お気に入り、ありがとうございます。
第5話となります。よろしくお願いします。
好きなようにしていいとおばあちゃんのお墨付きももらったので、そろそろ俺も全国を目指そうと思った。
その道先はどこまでも困難だろう。時には膝を屈さなければならないときもあるだろう。
「だが、俺はこの相棒(リアカー)で峠を極める」
百代ちゃんの裏の森からいくらか木を拝借して、俺が手ずから完成させた一点物だ。通学通勤にはもちろん、格納された屋根を出せばあら不思議、スィートマイホームに変化するおちゃめな匠の遊び心をを感じさせる。
樹齢うん百年と百代ちゃんの爺が自慢していた大木は乗員に自然の温かみを感じさせ、あまりの出来にお爺さんは涙を流していた。
乗車席は前二つ、後ろ二つ。そして座席後部には収納スペースを備えており、このスペースにはなんと! 冬にはこたつを設置することができるのだ。
だが、まだ匠の技は見せきっていない。このリアカーにはなんと──。
「てか、急に何でリアカー?」
「ヴァカめ! これからの時代はエコ車の時代なんだよ! つまりこのリアカーは時代の先駆けと知るのだ!」
たまたま日本に戻ってた帝っちがリアカーをさらに改良する俺の手元を物珍しそうにのぞき込んでくる。
「エコねぇ……。そういや、車関係の企業がそんな話持って来てやがったなぁ」
まあ、俺からすりゃ昔の時勢だからな。本当のエコって物を大切に使い続けるスタイルだと思ってるしな。
「んで、リアカーはともかくとして、お前さん、最近どうよ」
「あー、そうだねぇ。割かし楽しんでるよ。面白そうなやつらもそれなりに居るし」
「ヒュームも紋白に付けてきたからな。感謝しろよ?」
「マジか。だからあの髭爺さん居ないのか。最高かよ帝っち。愛してるわ」
廃品を回収して溶かして作った金具を金槌で打ち付ける。至高のリアカーを名乗るからには大陸を横断できるくらいじゃなくちゃいかん。そのためには一切の手抜きは許されない、部品一つ間違えただけで、その歪みはこいつの寿命を10年縮める。
「すげぇな。どこでこんなこと覚えてきたんだ?」
手作りのねじを弄びながら、帝っちは俺の横に腰を下ろす。
「大工仕事は怪我して大工できなくなったゲンさんってのに習って、金物は小さな工場でバイトして覚えたなぁ。どっちもろくな結果にならなかったけど」
「へぇー、俺には分からねぇことだな」
ちなみにゲンさんとは酒を取り合って喧嘩別れ、バイト先は不況でブッ潰れた。仕方ないから下請け企業舐めた大手の会社を襲撃して金品かっぱらってやったが。
「まあ、大したことじゃねぇよ。時間と気合があれば、誰だってできることだ。帝っちみたいな経営の方が俺には絶対できないからな」
なぜって、ギャンブル染みた運営で会社の金とかを勝手に使う未来しか見えないから。
「惜しいなぁ。その気があればお前も俺程度のことはできるだろうに」
「そっくりそのまま返すわ。ほれ、芋焼酎」
「お、サンキュー。最近仕事詰めで息抜きも出来なかったからなぁ」
とんてんかんという音と杯を傾ける音。
「あ、そうだ。英雄が今度試合あるって言ってたんだが、俺の代わりに応援に行ってくれねぇか?」
「あー? 応援ってあれか? 敵チームに盛大にブーイングしまくればいいか?」
誰かを持ち上げるよりも罵声とつばを投げるタイプなんだよ。
「まあ、暇だったら小雪ちゃんたち連れて見に行くわ。野球は好きだしな」
「おう、頼むわ」
「俺は風になるぅうううううう!!!」
早朝、愛車兼新居が完成したので、俺は九鬼から逃げ出すことにしましたまる。人力車は軽車両に分類されるみたいだから、車道じゃないと走れないらしい。まあ、普通車より俺の方が足速いがな、ほんとこの体のスペックにはビビる。
そんなことを考えてると、俺は今日学校だったことを思い出した。
「そういえば最近学校に行ってねぇや」
リアカーを作ることに熱中しすぎてたようだ。
「これ、学校に駐車していいかな。いいよね、学校関係者だし」
どうせなら用具の中に隠しとこ。森を隠すなら山火事を起こせって言うしな。なんかやらかしてやればそっちに気が回るだろ。
愛車を他のリアカーがある場所に隠し、何食わぬ顔で教室へと入る。
「おはよう、諸君」
お化け見るような顔で見るんじゃねぇよ、がきんちょども。
「おはようございます。修二君」
「おーっす、参謀。俺が居ない間変わりなかったかね?」
「はい、特には。せいぜいが純の髪がまた小雪さんに刈り取られたくらいですかね」
「よしよし、小雪ちゃんも言いつけ通りにしてたみたいだな」
こういうのは時間を重ねて定着させるものだ。そのうち準の奴も剥げているということに慣れるだろう。
「おぉ! ようやく来たか! 待っていたぞ修二!」
「このでかい声は英雄か。朝っぱらからうるせぇんだよ、こちとらリアカー制作で完徹なんだよ」
割と深夜テンションで学校に来ている感じではある。あー、眠い。リアカーに寝袋あるんだよなぁ。
「ぬ、それはいかんな修二。きちんと睡眠を取らねば、学業に精を出せんぞ」
「いーのいーの、学業は二の次だから」
正直二の次どころか地球圏から飛んでいってるけどな。ぶっちゃけ、授業なんて受けなくても、勉強なんぞパラパラ教科書見てりゃあできちまう。
「まあよい、それよりも修二、野球に興味はないか? ちょうど我の所属するリトルリーグチームで欠員が出てな」
「ほーふーん、助っ人ってこと?」
帝っちに応援行ってくれって言われただけだったが、俺も参戦するか?
「いいぜぇ。相手チーム全員ケツバットで退場させればいいか?」
「フハハハハ! 面白いジョークを言うな! だが、今回は正々堂々と試合に臨んでくれ!」
この体のスペックの時点で正々堂々じゃないと思うけど、弱い者いじめって気持ちいいからシカタナイネ。
「そんじゃ、やってやるか。ポジションは4番でピッチャー?」
「9番でライトだ」
あれ? もうちょい期待してもいいのよ?
かっとばすよ? ボールも敵のメンタルも。
「しゅーじ! 今日は学校に来たんだ!」
「おー、小雪ちゃん。今日は気分が乗ったからな。それよか、秘密兵器が完成したから、放課後載せてやるよ」
「うん!」
小雪ちゃんも学校にやってきて、そろそろ朝礼の時間だ。
「それでは、我は自分のクラスに戻るとしよう! それでは、助っ人任せたぞ! 修二!」
英雄もテンション高く戻っていった。なんか忘れてるような気がするな。
「俺だよ! お前小雪に髪剃るように命令してたな!」
あ、ごめん。太陽かと思った。
「おー、これが修二の秘密兵器か。これを作ってたから学校に来てなかったのか?」
百代ちゃんが我先にと愛車に乗り込む。あーあー、乱暴にせんといて。繊細な匠の技は丈夫だけど百代ちゃんパワーには耐えられるか分らんから。
「これは……本当に修二君が造ったのですか?」
「ああ、そうだべ」
冬馬が驚いた様子で聞いて送るので俺は鷹揚に頷いてやる。
「これでどこにでも行けるはずさね。その内海も渡れるようにするから」
「まじかよ……うわ、これすっげぇ手触りいい……」
ハゲもリアカーの表面を撫でまわしている。お前の頭よりも手触りはいいぞ。
「修二……?」
「ん、なんだ。小雪ちゃん」
「……何でもない……」
「そうか」
そんじゃ、いっちょ皆で遠出でもしてみるかな?
「ひゃっほぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
速さを極めるんだ! 誰よりも何よりも! 速さを求めることこそ俺の生きる意味!!
「おぉおおおおおお!! いいぞ修二!!」
「思った以上に振動もなくて、快適な乗り心地ですね」
「こわっ!? 今なんかぶつかったよ!? なんでそんなに余裕なの若!?」
「うわぁあああいい!! 風が気持ちぃいいい!!」
後部座席からハゲの悲鳴やら、なんか銀髪の女を轢いたりした気もしたが、無事に俺たちは川神市を抜け──。
「どこだここ」
「分かんねぇで走ってたのかよ!」
えーと、標識を見れば、松笠? 知らねぇ場所だな。
「ちょうどそこに公園もあるし、一休みしようぜ。俺も久々に走ってちょいと疲れたしな」
異能で菓子、それもガッツリ系を引っ張り出す。乗り物酔いしなかったし、走って腹も減ったしな。
「松笠って……そんなところまで来たのかよ……」
「随分と遠くまで来ましたねぇ……準、修二君に関してはあきらめが肝要ですよ」
準と冬馬が遠い目をしているが、俺と百代ちゃんは二人で小雪ちゃんの口の中にポイポイとマシュマロを放り込んでいく。
「んまー」
「よしよし、器用だなぁ。修二ー、私は桃が食べたいぞー」
「あいよー、桃缶なー」
物理法則とかガン無視な異能だから、桃の缶詰だって出せちゃう。聞かれたら手品とでも答えとこ。
「これなら、北陸とか関西にも進出できるな。目指せ全国制覇だ」
「それいいな! 夏休みとかには武者修行に行こう!」
百代ちゃんのバトル漫画的願望は置いといて、夏休みかぁ。そうねぇ、軽井沢とか、リゾート地巡りもこのリアカーなら行けるだろう。流石俺の愛車。
んー、夏休みかぁ。小雪ちゃん大丈夫かねぇ、主に家庭環境。今度家庭訪問するか?
「ん? どうしたの修二? 僕の顔になんかついてる?」
ま、どうとでもできるか。世の中吹っ切れたもん勝ちだ。
「マシュマロの粉で真っ白だぜ、小雪ちゃん」
ほんと、可愛い子だぜ。
「ヘイヘーイ、ピッチャービビってるー」
バットの先を大きく振る。そりゃもう体全体で相手を小馬鹿にするように、ケツもフリフリして下手なメジャーリーガーの物まねをしてやる。
晴天の青空の元、英雄と同じリトルリーグのユニフォームを着こみ、バットで玉遊びをしている。どうせなら可愛いねーちゃんと玉遊びしたかったがなぁ。
「ち、なめやがって……」
キャッチャー君の毒づく声が聞こえる。いやぁ、人の嫌がることって気持ちいいなぁ。
一死一塁、監督は好きに打ってこいと言われたので、どうせならピッチャーの股間を狙おうかとも思ったが、英雄に止められたので自重することにした。
ま、普通にホームランでいいよね。
「ふっ!!」
ピッチャーが大きく振りかぶって投げる。速球、小学生にしちゃ速い、これは打てる奴あんま居ないかなー。
「カッキーン」
「なっ……」
ふざけた姿勢から打ったが、飛んだなー。この前一子ちゃんたちと野球した時よりも打球の伸びがいいわ。速い球の方が伸びやすいんだっけ? 野球はにわか知識だからなー。
「かっこいいよー! 修二ー!」
応援席から小雪ちゃんが手を振ってくれる。隣には冬馬と準も居て軽く手を振ってる。。
当たり前だろ? 俺を誰だと思ってやがるんだ。
手を振ってこたえてやる。そして、ホームベースを側転からのバク転三回転ひねりで踏んでやる。
ベンチに戻ったら英雄以外が変なものを見るような目で見てくる。そんなに見惚れるなよな。
「凄まじいな、流石はヒュームが弟子にして鍛えようとしただけのことはある」
「あのじいさんのことは置いといてくれや。今でも夢に髭を見るぜ」
「フハハハハハ! ここまで盛大に援護されたのならば我も応えねばなるまいな!!」
お、おう。まあ、頑張れや。
「それにしても、英雄も英雄で、何で野球なんかしてんのかねぇ……」
「そりゃ、逆にお前が何で女が好きかって聞かれたときに答えられるのか?」
「父上!」
あれ? 帝っちじゃん。来てたの?
「ああ、無理に時間を空けた。お前も野球するって聞いてな。てっきり相手ピッチャーの股間に打球ぶつけるかと思ったがそうでもなかったか」
「ひでぇーなー、俺がそんな外道にみえるかぁ?」
「ああ、ガキの顔とは思えねぇな。英雄、今のところノーヒットノーランじゃねぇか、やるねぇ」
「はい! このまま完全試合して見せましょう!」
普通の子どもみてぇな顔しやがって、英雄。ま、フライ系なら外野どこでも拾ってやるかねぇ。
「1番2番は凡退でチェンジっと、そんじゃ守備行ってくるわ。帝っち」
「父上、我も行って参ります」
「おう、頑張れよ」
もちろん、その後は完全試合達成だった。
俺は自分の守備位置から、キャッチャーフライを取りに行って監督と英雄に怒られた。いいじゃん、アウトにしたんだし。
「修二、今日は礼を言う」
試合後の整地をしてたら、なんか英雄が神妙な顔で近寄ってきた。ホモか? 流石に俺は女じゃないとアウトなんだが。
「おん? 助っ人か? そうだな、次からは時給1000円で頼むわ」
「父上にいいところを見せられた。試合に勝てたのはお前のお陰だ」
まあ、相手のピッチャーから俺以外点取れてなかったしなー。やっぱ股間にぶつけてリタイアさせるべきだったか? キャッチャーはチップからの股間誘導でリタイアさせたが。
「帝っちも忙しそうだからな。それに、俺のお陰っていうほどでもねぇだろ」
「そうかもしれんな……だが、我が貴様に感謝していることは伝えたかったのだ」
「あいあい、ありがたく受け取っておくよ。今度飯でも奢ってくれや」
恩とか借りとか、がんじがらめになりそうなのは嫌なんだよねぇ。まぁ、今度恩に着せてやろっと。
「英雄もたまには遊ぼうぜー、女遊びとか覚えさせて帝っちを困らせてやりたい」
「修二、父上的にそれは洒落にならないから遠慮させてもらおう」
ああ、そういや別腹の妹が居るんだったか。帝っち的には別腹で食べちゃったってか。
……流石に下品が過ぎか。口に出してないからセーフセーフ。
「今九鬼の名誉を限りなく貶す思念を感じたが、気のせいか?」
英雄、お前も超人的直感持ちかなよ。血は争えねぇなぁ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は九鬼回(男)でしたね。
正ヒロインことリアカーの名前はまだ未定です。可愛い名前にするか、かっこいい名前にするか悩んでます。
そろそろ小雪ちゃんの家庭訪問をしたいと思っております。
1話5000字って考えると筆が速くなる意志の弱い私……これからは5000字前後となると思いますが、よろしくお願いします。
では、また次回でお会いしましょう。