真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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第12話

 そりゃあまあさ、今は夏真っ盛りで、花火の季節じゃん? でもさ、これは違うとおもんだよ。

 確かに似たような物だけどさ、どっちも派手だし、おっきな音がするし。けどこっちはきたねぇ花火にしかならねぇんだよ、夜空を照らす華には成れねぇんだよ。

 というか、こんなときにこそ居るべき爺はどこ言ってやがるんだよ! あぁ!?

 みかどっちとドバイだと!? ふざけんな! あの髭全部もぎってケツに全部植え付けてやるぞ! ……いや、ケツはきたねぇから髭ごと頭燃やしてやる。お友達みたいなぴんぴかりんの頭にしてやる。

 

 あぁ! くそが! やってやるよ馬鹿野郎が! ぜってぇ黒幕には復讐してやるかんな。

 

「見てろよ! 英雄! これが俺の誕生日プレゼントだ!! 目に焼き付けろよ!」 

「修二!? お前何を!」

 

 

 俺は全力で跳ぶ。ガラスの割れる音、英雄が息を飲む音、全てが鮮明に聞こえる。

 脳内麻薬がドバドバ出ているのを感じる。世界がスローに、ふわりとした浮遊感すらも支配できるような万能感が俺を支配する。

 

 

「そらぁああああああ!!!」

 

 

 全力全開、右足を振り下ろす。すさまじい音と共に、宙に投げ出されたからだが上へと浮き上がる。そのまま左、右と足を振り下ろす。空気を音を越えた速度で踏みしめることで、その反発により空を駆ける。

 人類は空を飛べるのだと、身を以て証明してしまった。だが高さがまだ足りない、残り時間は十秒もない。

 

 

 

 もっと、もっとだ。先のことなんて知ったことか、身を燃やせ。どうぜこの後爆散するんだ。派手に行こうぜ。

 

 

 

 

「たぁああああああああまぁあああああああやぁあああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 俺は夜空を照らす花火となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残暑も既に終わり、それどころか冬も春も過ぎ去っていつの間にか俺は小学四年生と言う新たなステージに立っていた。俺は川神院に入り浸ったり、板垣家に入り浸ったり、小雪ちゃんたちと遊んだり、たまに一子ちゃんたちとも遊んだり、それなりに充実した日々だった。

 唯一問題になったのが、ミサゴちゃんのことだろう。といか、九鬼に就職してた。ビビるわ、九鬼の収容所(俺はそう呼んでいる)に帰ったらメイド服でいやがるんだもの。つい、

 

 

「無理しなくて……ええんやで、ミサゴちゃん」

 

 

 と優しい声をかけて半殺しにされてしまった。いやね、綺麗だし似合ってるんだけども、あふれ出るコスプレ感についでた言葉は仕方ない。てか、九鬼が従者の服装をメイド服と執事服で統一してるのが悪い。以前帝っちにその理由を聞いたら、どっかの代の九鬼当主の趣味らしい。アホかな?

 まあ、しっぽりと愉しませてもらったけど。

 九鬼の馬鹿さ加減と言えば、まだまだあるが、ひとまずは、俺の目の前に広がる光景だろう。

 

 

「たかが子どもの誕生日にこんだけ盛大なぱーちーをするあたり、金のあるアホってすげーなーって思うわ」

 

 

 俺は立ち並ぶ豪華な料理や、テレビで見たことある有名人や政治家が居るパーティ会場に居た。

 本日、八月二日は英雄の誕生日だったらしく、数日前に俺に招待状が送られてきた。川神から離れて東京のどっか有名なホテルを一晩全部丸ごと貸切るとかどんだけだよ。

 せっかく冬馬達が誕生日ぱーちーを考えてやってたのによぉ、俺の練習したヨガフレイムを見せてやろうと思ってたのによぉ。

 

 

「まあ、来れなかった冬馬たちにもお土産くらいは持って行ってやるか」

 

 

 俺は立ち並ぶ料理をタッパーに詰め込む、パーティの参列者はそれに眉を顰めるが知るかアホ。こちとら大家族なんじゃぞ。

 

 

「修二! お前も来てくれたか!」

「おん? 英雄か、相変わらず眩しい格好してんな、今日は三割り増しってか?」

 

 

 いつも眩しい格好しているが、今日はいつもよりも眩しい恰好をしている英雄が俺の元へやってきた。立食パーティでタッパー詰めしている子どもは目立つのか、ぽっかりと空洞のように人が避けていた。

 おかげで好きな料理が取れるから別にいいんだが、少し悲しいぜ。

 

 

「誕生日おめっとさん、ったく、こんな派手なパーティがあるなら小雪ちゃんや冬馬達も誘ってやればよかったのによ」

「なに、あいつらにはこういった場はあまり好まないだろうと思ってな。後日、ひっそりとしたパーティに招待するつもりだったのだ」

 

 

 ほーん、意外と気が利くんだな。まあ、誘われなかったことがショックだったみたいだから、ちゃんとそのことを言えてれば満点だったけどな。

 

 

「それならいいが、てか、それなら俺は何で呼んだし」

「修二は父上が呼んでおけと言ったのだ。なんでも勘がそう囁いたらしい」

「…………………」

 

 

 虫の知らせだろうか、すさまじく嫌な予感が背筋をよぎったんだが。具体的には、このパーティ会場にいる全員が死ぬようなレベルの悪い予感。

 

 

「そういや、そのみかどっちとかはどうしたんよ。爺さんがいねぇのは気配で分かるが」

 

 

 爺に虐められすぎたせいで、ナチュラルに気配とか読めるようにはなったのは、数少ない爺ズブートキャンプの良かった点だな。

 

 

「父上はドバイに出張だ。母上もそれについて行っている。ヒュームは護衛だな」

「さいですか、まあ、忙しそうだしな」

 

 

 この様子だと、姉貴も居なさそうだな。揚羽ちゃんは一回声をかけたらそのままバトル漫画になったから、気を見て声をかける必要があるのは難点だ。武人然としてるけど、意外と乙女だから可愛いんだけどな。

 

 

「なんだ、寂しかったのか? 英雄ちゃんよ」

「ふむ、正直言えばそうなのだろうな。父上や姉上に祝って欲しいとは思う」

「あら、案外素直なのな。てっきり、九鬼の者として寂しいなど言えないとか言うと思ってたのに」

 

 

 少なくとも、初めにあったころに英雄ならそう言いそうなのに。

 

 

「ふっ、お前に取り繕ったところで意味もあるまい。ここに父上や姉上が居なくとも、後でお前たちも祝ってくれるのだろう?」

「ち、勘がよくなりやがって。生意気になったな」

「フハハハハハ!! 勘がよくなったのなら少しは父上に近づけたのだろう!」

 

 

 ちくしょうめ、見透かすのは好きだが、見透かされるのは嫌いなんだよ。

 まあいい、俺のヨガフレイムで英雄の金ぴかな服を炙って鬱憤を晴らしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 英雄はあいさつ回りに忙しいとのことで、早々にどっかに行ってしまった。あいさつ回りに忙しい誕生日パーティとかある意味あんのか? まあ、上流階級には俺の知らないルールがあるんだろうさ、大変そうなこった。

 そんな宴もたけなわなパーティの中で、ふとなんか臭った。誰かが屁をこいたのかとも思ったが、どうにも違う。嗅ぎ慣れた訳じゃないが、知ってる臭い。

 

 

「火薬の香りがするって、おかしいよなぁ? おかしいよ」

 

 

 臭いの元はガタイのいい男。その男を見た瞬間、俺はほいほいとこんなところに来たことを呪った。

 おいおい、おいおいおいおい、ふざけんじゃねぇぞ、ラブコメだっつってんだろ。ジャンル違いが出しゃばってんじゃねぇぞ。

 死の雰囲気と言ううべきか、なんかよく分からんが、確実にその男がただのぱーちーに呼ばれた客なんかじゃないのは分かる。そして、人をたくさんぶっ殺していることも。

 

 

「あぁくそが、みかどっちめ、俺を呼んだのはこのためか。どうせなら爺を置いてけってんだ」

 

 

 この会場にも九鬼の従者は居るし、その他にもそこそこできそうな雰囲気の奴らが護衛のように張ってた。しかし、目の前の男は少なくとも川神院のジャッキーチェンもどきくらいには強い。食らいつくことはできても殺されて終わりだろう。

 九鬼がデカい分恨みつらみもたくさんあるだろうさ、そのあたりは察せられるが、ここまでの門だとは思ってなかったぞ。

 

 

「はぁ、やるしかねぇか」

 

 

 一回こっきりくらいならバトル漫画展開もいいだろう。そもそも、バトル漫画嫌いじゃねぇしな。

 殺される前に殺す。少なくとも、生ぬるいやり方で渡り合える奴じゃねぜ。

 

 

「おい、ボーイ、度数の高い酒全部貰うぜ」

「あ、こら、君未成年だろ」

 

 

 いいじゃねぇか、どうせこっからはR18にしたいくらいの展開なんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁああああ!! 手が滑ったぁあああ!!」

 

 

 世界有数の企業である九鬼財閥。その御曹司である九鬼英雄の誕生日会には、多様な業界から多くの人物が足を運ぶ。九鬼という巨大な企業と繋がりを持ちたい者、九鬼の次代を担う後継者の一人を見定めに来た者、純粋に呼ばれたからただ飯を喰らいに来た者。

 当然、そのパーティには万が一に備えての護衛が配備される。九鬼の従者部隊、政府公安、フリーランスの傭兵。この場に居る著名人たちを守るために、彼らは命を賭ける覚悟をして備えていた。それが任務であり、依頼であり、自らのすべきことであるからだ。

 

 そんな彼らでも、それは唐突だった。

 

 一人の少年が、突然ボーイの持っていたグラスを床にぶちまけたのだ。それも、コップ一杯とかではない、まずはホテルのボーイがトレイに持っていたものをすべて、次は周りにあったボトルをカチ割りながら、パーティ会場を汚していく。

 その少年は初めから周りに忌避の眼で見られていた。明らかに平凡な服装、まるで友だちの家にでも行くかのようないでたちであり、パーティが始まった後には料理をタッパーに積め始めるのだ。早々に九鬼英雄が声をかけていなければ、つまみ出されていただろう。

 

 

「いっけねぇ、やっちまったなぁ」

 

 

 まさに悪辣と言う笑みを浮かべながら、修二はポケットに手を入れる。そんな少年へ、ホテルの従業員たちは顔を憤怒に歪めて近づく。普通の子どもなら、そのままつまみ出されておしまい。パーティを仕切り直すために、従業員たちは急いでカーペットを取り換えることとなるだろう。

 

 

「あぁああ! また手が滑ったぁ! 邪魔すんじゃねぇ!」

 

 しかし、修二は掴みかかってきたホテルの従業員を投げ飛ばした。そのままドアは壊れ、従業員の姿は部屋の外へと見えなくなる。

 その光景にパーティ会場は静寂に包み込まれる。

 

 

「あーあ。くそが、こんなことのために用意してたんじゃねぇんだぞ。ヨガフレイムしたかっただけなんだけどねぇ」

 

 

 あまりにも無造作に、あまりにも自然に、修二は手の中からそれを放り投げる。故に、それには誰も反応できなかった。護衛として配備されていた従者たちも、依頼金目当てで紛れ込んだ護衛の傭兵も、このパーティ会場そのものを人質にしようとしていた暗殺者も。

 撒き散らされたアルコールをたっぷりと吸ったカーペットにソレは放り投げられた。

 

 瞬間、部屋の中を熱が撫でる。パーティ会場が、突如として立ち上った炎で奥と手前に二分にされる。

 少年が投げ落としたものがライターと気づけたのは、壁越えと呼ばれる実力者である暗殺者だけであった。

 

 

「そんじゃま、次はお前じゃごらぁ!」

 

 

 そのまま、弾丸のように、修二は飛び出す。めがけるは一般人を装った殺人者であり、一瞬たりとも相手のペースを取らせるつもりは無かった。

 

 

「っ!」

 

 

 突然子どもが奇行に走り、その動揺で僅かに、コンマ一秒以下だが反応が遅れてしまった。暗殺者は飛んできた修二に四撃、拳打を打ち込むが、会場の奥へと炎の向こう側へと連れていかれてしまう。

 

 

「いってぇなぁ! オイ!」

 

 

 並みの武術家なら即死する拳撃に、悪態をつくだけで我慢した修二は、お返しとばかりに腹へと拳を振るう。

 暗殺者は交差した腕で受け止め、子どもとは思えないその重さに眉をひそめる。その衝撃にカーペットを逆立てながら、後ろへと後退る。

 

 

「何者だ、貴様」

「答える必要も、聞く必要もねぇなぁ! ごらぁ!」

 

 

 まるでチンピラのように、修二は暗殺者を蹴りつける。それを突き出した拳で受け止め、暗殺者は素早く思考を切り替え、修二を殺すことにする。

 ここに来てようやく、パーティ会場が動き出す。悲鳴に怒号が入り混じり、多くのものが会場の外へと逃げ出す。修司の突然の凶行に唖然としていた英雄も、真っ先に護衛たちによって連れ出された。

 

 

「やれやれ、計画が台無しだ。やってくれるな」

「そら残念だったな。俺はさいっこうな気分だよ!余計な手間増やしてくれやがってよぉ!!」

 

 

 暗殺者の姿がブレ、拳が、脚が、修二の体へと叩き込まれるが、修二はさほど堪えた様子もなく、反撃をする。男は打撃の効果が薄いと分かれば、その拳を開き、指先を伸ばす。より殺傷能力を高めるために、より人体を破壊するのに適した形に。

 

 

「シッ!!」

 

 

 殺人者は岩石すら砕く威力を持つ貫手を、修二の喉へとめがけて打ち込む。流石に修二も身を捩り、首をずらすことでそれを避ける。

 効果ありと見た男は、続けて貫手を繰り出す。

 その死に対して死中に活を求めるがごとく、修二は致死の一撃に晒されながらも隙を伺った。

 

 

「らぁ!」

 

 

 何回か貫手が掠ったが、修二はギリギリで避け伸びきった腕を掴み、肘へと目掛けて膝を蹴り上げる。ボキリと確かな手応えとともに、暗殺者の腕はあるべき方向とは逆へと曲がる。

 

 

「ぬ……」

 

 

 眉をわずかに顰めながら、殺人者は修二の鳩尾へと拳を叩き込む。修二は今までと同じように受け止め、そして吹き飛ばされる。

 室内に並べられたテーブルを巻き込み、壁を半壊させながらも、修二は何事もなかったかのように立ち上がる。

 

 

「かーぺっ。腕を折ってやったってのに、元気な奴だな、おい」

「化け物が……どういう理屈で平然としている」

 

 

 暗殺者は修二の戦い方を観察していた。

 決定的な致命傷となる一撃以外、全て攻撃を受けながら反撃をしてきているのだ。

 手応えはある、しかし、ダメージが蓄積した様子は無かった。まるで、攻撃を与えたそばから回復でもしているかのような。

 

 

「そろそろ種もバレるだろうし、ケリをつけたいわな」

「そうだな。貴様を一撃で殺せば簡単に終わりそうだ」

 

 

 相手が一撃必殺のみを避けるのならば、それを叩き込めば良い。それを為すための方法が武術なのだから。

 暗殺者は腰を落とし、折れた腕を盾にするように構える。修二も、ここで初めて構えを取る。

 

 

「ふっ!」

「らぁ!」

 

 

 暗殺者は全力の一撃を、必殺の意志を持って振るう。修司は元より防御などと言う殊勝なことは考えておらず、殺人者の攻撃をその上から蹂躙するつもりであった。

 両者は同時に駆け、拳を振るう。ぶつかり合う拳は、拮抗し、周囲のものを吹き飛ばす。部屋に広がっていた炎すらも、拳同士の巻き起こした衝撃波で消え去ってしまった。

 

 

「……」

「……」

 

 

 お互いに残心の構えのまま、一拍が経つ。

 そして、崩れ落ちたのは暗殺者であった。拳は砕け、見るに堪えない有様となってしまっていた。修二の拳も、同じような有様であったが、しっかりと両足で立っていた。

 

 

「モモちゃんに無双正拳突きを習っといて良かったぜ。死ぬかと思ったわ」

 

 

 あー終わり終わりと、修二は気絶した暗殺者の服をまさぐる。男の懐には、あからさまなスイッチのようなものがついた箱が入っていた。

 

 

「さて、とりあえずこれをどうにかするか……ん?」

 

 

 修二は手に取ったそれに、残り時間のようなものが表示されているのに気づいた。そして、それが減っていることにも。

 よくある時限爆弾のスイッチにしか見えないそれは、数秒修二がフリーズしてしまう間にもその数字を減らしていく。

 しかも、男の体をまさぐれば、いかにも爆発しそうな包みが出てきやがった。

 

 

「おいおいおいおい、いつの間に押してくれやがってたんだ!」

 

 

 残り時間は一分を切っていた。こうなればいつの間にスイッチを押したのだとか、こいつからした臭いはこれが正体かよとか、そんな疑問や感想はどこぞへと消し飛んでしまう。

 爆弾の規模や避難状況など分からない。実行犯である暗殺者は夢の中もしくは三途の川の向こう側。

 少ない残り時間、目の前爆弾を処理する。

 

 

「ぁああああ! どちくしょうめ! やるよ、やりゃあいいんだろ!」

 

 

 絶対帝に一撃かます。そう心に決めた修二であった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
テロリズムは修二君の爆笑宴会芸となっていただきましたが、小学生編も残りわずかとなっております。
あと一つ二つばかりイベントをこなして、少し時間がたつこととなります。

では、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

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