奴らは多そうだ。友好的な美早はまだしも」

「その辺りはニコが上手く説得してくれるさ」

 

 レギオンの頭同士、何かしらの提案があるのだろう。

 加速研究会の問題はなるべく早めに解決すべき事柄だ。そこで取引のような形になるが、両者どのようなメリットを提示できるのか――――そこらは黒チビの腕の見せどころだ。

 

 ていうかあれ……? 記憶違いでなければ、そういや渋谷のエリアって昔はネガビュが持っていなかったか……? 今は緑が持っているみたいだ。

 

「…………ちょっとサっちゃん、八幡さんも。頑張って歌っていたのに聞いていましたか?」

 

 ――――と、5曲ほど歌い終えた倉崎が頬を膨らましいかにも不満です! といった表情で俺らを睨んでくる。とてつもないあざとさである。一色顔負けだ。

 

「あぁうん。こちとら重要な話していたからな。話半分でな。随分懐かしいなって思うチョイスだったぞ。上手い上手い」

「フーコ、もう少し音量落としても良かったぞ。ちょっとうるさかった」

 

 俺と黒チビ、倉崎に視線を合わせずあまりにも適当に流している。互いに随分慣れている対応だ。

 

「2人ともひっどーい! そんな態度を取るなら私にも考えがありますよ」

「いやそういうのいいから。そもそも招集したのお前だろ。最初から参加しろよ……」

「はいそういうこと言う八幡さんにはお仕置きです。この写真をういういや奉仕部の皆さんに送りますよ」

 

 そう言って見せてくるのは俺と黒チビの写真。あまり明るくないカラオケボックスにて肩を触れ合い話している――――つい先ほどの俺たちの写真だ。

 

「フーコ、いつの間に……」

 

 呆れている様子を見せる黒チビ。歌いながらさらっと撮影していたらしい。

 

「良いのですか八幡さん。リアルJCにここまで接近し仲睦まじい雰囲気を見せる写真……これをういういや雪ノ下さんたちに見せたらどうなりますかね!」

 

 ドヤッ! と倉崎は非常に大きく張りのあるたわわな胸を強調しながら語る。いや言い方……。

 ていうか有田くんに迷惑かかるだろ……。

 

「ふむ……でもこうして見るとサっちゃんが羨ましいですね。……えいっ」

 

 マジマジと俺たちを眺めていると倉崎はいきなり俺の隣へと勢い良く座ってくる。ドスンという大きな衝撃と共に女性特有の良い匂いが鼻をくすぐる。元々黒チビからも良い香りがしていたのに加えて倉崎の香り。

 

 状況を今一度整理すると、真ん中には目が腐っている男が1人。そして、左右に客観視美女2人がいる。あくまで客観視。中身は知らない。

 改めてこの個室に俺と中身はともかく傍目からしたら美人である計3人しかいない事実に緊張しそうになる。

 

「…………」

 

 落ち着け。倉崎は知らんが、黒チビは有田くんにお熱だ。謡情報。まずそのような展開なることなどあり得ない。

 まずコイツらに焦っている……俺のこの心境を悟られるな。

 理性を保て。表情を崩すな。汗を流すな。

 一先ず黒チビは置いておいて、倉崎の距離の近さには慣れている。そのことを思い出せ。

 

「…………」

 

 よし落ち着いた。

 

「八幡さーん」

 

 すると、耳元で小さく囁かれ一瞬肩が震える。主に不気味さと嫌な予感によって。悪寒が走る。

 

「何だ」

 

 できる限り冷静に返し倉崎の方へと顔を向けていると…………。

 

「うん、これで良いでしょう」

 

 俺の肩に頭を乗せ腕を組み何かニューロリンカーの操作をした倉崎。ゆっくりとした動作だったのにも関わらず、まるで自然に行うものだから一切反応できなかった。

 手と頭を離してからは何かを納得したかのようにうんうんと満足げに頷いている。

 

「え、何が。何した」

「サっちゃんと似た構図で写真を撮っただけですよ。ういういに送っておきますね〜」

「おい」

「送りました……あ、既読早っ」

 

 え、もう謡確認したの? 早くない?

 直結して画像消そうとしたの間に合わない速度であった。

 

「……あれぇ、私のういういから返信来ませんね」

 

 そう解せないと言いたげであり、不思議そうに倉崎呟いている。既読だけ付けて特に謡は反応を示していないらしい。……倉崎に対しては。

 つまり、逆説的に言うと俺に対して倉崎が写真を送った瞬間からずっと連投されている。

 

 

 

【UI> ちょっとどういうことなのですか八幡さん】

【UI> どーしてフーねぇといるのですか。さっきまで私といましたのに】

【UI> まさか私とは遊びだったのですか】

【UI> あれ?】

【UI> ちらっと見えましたが、さっちんまでいませんか?】

【UI> は?】

【UI> え?】

【UI> は?】

【UI> そこどこですか? 誰かの家ですか?】

【UI> いえ、室内の暗さや独特の光……ミラーボールのような明かりなのです。加えて雰囲気からしてカラオケですね】

【UI> なぜ私と別れてからそこにいるのですか?】

【UI> ……ちょっと無視しないでください】

【UI> メッセージ見てますよね?】

【UI> ね?】

【UI> へんじ】

【UI> 返事】

【UI> しろ】

【UI> なのです】

【UI> おい】

 

 

 ……。

 …………。

 

 なにこれ面倒……。

 

 素直にそう感じるほどの量だ。別にこれといって恐怖はない。謡を知っているからこそ怖くはないとも言える。送信している姿を想像すると微笑ましいものだろう。

 しかし、それはそれとして面倒な雰囲気しかないのも事実だろう。一体何にキレているのか、何に対してそんな過敏になっているのか不明なほどの勢いだと言える。

 さすがのタイピング速度と言っても差し支えない。

 とてもではないが、すぐさま追えきれないくらいの早さで今にもメッセージが追加で送られてきている。速読は得意だが、それ以上のスピードでメッセージが更新される。

 

 ちょっとブロックしていいかな? ダメ? もっと荒れる? ……うん。そうだね。通知だけしばらくオフにしておこう。

 言い訳はあとでの俺に任せる。頼んだ恐らく1時間後くらいの俺。

 

「比企谷さん、どうした。さっきから引きつった顔をして」

「……いや、うん。ちょっと頭にクレーム入れたい」

「ん? 何の話だ?」

 

 不思議そうに訊いてきた黒チビに文句を言ったらより一層不思議そうな顔をする。

 俺たちの会話を意識して訊いてなかったようだ。倉崎が俺の隣に座ってからやたらデンモクを珍しそうに眺めていたし……。何か歌う? いいよ、気分転換にどうぞ。

 

「……まぁいい。あとで私も歌ってみるよ。で、どこまで話したか。……あぁ、グレウォと同盟を組むという話だったな」

 

 緑のレギオンの名前はグレート・ウォール。略してグレウォ。

 

「そうですね。グレウォと正式に同盟を結べたら領土戦で白の領地を奪います。今度はこちらから先手を取ります。これは八幡さんも予想しているでしょう」

「まぁな」

 

 領土を奪わなければグレウォだけに打ち明ける必要はない。

 

「てか、グレウォの奴らがそんなすんなり協力してくれるかね。グランデは喋ってるの見たことねぇから分んねぇけど、アンパンとか頭硬いだろ。見た目通り」

 

 鼻で笑いつつ冗談気味に俺は告げる。俺が言ったアンパンってのはグレウォの第三席アイアン・パウンドだ。たまにこの呼び名でイジったらロケットパンチでひたすら追いかけられたな。

 

「面白いあだ名ですね。今度私もそう呼びましょうか」

 

 微笑みながらさらっとドSなことを言う倉崎。コイツブレねぇな。

 

「とまぁ、八幡さんの質問に答えると……私たちの話すことを訊いたら協力するしかないですよ。それかグレウォがホワイトたちに着くしか、ね」

「……それもそうか。最大級の秘密だもんな」

 

 グランデなら黒チビたちに協力するとは思うが……条件やらはどうなることやら。現段階では推測もできない。

 

「そして、白の領地を奪えたらマッチングリストを確認し、1人でも加速研究会のメンバーがいたのならばそれを証拠とし、白以外のレギオンメンバーでひたすら叩きます。1ポイントでも多く奪い打撃を与える予定です」

 

 さっきまでのふざけた雰囲気はどこへやら、至って真面目に倉崎は淡々と語る。

 

「あくまで個々人であるならば、下手な介入もされず、もしされたとしても押し切れるメンツは多く揃っています。心意を使われたとしても、ね。……ホワイトを削るのは困難な道程でしょうが」

「なんならグローバルネットに繋いでいるかも怪しいよなアイツ。引きこもりったらありゃしねぇ」

 

 そうしなければ生活すら厳しいだろうに。ローカルネットならあるいは大丈夫かもしれないが、完全にネット断ちはこのニューロリンカーがある時代、ほぼ不可能だろう。

 変な抜け道くらいならあの引きこもりなら見付けてそうな気持ちもするが。

 

「……ふむ」

 

 ネガビュトップ2人の考えを訊いて俺は改めて考える。

 

 七大レギオンでの会議はアイボリーがいることも踏まえて現状確認で終わらせ、加速研究会に対して攻めるという考えも共有させている。

 加えて白のレギオンに奇襲をかけるため、赤と緑に協力を要請している。準備を進めていると。

 色々と加味して総じて……。

 

「全体的に……別に悪くなさそうな案に思える。ただ、領土戦に勝つ前提なのがキツそうって印象だなぁ。今のネガビュって人数そこまで多くないし、加えてクロウたちみたいな新人多い。だから、そこまで領土戦慣れてないだろ。何回もこなしている防衛側ならともかく、特に攻める側の経験は薄いんじゃないか。昔ならわりと大所帯だったから何とかなったかもしれないが……」

 

 俺の率直な意見に対して2人は苦笑する。

 

「まぁ、八幡さんの懸念点は充分理解しています」

「もちろん、事前準備は抜かりなく行うよ。加えて、人数の問題もいずれ解決するだろうし」

 

 解決? どこからか引き抜くのか、無所属の奴らをスカウトするのか、どちらかかな? いや、もしかすると一時だけ協力してもらうとか。

 

「ほーん。まぁ、お前らにも考えあるなら口出ししないけど」

 

 ………あ、そういや。

 

「つーか、組むのグランデのとこか。あー、だったらあの鉛筆野郎も多分出張ってくるよなぁ」

 

 余っていたドリンクを口にしつつ俺は何気なしに呟く。

 ここで言う鉛筆とはグラファイト・エッジというプレイヤーだ。二刀使いであり、剣の腕なら王である黒チビにも勝る腕前を持つ。単純な近接戦闘なら個人的に最強なのではと俺は考えているほどには強い。

 かつてはネガビュに所属していたが、現在は脱退しており、無制限フィールドでは自由に動けない囚われの身である……一応は。

 

 その俺の雑な一声に対して過敏に2人は反応する。

 

「なに、アイツが?」

「どういうことですか、八幡さん」

「……え、お前ら訊いてないの?」

 

 驚愕とまではいかなくても多少なりと目を丸くさせている2人に怪訝な視線を向ける。

 

「あの鉛筆、今はグレウォにいるぞ」

 

 その一言だけを述べると1秒だけ2人は固まる。しかし、すぐさま元通りの雰囲気に戻る。鉛筆の奇行なんて慣れているとでも言いたげな態度だ。

 

「ったく、グラフめ。アイツはまた……」

「というより、八幡さんはなんで知っているんですか?」

「俺が引っ越すから半ば引退するって伝えたら、捨てアド渡してきたんだよ。そんで引退したのを良いことにそのアドからよくメール来るんだよ。心底どうでもいいことやら、あっちの様々な情報やらな。まぁ、俺からはほぼ返信してないし、一方通行だけどな」

 

 俺の愚痴をため息を吐きつつ答える。そのせいで知りたくもない情報がかなり送られてくる。なるべく無関係でいたいんだけどな……。

 黒チビは目を細めてこちらを睨む。

 

「それでやたら私たちの事情に詳しかったのか」

「そのこともあってグレウォに移ったのも知っていたんだよ。あー、でも無制限フィールドではまだ帝城から動けないとは言っていたぞ。まだ無限EK状態だ」

 

 さらっと嘘を交ぜてあたかも本当のことを話しているように見せるテクニック。今何を言っても嘘とは分からないだろう。

 実際のところ今の鉛筆はエネミーに復活した瞬間に永遠と殺される状態――――無限EKについては脱出しているみたいだけど、半分脱出という現状らしい。

 まさかあの帝城に入れるとは思いもしなかった。なんか謡も入ったことあるけど。

 

「つっても移った詳細な理由は知らんし、アイツの奇想天外な行動について毎回ツッコミしてたらキリないからな。俺は今は千葉にいるし無視しているわ。黒チビなら……理由は想像付きそうか?」

 

 目を瞑って何かしら思案している黒チビに問いかける。

 

「ん……まぁな。何となくは推測はできる。もし次の会議で会えたら訊いてみるよ」

「ほんっとあの人は勝手に動きますねぇ……いえ別に1期ネガビュは解散したから関係ないんですけど。まったく、八幡さんもあんなのに付き合わされて大変ですね」

「いやお前らの仲間だったろ。あんなの扱いすんなよ。かわいそうに……」

 

 特に黒チビは戦闘面において師匠だったよな。師匠に対して雑すぎないか?

 

 

 そして、一旦鉛筆の話題は打ち切り、全員ドリンクを追加で入れてから再度ソファーに座る。

 

「さてと……何の話だったか。比企谷さんが爆弾投げ入れたから話が吹っ飛んだな」

「今は八幡さんの意見を訊いていたとこですね。それで、どうです? 他にアドバイスでもあります?」

「いやなんで俺が助言する立場なんだよ……」

「第三者からのフラットな意見もほしいからな。比企谷さんなら適任だろう」

 

 随分部外者を信頼してくれている。嬉しいことやら巻き込まれて悲しいことやら。

 

「ったく……領土戦で奇襲をかける作戦は悪くないって話だったな。勝てるかどうかはともかくとして……白の連中からしたら領土を奪われたら、生命線が消えるわけだ。多分かなり卑怯な手を使ってでも阻止してくるだろうよ。特に加速研究会と関わりの強い奴ら……幹部クラスは」

「卑怯な手?」

 

 黒チビが訊き返す。俺が何を言いたいのか分かってはいるだろうが、敢えて気にせずに続きを話す。

 

「例えば心意。なりふり構ってられない状況なら領土戦だろうが使う可能性はあるだろう。それこそ第二段階の心意だって容赦なく使うかもな。……だから攻めるメンツは最低限心意に対して抵抗できる奴のが良いと俺は思う」

「うむ……チーム分けするにしても心意を使える人は入れる必要あるな」

 

 今のネガビュで誰が使えるかは存じ上げない。多分クロウは使えるけど、パイルとベルは分からないな。

 にしてもシアン・パイルか……思い返しみたけどパイルバンカーって良いよな。カッコいいよな。男のロマンだよなぁ。とっつきたいよな……。俺も大剣とかじゃなくて、あんなロマン溢れる不気味とか使ってみたかったな……。

 

 と、思い馳せていたが、今考えることではない。話を戻そう。

 

「つっても、俺は白の奴らの心意の詳細は知らないし、どこまでのモノかは想像付かねぇな」

「まぁ……はい。それはそうですね。心意なんておいそれと見せるわけにはいきませんから」

「私も知らんぞ。なんなら比企谷さんのも知らないぞ」

「そりゃ謡以外には見せたこと……あ、この前美早とバイスには見せたか」

 

 まぁ、見せたと言っても2つだけだ。まだまだ隠し通している。使う機会がないだけとも言う。

 

「まぁ、心意なんて使う方も多少なりとリスクがあるし、情報を隠したいってのもあるだろうし、最終手段なんだろうけどな」

「心意の撃ち合いであればムリして攻める側よりも防衛側の白の方が有利ではあるし、使うとなったら躊躇はしないな。ホワイトならそうするさ」

 

 毅然とした態度を貫いているかと思えば黒チビは苦虫を噛み潰した表情が垣間見える。彼女はひたすら白の引きこもりには煮え湯を飲ませ続けられている。

 

「……」

「……」

 

 そんな彼女に対して俺と倉崎は何も言わずに見守る。

 しかし、すっと黙っているわけにもいかず。

 

「とまぁ、部外者から最後に言えることは……最悪の状況だけは想定しておけよって話だ」

「では八幡さんの考える最悪とは?」

「領土戦に負けて作戦失敗とかじゃなくて、当然ポイント全損で加速世界から退場することだろ。黒チビ含めてな。もしくはそれに近い状況……PKか無限EKだな」

 

 俺がそれだけ言うと、倉崎は疑わしい目付きになる。その気持ちは充分理解できるけれど。ほぼほぼムリなことを言っていると自覚はある。

 

「でも領土戦は制限時間がありますよ。不可能じゃないですか? そもそも無制限フィールドではありませんし」

「あくまで最悪ってだけだ。条件次第でシステムを超越してくる可能性は0じゃないってのは倉崎も理解しているだろ」

「たしかに前にイベントでは加速研究会がギャラリーに心意を使ってダメージを与えてきましたが……」

 

 ギャラリーは本来HPを持たない無敵な存在だ。まさかその状態で攻撃してくるとは……。

 

「心意で例えば……領土戦の時間制限を突破するとかか? そんなことできるか知らんけど。それにアレもあるだろ。決闘できるヤツ……あの両者の全ポイント賭けるアイテム」

「あぁ……前にクロウもパイルも巻き込まれたことがある」

「ホント茨の道を随分歩んでいるなお前ら」

 

 げんなりした気分でボヤく。トラブルしか起こしてないのでは? さすが猪突猛進レギオン。親が親なら子も子だ。

 

 ……ずっと喋っていて喉が渇いた俺は自分のドリンクを飲み、一息入れる。そして、あらかた話したいことは口にしたため、まとめに入ろうとする。

 

「想定できるリスクはできる限り排除してから作戦に臨む。石橋はひたすら叩く。テンション下がるかもしれないけどな、こういうデカい作戦にあたって最大限リターンを得るなんて考えちゃダメだ。白の暴挙を暴きたいのはちゃんと分かる。……だが、全滅でもしたらそれこそ終わりだ」

 

 10を欲張りに得ようとしたら、恐らく想定通りに進まない。全部描いたシナリオ通りに進めば苦労はしない。日常でも学業でも仕事でもだ。だからこそ、まず損失を減らす。この思考ができないと泥沼だ。ギャンブルでマイナスしか叩き出さない。

 

「生き残ることが重要……と」

「黒チビには釈迦に説法だわな。お前なんてやらかしまくっているからな。あ、それは倉崎もか。後先考えないで突っ走るのが得意技だもんな。さすがに反省しているだろ」

 

 ネガビュのトップ2のやらかしに思わず笑ってしまうと非常に鋭い目で釘を刺される。

 

「うるさい斬るぞ」

「しばき回しますよ?」

 

 ……怖い。倉崎は直結ケーブルをチラッと見せるな。俺のポイントを絞ろうとしてないでくれ。

 

「あとはお前らで考えてくれ。これ以上は言えることないわ」

「ありがとう比企谷さん、充分参考になった」

 

 ……やたら頭使って疲れた。普段使わない部分を酷使した感覚だ。よし歌おう。カラオケにいるんだしな。

 

「デンモク貸してくれ」

「はーい。あ、デュエットでもします?」

「おう、いいぞ」

「特撮ソングは歌えますか?」

「好きだけど、歌えるかと言えば……人並みか」

「じゃ、アレ歌いますか」

「男性パート歌えるかな。基本ヒトカラだし」

「まぁまぁ。サビは一緒に歌いましょう!」

 

 なんて退店時間まではカラオケを楽しんだ俺たちだった。

 

 

 

 ――――爆弾を処理していないことなどすっかり忘れていたことに俺は気付いていなかった。

 

 

 

 

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