取りあえず、前回の反省として翼さんの態度もうちょいマシにしようと思ったのですが……ちょっと丸くなりすぎたかもしれない(汗)
それにしても全く進まない…(汗)
8/22:一部変更しました
ノイズの残骸や、ノイズによって炭素分解された人々の成れの果てである塵が、風に運ばれ舞う。
特機部による事後処理の為、各所に敷かれた封鎖が未だ解かれず、そして避難した人達もまだ帰れない為に、一時的に無人と化している街。
街灯以外に明りが灯されていないその街の中でも、一際高い雑居ビルの屋上――そこにはローブを纏う人影があった。
夜闇の紛れてもなお白いローブを、顔を隠すように被りローブの隙間から覗く金糸の髪は風によって波の様に靡き、月光の輝きを受け煌めく。
「―――ん」
不意に吹いた風が、白に輝く誰かのフードを剥がす。端正な顔立ちに、紅玉の如き紅く輝く瞳を持つ貌が露わになる。そのことに気づいた『白』は、フードを無造作に顔まで被りながら、ある場所――工業地帯を観測するように見つめていた。
「―――観測。優先記録及び最大警戒対象、ネフィリム上位種、個体名エルバハの反応。及び、ルル・アメル負の遺産、呼称名ノイズの異常発生。並びにアヌンナキが残せし遺物と思わしき欠片反応、複数確認」
ローブの奥、意思の光を感じさせない紅玉の瞳を細め、記録を目的とした感傷など一切感じられない声で、淡々と言葉を紡ぎ続ける。
「推測。ノイズの発生に関し、巫女フィーネの関与または
白磁のような指を顎に当てて、瞑目する。
「――推定結果。記録及びこの地の放置は不適切、危険を検出。しかし……」
一度言葉を切り、僅かな沈黙の後、『白』は顎に当てていた指を放し、掌を見つめる。
刺青の様な模様が施された掌を、確認事項のように握り、開く動作を数回繰り返した。
「……躯体確認。四百年の休眠期間を経ても、
確認を終えたのか、工業地帯から眼下の街へと視線を移す。
「……結論。現時点において、暫くは様子見と判断。その間、当世におけるルル・アメル達の文化指標の調査を検討、実行に移す事とする」
ローブ越しの背より、
◆■◆■
―――特機部の二課とやらに連行された筈が、なんで歓迎会に参加してるんだろう。
特異災害対策機動部『二課』。風鳴翼が所属している組織、というより特機部内の部署であり、現在パーティー会場と化している其処で、國次は目を遠くさせながら紙コップに注がれたウーロン茶を飲んでいた。
性癖と共に正体まで暴露されたことによって、抵抗するより大人しく従った方がいいと半ば自棄気味に判断してついて来たはいいが、待ち構えていたのはなんとびっくりアットホームな雰囲気。
今日まで、「もし捕まったりして、解剖とかされたりしたら嫌だなぁ」とまで悩んでいた自分が、なんだか馬鹿馬鹿しく思えてしまう。
「まあでも、この様子だと解剖ルートは無いとみて良さ―――」
「―――取りあえず、脱いでもらいましょうか?」
「なぁあああんでぇえええええええ!?!?」
―――撤回、やっぱり僕解剖されるかもしれない。
視界の端、涙目の少女の腰に手を回し抱き寄せ、耳元に向かって危ない発言をしている白衣の女性から目を逸らしながら、自分の判断が間違っていたかもと後悔する國次だった。
結果的に、妹の学友である
少女の方は主に、風鳴翼のモノと似通った珍妙なスーツを纏っていた事や、肉体への影響などについて調べるとのこと。
それを済ませれば、今日の所は返して貰えるらしい。
検査終了後に白衣の女性、「デキる女と評判の櫻井了子」と自己紹介してきたその人曰く、國次の方には帰す前にいくつか訊かなければならない事等があるという。
菓子類や軽食を撤去し、代わりに飲み物をいくつか用意したテーブルを中心に、この二年で何度も共闘した風鳴翼と、彼女の叔父であり二課のトップである風鳴弦十郎。翼のマネージャーにして二課のエージェントである緒川慎次、そして既に車椅子は不要と立ち上がっていた國次が集まっていた。
他にも、少し離れた位置で様子を伺う二課の職員も多数居る。
彼らが國次に訊きたい事というのは、主に二つ。
異形の力と姿はどういう経緯で得たのか。
そして、二年前の惨劇があったあの日、何故ライブ会場近くの博物館で現れていた事についてだ。
―――まず、異形の力と姿を得た経緯として博物館に居た理由を話さなければ、なんだけども……。
さて問題だ。
只でさえ信用されているか微妙で、金髪巨乳好きの変な奴として既に認知されてしまった状態であるところに、「博物館巡りが趣味で、其処に赴いていました」と答えて、果たして信じて貰えるだろうか?
―――信じて貰えるか微妙な気がしてきた……けれど。
だが、ここまで来た以上話さなければ状況は変わらないし、帰れるものも帰れない。
少しでも信用を得る為にも、余計な隠し立てはせずに、自分で解っている範囲だけでも話すしかないだろう。
―――まあ流石に、呼び寄せられたとかの辺りは信憑性に欠けるから省いておくかな。それ以外はまあ、自身が理解している範囲で話せば大丈夫でしょ。
そう結論し國次は、手元の紙コップに注がれたウーロン茶で唇を湿らせ、「それじゃあまず、あの日、博物館に居たことですけど」と切り出す。
今もなお鮮明に記憶へ焼き付いている、異形と化したあの日の惨劇を思い返しながら。
「―――以上が、二年前僕が経験したことです。信じて頂けるかどうかは、お任せします」
当時、ライブ会場近くの博物館に居たのは趣味で訪れていた事。
其処でノイズの被害に巻き込まれ、外に逃げられず館内を逃げ回っていた事。
逃げ込んだ先の広間で知人をノイズから助けようとして、その際に展示物の化石のようなものが腹を突き破った事。
その化石が光ったかと思ったら自らの体が異形と化し、同時に胸の内から「ネフィリム・エルバハ」といった言葉が聞こえた事。
後日、知り合いの医者に診て貰ったら腹部内に異物が確認され、それを中心に体中へ紐状の物体が根を張るように広がっていた事。
それら一通りの説明が終わり、國次へ返ってきた反応は様々だった。
変わらず疑惑の目を向け続ける者、異形化の下りで何かを察したのか考え込むように瞑目する者、困惑の表情を浮かべる者、どこか納得したような表情を浮かべる者等々。
そして國次が説明している間ずっと沈黙を続け、難しい顔をしたまま耳を傾けていた翼が顔を上げ、鋭い双眸が射貫くように國次を見る。迫力はあるが、まともに受け止めたくない眼差しだと、國次は感じた。
「正直、まだ問い詰めたい事はありますが……貴方の事情、取りあえず今は一旦信じておきます」
表情とは裏腹に、告げられた言葉の内容に思わず國次は、手の中にある紙コップを落としかける。
一番、自身に対し疑心を抱いていたであろう人物からの意外な言葉に動揺を露わにしつつ、國次は自分が予想していた言葉と共に反応を返した。
「えー、えっと、もっとこう、『嘘を吐くな、あの日、お前が何かしてあんな事が起きたんだろう!』とか疑われるかと思ったんだけど……」
「……確かに、あの日起きた事について貴方を疑う余地はまだあります。ですが―――」
一旦言葉を切り、翼は一つ息を吐く。疑うだけなら幾らでも追及のネタはある。
だが、今日まで接してきて分かった彼の人柄や、何度も見てきたその行動から、先程の告白に嘘は無いように思えてしまう。
それでもまだ胸の内から過去の件での疑いが完全に消えたわけではないし、今日起きた理解し難い出来事などでまだ多少荒れているが、少なくとも間違いなくこれだけは言える。
「この二年間、
だから。
だからこそ。そういう行いをするヒトが、あのライブ会場での惨劇に関わっているのではと疑うのは、今は一旦置いておこうと。
信用するかはともかく、その言葉を少しだけ信じてみようと、思った。
……まあ正直な処、先程あった暴露の一件含め疑うのがもはや馬鹿馬鹿しくなったというのもあるが。
◆■◆■
翼の言葉を聞いて、國次は思わず拍子抜けした。
もう少し、疑われるものと思っていたのに、だ。
「……そこは普通、点数取りだとか機嫌取りだとか、思ったりはしないの?」
「少なくともそう訊いてくる時点で、そんな風に思ったりするのは無理があるな」
怪訝そうに、そうじゃないだろう普通こうだろうと問うてくる國次に、二人のやり取りを静観していた弦十郎が苦笑しながら会話に加わる。
「ま、取りあえず過去の追及はこの辺で切上げるとして、だ。国津國次君、君の事情はわかったがまだ疑問が残る。異形の姿と力を得て、何故戦おうと思い、今日まで続けてきたのか。そして、なぜ今まで此方への同行を避け逃げていたのか……教えてはくれないだろうか?」
弦十郎からの問いに、國次はゆっくりと息を吐き、自身の掌を見つめた。
これまでの事を振り返り思い出すように、目を細め、未だ自分の中に存在する中途半端なソレを語り出す。
「……初めの頃は、ただ『手の届く範囲だけでも後悔したくないから』という思いだけで突っ走っていました。その場の状況や感情に流されるままに、衝動的ともいえるそれを頼りにして……それこそ、未熟で中途半端と言われても仕方ないようなやつです」
けれど。
それでも。
「それでも続けてきたのは、『仕方ない』と納得したくなかったんです。
未熟で青臭く、子供の我儘にも等しい、傲慢で身勝手な思い。
義務や使命も無い、矜持や確固たる覚悟があるわけでもない。
けれど。
それでも……これだけは、誰に何と言われようと譲れない自信があった。
だから、走れた。走り続ける事が出来た。
「……それが、君の戦い続けてきた理由か?」
「ガキの考えだとか、綺麗事だと一笑に付されるかもしれませんけどね」
苦笑しながら応える國次を見て、弦十郎はいいやと首を振る。
「確かに、何も知らない奴からすれば君の考えや理由は、笑い物にされるだろうな。だが、俺は笑わんよ。愚直にソレを正しいと、後悔せずに進んできた君を、笑えるものかよ」
「―――」
まっすぐな、あまりにもまっすぐ過ぎる言葉に、國次は思わず閉口する。
なんで訳の分からない異形の力と姿を持つ相手を、今まで同行を拒否してきた相手を、過去の事で疑いがある相手の言葉を信じられるのか。
そんな國次の内心を見透かしたかのように、フッと笑い彼は言葉を紡いだ。
「なんでって顔をしているが、何、これでも人を見る目には自信があってな。それに君が嘘を付けない正直者であるのは、先程の暴露の一件で知っているつもりだ。そしてこれまでの君の行動含め、信じるには十分だ」
「は、はぁ…………ん?」
笑みを浮かべ、自信満々に答えた弦十郎。
しかし、その言葉の中にあった國次にとって爆弾にも等しい一言を、彼が聞き逃す事は無く、軽くフリーズしかけていた。
そして、出来れば嘘であって欲しいと考えながら、震える声で國次は胸の内に沸いた疑問をぶつけた。
「あの、なんで暴露の件を……? まさか、通信とかで駄々洩れとか、そいうやつですか?」
「え、あ、あぁー……それはだな……」
問われ、弦十郎はようやく己が失言に気付いた。
そして助け舟を求めようと周囲に視線を巡らせるが、オペレーター職員一同は顔を背け片付けに入り、翼も気不味そうに顔を背け「こちらに振らないでください」と言わんばかりに数歩下がっていた。
では慎次はというと、「正直に告げる他ないのでは?」と言わんばかりに苦笑し、翼の隣に避難していた。
悲しいかな、その瞬間だけ二課のトップは孤軍と化していた。
「あー……その、だな。実は翼の持っていた通信機のスイッチが入ったままで、君の妹さんによる暴露の流れはすべて、此方にも中継されていてだな……」
普段掻かない脂汗を流しながら応える、二課のトップ。
なお地味に巻き込まれている翼だったが、國次に恨みがましい視線を向けられたと同時にゆっくりと顔を逸らしていた。
「……つまり、ここにいる皆さん、僕の性癖全部知っちゃっていると?」
「まあ、そいうことに……なるな」
「――――いっそ殺してください、本当」
自身の性癖が、凡そ数十人規模に知れ渡っているという現実に、國次は年甲斐もなく泣きそうになった。
なお落ち着きを取り戻すのにそれ程時間はかからず、國次はもう一つの疑問に応える事となった。
「さ、さて。それじゃあ気を取り直して……國次君、何故君が此方の同行を拒否し続けていたのかを教えて貰ってもいいだろうか」
「あ、はい……その前に一つ、笑いません? どんな理由でも笑いません?」
無残な現実を突き付けられた先程の一件を踏まえ、軽く疑心暗鬼になりかけながら國次は確認を取る。
仕方あるまい、何せ彼が今まで二課の勧誘を拒否し続けていた理由は、正直、戦い続けてきた理由に比べ大変ヘタレすぎるモノだからだ。
「あ、あぁ。笑わないとも。なぁお前ら」
「司令、さっき丸投げした事は謝りますから、しれっと巻き込むのやめてください」
片付けをしていた職員の一名からブーイングが上がるが、それに構わず会話は続けられた。
「じゃあ話しますけど……ノイズを倒せる力を持つ異形とか下手すりゃ捕獲でもされて、解剖されるんじゃないかなぁと思ってたので……それだけは嫌だなぁ、と」
「それだけ……?」
「はい、それだけです。あ、でも一応予定が立て込んでいる時もあったのでその時は普通に用事があるからと断らせて貰いましたけど」
「……変身後の姿はかなり厳つい見た目なのに、割とヘタレだなおい」
オペレーターの一人、藤尭が思わず小声で呟くも、聞こえていたのか國次は口を「へ」の字にしながら、心外そうに口を開く。
「いやだって、いくら国の設立した組織とはいえ、異形がの化け物がホイホイついて行って何もされないとかありえないと考えるのが普通でしょう?」
「あー……まあ、
弦十郎が溢した一言に、國次の不安を案じて慎次が言葉を付け加える。
「でも現場の一課や自衛隊の声、それに既に都市伝説として無視できないくらいに影響を与えているイルミネイザーを捕え、解剖するよりは『自主的に此方と協力関係を結んでくれるようにした方が良い』という声があったおかげで、そういった方針は執らずに済んでいるのでご安心を」
「はぁ……でもそれ、まだ『解剖するべきだ』という声が無くなっていないわけではないですよね?」
「國次さん、今は前向きに考えましょう」
「笑って誤魔化さないで、こっち向いて答えてください」
僅かに顔を背けつつ答える慎次の言葉に國次が食い付くも、どこ吹く風と躱される。
そんな様子を眺めながら、弦十郎は今日この場で國次から聞いた話や、翼達を通し知った彼の今までの行動等を振り返った。
恐らくまだ隠し事をしてはいるのだろうが、それを抜きにしても今まで彼が人命を助ける為に動いていたのは紛れもない事実。その戦う理由にも嘘は一切感じられず、どこまでもまっすぐな彼は、十分信じるに足り得ると。
直感も混じっているが、少なくとも彼は我々と共に歩んでくれるであろうと。
そう決心し、彼は國次へ言葉を投げかけた。
「さて。他にもまだ話したい事は山程あるが、国津國次君。君に頼みたい事があるが、いいだろうか」
「え、えーと、なんでしょう?」
語りかけられ、緊張気味に背筋を伸ばし向き直る青年の様子に、少し笑みを零し、けれど力強く言葉を紡ぐ。
「我々に、君の力を貸してくれないか?」