ソード・ワールド2.0の短篇。

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とあるドワーフのお話

 ルキスラの街にとある冒険者がいた。

 彼は立派な髭と恰幅の良い体を持つドワーフで、「白」という通名で呼ばれていた。

彼は幼い頃に友人をゴブリンに目の前で嬲り殺しにされ、大の蛮族嫌いとして有名であり、また、あの時の償いのため、己が手掛けた大鎧(もちろん、ドワーフにしては)を着込み、人間の背丈位はある大きな盾を携えていた。

ある日、彼はいつものように仲間たちと蛮族討伐の依頼に行くと、彼の前にダークドワーフの女が立ちふさがった。

 巨人の拳のような見事な大槌を持ち、その肉体はなんともみすぼらしい革の鎧を着込んでいた。

 女は黒き炎を纏い、「白」を襲う。巨大な槌はなんとも軽々しく振られ、そして、その一つ一つが竜の一撃にも等しく、たとえ防がれようとも、黒き炎が相手を蝕む。しかし、それとともに自らも炎に蝕まれた。

 「白」は必死に盾でもって防ぐ。例え竜の一撃であろうとも、己の盾はびくともしないし、己の肉体はアイアンゴーレムよりも堅牢だと自負している。とはいえ、攻める手筈がない。

 お互い、決定打は与えられず、体力だけが削られていった。

ーーーー長い戦いの末、他の蛮族を片付けた「白」の仲間が集まり、女を捕らえた。捕らえた女はなんとも忌々しそうに「白」を睨み、そして「白」自身も煮え切らぬ決着に不満を持っていた。

 その日の夜。ルキスラへの帰り道にて仲間たちと野宿をしていた「白」は、一人不寝番をしていた。

 仲間達は「白」を信頼しきって、完全に寝ているし、女は未だに手も足も出ぬというのに「白」を睨んでいた。

 そして、「白」は初めて仲間を裏切った。

己の中に燻るものを掻き消すため、女を縛る縄を斬り、女を逃がした。

 女もまた、その好機を逃さなかった。我らの祖先を裏切り、のうのうとティダンの恩恵を受けし彼らをいつか殺してやると誓っていたが、それは今ではない。女は「白」へ飛びかかると、黒炎にて「白」の身体へ刻印を掘る。

 いつの日か、憎悪の炎が貴様を焼き尽くす。

彼女はそう言うと暗い闇に消えていった。

 彼の仲間が目を覚ました時、そこには焦げた縄と、黒炎にて傷を負った「白」の姿だけがあった。奇しくも(若しくは狙い通りに)、「白」の裏切りは完全に隠蔽されていたのであった。

 

 数年後、「白」は一人で旅をしていた。己の力を鍛えるためでもあり、鍛冶を極めるためでもあり、女に勝つためであった。

 そんな時、彼はついに女と出会った。

森で倒れている女。彼を翻弄した大槌は見事に砕け、その肉体には生きているのが不思議なほどの深い傷があった。

 ドワーフは慌てて女を手当した。神官としての奇跡は持っていなかったが、一人旅にて培ったレンジャーとしての技能が救いであった。

 なんとか一命を取り留めた女を、今は使われていない、木こり達が休む小屋にて寝かせると、寝ずに看病をした。蛮族は嫌いであるが、この女に勝つため自分は仲間を裏切り、仲間を捨て、一人過酷な旅を続けていた。当然、このような場所で女が自ら以外のものによって死に、決着をつけられぬ事だけは避けねばならなかった。

 女もまた、必死に生きた。ドワーフを殺すと誓い、それでも尚、一人も殺せてはいない。

 あまつさえ自分が生きるために仕えていた蛮族に裏切られ、そいつへの復讐もしなくてはならない。こんなところで死ぬわけにはいかなかったのだ。

 やがて女が完治すると、「白」は女にひと振りの大斧を渡す。武器がなくてはかつての続きが出来ぬと考えた「白」が看病の合間にすべての力を込めて創り出した一品であった。

 女はそれを持つと躊躇いもなく、「白」へその斧を振るう。「白」もまた、一瞬の戸惑いもなく盾でもって応戦する。「白」の中にはついに待ちわびていた再戦であったし、女にとってもそうであった。

 闘いは熾烈を極めた。大斧は盾に食らいつき、数多の傷をつけていき、盾もまた大斧の刃を潰し鈍らへと変えていく。

 とうとう、決着がつく。「白」は女を倒すためすべてを投げ打ち、対して女の方は大きな怪我のせいで、かつて程の力はなかった。元より決まっていた勝負なのだ。

 しかし、負けたはずの女の顔には悔しさもなく、なんらかの満足感と開放感に満たされていた。

 「白」もまた、己の胸の燻りが嘘のように消えており、その顔は実に穏やかであった。

 「白」は女にとどめも刺さずに女の横で無残に折れた斧を拾い上げ、打ち直す。そうするのが当然のように思えたし、何よりも「白」は女を殺すのがもったいなく感じていた。

 女も隙だらけの「白」をただただ見つめていた。打ち負かされた時に、彼女の心にはドワーフへの憎しみは薄れ、他の何か、まるでグレンダールの炎のような熱い何かに支配されつつあった。

 やがて女は打ち捨てられてる盾を拾い、男の隣に仏頂面で座ると、死んだ父より受け継いだイグニタイトのインゴッドを黒き炎により溶かし、盾へ混ぜ込み打ち付ける。蛮族に裏切られた時でさえ必死に隠し守っていた大事なそれを、躊躇なく使う。自身を負かした「白」にはくだらぬことで死んでほしくはないし、なにより胸の熱い何かがそうするべきだと言っているから。

 お互いはお互いの顔をみるでもなく兎にも角にもお互いの武具を己のハンマーにて打ち付ける。それは、次第に己の鼓動のように早く、力強くなっていた。

 そんな彼らを闇夜を照らすシーンただ一柱だけが優しく見守っていた。

 

ーーやがて月日が経つと、ルキスラの街で二人の冒険者の噂が聞こえてくる。

「帝国一の盾にして偉大なる白騎士」と「帝国一の斧にして畏怖すべき黒騎士」

 その二人は仲の悪い筈のドワーフとダークドワーフでありながら、常に仲睦まじくそばに寄り添い合い、

冒険者として数多の人々を救ったという。


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