真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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お待たせしました。第九話となります。
京都旅行編ということで、楽しい旅になることを祈っております。


第9話

 京都へ向かう新幹線の中、俺らはトランプで、釈迦堂のおっさんは雑誌を読んで時間を潰していた。俺か冬馬が一位、それ以外は大体同じ程度の勝率である。

 百代ちゃんと小雪ちゃんはババ抜きやら大富豪では顔に出るから、二人がドベを争っている。

 

 

「おーい、てめぇら、そろそろ到着だぞ。荷物片づけとけ」

「あいよ。ほれ、あーがり」

 

 

 組み合わせになったカードを放り捨てる。トランプとか久々にやったが、サマの腕も鈍ったどころか身体能力が上がったためか精密動作性が上がったからなぁ。ちとおっさん誘って、博打で荒稼ぎとかいいかもしれんな。

 

 

「ぬぬぬぬ」

「むむむむ」

 

 

 百代ちゃんと小雪ちゃんがババを巡って睨めっこし、準と冬馬は散らかしたチリやら荷物やらを片付けてる。

 

 

「これだ!!」

「ああっ!?」

 

 

 百代ちゃんが小雪ちゃんの手札からカードを抜き、小雪ちゃんは絶望するような声を上げる。勝った百代ちゃんはいえーいと喜び、小雪ちゃんはぐぬぬともう一戦と言い出しそうな顔をしていた。

 

 

「はいはい、ほら着いたぞほら」

「はーい、モモちゃん、夜にはリベンジするからね」

「ふはは、いくらでもかかってくるがいい」

「ちんたらしてるとてめぇら置いてくぞー」

 

 

 雑誌をズボンのポケットに丸めて突っ込んだ釈迦堂さんに急かされ、俺らは予約してたホテルへと向かう。釈迦堂のおっさんがチェックインを済ませた頃には、既に日も沈みかけた頃、こっからは小学生を連れて歩くには時間が厳しいな。

 

 

「つーわけで、おじさんはちと居酒屋巡るから、お前らはホテルでゆっくりしてろよー」

「おうこら、俺も連れてけや」

 

 

 そろそろきちんとした酒を飲みたいんだよ。手から出したのってなんか味気ないんだよ。

 

 

「いやいや、お前も俺らと同じ小学生だからな? 居酒屋とか行けるわけないだろ」

「うるせー! 俺は絶対に酒を京美人に酌してもらうんだよぉ! そのままいろんなところも尺してもらうんだよぉ!」

 

 

 俺は肩を掴む準を振り払って逃げようとする。所詮準とは肉体のスペックが違うんだよぉ!

 

 

「意味分かんねぇよ! 小雪、モモ先輩! 手貸して!」

「仕方ないにゃあ。ほら、修二、今夜は遊び倒して寝かせないぞ!」

「くそう! 馬力が違う! 助けて冬馬!」

 

 

 万力のような力で腕を捕まえる百代ちゃん。無理に逃げ出そうとすると、ミシミシと骨が軋む音がする。完全に技がキマッてやがる。無理に逃げ出そうとすれば、肩が外れちゃう。

 冬馬に助けを求めるも、にこやかに笑ってるだけで役に立たない。そして、小雪ちゃんは百代ちゃんと一緒になって俺の足を掴んでいる。

 てか、足を持ち上げないで! 逆さにして運ばないでぇ!

 

 

「そんじゃ、ホテルで大人しくしてろよー」

「覚えてやがれよぉおおおお!!」

 

 

 背中を向けて手を振る釈迦堂のおっさんに、俺は必ず復讐してやると心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………手こずらせよって」

 

 

 遊び倒して、移動の疲れもあったからか、逸般人である百代ちゃんも寝静まった深夜、俺は大いなる野望のために身を起こしていた。

 周囲を見れば寝潰れたがきんちょども、釈迦堂のおっさんは別室だから分からんが、あのおっさんが深夜帯とか健全な時間で帰ってくるとは思えんな。

 

 

「よっと」

 

 

 面々を起こさないようにホテルの部屋を出る。地図は頭にぶち込んだから、ぶらつきながらよさげな店を探して街をぶらつこうかねぇ。

 ホテルを出て、繁華街へと入りよさげな店を探す。蛍光色バリバリに聞かせて酔っぱらったおっさんたちがうろついており、キャバ嬢と思われる女たちが行きかう。

 ん~、いい空気だ。生き返るぅ。

 

 

「ちょっと君、こんな時間に何してるの?」

「おん?」

 

 

 そんな風に夜の街並みを楽しみながら、ワクワクしていたら、黒髪の美女が声をかけてきた。やはり俺ほどのハンサム顔なら女の方が放っておかないか。まったく、俺は罪な男だぜ。

 

 

「こんな時間にすることなんて、決まってるじゃないか」

「少なくとも、君みたいな子どもがこんな時間にこの場所は似合わないと思うわよ。保護者の人は?」

「うーん、多分居酒屋はしごしてんじゃねぇか? それか風俗にでも行ってるじゃろ」

「……」

 

 

 呆れたような顔をするがね、多分外れちゃないと思うぞ。釈迦堂のおっさんだし、川神院から離れたのをこれ幸いにと酒と女に溺れると思うんだ。

 

 

「はぁ……ちょっとお姉さんと一緒に来てもらってもいい? 交番へ連れていってあげるから」

「何で悪いこともしてないのにおまわりに会わなきゃいけねぇんだ!」

 

 

 俺は交番とおまわりとゲイが死ぬほど苦手なんだよ。

 

 

「こんな時間に子ども一人にしておけるわけないでしょ。ったく、何で家出たその日に、こんな面倒なことしてるのかしら、私」

 

 

 頭をがしがしとかき乱し、京美人はため息をつく。なんかそっちはそっちで訳ありみたいだが、俺としては交番で保護で終了なんて、残念過ぎる京都一日目を迎えたくはない。

 

 

「俺は交番に入ったら全身の穴と言う穴から血を噴きだして死ぬ病なんだ。見逃してくれぇ」

「だーめ、ほら、お姉さんとデートと思えば役得でしょ。……ほなら、うちと一緒に来てくれませんえ?」

「わぁい、デートに誘うとか姉さん情熱的ぃ」

 

 

 京美人から差し出された手を握る。きめ細やかとそれを保つための磨きを感じさせる綺麗な手に、俺はほいほいと握り返してしまう。

 百代ちゃんや小雪ちゃんと言った子どもとは違う、細くも嫋やかな、完成された大人の女の手だ。

 

 

「それじゃ、交番行くわよー」

「ハッ……!  謀ったな!! この卑怯者が!」

 

 

 ちくしょう! 美人に騙されちまった!

 手を振り払おうとするが、想像以上に力強い。あれ? 俺の身体スペック的に、普通の成人女性程度の力なら簡単に逃げられるはずなのに。

 えー、もしかして百代ちゃんとかと同じ逸般人枠ぇ。この世界逸般人多すぎませんかねぇ?

 

 

「離せぇ! 死にたくなぁい! 死にたくなぁい!!」

「ちょ、暴れないで。こら、もう!」

 

 

 ふわりとした感覚がした次の瞬間には、何か柔らかい物に包まれた感触がした。特に背中には二つ、マシュマロのようなものが存在している。

 俺は確信する! これはおっぱいであると!

 

 

「急に大人しくなったわね」

「んー、80点! 80点をやろう!」

「結構高得点ね。まぁ、綺麗に投げれたからね、合気道って言うのよ?」

 

 

 なるほど、合気道ねぇ。気づいたら投げられてたからかなりの熟練者なんだろう。

 

 

 まあ、そんなことよりおっぱいだわな。流石に大人の女だ。熟れている、そう、この柔らかさは若いだけの者にはない包容力だ。若い娘の芯のあるようなハリが強いおっぱいもいいが、俺はこの沈み込むような柔らかさも魅力的であると強く主張しよう。

 手を入れれば、沈み込むのだろう。跳ね返すような弾力は弱いのかもしれないが、俺を持ち上げ押し付けられ、形をぐにゅりと変えているおっぱい。これはいいものだ。間違いなく俺はそう断言できる。

 

 顔を見上げれば、整った目鼻立ちが見えた。皴一つ見当たらず、悪戯好きな猫のような印象を覚えた。

 

 

「なぁ、本当に交番に連れて行くのか?」

「ん? そうだけど。というより、こんな時間に、ほんと無責任な保護者よね」

 

 

 微かに自嘲するような笑みだった。

 今気づいたが、微かに、それこそハイスペックボディである俺がようやく気付く程度の酒気が、その吐息に混じってるのに気づいた。

 

 

「なーんか、そっちもそっちで大変そうだねぇ。どうだ? 見逃してくれたんなら愚痴に付き合うぞ?」

「子どもに愚痴るほど、落ちぶれちゃいないわよ……」

 

 

 ああ、分かった。この京美人は母親だ。気づくのが遅せぇ。俺の『おにゃのこセンサー』も対象年齢低めを相手しすぎて鈍っちまったか?

 んー、母親の女は、まずはその親と言う皮を剥いてやらねぇとな。相手が母親であり、俺が子どもというハンデを背負っているが、構わねぇ、その方が燃える。

 

 

「誰かに何か言うだけでもすっきりするんじゃねぇか? 例えば、もう二度と会うこともないような、小生意気なガキとかよ。旅行者だからな、旅の恥は搔き捨てっていうだろ?」 

「私はここが地元なんだけどね……ま、君が普通のことは違うってのは薄々感じてたし……ちょっとくらいなら、いいのかな?」

「ええんやでぇ。そんじゃ、どっか店に入ろうぜ」

「それはだーめ。こっちに公園があるから、そっちでね」

 

 

 ちぃ、そう上手くは行かねぇか。

 抱きかかえられたまま、街灯がほとんど届かない公園へと連れ込まれた。やだ、この人誘ってるのかしら。ただ、ここで焦って手を出すのは時期尚早だ。

 

 

「もー、何やってるのかしら、私。こんな子供見つけて、こんなところに連れ込んで」

「ま、たまにはいいんじゃねぇの? そんな日もあるさね、と思えば大体世の中何とかなるぞ?」

「可愛くないなぁ。うちの燕ちゃんと変わらないはずなのにませた子だこと」

 

 

 子ども扱いするように、俺の頭をくしゃくしゃと乱す。

 

 

「ほんと、子どもには何の責任もないはずなのにね……」

「なんだ、旦那が株で失敗して、それに大激怒して家を出て、その後に家に残した子どものことを考えてるみたいな顔してるな」

 

 

 たぶん、大体外れちゃいないだろ。俺の『おにゃのこセンサー』には、男を見る目ないって診断が出てるし、この人。

 つまり、ダメンズ好き。それも特級が付くレベルの。

 

 

「……君、エスパー?」

「ただのハンサムだよ」

「はぁ……何か見透かされた感があるけど。大体そんな感じ……ほんと、久信君には呆れたわ。株に手を出して、借金作って、その挙句に『大丈夫大丈夫、コツは掴んだから今度やればうまく行くさ』よ? 信じられる?」

「うわぁお、思った以上にクッズい」

 

 

 親近感が湧くな。勝つか負けるか、ひりつくようなスリルってのは麻薬じみた中毒性があるからな。しっかし、借金ねぇ。

 

 

「んで、出てきたって訳か」

「そ、旦那の顔面に一発お見舞いしてからね。骨は折ってはいないと思うけど……」

「中々にアグレッシブだな。おおこわいこわい」

 

 

 この美人、武闘家っぽいし、顔面変形してるんじゃねぇの? 旦那。

 

 

「旦那って、仕事何してんの?」

「技術屋。何でも、世界をあっと言わせるような物を作るって言ってたんだけどねぇ」

 

 

 懐かしむように、それでいて後悔するように顔を俺の後頭部にうずめる。

 見ず知らずの子どもに弱みを見せるほどに、参ってるらしいな。まあ、俺からすれば、親って皮をはがすのに都合いいんだがな。

 

 

「うし、そんじゃ飲むか」

「……は?」

 

 

 俺の異能で日本酒を創り出す。味はそこそこだが、酔うには十分だ。

 物はあっても杯がねぇな。てか、ビンとか袋は一緒に出来上がるのに、コップとかは作れないってどういう原理なんだ?

 まあいっか、細かいことは。

 

 

「ちょ、どっから出したのよ。それ」

「なんかこういうのを作れるのが俺の能力でな。酒、つまみ、食べ物ならだいたいのもんが出せる。原理は知らんけどな」

 

 

 信じられないという顔をしている。まあ、メルヘンやファンタジーじゃないんだから、信じがたいのも分かるがな。俺も自分のことじゃなかったら信じられんだろうし。

 

 

「ほれ、つまみも酒もあるから。嫌なことってのは酒で流した方がいい時もあるんだべ」

 

 

 酒瓶を俺の身体の前に回されている手に押し付ける。

 この京美人は推せ推せに弱い。そう確信した俺は、ひたすらに押すことにした。

 

 いただきまーす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side:松永ミサゴ

 

 朝目覚めた私が初めに感じたのは、下腹部にある異物感だった。半覚醒した目をこすりながら、私は自分が何一つ身に纏っていないことに気づく。

 そして、それとともに自分がやらかしたことを思い出す。

 

 

「……やっちゃったなぁ」

 

 

 すぐ隣には子ども特有の高めの体温がある。そして、独特なにおいが部屋の中にまだ充満していた。昨夜の狂騒とも思える情事を思い出し、朝を迎えて幾分か冷めた頭が回りだし、足元が崩れていくような感覚を覚える。

 よろけながらも毛布を除け、バスローブを手に部屋に備え付けのバスルームへと入る。そしてシャワーを浴びながら、指で自分の中にあったものを掻き出す。

 

 

 不思議と、嫌悪感はなかった、ただ、妊娠する可能性は限りなく低くしておきたかっただけだった。

 

 

「何やってんのよ……私……」

 

 

 自分の不甲斐無さに泣きそうになる。あの少年がただの少年だとはもう思ってはいない。ただ、娘と同じくらいの子どもに甘え、傷心中の心をさらけ出して、酒の勢いとはいえあまつさえ一夜を過ごした。

 記憶の中にある私の顔は、女の顔をしていた。

 

 

「んー、俺としちゃあ、罵ってくれてもいいんだぜ? 傷心中の心に付け込んで! って。再起不能になるまでボコられるのは流石に嫌だが」

「あ……」

 

 

 シャワーの音で気づかなかったのか、それとも私自身の注意力がこの状況で散漫だったのか。いつの間にか少年は、私の後ろに居た。正面の鏡には、私の裸と、幼いながらも妖しい色気のようなものを漂わせる少年の裸が映っていた。

 鏡の中の瞳が、私をみつめる。私の思いを見透かすように。私の心を見透かすように。

 

 

「ま、酒の勢いだった。傷心中だった。甘い囁きに惑わされた。あんたの言い訳はたくさんあるから気にするな」

「私は……」

 

 

 彼の手が私を後ろから抱きしめる。身長が違うため手は私の下腹部で重なり、彼の鼻が髪をかき分けて背中へと触れる。そのまま、彼はすぅーと、息を、わざと私に聞こえるように深く吸った。

 嗅がれている。そう思ったが、昨夜の情景がフィードバックした私は、手を振り解けなかった。

 なにより、彼の向こう側に、大人の男が見えた。絶世の美男子が、彼とダブるように姿を見せる。

 

 

「ただ、これだけは俺の言い分だ」

 

 

 相手は子どものはずなのに。私には愛する人たちが居るというのに。

 どうしてこうも、彼の言葉は私の心に忍び込むのだろう。まるで蛇のように、隙間に入り込んできてしまう。

 私はその蛇に、絡めとられてしまうような錯覚に陥ってしまった。

 

 

「愛したから、抱いた。そして、今も愛してるぜ」

 

 

 私は、彼が子供のように無邪気に、極悪人のように邪悪に笑っていることを確信しながら、そっと下腹部へと手を重ねた。

 仕方ない。だって、まだ、私の中にある酒気は抜けてなかった。そう頭の中で誰にともなく呟きながら。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

今回の京都旅行のメインヒロインこと、松永ミサゴさんです。相手も大人の女性と言うことで、階段三段飛ばしくらいで大人の階段を登ってしまいました。

松永夫妻は個人で見れば嫌いじゃないですけど、セットで見ると少し魚の小骨のような物を感じるのですよね。
それと私の個人的な感想ですが、松永夫妻は恋愛くそ雑魚ナメクジ臭がするのです。まあ、そのせいで本作ではおにゃのこセンサーなど各種機関を持ったオリ主に付け込まれてしまったのですがの。
主人公はミサゴさんに言い訳と言う逃げ道を用意して、ズルズルと泥沼のように沈めていく気です。人間のクズ、外道です。

ちなみに釈迦堂さんは修二がホテルに帰ってないことで大体何があったか察する程度にはお互いのことを分かりあってます。


では、これからもよろしくお願いします。

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