もう一つのネフィリムーエルバハー   作:赤い変態

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突貫工事のプロローグ中編、うん意外と早くに出来てビックリですハイ


では、続き、始まります


異形の力、歌声、変態

『つい勢いで飛び出しちゃったけど……どうなってるんだろ、僕の躰』

 

一跳びで展示ホールから天井の大穴を抜け、そのまま博物館の屋根に着地出来てしまった事に、そして自分の身に起きている異変に対し驚きと困惑を異形(國次)は隠せないでいた。

先程の巨体ノイズの時も、ただ拳を前に突き出しただけで吹き飛ばせた事に驚きはあったが何故かそれ以上に、「それが可能」と、何処か確信めいたものが自分の中を渦巻いていている事に気付き、恐怖を感じていた。

これも、あの時腹部を突き破っていた謎の化石が光った事による影響か何かなのだろうか。そっと、今はもう塞がっている腹部に手を添えると何かが胎動しているかのように熱く、強い鼓動を感じる。そして其処を中心に、全身に力が行き渡っているという事も。

 

何故、ノイズを素手で吹き飛ばせたのか。

何故、こんな異形の姿になれたのか。

何故、こんなにも身体能力が向上しているのか。

 

『正直、疑問だらけでわけわかんないけど……ッ』

 

ノイズの発生を知らせる警報が鳴り響く夕焼け空を見上げると、それなりの数の極彩色がまだ飛んでいる。その上空の極彩色が、槍のような形に身を変えて降り注いでくるのを見た異形は、反射的に拳を極彩色に向けて強く突き出す。その拳に触れた極彩色達はあの巨体と違い、触れた傍から飛んで来た方向へとその身を塵に変えながら消し去られていった。

そして、ゆっくりと付き出した拳を胸元まで運び見つめる。

 

『――-難しい事は全部後にして、今は自分に出来る事を』

 

やるんだと、上空に残ったノイズに向かって先程よりも大きく跳び上がった。

しかし、思いの外力んだのが不味かったのか、加減を間違ってしまった異形はその極彩色を通り過ぎてしまう。

 

『ちょ、行き過ぎ! ストップ!』

 

その際通り過ぎた時に発生した衝撃で飛行型の極彩色達は塵と化す事は無かったものの四方八方へと吹き飛ばされていく。そのまま其処から十数メートル上にまで昇った事で漸く異形の方も加速は止まり、今度は落下し始めるがそこを極彩色達は狙わない訳がない。

吹き飛ばされはしたものの、大きく旋回しながらその身を槍に変えて落下してくる異形を狙う。流石に空中では思うように身動きが取りない所為か自由落下するしかない異形は、しかし自身でも驚く程に落ち着き払ったまま一回転し、自身へ向かって上昇してくる極彩色()へ向けて右足をピンと伸ばし、飛び蹴りの様な体制を取ったまま落下速度を速める。

 

『あぁもう、こうなりゃこれで……ッ!』

 

自由落下による加速を乗せた蹴りが、向かい討つ様に迫りくる極彩色の槍と衝突する。瞬間、グゥオンと鈍い音と共に衝撃波が周囲に広がり足先の極彩色はおろかまだ此方へ向かって来る途中だったモノまでもが、その衝撃波によって塵となり無へ還っていった。

異形はそれを見届ける事も無く発生した衝撃波を利用して速度を緩めながら博物館の、自身が出てきた展示ホールと繋がっている大穴に向かって落下してゆく。

ふと、落下する中で思い出したかのように顔を上げ、ライブ会場の方を見やった。

随分と開放的になってしまっているライブ会場は、離れている此処からでも十分過ぎるほど悲惨な有様になっているのが見て取れた。観客席は瓦礫と化し、人間だった物が一塊になって山になっているかもしくは風に乗って舞い空へと消えるかで、博物館に押し寄せたのとは比べ物にならない程の極彩色の群で溢れていた。

だが、異形が気になったのはそれでは無く、

 

『―――歌、なのか?』

 

異形化に伴い身体能力の上昇以外にも聴力まで変異したのか、ライブ会場より女性の歌声が聞こえてきた。その歌声は、死に体だった際に聞こえてきた「諦めるな」という声に似ている事に気付き、何処にいるのだろうかとライブ会場全体に視線を巡らせる。

しかし落下によりどんどん高度が下がっていき、やがてライブ会場の中を覗けない高さにまで落ちてしまう。

着地後、すぐにもう一度跳び上がりライブ会場に行って確かめるべきか。そう考えながら博物館に開いた穴がもう目の前にまで迫っている最中、歌が止んだ事に気付く。再度ライブ会場の方へと視線を向けるも、博物館の屋根に開いた大穴に落ちていく異形()がその一瞬で確認出来たのは、眩い光と空へと昇る極彩色(ノイズ共)の成れの果てであろう大量の塵だけだった。

 

 

 

 

『よっ、と―――って、あらぁ!?』

 

落下する中、ホールの天井からぶら下がる横断幕や鉄筋の一部を見て、どうにか落下速度を緩めようと手を伸ばした先にあった鉄筋を握った瞬間、まるで棒状に丸めた紙を握り潰したかのように鉄筋はふにゃりと柔らかな感触と共に捻じ切れてしまう。

 

(うそん)

 

仮面のように変異してしまった顔に僅かばかりの焦りの色を浮かべながら、落下の速度を緩められないまま異形(國次)は腰から展示ホールの床へ轟音と土煙を上げながら落ちてしまった。

 

「く、國次おにい、ちゃん……?」

 

事前にこうなるかもと予想していたのか、瓦礫の影に退避していた鏡花はひょっこりと顔だけを覗かせ、異形が落ち土煙が巻き上がっている方へと声を掛ける。

土煙が濛々と立ち込める中、異形(國次)はそれなりの速度で落下したにも係わらず痛みどころか怪我すらしていない変貌した躰の頑丈さ加減に驚きながら、鏡花へ返事を返した。

 

『―――だ、大丈夫……というか、鏡花ちゃんも怪我無かった?』

「ぅ、うん」

『そう――――あぁぁぁ、良かったああああ……』

 

自分が空の極彩色を相手にしている間や、今の落下による衝撃に対して鏡花が無事だった事で一気に気が抜けたのか、異形(國次)は情けない声を上げながらゴロンと仰向けになろうとする。

が、まだ館内に極彩色(ノイズ)が居るかもしれない事や博物館の崩れ具合から何時崩壊しても可笑しくはない可能性が脳裏に浮かんだことで、鏡花に早く此処から避難しようと促そうと立ち上がる為に若干床にめり込んだ腰を浮かせた。

 

が、瞬間。

緊張が抜けた事による反動か、それとも短時間とはいえ加減など特に考えずに発揮した変異した躰を行使した事によるモノなのか、全身に激痛が走り異形(國次)は呻きと悲鳴が混ざり合った声を上げてしまう。

 

『あ、グ―――ガァAァあああァAaァあぁaAAァアaァ!?!?』

 

全身を引き裂かれるような、手足の先から捻じらていくような激痛が異形(國次)を襲い、上半身や頭部にある発光器官が激しく明滅を繰り返し始めた。その異様な光景に鏡花は「ヒッ!?」と小さな悲鳴を上げ尋常ではない苦しみ方をしている異形(國次)から一歩下がる。やがて発光器官の明滅が止まり光が消えると、それに伴い異形(國次)の絶叫も治まり荒々しい息を繰り返しながら脱力する。そして間髪入れずにその身が眩い光に包まれたかと思うと、光が収まった其処には異形の姿ではない、元の人間の姿に戻った國次が横たわっていた。

 

「はぁ、はぁ……ぁぁっ、……ふ、ふぅ……っ」

「―――戻っ、た……って、だ、大丈夫?」

 

玉の様な汗を額に浮かべて、荒い息を整え起き上がろうとする國次に、その姿が戻った事に呆然としていた鏡花は我に返るとすぐさま駆け寄り小柄なその身で彼の上半身を支える。

「ありが、とう」と荒い息で答えた國次は、どうにか息を整えながら己が躰を見て、無事に元の姿に戻れたことに僅かながら安堵していたがそれと同時に、今の激痛について何故起こったのか考えを巡らせた。

 

(慣れない力を加減するのも忘れて、それで躰が付いていかなかった、って感じ、か? でも、なん……それとはもっと別の―――何かが躰を内側から蝕んでいるような……!?)

 

そこまで考えて、己が躰の、正確には腹部辺りに視線を向けた。変異した際のあの異形の姿では背中から腹部を貫通していた穴は塞がっていて、同時に何かが胎動しているかのような感覚があったのを思い出す。

―――では、今元に戻っている己の腹はどうなっている? 

と、向けた視線の先……血に濡れた服に開いた穴から見えるのは、傷や腹を突き破っていた謎の化石ではなく、浅黒いハンドボールほどの大きさの痣があるだけで他には特に何も無かった。

その痣の上に手を置くと、あの鼓動は流石に無かったが、微弱ながらじんわりと拡がってゆく熱を感じた。

「まさか」と思った國次は鏡花に、周囲に蛹みたいな形の血が付いた化石か何かが落ちてないかと訊くが、そんなものは見当たらないと答えた。それを聞いた彼は、己が躰の変貌とあの化石がやはり無関係ではないのだと悟る。

一体あの化石は何だったのか、謎だらけで疑問が尽きないが異常な疲労感からそれ以上考える事を放棄した。

 

(早く『秋都』の自室に帰って、横になって休みたい……)

 

そう思っていると外からノイズが全て消えた事を報じる放送が聞こえてきた。どうやら危機は無事去ったらしい。

安堵の吐息を鏡花と共に吐くと不意に携帯の着信音が、鏡花が肩から提げているポーチから発せられる。

「あ、お父さんからだ……」と、設定している着信音から相手を特定した鏡花はすぐにポーチから携帯を取り出し電話に出る。直後、怒気混じりの涙声で分かり辛いが確かに店長らしき声が、鏡花の携帯のスピーカーから漏れて聞こえてきた。聞き取れた内容は、何処に行っていたんだとか、無事なのかとか、子を心配する親らしい内容の質問だった。

それに対し、鏡花はごめんなさいと謝りながら今居る場所や自身の無事と、國次に守られた事、國次が今動けなくなっている事を伝えると通話を終えた。

 

「お父さん、迎えに来るって」

「あー、うん、正直いやかなり助かるよ……コホッ、起き上がるのはともかく、全身筋肉痛みたい……いや、それ以上に痛い所為で動きたくても動けない」

 

漸く整いながらも時折咳き込む國次はぐったりとしながら鏡花に礼を言う。

しかし、

 

「ねぇ、鏡花ちゃん」

「?」

「僕があんな姿になったの、怖くなかった?」

 

ふと、気になっていた事を告げた。

異形と化した際の姿を、國次は手足程度しか確認出来なかったが、鏡花は全身を見れている。もし悍ましい姿をしていたら、嫌われてしまったら等と二十を超える大の男が考える割には少々軟弱過ぎる考えが過ぎっていた。

もしノイズと変わらない、バケモノのような存在に見えてしまっていたら鏡花や店長達の前から姿を消した方が良いかもしれないなどと、國次はノイズ相手にパンチや蹴りを放っていた時に比べかなり弱気になりつつあった。

 

「怖かった……」

 

その問いに、鏡花は小さく俯きがちに頷いた。

あぁやっぱり、と小さく苦笑する。あのような人の身を越えた身体能力に異形の姿など、もはやヒトでは無くノイズ同様のバケモノに過ぎない。怖がらせて当然だと自嘲気味に笑う。

だが、鏡花は「でも、」と再び口を開き、続きを述べた。

 

「國次お兄ちゃん、助けてくれたし、それに日曜のヒーローみたいでかっこよかった」

「―――そっか」

「だから、心配しないで良いよ?」

 

どうやら弱気な考えを見抜かれていたらしいのを、その一言で察した。

子供特有の勘の良さか、それとも女性ならではの男の考えなぞお見通しな鋭さか。自分より十近くも年下の女の子の方が、自分よりもしっかりしている事に参ったなぁと呟きながら國次は気を取り直して店長が来るまでの間、変異した自分がどの様な姿だったかを鏡花からの証言で彼女から借りたペンと紙で大体のイメージ図を描くことにした。

 

 

 

――――出来上がったのが、カミキリムシっぽい黒光りする上半身電飾お化けの絵だった事に、現実逃避しそうになったが。

 

 

 

■■■■

 

《融合措置、中断》

 

《現融合率、3割》

 

《宿主/使い手、適合率5割、消耗率7割》

 

《融合率2割に下方修正、修復措置開始》

 

■■■■

 

 

 

あの後迎えに到着した店長に支えられ、如何にか『秋都』の借りている自室に辿り着きベッドに倒れ込んだ國次が目覚めたのは、翌日の早朝三時半。通常ならば、朝八時から開店のパン屋『秋都』にとって三十分後には仕込みをし始めなければいけない時間となる。

未だ全身に痛みと疲労感が残っているうえ、昨日のシフト変更による振り替えやノイズ騒ぎで全身ボロボロなのに自然とこの時間で起きてしまえる辺り、この三年で身に付いた習慣が今だけは疎ましく思える。

とりあえずさっさと着替えて、仕込みの手伝いしないと。と考えながら身を起こすと、枕元に置いていた携帯にメールの着信を伝える通知が付いている事に気付き、一応確認しておくか携帯を開き、送信相手を確認する。

 

「……あー、あの女装馬鹿からだ」

 

メールの送り主は、昨日彼女紹介&自慢をウザい程した後、その彼女に無表情でヘッドロックを掛けられながらツヴァイウィングのライブへ行くと言っていた女装趣味の親友からだった

それを思い出して、「あ゛」とまぬけな声を上げた。

―――あの馬鹿も、昨日あの現場(ノイズまみれの会場)に行っていたんだった。

まさか、と顔を青くしながら急いでメールが送られた日時を確認するが、僅かに安堵した。

メールが送られたのは日付が変わった直後で、内容も確認してみるとライブ会場で起きた出来事と自身や彼女も無事というものであった。

 

「心配掛けさせて……ん?」

 

ただ、メールの一番最後の一行に気になる事が記載されているに気付く。

『追伸:逃げてる途中、なんか黒タイツが飛んでた気がする。あと犬臭そうに見えた』

 

「……大丈夫、見られたとしても僕である事を知る訳もない、大丈夫。あの馬鹿の場合、いや、たぶん、きっと、うん―――――あと犬臭そうに見えたってどういう事だよオイ一言余計だっての」

 

思わずツッコミを入れてしまったが、とりあえず心配する必要はもう無いだろうと携帯を閉じ―――

 

ビキッ

 

別に馬鹿力で閉じようとした訳でもないのに、軽く折り畳もうとした携帯のヒンジ部分に罅が入り、ヒンジ付近のガワの一部が欠けてしまった。

 

「あっれ、おかしいな。そんなに強く閉じた訳じゃないんだけど……」

 

落ちた欠片を抓まみあげ、携帯のヒンジ部分を見る。見たところ、使うこと自体には問題無さそうだが、これでは見かけも悪いし、下手に使い続けて上下分離させるのもよくない。

 

(うーん、仕方ない。ちょっと早いけど、これを機に機種変でもするかなぁ……)

 

と、携帯を一旦机の上に置き、部屋の明かりをつけ仕事着へと着替えを始める事にした。

 

 

 

 

一階に降り、厨房へ行く前に國次はバックヤードで朝刊を広げている店長の姿を見つける。何やら気になる内容でも載っているのか、眉根を寄せて滅多に見せない渋い表情をしているのが気に掛かり、声を掛ける事にした。

 

「おはようございます店長」

「……ん? あぁ、おはよう國次君。体は大丈夫かい?」

「ちょっとまだ痛みますが、まあ支障はありません。ところで、さっきから難しい顔してたみたいですけど、どうしたんです?」

「いやぁそれがねぇ……うーん、話すより見て貰った方が早いかな」

 

そういうと、店長は自身が見ていた場所を開いたまま、此方に朝刊を手渡す。それを受け取った國次は、店長が見ていたであろう記事の内容見て、僅かに固まり、まだ眠気が抜けてないのかと目を擦ってもう一度その記事に視線を落とす。

そして、それが見間違いでもないことを知ってしまう。

 

「さっきテレビを付けたらニュース番組でも報道されててね、どうも本当らしいよ。まいったなぁ、鏡花悲しむだろうなぁ……」

「……えぇ」

 

そこには、《人気ボーカルユニット『ツヴァイウィング』の天羽奏、ライブ中に現れた特異災害ノイズによって死亡》と大々的に取り上げられた記事とその天羽奏なる人物のモノクロ写真、そして惨劇による死者、行方不明者の総数が載せられていた。

 

 

 

 

 

開店間近の時間。ニュースや新聞で取り上げられている内容を知ってしまったのか、予想通り鏡花は暗い表情のまま、「行ってきます」とだけ言って朝食も取らずに『秋都』の裏口から出て行った。

大丈夫だろうか、と心配そうに店先で見送った國次に店長は、

 

「やっぱり今から病院行ってきなよ。ついでに、鏡花を途中で拾って朝食代わりのコレ、渡して来て」

「え、あの」

 

朝の仕込みの段階で不調を見抜いていたのか、それとも適当な理由を付けて鏡花を元気付けて来て欲しいのか、店長は惣菜パンが入ったビニール袋を押し付け今日一日休みで良いからと國次に告げてから厨房へと引っ込んでしまった。

 

「……うっし」

 

それを受け素早く私服へと着替えた國次は、パンの入った袋片手に店先に出るとバイクに跨り、鏡花の通る通学路へ急いだ。

 

 

 

バイクを走らせ数分、通学路の辺りまで来たは良いものの鏡花の姿はどこにも見当たらなかった。もしや途中の何処かで知らぬ間に追い抜いてしまったか、などと来た道を戻ろうとするが、ふと視界に入った公園のベンチに目当ての姿がある事に気付く。國次はバイクを公園の入り口付近に停めゆっくりと俯いた姿勢の彼女に近づき、声を掛けた。

 

「鏡花ちゃん、こんな所でどうしたの」

「あ。國次おにい、ちゃん……うぅん、ちょっと疲れたから休憩してるだけ」

 

鏡花は國次の声に反応し振り返るが、すぐにソレらしい理由を言ってから再び俯いてしまった。こりゃ、思ったより重症かなと頬をポリポリと指で掻きながら、國次は鏡花の右隣に開いているスペースに座り、店長から渡されていたパン入りのビニール袋を鏡花に手渡し、「まあ、とりあえず朝飯食ってないみたいだから。これ食いながらでもいいから僕と話をしないか」と切り出して、彼女が顔を上げゆっくりと頷くのを見てから國次は慎重に言葉を選びながら口を開いた。

 

「ニュースか新聞のどちらかを、見たんだよね」

「……うん」

「まあ、仕方無かったんじゃないかな。会場に来ていた観客の避難を優先しなきゃいけないし、なにより会場の中央にステージがある構造じゃ、」

「仕方ないって、なに」

「―――ん?」

「國次お兄ちゃんが言っている事は私だってわかるよ。でもね、そうじゃないの、ツヴァイウイングの奏ちゃんの事じゃないの。もちろん、悲しいけど、そっちじゃない」

 

鏡花は、制服の袖口で目元を拭うと、再び俯き、そして語り出した。

 

「―――被害者の、重症者の名前の中にね、あったんだ。学校の友達の」

「……そうなんだ」

「分かってる、ノイズがあんな、人が密集している場所に現れたら、逃げるのが難しいなんていうのは。でも! あの時もしお兄ちゃんに頼んで会場に行ってもらえれば、友達のその子だって―――」

 

鏡花ちゃん。

それだけ言うと、鏡花は言い過ぎたと口を噤み、バツが悪そうに黙り込んでしまう。

それを見て國次は、とりあえず今から言おうとする事を実行した場合、店長に如何言い訳するかの算段を考えながら喋った。

 

「あのさ、今日は学校休もうか?」

 

 

 

 

 

「やれやれ、人が彼女に会えないのと体が痛くて仕方ないのと女装出来ないのを我慢して仕事してるってのに、オメェは仕事サボって朝っぱらから幼女連れて病院に来るだなんて何やってんだヨォ!」

「うん、やっぱこの変態に朝から会うのはつらいな。鏡花ちゃん一人で病室に行かせて正解だったか」

 

昨日のノイズ発生による重症者を含むけが人が搬送されているこの地区で一番規模のある病院に鏡花を伴い訪れた國次は院内のとある一室にて、車椅子に座り両足にギプスを付けた、やたらテンションの高い人物に会っていた。

なお子供には精神衛生上大変よろしくない事この上ない存在なので、鏡花にはこの病院に入院しているであろう友達の居る病室とへ行かせてある。

 

「けど、その様子なら心配する必要なかったかな。いや、メールの時点で必要なかったのは認めるよ、うん」

「うんオメェってさ、俺相手には妙に厳しいところあるよな、なんか。犬臭いくせに」

「おうもがれたいのかな女装馬鹿、いや馬鹿ジュン君」

「あらやだこの子マジ切れよ……ッ」

 

恐ろしいわこの子ッ! とでも言いそうな表情をしている目の前の人物は馬鹿ジュンこと、蒼井純。國次にとっては少し歳の離れた親友にして、悪友でもある彼は今はこうして車椅子に座ってはいるものの、この病院に置いて若き天才として名を馳せてもいる人物だった。

もっとも、女装好きというのが天才の前に来るのだが。

 

「で、馬鹿ジュン二十六歳童貞君は何で車椅子に座ってるんだよ。メール見た限り彼女さんと共に怪我無く無事だったとあったはずなんだけど?」

「ばっかオメェ童貞の事は言うなっての―――とまぁ、馬鹿発言はやめにするとして、だ。ちょっと馬鹿騒ぎする連中が今朝早々に押しかけてなぁ、噂を馬鹿正直に信じて被害者(患者)さん目当てに煩いのが何人かが。で、その際ちょ――――っと揉め事に巻き込まれてこの有様だぜ」

 

と、馬鹿な部分の鳴りを潜ませ、医者として接する時の真面目な雰囲気になった純は、詞の端こそ軽くはあるもののその経緯を語った。

そしてその言葉から、國次は苦い顔をして「ノイズ被害者に対するアレかい」と小さく漏らす。

ニュースや新聞でも多少語られてはいたが、あの惨劇の中心地であるライブ会場にて発生した被害者の総数のうち、ノイズによって失われた命は実は約三分の一程でしかなく、残りの殆どは逃走中の将棋倒しによる圧死や、避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死なのではないのか? という内容の意見があったのだ。

無論、ありえないわけでは無い。あの手の出口が限られた構造物から、パニックに陥った人々が逃げる際、案内に従わず我先にへと逃げようと邪魔な障害(自分以外の誰か)を犠牲にしてでも生き残ろうと何かしらの行動を取るだろう。

事実、國次も当日博物館で同じような光景を目にしたし、別の通路へ出ようとした際にもしかしたら気付かないうちに同じような事をしてしまっているのではないかと自分を疑っている。

 

そしてそういう行動に対し、当然バッシングをする者が現われるのも無理はない。

 

「あの会場にいたのは観客や関係者含めてざっと十万人で、その内の被害者は一万と二千ちょいだ。死んだ命の多さに対して生き残った連中の多さ……そらそこから邪推する奴も現れるだろうよ。オマケに今回の一件は災害として成立するから、国から被災者や遺族に補償金という名のバッシングするには格好の餌も出てくる。オレの予想じゃあ一週間以内に、生き残ったからって理由だけで被害者(患者)さんらの大半が批判中傷の対象として吊り上げられ晒し者にされまくるだろうな、間違いなく」

「……まるで魔女狩りか何かだな」

「まったくだ―――さて、暗い話はこれくらいにして、と。で、朝っぱらから『秋都』の鏡花ちゃんを学校サボらせてまで、ここに入院してる友達を見舞いに来させたお前は一体何がしたいのよ」

 

まあ大体は予想できるがYO! と再び馬鹿っぽさが出てきた親友(女装の変態)の態度に辟易しながら國次は切り出した。

 

「別に。ただ友達が巻き込まれて入院してるのを知って落ち込んでたみたいだからさ、元気付けるのは得意じゃないからと」

「うわぁ、彼女居ない歴=年齢の犬臭い童貞君らしい方法だなぁ!」

「―――-ここが病院じゃ無けりゃ今すぐにでもぶん殴りたいよ、本当」

「まあそんな理由は当然予想済みとして、だ。―――本題、入らね?」

 

そう言って純は笑みを消すと、先程より低いトーンで問いかけて来た。

―――どうにも彼は人を見抜くことが得意だな、と苦笑交じりの溜息を一つ零し、此処に来た本題を口に出した。

 

「ちょっと僕の躰、診て欲しいんだけど」

「――-誰かぁあああ! 医者相手にセクハラなんてする新手の犬臭い変態がああああ!!!」

 

よし、診て貰う前にコイツの口塞がなきゃ。

 




ちょっと今回は雑に仕上がったかもしれません(汗)

ちなみに國次と純が5歳も年が離れているのに親友同士なのは、過去にふとした切っ掛けで出会った際にした自己紹介で語った互いの趣味(女性)によるところが大きいです。

あと、あともう少しは話が本編へと進みませんのであしからず(汗)

それでは次回、亀更新かもしれませんが、気長に待っていただけると幸いです
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