もう一つのネフィリムーエルバハー   作:赤い変態

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シンフォギアの1期から3期を見返していたら、ふとネフィリムでなんかやってみたいなぁと思い付いた末出来た感じの作品デス

まあ今回プロローグだけではありますが、気になっていただけるようでありましたら、幸いです

※土曜から日曜に修正


0章 始まり
極彩色の死、黒き異形、始りの日 


理不尽というものは、いつだって此方の事なんか考えず唐突に訪れる。

 

例えば、急なシフト変更によって潰れる休日。

 

例えば、理想嫁をリアルでゲットした親友。

 

例えば、人間だけを襲い、触れた者全てを炭素へと変えてしまう神出鬼没な人の理の効かぬ存在、特異災害『ノイズ』。

 

一番目は給料を貰って働いている以上文句は言えないが、よりにもよって一番楽しみにしていた展覧会が開催されている日を潰された以上、一言ぐらい言いたい。

二番目は普通なら祝ってやるべきなのだろうが、態々こちらがシフト変更により働いている最中に顔を出して、最近ゲットしたばかりの彼女を紹介しながら今日行われるという人気ボーカルユニット『ツヴァイウィング』のライブに行ってくると自慢して来たのが無性に腹が立った。

三番目に至っては、遭遇する機会自体そうそう無いが、この世界に生きている以上いつかは襲ってくるかもしれない対処不可能な理不尽の塊だ。

 

出会ってしまえばもう死を覚悟するか、それか自然消滅するまで無謀な逃亡を続けるか。それが当たり前である存在、ノイズ。

 

―――少なくとも、今日までは其の筈だった……

 

 

 

 

「よぉし國次君、今日はもう結構捌けたからもうクローズにしてくれー」

 

急なシフト変更によって、本来休日だったはずの日曜の朝から勤め先兼居候先のパン屋『秋都』で働く羽目になったその日、新たに焼き上がったのパンを棚に並べていると、ちょうど奥の厨房から出てきた店長から声を掛けられる。

あ、はい。と返事を返し國次と呼ばれた青年―――国津國次は店先のプレートを『CLOSE』に裏返すと、徐に右腕に巻いた腕時計に眼をやり現在の時間を確認する。

時間は既に二時過ぎ。本来なら今日の午前中に行く予定だった博物館で開催中の化石展覧会が終わるのは午後四時。急なシフト変更とはいえ、それでも午前中で終わると事前に店長から言われていたが何故か今日は朝から大入りで、厨房と店内を行ったり来たりを繰り返し、気が付けば昼過ぎまで働いてしまっていた。

 

 

(今から行っても、移動時間考えたら一時間程度しか見て回れないなぁ、これだと……)

 

ボイコットでもすれば良かったか、と思う反面、店の二階にある一室に居候させて貰っている以上そんな事は出来る筈もない。

仕方無い。全部は無理だろうが、せめて可能な限り見て回って楽しまなければ折角手に入れたチケットが無駄になってしまう。

 

「はいお疲れさん。ごめんねぇ、せっかくの休日に。お詫びといっちゃなんだがこれでも受け取ってくれるかい?」

 

溜息一つ、國次が店内に戻ると店長がやたらカラフルなチケットを手渡してきた。

なんだろうか、と見ながら受け取ったソレをよく見ると、今日の夕方から行われる予定のツヴァイウィングのライブチケットの、それも最前列を示す文字が記載されている。

 

「うわ、これ最前列のプレミアムチケットじゃないですかっ。どうしたんです、コレ?」

「いやねぇ? この前商店街の福引で偶然当てちゃってねぇ、鏡花はツヴァイウィングのファンだから行かせてあげようかなあと考えてたけど、これ一枚につき御一人様用だしあの子もまだ小学生だから。一人で行かせるには流石に心配でね」

 

と、店長は今年小学六年になったばかりの一人娘の名前を出しながら、心配故に行かせてあげられない事を残念そうに漏らす。よく見るとチケットには小学生が観に行くには少々キツイ時間帯まで公演する事が記載されていた。

それに、店長の自宅でもあるここ『秋都』からライブ会場まではそれなりの距離があるので、それを考慮しても難しいものがある。

 

「あー、そういやこのライブ結構遅くまでやるから鏡花ちゃんを一人で行かせる訳にもいきませんからねぇ」

「そ。でもだからって折角当てたプレミアムチケットを腐らすのは勿体無いし、こっちの都合で休みを潰しちゃって國次君も楽しみにしていた博物館のイベントももうそんなに時間が無いじゃない? せめてものお詫びに如何かと思ったんだけど……どうだい?」

 

申し訳なさそうな表情を浮かべながら訊いてくる店長に、國次は「あー……それじゃ、御厚意に甘えて」と頷く。

実のところ、國次もツヴァイウィングには少々興味を持っており、仕事中に訪れた親友の言葉から、化石展覧会程では無いもののちょくちょくライブの方も気になっていた。

公演開始時間が丁度、展覧会の終了間際なのが少々気にはなるが、ライブ会場は博物館のすぐ目の前にある様な距離な上にライブ途中でも会場に入ること自体は出来る様なのでさほど問題でも無い。

 

「それじゃ、展覧会が終わった後に速攻で行ってみます」

「あぁ、いってらっしゃい。あ、それと申し訳ないけど会場でグッズやCDが売られていると思うからちょっと買って来てくれないかい? 今日行かせられない事で拗ねちゃって友達の家に行くって出て行ったのは今朝國次君も見てたろ? 今日はあの子の誕生日でもあるし、機嫌取らなきゃいけないんだ。あ、代金は明日渡すから」

 

了解です、と返事をしながら手早く着替えを済ませると、國次は外に停めてあったバイクに跨りパン屋『秋都』と後にした。

 

「それにしても、鏡花め……拗ねすぎて勝手にライブ会場にでも行って無ければいいんだけどなぁ」

 

 

 

 

 

 

「よっし到着―――って、うわっ! もうあと三十分しかない……っ!?」

 

日が西に傾き空が徐々に色を変え始めている頃に漸く目的地である博物館に到着したが、時間を確認すると展覧が終了するまでもう三十分弱しか残されていなかった。結構急いで来た心算だったが、思いの外時間を食ってしまっていた事に気付き凹みそうになる……が、そんな事を考え立ち竦むのは今の國次にとってはもはや無駄な時間の消費でしかない。

急いで可能な限り見て回らなければ! それだけを考えながら博物館の入り口を潜り目当ての化石展覧会が開かれているホールへと足を進めた。

 

物心ついた頃から化石好きだった國次にとって、今日の展覧会は絶対に外せない要素があった。新たに発見された新種の生物の化石という、この展覧会一番の目玉が今日この日に限り此処でお披露目されるからだ。

事前にネットで告知されていた内容では、どの様なモノがどのくらいの量展示されるかは当日のお楽しみとしか掲載されておらず、今日この日が来る事をこれでもかと待ち望んでいた事か。

展示ホールに足を踏み入れた途端、あぁもうめっちゃ興奮して堪らん! と鼻息荒く目当ての展示物が何処にあるか目をキョロキョロさせると、ちょうどホールのど真ん中に展示されている展示台の上にあるソレの存在に気付き、目が釘付けになった。

 

「―――お、おぉ……お?」

 

遠目から見ても存在感を強く発している―――いや、むしろこちらを呼んでいる(・・・・・)ように思えるソレに、近づいてみると明らかにその異様さから目が離せなかった。

その姿は強いて言うなら蛹、それも角が二本生えておりクワガタに近く、だが足の数が四本しかない虫らしきモノだった。サイズも掌より少し大きめのサイズだが、古生代辺りの虫の化石ならばまあこのくらいの大きさは在っても可笑しくはないだろう。

しかし、

 

「でもこれ……化石っていうにはあまりにも……」

 

化石とは云えど、虫の場合は風化、分解され易い為か完璧な形で保存されている琥珀の中にあるモノをを除けば精々表面に薄く残っている程度が普通だ。

しかし目の前にあるソレは、半分石に埋もれているとはいえ恐竜の骨の様に立体的且つ表面に欠損が見当たらない、完璧過ぎる形で残っていた。

罅すら入っていない、まるで彫刻にすら思えるそれは、長年様々な化石を見て来た國次にとっては化石というには少々無理があるように思えた。

 

(けど、人工物っていうには生物的過ぎるというか……これが本当に本物なら確かに新発見なんだろうけど……何だろ、違和感があり過ぎるし、それになんだか……)

 

それに、なんだろうか。目の前にあるソレの洞のような、眼があったであろう穴から何かが此方を見ているような、もしくは訴えかけている様にも感じられる。

 

―――急に、寒気がしてきた。

 

何故だかここにはもう長居したくない、本能的にそう感じられるほどに眼の前の異物から発せられるナニカ(・・・)から早く離れたくなってきていた。恐怖から、というより、そのまま此処に居続けると、後戻りが出来なくなるような気がして、だ。

しかし、一歩下がると、より一層強く此方に呼びかけて来ている気配がしてきた。

 

(これは本当に、生物の化石なのか――――――ッ!?)

 

異様な気配を発していたソレから目が離せなくなって、どのくらい時間が経っていたのか……不意に鳴り響いた外からの、大勢の人の声とそれよりも大きく聞こえる歌声が聞こえてきた事で國次は漸くソレから意識を引き離す事が出来た。

 

『本日は御来館ありがとうございました。まだ館内にいるお客様は―――』

 

それと同時に、閉館を告げる放送が始まっていた事からもうそんな時間である事に気付く。

―――今のうちに、早く此処から去ろう。

すぐに異物(ソレ)から背を向け、来た道を戻ろうと足を進める。早くこんな場所から出てしまって、さっさとライブ会場にでも行って今さっきまで感じていたモノを忘れてしまいたい、その一心で外を目指した。

 

未だ、背後から感じるナニカから早く逃れたいが為に―――

 

 

 

 

 

「―――ふぅ」

 

来た時に比べ異様なほど長く感じられた通路を抜け、漸く出口付近にまで来たところで安堵の溜息をついた。未だに背中にはあの異様な化石のような何かから発せられた気配がこびり付いているような気もしたが、出入り口の窓の向こうに見えるライブ会場から聞こえてくる歌声から多少は緩和されているような気もした。既に一曲目も終わりを迎えるのか、此処からでも会場の熱狂具合が伝わってくる。

あぁ、早く行って今さっきの事は忘れよう。そう考えながら出口の扉を潜ろうとした時――――

 

 

ライブ会場から爆発音と、大勢の悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「ッ!?」

 

そして間を置かずに会場の上空やその付近を極彩色の、この世において理不尽そのものである存在『ノイズ』が唐突に現れ、瞬く間に視界を埋め尽くしていった。

 

「う、うあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

「ノ、ノイ……ノイズだぁぁぁぁぁ!!!」

 

雑音、怒号、悲鳴。博物館の出入り口付近に集まっていた来館者や通行人がせめて屋内に逃げようと一緒くたになって押し寄せ、その人波に巻き込まれる形で國次も館内の奥へ再び流されはじめる。

ノイズの多くは、会場の方へと集中しているのは此処からでも見えたが、それでも大量の数が会場の外に溢れており、手当たり次第に人々へと襲い掛かっていた。

そして当然、会場に近く、次に人が多く逃げ込んでくる此方(博物館)に目を付けたのか極彩色の悪魔の波が近づいて来る。

此処に留まると不味い、そう思いどうにか外へ出て無ければともがくも人の波に押されて奥へ奥へと流されてしまう。いっそ裏口から、と考えが浮かぶもこの状況では裏口に向かう事すら無理に等しい。

やがて出入り口に辿り着いたのか、極彩色は壁をすり抜けたりしながら館内へと逃げ込んできた人々を押し潰し、炭素へと変える作業を始めていた。それを見て更なる悲鳴を上げ逃げ場を探す者もいれば、もう諦めてしまったのか立ち竦む者すら現われ始めている。

 

人が潰される音が、炭素の塊にされる直前の断末魔が、人が人を押し退け蹴落とし、我先にこの悪夢から逃れようと幼子すら捨て置いていく光景が、嫌なほど耳に入り、視界全てに広がっている。

 

代わりに死んでくれよ、と男が先程まで腕を引っ張っていた女を極彩色へ向けて突き飛ばすのが見えた。

まだ死にたくないと泣き叫ぶ少年の悲鳴が、お腹の中に赤ちゃんが居るのと懇願しながら極彩色の波に飲み込まれる妊婦の断末魔が聞こえた。

既に諦めてしまったのか、その場に立ち尽くし極彩色が目の前に来ても逃げようとしない老人が、我が身大事な親からも見捨てられた赤子が炭素に変わり果てる瞬間を見てしまった。

 

怒号、悲鳴、叫び、懇願、諦め、奇声。

 

全てが、極彩色(ノイズ)に飲まれ炭素へと消え、無かった事になってゆく。

 

(僕も、ここまで、なのか? これで、たった二十一年で人生が炭素に変わるのか……? 金髪巨乳のお姉さんとキャッキャウフフすら出来ずに……? ―――――それはそれでなんか嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

 

あ、やべぇこんな状況下なのに死への恐怖よりも理想(金髪巨乳嫁)をゲット出来なくなる事への未練の方が大きいってどうなのよ、等と考えられる余裕がある自分自身に内心ツッコミを入れる。

―――まぁ、

 

(おかげで返って冷静になれたのは幸いか……)

 

押し寄せてくる恐怖に取り乱してしまうよりはマシだ。

それに、冷静になった事で現在自分が博物館のかなり奥にまで押し流されてしまった事に気付く。幸いにも、と云うのは流石に酷いかもしれないが、奥へ奥へと逃げ込んでくる人の数が減ってきたおかげか人の波の間がかなり動き易くなってきた。

よし、と頷きながら非常口があったと記憶している方向へと人波の間を縫いながら体を押し進め、どうにか通路の曲がり角へと抜け波から抜け出す事に成功する。

―――直後、先程自分が居たであろう場所の天井が崩れ、逃げ惑う人々が、落下してくる瓦礫や極彩色により肉塊や炭素へと変わり果てながら押し潰されていくのが見えたが、体は早く逃げろと振り返させる事すら許さずに奥へと進んでいく。

 

「って、嘘でしょ……ここまで来たのに、こんなのって……」

 

辿り着いた先の、非常口があったと記憶していた通路への道は、瓦礫の山により閉ざされていた。

(今日が仮に厄日だとしてもやり過ぎだ……!?)

別の道を探すか、と来た道を戻ろうとするもすぐに思い留まる。

先程人波を抜けた際に天井が崩れた事により、あの道へ戻る事はもはや不可能。もはや残された道は、この通路に繋がっている展示ホールにでも身を隠してノイズが自然消滅するまでやり過ごすぐらいしかない。

だが、この通路と繋がっていて、現状行ける展示ホールとなると……

 

「……あの化石があるところ、しかないよね」

 

視線を巡らせると、つい十数分ほど前まで自身が居た、あの異様か化石が存在するホールへの入り口が、すぐそこにあった。

舌打ち一つ、滑り込むようにその展示ホールへと駆け込むと、既にノイズに襲われていたのか天井は崩れ周囲には人間だった物が舞っており、化石標本に至ってはその大半が粉々に散っていた。

 

ただ一つ、中央に展示されているあの異様な化石を除いて。

 

心なしか、十数分ほど前よりもその異様な雰囲気は更に増しており、見ているだけで頭にガンガンと響く此方を呼ぶような錯覚に陥る。

 

「ぐ、ぬぅ……な、なんだ、これ……!?」

 

思わず頭を抱え、呻きながらその場に膝を着いてしまいそうになるがどうにか堪えて視線をその化石から外し、隠れられる場所が無いか辺りを見渡す。

既に後方からは何かが蠢きながら進んで来る物音が聞こえ初め、頭上にぽっかりと空いた天井の大穴からは茜色に染まり出している空を飛ぶ極彩色が見え隠れしていた。

急がなければ、と視線を巡らせていると瓦礫が積み重なった結果丁度入り口や崩れた天井からも死角になっている場所を見つけ、そこへ急いで隠れるがそこには思いもよらない先客がいた。

 

「ぁ、く、國次おにいちゃん……?」

「……な、んで、此処に居るんだ、『鏡花』ちゃん……!?」

 

怯えた表情半分、知り合いに会えたことで安堵の表情半分に瞳には大粒の涙を湛えた小柄な少女……自身の居候先兼職場の『秋都』の一人娘である『秋宮鏡花』が、其処に居た。

確か今日は、友達の家に遊びに行っていたのでは、との予定を思い出す。それなのにこんな場所に来ていたというのはつまり、

 

「もしかして、ライブ会場から……?」

「うぅん、チケットないからせめて音だけでも聞こうと会場の外にいたの……でも、ノイズが」

 

涙を袖口で拭きながら、かすれた声で呟く。

あぁ、そういうことかと彼女が此処に居る事の大体の経緯をその言葉から察した國次はその隣に腰を下ろすと、瓦礫の山に背を預け漸く一息ついた。

 

「とりあえず、もう暫くは此処でじっと隠れていよう。そうすれば、ノイズも勝手に消えているだろうさ」

「う、ん……」

 

安心させるように怯える鏡花の頭にポンポンと手を置く。それでも此方の服の端をぎゅっと掴んでくるあたり、迫りくる脅威がまだ去っていない事を直感的に感じているのだろう。

子供の直感や感性は、時に侮れないものがある。

 

(それにしても……遮蔽物越しとはいえめっちゃ呼んでるように感じるあの化石は一体何なんだ……? どんどん呼びかけられてるような錯覚が、強く……なってきてるみたいだ……っ)

 

そして未だ、國次は背に受ける化石からの呼びかけのようなナニカを感じ続けていた。もはやそれは圧力と化しており、錯覚とは思えない程に頭に強く響き、痛みや吐き気が襲い掛かってきていた。

僅かに呻き声を漏らしてしまった事や目に見える程に顔色が悪くなっていたのか、鏡花が心配そうな表情を向けて来たのに気付き、無理やり笑顔を浮かべながら「大丈夫」と声を掛ける。

が、ちょうどその時。ホール外の通路から何かが入り込んでくる音と、頭上の大穴から何かが降りてくる音が同時に聞こえてきた事により、二人は反射的に身を固くさせ僅かでも音を漏らさないように口元に手を当てた。

そしてゆっくりと瓦礫の影から少しだけ頭を出して周囲を窺うと、十数対近い極彩色(ノイズ)がすぐそこまで迫っていた。得物がまだ近くに潜んでいるのではないかと周囲をキョロキョロするその姿はいっそマスコットの如く可愛らしい仕草だが、二人からすれば理不尽な死を与える死神にしか見えなかった。

あぁもう、背後の化石のようなナニカや今日の出来事の所為で当分は化石どころか博物館に近寄る事すら嫌になってしまいそうだ! と内心叫ぶ。

そして早くノイズが自然消滅してくれる事を切に祈りながら身体を縮こまらせて息を殺していると、隣に座っていた、今にも泣き出しそうなくらいに顔を真っ青にしていた鏡花が急に立ち上がり出入り口に向かって駆け出した。

 

(まっず……!!)

 

極限状態の恐怖に耐えられなかったのか、鏡花は鳴き声を上げながらホールの出入り口を目指し、その姿を察知した極彩色共は、当然逃がすものかと鏡花に向かって一斉に動き始める。

急いで助けないと、と立ち上がろうとするが不意に浮かんだ考えから國次の足が一瞬動きを止めてしまう。

―――ここであの子を囮にすれば、自分が助かるのではないか、等と言うクソッタレな囁きが頭の奥で響いた。

確かにそうすれば自分が生き残る可能性は上がるだろうし、此処に辿り着くまでの間他の逃げ惑う人々すら押し退け見捨て、自分が助かる道を選んできた。ならば同じ事だろうと囁きが強く響き始め――――――

 

「――――ぁぁぁあクソ!!! だからってなんだ! さっきと違って今なら手は届くんだろ!!!!」

 

引っ込んでやがれと、足元の大理石の床に散らばっていたガラスの破片を掴み太腿に刺し無理やり足を動かしノイズが迫りつつある鏡花へ向かって駆け出した。

止まっていたのは僅か一瞬、それでも確実に迫りつつある死の極彩色が触れる前に鏡花を抱き寄せ真横へと飛ぶと、間一髪で飛び込んでくるノイズを避ける事は出来たが背中に衝撃と熱が走り思わず呻いてしまう。どうやら展示台か何かの残骸にでもぶつかってしまったみたいだ。

ふと先程まで鏡花を捉まえた自分が居た所に目を向けるとノイズたちが次々其処へ飛び込んでは先に飛び込んでいたノイズを押し潰していくのが見えた。

どうやら自滅してくれてるようでもう安心だな、と思えたのも一瞬だった。

 

 

正直なところ、ノイズについて一般人が知り得ている事は触れれば人を即座に炭素へと変え共に消えるか、時間経過による自然消滅程度だ。

 

故に。

 

そんな当たり前の知識しか持ち合わせて無かった國次と鏡花にとって、目の前で起き始めた事はもはや理不尽を通り越し、絶望しか感じれらなかった。

 

「ノイズが、合体、して……?」

「……おいおいおいおい、冗談は夢だけにしてくれ……」

 

一カ所に飛び込んでいくノイズは次々に一体化していき、やがて大きな一塊の、まるで両生類のような姿へと変貌していた。

もはや乾いた笑い声しか出て来ない。こんなものから、どうやって逃げればいいんだ?

ズシン、ズシンとゆっくり此方へ進んでくるその極彩色の巨体を前に國次の胸にはもう諦めしか浮かばず、伽藍とした穴が胸に広がっていく気がした。せめて少しでも生きる時間を伸ばしたいと移動する為に僅かに身を捩らせるも、体の奥深くまで響く激痛と熱した鉄でも押しつけられているような熱さが背中と腹を中心に身体全体を駆け巡り、思わず悲鳴にも似た呻きを上げてしまいそうになるが、口から出たのは声では無く、真っ赤な液体だった。

胸元に強く抱き抱えた鏡花にもその赤が掛かってしまうが、何故か先程に比べ急に意識が朦朧とし始め、何が起きたのか理解が追い付かなくなっていた。

 

「お、おにいちゃん……お、お腹が、真っ赤……」

「え――――うわぁ、なんだよこれぇ……」

 

迫りくる巨体ノイズを尻目に鏡花が國次の腹を指差し、それを視線で追った國次はようやく自分の身に何が起きているのか理解出来た。

血だ。

真っ赤な、自分の血。それを被ったナニカが、腹から突き出ていた。

よく見るとそれは、あの異様な気配を放ちずっと自分に呼びかけているような錯覚を起こさせていた、あの蛹のような化石の角に酷似していた。

首を如何にか後ろへと向け、自身が背中を預けているモノを見ると、それはあの異様な化石があった展示台だった。

もう一度視線を、腹を突き破っている物体に戻し、どこか上の空な表情で納得した。

 

(あぁくそ、あのわけのわからない化石か、こレ……本当、コれを見てカらというもの‥…今日、はトコ、トン、ツイてな、いヨうな気ガ……)

 

次第に目を開け続ける事も辛くなり、チグハグになっている意識すら急速に遠ざかり始める。視界もモノクロに映り始め、すぐそこにまで迫っている巨体ノイズすらどうでもいいような気がしてきた。

 

(あぁモう此処デ本当に終ワリなんダ……どウにカシて、鏡花チャんだけデも逃がセれば……アァくそウ、腕が鉛みタいにオモいや……モウ、ホント駄目なんだナ……)

 

耳元で叫び呼びかけ続ける鏡花も、もう触れるまであと少しという所まで迫っているノイズですら、もう遠くにいる存在に思えてきた。

 

ただ、國次が残念に思うのは。

 

鏡花を逃がせられなかった事への後悔と、どうせなら金髪巨乳の腕の中で息絶えたかったなぁという最後の瞬間に思い浮かべるには下らな過ぎる未練程度だった。

 

 

 

 

その声が、聞こえるまでは

 

 

 

 

――――生きるのを諦めるなッ!!――――

 

 

 

 

死に間際というのは、何かと不思議な事が起こるモノだと誰かに教えられた気がするのを國次はなんとなく思い出した。

ふと耳に入った、ここよりかなり離れているであろう場所からの声が聞こえてきたのも、たぶんそうなんじゃないのかなぁと考えながら、不思議と穏やかな気分に包まれながら思った。

 

―――あァ、ソレにシてモ、ソうか、そノ通りだナ

―――生きルのを諦メるには、マだ早すギるカ

―――何ヨリ此処にハ、マだ生きたいと、イきテ欲しイと思ッていル……

―――イノチガ、まダ、此処ニ――――コノ腕ノ中ニ、在ルノダカラ……ッッ!!!!

 

もはや死に体であるその躰に、僅かながら力が戻る。

先程まで重かった瞼は驚くほどに軽く感じられ、目を開けるともう鏡花に触れる直前まで極彩色の巨体が迫っていた。

 

もう無理? 

あぁ、さっきはまではそうだった。

もう動けない?

寧ろ今にも動けそうなくらい軽い。

では、諦めない?

 

「――――うん、諦めないさ」

 

自然と自身の口から出た言葉に、國次は頬を緩ませる。

なんだ、意外とまだ元気じゃないか自分。そう思いながら蛹のような化石が突き破っている腹を片手で押え、もう片方の腕で泣きじゃくる鏡花をあやすようにその背を撫でつつ眼前の死神(ノイズ)を見据えつつ、國次は口を開いた。

 

「―――どけよ、まだ生きたいと思ってる命が、此処にあるんだ」

 

痛みすら消え去った、自分のモノとは思えないほど軽くなった躰を奮い立たせ、腹を押えていた手を握り作ったソレを國次は、極彩色の死に向けて突き出した。

 

《その意志を、是とする》

 

《ネフィリム・エルバハ、融合開始》

 

ふと、胸の内から聞こえてきた声のようなモノが何かを告げた気がする。

しかし、そんな事を気にするよりも前に、彼の視界は光に包まれていき、

 

そして……

 

 

 

■■■■

 

 

 

迫る極彩色の死が己が身に触れる寸前、極彩色に向かって拳をぶつけるという、自殺行為ともとれる行動を取った國次を間近で見ていた鏡花は彼の腹を突き破っていた岩塊のようなモノが一瞬だけ強く光り輝き辺り一面を白へと染めたのを見た。

 

そして目を焼き焦がすくらいに眩しい光が収まった途端、何時まで経っても自身が終り()を迎えていない事に気付くと恐る恐る目を開け、眼前の光景を見て唖然とした。

極彩色の死は自分達を炭素へと変えるどころか十数メートル前方に吹き飛ばされて塵となって消え、その死に対し死に体だった筈の躰を立ち上がらせ拳をぶつけていた國次はというと、全身は黒と銀の二色構成で胸元には赤い発光器官を中心に左右へ広がるように連なっている黄色の大きい発光器官、額にも同様な菱形の黄色い発光器官と銀の二本角に加え、青い目を持つ異形へと姿を変えていた。

 

『……アァァァ』

 

ゆっくりと息を吐き出す國次だった異形は、抱き上げていた鏡花をゆっくりと地に降ろす。

そして空を見上げ、まだ極彩色の死が去っていない事を確認すると一度だけ鏡花の方へ振り返り、いつもの軽く優しい口調をした國次の声で喋った。

 

『待ってて、すぐ終わらせてくるから』

「―――國次、おにいちゃん……なの?」

 

そう訊き返すと、異形(國次)はどこか優しく笑ったような目を浮かべ、空へと向かって音も無く跳び上がった。

その素早さから、止める暇もなく極彩色に向かって行った異形の後姿を、鏡花はそれまでの緊張感が切れた事でその場にへたり込んでしまいただ見送ることしか出来なかった。

 

 

 




なんか思い浮かんだ瞬間筆を進めていたら突貫で出来てしまっていた(汗


とりあえず、次回については気長にゆっくりと待っていただけると幸いですm(_ _)m
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