真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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第10話

 ごちそうさまでした。いやぁ、非常に美味でしたなぁ。京都に来た価値はこれだけでも十分すぎるほどだぜ。

 ミサゴちゃんからすりゃあ魔が差した、ですましたいんだろうがねぇ。俺からすりゃあ、一夜で終わらせるつもりなんてない。俺ぁ、底意地が悪いからな。いい女は満足するまで貪ってやりてぇ。

 

 

「修二、なんか機嫌いい?」

「おっ、分かるか? 小雪ちゃん、いやぁ、久々にご馳走を食べれたからねぇ」

 

 

 ミサゴちゃんと愉しんだ後、小雪ちゃんたちのホテルに戻ったころには既に朝日が顔を覗かせていた。倦怠感はあるが、むしろ心地よい。寝たいが、せっかくの京都だし、ちとばかり徹夜で無理してもいいだろ。

 

 

「そのご馳走って、私のことかしら……」

 

 

 ミサゴちゃんが大きくため息をつきながら、頭を抱える。小声でだが、一番近い俺の耳には届いてた。なんだ、自覚あるんじゃねぇか。

 

 

「それよりも修二君、そちら女性は? お知り合いでしょうか」

「ん? ああ、昨日ナンパしてきた。今日は京都を案内してもらおうと思ってな」

 

 

 いやぁ、断り切れないミサゴちゃんもミサゴちゃんだねぇ。結局ズルズル引きずられるように沼に落ちるタイプだよ、ミサゴちゃん。

 

 

「ナンパってお前な……いつの間に何やってんだよ」

 

 

 準が呆れ、冬馬もいつもの笑みを浮かべていた。だが、一人だけその顔を赤く歪めていた。

 うん、百代ちゃんは激おこぷんぷん丸になると思ってた。

 

 

「修二ぃ! この浮気者!」

「そげぷっ!」

 

 百代ちゃんから拳が飛んでくる。レバーを抉る一撃で内臓をシェイクしてくれる。

 いい一撃だ……世界狙えるぜ……。

 

 

「……おち、落ち着くんだ。百代ちゃん、これはね……浮気と言うか、据えられてない膳も食べちゃう男の性というか……」

「言い訳無用だ。歯を食いしばれ、修二」

 

 

 あ、あかん……、マジな目だ。百代ちゃんに断罪(nice boat)されてまう。

 

 

「んー……モモちゃん、どうしてそこまで怒ってるの?」

「……小雪……?」

 

 

 心底分からないといった感じで、小雪ちゃんが首をかしげる。それに戸惑うように、百代ちゃんの拳からも力が抜けていく。

 

 

「だって、小雪、こいつは……私たちのことを好きとか言っておきながら、他の女にも同じことを言うんだぞ」

 

 

 前々から、百代ちゃんの中には燻っていたのだろう。冬馬の手紙という微妙なスタートだったとしても、そこから今まであったのは嘘幻ではなく、確かな現実だったのだろうさ。

 その間に小雪ちゃんの中で育まれた感情は年相応に可愛らしい恋慕。だが、その相手が最悪過ぎたなぁ。

 平然と浮気(?)をし、最低で自分勝手な悪い男。自覚はあるが、改めて我が身を振り返るとほんと最悪だな。ついでに酒癖も博打癖も悪い。

 

 

「…………」

 

 

 ミサゴちゃんは何も言わずに百代ちゃんを見ていた。俺の視線に気づいたのか、冷めた目を向ける。昨夜の出来事と言うフィルターを通さずに、俺と言う人間を図るようだった。

 俺はその目に不敵に笑い返す。これが俺だ、好きなものを好きなだけ、したいことはしたいだけ。

 

 

「でも、モモちゃん。修二はいつだってボクたちのことを考えてくれてるよ?」

「……」

 

 

 百代ちゃんが小雪ちゃんに押し負けるように黙り込む。

 

 

「修二はいつも真剣だよ。馬鹿だし、ボクたち以外にもデレデレするけど」

 

 馬鹿って、いやまぁ、育ちがいいわけじゃないけどさ。もうちょっとオブラートに包んでくれよ、俺の心はこわれもの扱いなんだからさ。

 

 

「修二は真剣に生きてる。だから、ボクは好きだよ。修二がボク以外が好きでも。ボクのことが好きな限り」

 

 

 小雪ちゃん、随分と都合のいい女の子になってしまったなぁ。将来悪い男に騙されるぞ、俺とか。

 百代ちゃんは目を瞑る。怒りで赤く染まっていた顔が元の白い肌へと戻る。怒りのピークは七秒とかいう話を聞いたが、まさか小雪ちゃんが百代ちゃんを押しとどめることができるとはなぁ。

 

 

「分かった。小雪の言うことも、私には分かる」

「ほっ」

 

 俺だけじゃなく、準や冬馬も安堵の息を漏らす。そら、まだ子どもって言っても、既に百代ちゃんのパンチは人体破壊パンチになっちまってるからな。

 

 

「ただ、私のこのムシャクシャした気持ちも本物だから」

 

 

 ん? おや? おやおや? これは良くない流れ。

 

 

「修二を本気で殴る。改めて、歯を食いしばれ、修二」

「それには僕も同意ー! やっちゃえモモちゃーん!」

 

 

 ちょ、ま、死─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近、顔面が崩壊しかしてない気がする」

 

 

 百代ちゃんは一発殴ればある程度すっきりしたらしい。小雪ちゃんはゲラゲラ笑い、ミサゴちゃんはドン引きしていた。容赦なく顔面崩壊させた百代ちゃんにか、それを見て笑う小雪ちゃんにか……いや、どっちにもか。

 顔面陥没が得意芸みたいになるのはほんとに御免である。

 

 

「あなたたちって、いつもこうなの?」

「あ、はい。だいたいこんなですね。修二が痛い目を見てってのがいつもの収まりどころです」

「収まってねぇよ、俺の顔を見ろよ。このハゲ」

 

 

 ミサゴちゃんの案内で映画村までやってきた。長屋のような建物が立ち並ぶ中、百代ちゃんと小雪ちゃんは華やかな町娘のような着物に着替えてはしゃいでいた。

 準は袈裟を羽織って坊主に、冬馬も着物を着て商家の跡取りみたいになってやがる。

 

 

「修二も似合ってるよ? 顔はへこんでるけど」

「ありがとうよ。小雪ちゃん。ただ、一言多いからね? 既に顔も心もへこんでるからね?」

 

 

 浅葱色の羽織りを羽織った俺はさぞイケメンなのだろうに。百代ちゃんの鉄拳制裁のせいで、ギャグマンガのように顔が内側にめり込んでしまってやがる。

 毎度おにゃのこ遊びするたびにこうされるのなら流石に自重するか……?

 ぐぐぐぐぐっとめり込んだ顔に力を込める。PON! という音とともに顔が元に戻る。

 

 

「ふぃ、鼻の高さ変わってない? ハンサムのままで大丈夫?」

「大丈夫だよー。いつも通りハンサムハンサム」

「ありがとよ、小雪ちゃん。うっし、お前ら、からくり忍者屋敷に乗り込むぞ」

 

 

 からくり屋敷にお化け屋敷、遊び場には事欠かない。そんな俺たちを、ミサゴちゃんが引率者らしく後ろから見守っている。

 

 

「はしゃぎすぎてはぐれないようにしなさいよー」

 

 

 ミサゴちゃんも引率に慣れたのか、大人の余裕を取り戻していた。うんうん、仕事ができる女をずぶずぶに陥れるのもいいが、こうして凛とした姿も中々そそるもんだわ。

 

 

「んじゃ、て

めぇら、RTAするか」

 

 お化け屋敷を指さし、俺は他の奴らに歯を見せて笑う。前世というか、前の身体の頃から色んな体を動かすことは好きだったんだ。サイヤ人のような体になった今なら、小さなからくり屋敷程度一分切れるかもしれん。

 

 

「修二、RTAって何だ?」

「おん? タイムアタックのことだよ、要するにお化け屋敷を一番短い時間でゴールで切れば勝ちって話だ」

「なるほどな」

 

 

 百代ちゃんは若干顔が青ざめてる。お化け嫌いだったっけ、この子。まあ、どうせご当地お化け屋敷だし、大丈夫だろ。

 俺はこの判断を、数分後には後悔することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃああああああああああ!!!」

「……ケパ」

 

 

 俺たちは二人一組でお化け屋敷を巡ることにした。一人で行って味気なくゴールするより、なんか二人の方がいいかなって思ったからと言う適当な理由からだった。

 厳正なぐーぱーの結果、俺と百代ちゃん、冬馬と準、小雪ちゃんとミサゴちゃんという三組に分かれた。この時点で、俺は神の作為に気づくべきだった。なぁにが、怖がってそうな百代ちゃんを怖がらせてやろうだよ、タイムアタックしろよ。

 

 

「きゃああああああああああ!! お化けぇええ!!」

「……コポ」

 

 

 既に、俺は虫の息である。何がやばいって、百代ちゃんが悲鳴を上げるたびに首を絞められる力が増していくことだ。最初の頃はタップしてたが、百代ちゃんは気付いてくれなかった。

 このままではほんとに死んでしまう。

 

 

「………はぁ………はぁ………ゴールか?」

「………」

 

 

 ようやくゴールか。なんとか耐えたか……。

 

 

「おい、修二?」

「けほ……げぼ……百代ちゃん、お前ぜってぇ二度とお化け屋敷に入るなよ。少なくとも、俺以外とは行くなよ」

「そ、そうか……そう言われるのは少し照れるな」

 

 

 そういうこっちゃねぇよ、勘違いっ娘め。まあいい、俺が二度と行かなければいいか。

 一位は冬馬、準ペアだった。小雪ちゃんはマイペースだからな、ミサゴちゃんも急かすタイプじゃねぇだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミサゴちゃんおススメの京料理屋で夜を済ませて、ホテルに帰ったら、なんか釈迦堂が拗ねてた。なんでも、放っておかれてたのが気に入らなかったらしい。

 他のがきんちょたちはいい時間だったからもう部屋に戻らせて、俺とおっさんでホテルのロビーでだらけていた。

 

 

「いや知らんべ。おっさんも自分で楽しんでたんじゃねぇか、酒の匂いがするぜ?」

「ま、そうなんだけどな。俺ってば一応引率役だったじゃねぇか。それを忘れるってどうなんだ?」

「いや、それこそ居酒屋巡りしてた自業自得じゃねぇか。まあ、忘れてたのは俺が代わりの引率役見つけたってのもあるけどよ」

「あぁ? 代わりだぁ」

 

 

 怪訝そうな顔をするおっさんは、そこで俺たちの後ろで様子を窺ってたミサゴちゃんに気づく。

 

 

「さっきからそこそこの手練れがちらちらと様子窺ってると思ってたが、なんだ、手が早すぎねぇか? お前小三だろう?」

「悪いね、顔がいいもんで、可愛い子は勝手に寄ってくるんだよ」

「ちょっと、明らかにあなたが迫ってたじゃない。それに酔わせてホテルに連れ込んだでしょ」

「あれれぇ~? おっかしいなぁ~」

 

 

 おとぼけてみるが、ミサゴちゃんは唇をひくつかせてるし、おっさんはまあそうだろうなとか言わんばかりに缶ビールを開けていた。

 

 

「釈迦堂刑部だ。ガキどもが世話になったな、いや……まあ、それくらいじゃ済まねぇくらい迷惑かけちまったみてぇだが」

「……そうね……でも、釈迦堂刑部って、川神院の?」

「おん? ミサゴちゃん、おっさんのこと知ってんのか?」

 

 

 川神院ってそういや有名な道場だったか。そこの師範代とかいう微妙なポジだと思ってたが、意外とすげーおっさんなのか?

 

 

「ああ、そうだぜ。ま、今回はガキのお守に来てるだけだけどな」

「お守してない件について。酒飲んでるだけじゃねぇか、おっさん」

「うっせぇ、京料理も一緒に味わってるんだよ」

 

 

 ナチュラルに気弾飛ばすなし。弾いた手が痛ぇだろうが。

 

 

「改めまして、自己紹介を。松永ミサゴと言います」

「おう、釈迦堂刑部だ。よろしくな」

「んで、このあとどうするー? ミサゴちゃんなんかおススメのお店とか行く?」

 

 

 夜は大人の時間だ。人は時間に合わせた立ち振る舞いをしなきゃいけねぇからなぁ。子どもの時間は終わりだ。

 

 

「お、いいねぇ。このチビでも入店拒否されねぇ店って知らねぇか? 松永さんよ」

「知ってるわけないじゃない……。そういう裏のお店は探せばあるかもしれないけれど、少なくとも私は知らないわよ」

「かかか、残念だったな、修二。ま、俺も今日は少し胃を休めてやるか」

 

 

 ちくせう。まあ、いいさ、飲む打つ買うの飲むがダメになっただけだ。打つは今はいいとしてぇ。買うなら今すぐにでもできるなぁ。

 

 

「と、いうわけで、俺とミサゴちゃんは部屋に戻るわ。釈迦堂のおっさんもたまには早寝しろよなぁ」

「ちょ……何が、というわけなのよ」

「おーう、ヤリすぎんなよぉ……ったく、やっぱぜってぇ見た目通りじゃねぇだろ」

 

 

 聞こえてんぞー。まあいいや、おっさんは放っておいて、ミサゴちゃんの方が優先に決まってる。

 まだ何か言っているミサゴちゃんの腕を引っ張って、ホテルの部屋へと向かう。あくまでミサゴちゃんなら振り払える力で引っ張ってる、それこそ、少し力を籠めればほどけてしまうだろう。

 部屋までのエレベーターの中で、俺は今日はどんなことをしようかワクワクが止まらない。

 

 

「ミサゴちゃんよ。俺ぁ、逃げるのなら追わないが、立ち止まるのなら引きずり込むぜ?」

「……どうせ、一度やっちゃったのなら、二度も変わらないわよ」

 

 

 だから、とミサゴちゃんは顔を伏せた。

 

 

「彼のことを、忘れさせて……」


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